<シリーズ先端医療―免疫新薬―>
難治がん・転移がんの集中治療・往診治療
がん幹細胞を克服するコツ
〜抵抗性の強いがんを制覇するには、がん幹細胞に特異的なペプチドワクチンを用いる〜

星野泰三
東京・大阪・京都統合医療ビレッジグループ 理事長
プルミエールクリニック院長

●ほしの・たいぞう●1988年、東京医科大学卒業。同大学大学院で腫瘍免疫を研究。その後、米国国立衛生研究所で、がん遺伝子治療の研究をし、帰国後に腫瘍免疫を臨床的に探求する。現在、東京・大阪・京都統合医療ビレッジグループ理事長、プルミエールクリニック院長。(東京・大阪・京都・郡山)

がんの中心部に位置するがん幹細胞は、例えれば蜂の巣の中で君臨している女王蜂のような存在です。この細胞は従来の抗がん剤治療や放射線治療の標的になりにくいことがわかっています。したがって、それらの治療によって、一見、がんが縮小・消失したかに見えても、がん幹細胞が残存し、再発の温床になってしまいます。さらに、がん幹細胞によって再発したがんは、初期がんと異なり、治療抵抗性を持ってしまうのです。
今回は、がんという疾患が難敵となる主因であるがん幹細胞とはどのようなものであり、それをどうすれば克服できるのかをご紹介します。

抵抗性が強いがんにがん幹細胞特異ワクチン

抗がん剤治療にしても、免疫治療にしても、その期間が長期化すればするほど、治療がスムーズに進められなくなります。がん幹細胞によって治療効果が乏しくなってしまうばかりか、再発を促されてしまうからです。

がん幹細胞の周囲を多くのがんの子細胞(一般的ながん細胞)が働き蜂のように取り囲み、その存在を支えています。つまり、がん幹細胞とがんの子細胞の関係性は、親と子に似ているのです。

また、抗がん剤治療や放射線治療を何度も受けているうちにがんの子細胞は死滅していきます。ですから、がんの子細胞は、がん幹細胞より脆く、治療しやすいと言えます。しかし、抗がん剤治療や放射線治療を続けているうちに増殖したがん幹細胞は抵抗性の強いがんの塊になります。それが高い抵抗性を持ったがん(難治性がん)に変化し、より強固になります。そしてがんの浸潤・転移などの進行を支配するようになるのです。

当初、がんに抗がん剤治療が効くことがあるのですが、通常はその治療期間が3~6カ月続くうちに、がん幹細胞が主体となったがんに変わっていきます。野球チームに例えるのなら、強力な四番バッターばかりのがんになってしまうのです。その結果、抗がん剤治療や放射線治療を行ったところで、その効果は乏しいものになってしまうのです。同様に、がん抗原に対するペプチドワクチンをキラーT細胞や樹状細胞に組み合わせ、がんの子細胞を叩く最新の免疫治療も、がん幹細胞には効き目が薄いのです。

そこで当クリニックでは、付属研究所「Astron Institute」(特定細胞加工物製造事業者として認定)が開発したがん幹細胞特異ワクチンを樹状細胞や特異的リンパ球と連携させた治療を2017年9月からスタートさせました。以来、この治療によって、高い抵抗性を示すがん幹細胞にも対応できるようになったのです。

そもそも、がん幹細胞にはがん幹細胞独自の抗原が存在します。その独自の抗原であるがん幹細胞特異ワクチンをキラーT細胞や樹状細胞に付けて攻撃するわけです。要は、キラーT細胞や樹状細胞ががん幹細胞特異ワクチンの輸送手段となるのです。ただし、この治療だけではがんの子細胞を叩けません。抵抗性の強いがんには、がんの子細胞のペプチドワクチンと、がん幹細胞用のペプチドワクチンの2つを使用しなければ、治療効果が得られる可能性が低いのです。

