<特集 がんの免疫療法>免疫細胞治療
免疫でがんを治す―がん免疫治療の最前線
―患者さん一人一人に適した「免疫細胞治療」

後藤重則 医療法人社団 滉志会 瀬田クリニックグループ 統括院長

後藤重則 医療法人社団 滉志会 瀬田クリニックグループ 統括院長
後藤重則先生(医療法人社団 滉志会 瀬田クリニックグループ 統括院長)に免疫でがんを治す―がん免疫治療の最前線(―患者さん一人一人に適した「免疫細胞治療」)について解説していただきました。

黎明期の免疫細胞治療

医療法人社団滉志会 瀬田クリニックグループは、がんに対する免疫細胞治療を行っています。免疫細胞治療は、患者さんの体から免疫細胞を採取し、それを体の外で培養してがんと戦う力を増強させ、患者さんの体に戻す治療です。つまり、患者さん自身の免疫細胞そのものを使って、がんを攻撃する治療法なのです。がん免疫療法分野は、手術、放射線療法、化学療法に次ぐ新たな治療法として、大きな期待を集めています。

瀬田クリニックが免疫細胞治療の診療を開始したのは、1999年4月。当時、国内では研究医療として、一部の大学病院で行われていた以外には、免疫細胞治療を行っている医療機関はほとんどありませんでした。瀬田クリニックは、日本における免疫細胞治療のパイオニアといえます。

現在、当院と連携して免疫細胞治療を行う医療機関も全国に拡大し、これまでに2万名以上の患者さんに免疫細胞治療を提供した実績は、国内でも有数と考えます。

当院の治療方法の特徴は表1に示すとおりです。

表1 治療方法の特徴(瀬田クリニックグループの場合) ◆メリット(特徴):
がんの種類・個々人の状態に合わせて、複数ある免疫療法の中から、最適な治療法を選択、または組み合わせて提供する。
◆対象となるがん種・ステージ:
一部の血液系がんを除くほぼすべてのがんが
対象。また、病期(ステージ)も問わない。
◆特に有効性が高いと考える治療:
患者さんごとに最適な治療が異なる。
◆他の治療法との併用:
同上
◆デメリット(負担・副作用):
軽微な発熱などの副作用はあるが、重篤なものはない。
◆治療費の目安例:
自己がん細胞感作樹状細胞ワクチン療法を6回行った場合、約210万円。

一人一人異なる免疫状態を把握することが重要

免疫を利用したがん治療の分野は、目覚ましい勢いで進歩しています。瀬田クリニック開院以降も、さまざまな種類の免疫細胞の働きが明らかになり、それを培養する技術開発が進んだことで、新たな免疫細胞治療を提供することが可能になりました。

1999年に瀬田クリニックで治療が始まったとき行われていたのはアルファ・ベータT細胞療法だけでしたが、その後、樹状細胞ワクチン療法、ガンマ・デルタT細胞療法、NK細胞療法などが加わり、実施できる治療法が増えています。

さらに現在、瀬田クリニックグループでは、これらの複数の免疫細胞治療の中から、患者さん一人一人に対し、最も適切な治療を選択して提供しています。がん細胞の特徴や患者さんの体内の免疫状態がそれぞれ違うため、患者さんに合わせて治療法を選んだり、いくつかの治療法を併用したりすることで治療効果を引き出すことが大切だという考え方です。

治療法を選択するために、治療開始前に次のような検査を行っています。

◆免疫機能検査:
患者さんの体内の免疫系の力とバランスを評価する検査です。いろいろな種類の免疫細胞が、どのくらい存在しているかを調べます。

◆免疫組織化学染色検査:
がん細胞の特徴を調べる検査です。免疫細胞(キラーT細胞(1))による攻撃の目印となる物質が、どの程度がん細胞に出ているかを調べます。

◆HLA検査:
白血球の型を調べる検査です。ペプチド感作(2)の特集樹状細胞療法を行うのに欠かせません。

これらの検査により、がん細胞の目印が出ているかどうか、どのような種類の免疫細胞が多いか、といったことから総合的に判断して最適の治療法を選択します(図1)。

図1 治療選択のためのディシジョンツリー(出所:瀬田クリニックホームページより)

また、免疫機能検査は、治療効果の評価にも役立ちます。免疫細胞の種類ごとに、細胞がどのくらい存在するかがわかるので、たとえばキラーT細胞が増えているかどうかをチェックすれば、治療がうまくいっているかどうかを評価できるのです。

複数の免疫療法の中から最適のものを選択する

瀬田クリニック、および連携医療機関では、前述したように複数の治療メニューを提供しています。そして、がんの目印が出ているかどうか、手術で摘出したがん組織があるかどうか、他にどのような治療を受けているか、といったことによって、患者さん一人一人にふさわしい治療法が選択されます。

免疫細胞にはいろいろな種類があり、それぞれ特徴的な働きをしています。こうした免疫細胞の多様性が、免疫細胞治療の多様性を生み出しているのです(図2)。

図2 瀬田クリニックの免疫細胞治療(出所:瀬田クリニックホーム
ページより)

それぞれの治療法には、次のような特徴があります。

◆樹状細胞ワクチン療法:
患者さんの樹状細胞にがん抗原を取り込ませてから、患者さんの体に戻す治療法です。樹状細胞は司令塔として、T細胞に攻撃目標の特徴を伝達します。がん抗原を取り込ませる方法によって①患者さんのがん組織から調製したがん抗原を取り込ませる「自己がん細胞感作樹状細胞ワクチン療法」、②人工的につくった目印であるがん抗原ペプチドを利用する「ペプチド感作樹状細胞ワクチン療法(4)」、③病巣に樹状細胞を直接注入して体内でがん抗原を取り込ませる「腫瘍内局注樹状細胞ワクチン療法」があります。

