(がんの先進医療: 2013年10月発売 11号 掲載記事)

コラム

夢を希望に持ちかえて―Jリーグ大宮アルディージャの元選手塚本泰史さん

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラムです。

(2013年.vol11)

3年前に骨肉腫のため手術を行ったJリーグ大宮アルディージャの元選手塚本泰史さん(28)が8月上旬、富士登山に成功した。

手術の前年、右サイドバックで大活躍しファンに夢を与えていた塚本さんは、翌年に骨肉腫の告知を受け、人工関節への置換手術を行うことにした。当時、医師にサッカーへの復帰は絶望視されながらも記者会見で力強くこう言っている。

「これから手術をして、つらい闘病生活やリハビリが待っていると思いますが、同じ病気の人、がんと闘う人たちに、少しでも勇気を与えられるようにしたいです。そしてチームのみんなにも、遠くで頑張っている仲間がいるんだっていうことを忘れないでほしいです」

大宮アルディージャは、塚本さんの「もう1度ピッチに立つ」という強い希望に答えるため、その年の契約を続行し、2012シーズンからは大宮アルディージャのアンバサダー(親善大使)に抜擢している。アンバサダーとして、2012年には東京マラソンに挑戦し、ユニホーム姿で42・195kmを6時間半かけて走り、ファンにつらい病気を患いながらも回復していることをアピールした。

サッカーはたとえ怪我であっても結果が出せなければ解雇されてしまう世界。塚本さんがみんなに好かれ、信頼される人柄だったからなのはもちろんそうだが、大宮アルディージャのこの判断は、同じようながんで苦しむ人々にも希望を与えるものだったに違いない。

そして、今年8月上旬には富士登山に挑戦した。その手には、塚本さんと同じ骨肉腫を患い、14歳で亡くなった梅崎太助さんが小学生の頃に愛用したという杖が握られていた。太助さんはサッカー大好き少年で中学生の頃に骨肉腫が見つかったが、その当時の医学では、切断するしか方法がなかったという。太助さんは大好きなサッカーを続けるため、足を切断せずに治療をするという選択をした。

14歳で自分の夢のために命をかけた決断をしたのだ。太助さんがそのまま成長していれば、塚本さんと同じ年くらい、そしてなによりも強く復帰を願う塚本さんには太助さんの気持ちが痛いほどわかるのだろう。昨年、太助さんを追悼する大会「三・九カップ」にゲストとして招かれ、太助さんの両親と交流し、杖を託されたのだ。塚本さんは「最初は自分のトレーニングとしての登山だった。

でも、杖を託されてからは太助さんのためにという思いだった」「ご来光を見た瞬間、生きててよかったと強く感じた」と言っている。

がんという病気は、いまだに死と直結した病気と認識している人が多いつらい病だ。誰しも自分のことで手一杯になるのが当然であり、前向きになろうとすることさえ難しいはずだ。

塚本さんは、25歳という同世代のサッカー選手はまだまだこれから活躍していく年齢に、しかも塚本さん自身もチームではエース的存在として活躍が期待されていた時期に、骨肉腫という病気になりながらも同じような病気の人を励まし、つらい決断をした人を尊敬し、その思いを背負うことができるのだ。

たかが「サッカー」だが、されど「サッカー」なのだ、スポーツ選手が人々に与える影響は大きい。塚本さんなら、きっとこれからも辛い治療やリハビリを乗り越えていく姿で人々に希望を与えることができるだろう。

塚本さんは今後も「現役復帰という目標は遠いので、1つ1つ目標をつくって達成していきたい」と、トライアスロンに挑戦する予定だという。今は塚本さんの少しでも早い回復を願いたい。そして、目標を達成していくその姿に私自身も励まされたいと思う。

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラム

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