(がんの先進医療: 2014年10月発売 15号 掲載記事)

コラム

ブリタニー・メイナードさん、安楽死を公表 議論を呼ぶ

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラムです。

(2014年.vol15)

アメリカで「余命6カ月」と診断されたブリタニー・メイナードさん(29)が、来月1日に安楽死することを選択したことを公表し、話題となっている。
ブリタニーさんは結婚しておよそ1年後の今年1月、悪性の脳腫瘍であることが発覚。治療をすぐ開始したものの病状は悪化、4月には手の施しようがなく、余命6カ月と診断され、家族とともにオレゴン州への移住を決意した。アメリカでは安楽死はオレゴン州を含む5つの州で認められているが、ブリタニーさんは安楽死を容認する動きを広げたいと、今回、映像を通して自らの意思を公表することを決めたという。映像は3日で520万回以上再生され、「死ぬ権利」をめぐって議論となるなど全米で高い関心を呼んでいる。

がんで安楽死が問題となる背景には、「がん末期患者」の多種多様な苦痛が根本的に解決できる手段が確立されていないことにある。がん末期患者の肉体的な痛みを完全に取り除くことは困難で、半数以上の患者さんが何らかの原因で間断なく続く痛みを感じているという。また、長い延命治療はやむをえず家族にも負担をかけることになり、そのことが患者さんに精神的な苦痛を与える。

「安楽死」とは、がん患者をはじめとする治療不可能である患者さんに対して、患者の意思により、医師が薬の投与などを行う行為とされる。欧米などでは、患者の意思を尊重し、治療を中止、または行わない行為、いわゆる「尊厳死」に関しては「安楽死」とは区別するのが一般的で、「患者の人権」として、リビングウィル(生前の意思表示)に基づく尊厳死や自然死が、法律で許容されている国もある。

今回、ブリタニーさんが移住したオレゴン州をはじめとする米国の5州以外で安楽死が認められている国は、スイスやオランダ、ベルギーなどがある。なかでも古く1942年から合法化されているスイスは、いわゆる〝自殺ツーリズム〟の場所になっており、安楽死を遂げるために渡航する外国人が急増している。
2008年は123人だったのに対し、2012年は172人と4年間で1・4倍になっている。なお、スイスにおける安楽死では、現在1人当たり約3000ドル(約31万円)のコストがかかるという。諸国が安楽死を認めていないために患者がスイスまで旅行しなくてはならない状況や、安楽死のコストをスイス政府が支払い続けるべきなのかという問題が指摘されているという。

一方で日本では、「安楽死」はいまだタブー視される傾向が強く、議論されるまでに至らず、国として実態調査すらされていない。安楽死の合法化に対する懸念は多くある。たとえば、安楽死の選択肢により患者自身、特に高齢者はプレッシャーを受け「不本意な死の選択」をさせられてしまうことや、医療費削減の目的などで法制化が過度に加速化されてしまうこと、命を軽視する人が増える可能性があることなどである。

オランダでは20年間にわたり、実態調査と国民的議論が行われ、2001年に法制化された。オランダにはホームドクター制度があり、患者と医師は強い信頼で結ばれており、医療保障制度も充実している。一概に日本と比べることはできない。しかし、日本国民は「人としての死」に目を背けるのではなく、議論すべきだと思うのである。

ブリタニーさんの動画映像を見ていただきたい。彼女は錯乱しているわけでもなく、自暴自棄になっているわけでもない。これまでの人生は幸せであると感じていて、死を迎えるまでに自分がすべきだと思った意思を貫いている。彼女の表情を見ていると、なぜ彼女が「安楽死」を選んだかわかる気がするのである。
国際化が進み、個人でも多種多様な考えを持つようになった。今後、日本人が「安楽死」を求めて渡航するということが話題になることもあるかもしれない。その時に「人としての死」を他国に押し付けていると自分自身が思わないためにも、安楽死を巡る、議論の深化、実態調査はされるべきだと思うのである。

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラム

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