◆NK細胞療法:
血液中から採取したNK細胞を体外で培養し、増殖・活性化させて患者さんに戻します。NK細胞は、がん抗原が出ているかどうかに関わらず、がんに対して強い殺傷能力を発揮します。一部の抗体医薬品と併用すると、治療効果が高まることが期待されています。

◆ガンマ・デルタT細胞療法:
血液中にわずかしか含まれていない細胞ですが、それを選択的に増殖・活性化し、患者さんに戻します。一部の抗体医薬との併用や、骨のがんでゾレドロン酸を使用している場合などに併用効果が期待できます。

◆アルファ・ベータT細胞療法:
がんを攻撃するT細胞(αβT細胞、γδT細胞)、NK細胞など、リンパ球全体を増殖・活性化して大量に投与し、免疫力全体の底上げをはかる治療法です。

免疫が無力化する免疫抑制状態を解除できる

がんの治療では、免疫抑制が問題になることがあります。がんが進行すると、がんを攻撃する免疫細胞が減少し、免疫を抑える細胞が増えてくるのです。実際に、瀬田クリニックグループが行った研究では、健常者とがん患者さんを比較すると、二つのことが明らかになっています。一つは、がん患者さんの体内では、がん細胞を攻撃する免疫細胞が顕著に減少していること。もう一つは、免疫の働きを抑制する細胞が増加していることです。

このような免疫抑制状態にある患者さんに対して、アルファ・ベータT細胞を使った免疫細胞治療を実施することで、免疫細胞が増加し、免疫抑制細胞が減少することが確認されました。これにより、がん患者さんの免疫抑制状態を解除し、免疫機能を回復させ得ることが示唆されました。

この結果をもとに、がん患者さんの免疫抑制状態も把握したうえで、最適な治療法の選択に応用・発展できると考えています。

治療効果向上、エビデンス蓄積のための研究への取り組み

実際のがんの患者さんの治療とともに、瀬田クリニックが力を注いできたのが臨床研究です。東京大学医学部付属病院、順天堂大学医学部、名古屋大学医学部附属病院、日本赤十字社医療センターなど多くの大学病院や中核病院と共同研究を行ってきました。これまでに多くの研究論文が国際的な専門誌に掲載されています。

また、医療機関が免疫細胞治療を提供するためには、再生・細胞医療の高度な技術やノウハウ、専用の細胞加工施設や管理システムも必要になります。そこで瀬田クリニックグループでは、こうした専門的な技術・ノウハウを持ち、厚生労働省より許可を受けた細胞加工施設を有する株式会社メディネットに細胞加工を委託して、医療機関単独で実施するよりも高い安全性と品質の治療を提供し続けています。

細胞培養施設:
患者さんの細胞を培養するクリーンルームは、無菌医薬品を製造する部屋と同等レベルの管理がなされている。空調設備や使用する機材は、コンピューターによる一元管理システムで24 時間リアルタイムに稼働状態を監視されている(出所:瀬田クリニックホームページより)

細胞の検査:
細胞培養の各工程で無菌検査を実施するとともに、投与前には、身体にショックを起こすエンドトキシン(発熱性物質)検査や生細胞数の測定などを行う(出所:瀬田クリニックホームページより)

新しい時代を迎えた がん免疫細胞治療

がんの免疫細胞治療は、新しい時代を迎えています。2014年11月に、再生医療新法(3)と改正薬事法(4)が施行されたことで、免疫細胞治療を取り巻く環境が大きく変わったからです。

以前は規制のなかった分野ですが、法律が整備されることで、より安全で信頼性の高い治療を患者さんが受けられる環境が整いつつあります。

瀬田クリニックが、がんの免疫細胞治療を開始してから15年余り。この間、同療法を提供する医療機関は増加の一途をたどってきましたが、玉石混交だったことも否めません。免疫細胞治療が普及、発展するには、しっかりした医療機関や医師がこれに取り組み、よい結果を出すことが重要です。それを後押しするのがこの法律だと思っています。信頼できる施設が選別されるだけでなく、有害事象などの報告義務も課せられデータが蓄積されるので、安全性や治療効果がさらに明らかになってくるはずです。

免疫細胞治療ががん治療の有効な選択肢として認知されて、さらに発展する。そういう時代が始まろうとしているのです。

【用語解説】

(1)キラーT細胞
免疫細胞のうちT細胞と呼ばれる細胞の一種。がん細胞の目印(抗原)を見分けて、目印が出ているがん細胞を殺すことができる。

(2)感作
免疫細胞が、攻撃対象の目印を記憶することを感作と呼ぶ

(3)再生医療新法
正式には「再生医療の安全性の確保等に関する法律」。再生医療とは、病気やけがで機能不全になった組織、臓器を再生させる医療。この法律は、臨床研究あるいは自由診療として、特定の患者さんの再生医療を行うために再生医療等を実施する医療機関に対する規制を目的としている。また医療機関が細胞加工を、厚生労働大臣の許可を受けた事業者(企業等)へ外部委託することも認めている。

(4)改正薬事法
正式には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。従来の医薬品等に加え、再生医療等製品の特性を鑑みた早期承認制度などを盛り込み、改正された。

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