昨今、ニボルマブやペムブロリズマブといった免疫チェックポイント阻害剤(抗PD – 1抗体・抗CTLA – 4抗体)という免疫抵抗性を削ぐ薬剤が登場してきました。今まで、これらの免疫新薬に対する耐性はないと言われていたのですが、免疫抵抗性が出てくると考えられるようになってきました。ですから、免疫新薬の効果が乏しいときは、がん幹細胞特異ワクチンを併用するのが良策だと言えるのです。

当クリニックでは、がんの子細胞を叩く新生ペプチドワクチンや免疫新薬に、がん幹細胞特異ワクチンを併用することを推奨しています。具体的には、患者さん各々のがん種を踏まえ、血液検査の結果や免疫解析の結果を最適化させて栄養状態の改善を行ったうえで、分子標的薬・がん幹細胞特異ワクチンを利用した樹状細胞治療、特異的リンパ球治療、さらに種々の免疫新薬を駆使し、積極的に短期間の治療を行うのです(図1参照)。

図1 がん幹細胞特異的ワクチン

がん細胞が育つ理由①

がん幹細胞の周囲には「ニッチ」と称される細胞が存在しています。そのニッチ細胞は、がん幹細胞が生存したり、必要なときに分裂するために操っている細胞です。要は、がん幹細胞の〝土台〟の役目を果たす黒子・黒幕のような存在なのです。

がん幹細胞を取り囲む微小環境であるニッチ細胞は、間質細胞・免疫細胞・血管内皮細胞……などで構成されています。そのようなニッチ細胞はがん幹細胞にとって好ましい存在であるのは言うまでもないのですが、状況によっては、がん幹細胞がニッチ細胞をつくり出し、それを自らの生息のために利用する場合もあるのです。すなわち、ニッチ細胞ががん幹細胞を生み出して育む〝ゆりかご〟であるならば、がん幹細胞は自らその〝ゆりかご〟をつくり出す、といった相互作用があるのです。

また、がんの子細胞は、がん幹細胞に変わることがあります。その変化にもニッチ細胞が携わっていると考えられています。たとえば、大腸がんでは、ニッチ細胞であるがん間質細胞が分泌するHGF(hepatocyte growth factor)という増殖因子が、がんの子細胞をがん幹細胞に変えるという研究結果も出ています。その意味でも、がん幹細胞を陰で操っているのがニッチ細胞だと言えるのです。

ニッチ細胞は、がん幹細胞内で増殖因子のシグナルを活性化しています。その際、多くのサイトカインやケモカインなどの細胞外因子が、ニッチ細胞とがん幹細胞の相互作用を介し、がん幹細胞が生存・分裂するためのシグナルに関与しています。こうしたニッチ細胞とがん幹細胞との間を行き来している栄養成長因子が、TNF–αやIL–6、TGF–βといった炎症性サイトカインです。

そもそも、ニッチ細胞は、正常の組織幹細胞の生存・分裂を調節するものです。たとえば、ケガをした箇所の修復をする役目を担っています。その機序をがん幹細胞は自身の生存・分裂に反映させているのです。こうして、ニッチ細胞によって、がん幹細胞は、免疫や低栄養、低酸素などに左右されず育っていきます。そして、がんが進んでいく間に、がん幹細胞が分裂を重ねます。この間、群雄割拠の戦国時代の大名のように、さまざまな〝親玉〟が現れてきます。

それらの争いに勝ち抜いてヒエラルキー(ピラミッド型の段階的組織構造)のトップに立った、つまり変異性がきわめて強いがん幹細胞が将軍家のような存在になります。さらに、その下に第2軍のがん幹細胞が存在するのです。

がん幹細胞のヒエラルキーを決定する大きな要素がニッチ細胞です。したがって、がん幹細胞にしてみれば、表に出てこない黒幕のニッチ細胞によって、自身の階級が決まってくるのです。それは〝後援者〟の実力によって、その地位が決まっていく仕組みに似ています。

ニッチ細胞の性質が変化することで、がん幹細胞は急激に増大することもあれば、縮小することもあります。進行性のがん治療を行う場合、このニッチ細胞の存在を忘れてはいけないのです(図2参照)。

