遠隔転移がない乳がんの治療-2.手術後の補助療法

  • 再発を予防する目的で手術の前か後に薬物療法を行うことがある。
  • 使用する薬は、サブタイプ、がんの広がり、リンパ節転移の状況などから判断する。
  • 術前でも術後でも生存期間などの治療成績に差はない。

遠隔転移がないと診断され、手術によって乳房のがんを取り除くことができても、画像検査でわからないほど小さな転移が、すでに起きている可能性があります。それを放置すると再発につながるので、再発予防のために薬物による全身療法を行うことがあります。

薬物(抗がん剤やホルモン剤など)を使う治療を、薬物療法といいます。治療を行うタイミングによって、「術後薬物療法」と「術前薬物療法」に分かれます。

がん細胞が乳管内にとどまっている「非浸潤がん」の場合は、転移する可能性がないので、手術に薬物療法を加える必要はありません。

サブタイプがトリプルネガティブやHER2タイプで、がんが5ミリ以上の場合は、早期がんでも化学療法、分子標的治療薬を行います。術前に施行すると薬の効きや、手術後の化学療法の必要性が判断できます。

術後薬物療法

使用する薬剤は、サブタイプ(表1)や再発危険因子(がんの広がり、リンパ節転移の有無と個数など)から、総合的に判断します(表2)。

表1 サブタイプ分類

HER2 増殖能 ホルモン受容体
陽性 陰性
陰性 低い ①ルミナールA ④トリプルネガティブ
高い ②ルミナールB(HER2陰性)
陽性 問わず ③ルミナールB(HER2陽性) ⑤HER2タイプ

表2 サブタイプ別の推奨治療法

サブタイプ 推奨治療法 治療期間の目安
①ルミナールA ホルモン療法
*閉経前の方は「抗エストロゲン薬」(注1)中心。「LH-RHアゴニスト(注2)」を併用する場合もある。
*閉経後の方は「アロマターゼ阻害薬(注3)」が第1選択。再発危険因子が多い場合には、抗がん剤を加えることもある。
5~7年位
②ルミナールB
(HER2陰性)
ホルモン療法
(再発危険因子などを考慮する場合、抗がん剤・抗HER2療法(注4)を追加)
5~7年位
③ルミナールB
(HER2陽性)
④トリプル
ネガティブ
抗がん剤 FEC療法(3週毎 計4回)とタキサン系抗がん剤(3週毎 計4回)のいずれかを先に行い、合計6ヵ月位
⑤HER2タイプ 抗HER2療法に、抗がん剤を併用 抗HER2療法:3週毎 計18回(1年間)
抗がん剤:3週毎 計4~8回
注1) 抗エストロゲン薬
エストロゲン受容体をもった乳がん細胞は、エストロゲンと結合することで増殖が高まる。
抗エストロゲン薬は、この受容体と結合し、エストロゲンが結合するのを阻止する働きがある。
注2) LH-RHアゴニスト
卵巣を刺激するホルモンの分泌を抑えることで、卵巣でエストロゲンが作られないようにする。
注3) アロマターゼ阻害薬
副腎から分泌されたアンドロゲンは、アロマターゼという酵素の働きでエストロゲンになる。閉経で卵巣からのエストロゲン分泌がなくなった後も、この経路でわずかなエストロゲンが作られている。アロマターゼ阻害薬は、この酵素の働きを阻害することで、エストロゲンができるのを防ぐ。
注4) 抗HER2薬
分子標的薬。細胞表面にあるHER2の働きを抑え込むことで、がん細胞が増殖するのを抑える。

術前薬物療法

薬物療法を手術前に行うのが、術前薬物療法です。再発予防やがんの縮小のために行うもので、期間は6ヵ月間です。手術時期が6ヵ月ほど遅れますが、薬物療法をしているので、がんは進行しません。

使用される薬剤は、基本的に術後薬物療法と同じです。ただし、閉経前の患者さんに対する術前ホルモン療法は、ガイドラインでは推奨されていません。

薬物療法を術後に行っても、術前に行っても、治療後の生存期間などには差がありません。ただ、術前治療には次のような利点があり、そのために術前治療を受ける患者さんが増えています。

術前薬物療法の利点
・がんが縮小することで、手術の切除範囲が少なくなる。
それにより、乳房温存術が可能になったり、温存した場合の乳房の変形が少なくなったりする。
・薬剤が効くかどうかを、術前に判定できる。
(術後薬物療法は、しこりをつくっているがんがなくなった状態で行うため、薬が効いているかどうかを判定できないので。)

(監修:医療法人湘和会 湘南記念病院 かまくら乳がんセンター長 土井卓子先生)

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