図2 がん幹細胞の発生と悪性化

がん細胞が育つ理由②

がんは、上皮細胞が遊走・浸潤能を獲得することで間葉系様の細胞へと変化するプロセスであるEMT(上皮間葉転換)を起こします。すると、そのがんは、がん幹細胞様の形質を有します。また、通常のがんの子細胞でも、EMTを起こすと、がん幹細胞様の性質に変わります。

がん幹細胞の形成・維持には、がん微小環境中に過剰に存在するTGF–βが大きく関わっています。TGF–βは、多様な機能を持つサイトカインで、その腫瘍促進的な働きが耳目を集めています。とりわけ、ETM の誘導やTreg(制御性T細胞)を活性化させて抗がん免疫の働きをストップさせてしまうこと、細胞外マトリックスの蓄積・線維化などに関係していることがよく知られています。さらに、TGF–βの発現量は転移巣の形成や予後と相関します。つまり、TGF–βは少ないほうがいいのです。

TGF–βはEMTを誘導する代表的なサイトカインです。TGF–βによってEMTが起こります。たとえば、肺腺がんの例を挙げると、初期は上皮系なのですが、進行期になると間葉系になり、がん幹細胞のようになるのです(図3参照)。

図3 転移のプロセスとEMT

肺腺がんの初期の段階であれば、EGFR(上皮成長因子受容体)、いわゆる上皮系の抗原が存在します。その場合は、イ㆑ッサやタルセバといった薬剤が効きます。しかし、治療から3~6カ月が過ぎると、TGF – βは間葉系に転換するのでEGFRを欠失してしまいます。治療を始めた3カ月ほどには効いていたイ㆑ッサやタルセバが、治療から半年ほど経った頃にはその薬効が薄れてくるのは上皮系のスイッチ(抗原)が失われてしまうからなのです。肺腺がんに対するイ㆑ッサやタルセバは、TGF – βによってそのスイッチが壊されてしまえば、効果がなくなってしまうのは当然です。

先述のように、がん幹細胞ががんの再発や薬剤への抵抗性に関連しています。となれば、がん幹細胞を死滅させるのが、がん治療の大きな目標の一つとなります。そのためには、がん幹細胞の形成・維持に関与しているTGF – βを抑えることが、がん幹細胞を死滅させる近道なのです。ただし、TGF – βによって蓄積・線維化された細胞外マトリックスに守られているので、そこを先述の治療を駆使して突破していくわけです。

体調を改善してワクチンを援護する

昨今、ニボルマブやペムブロリズマブ、イピリムマブといった免疫チェックポイント阻害剤( 抗P D – 1抗体・抗CTLA –4 抗体・抗T r eg抗体)が次々と登場し、注目を集めています。しかし、進行が早い膵がんや小細胞肺がん、肉腫などに対し、それらの免疫新薬をただ使用するだけでは、進行のスピードに追いつけないケースが少なくありません。

また、がん悪液質による体調不良、あるいは長期の抗がん剤治療による体調不良の放置は、あらゆる治療の妨げになります。元々、免疫新薬を含む免疫治療は、その順序立てをきちんと考え、患者さんの免疫環境をしっかりと整えてこそ威力が発揮されます。翻して言えば、治療の順序立て・免疫環境の整備がなされていなければ、難敵であるがんは、免疫のネットワークを悠々と掻い潜ってしまうことが多々あるのです。したがって、免疫新薬を使うにしても、分子標的治療薬を駆使するにしても、その副作用や相乗効果を見極め、がんを徹底的にぐうの音も出ないようにするため、先手を打って悪液質などの症状回復療法を交えた治療計画を立てることが重要です。

その意味において、当クリニックでは、患者さんの状態が悪いときに行う短期集中治療は、まず期間を限定し、栄養状態の改善や体力の回復を踏まえてから先述の免疫治療を実施しています。正しい免疫監視システムの再構築こそが、がんと正常細胞との力関係を逆転させる〝起死回生法〟の奏功につながるポイントなのです。

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