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免疫療法のQ&A

がんの治療法には、標準治療である3大療法(手術、抗がん剤療法、放射線療法)の他に、第4の治療法として“免疫療法”があります。

しかし、免疫療法はまだ、私たち生活者にとって未知の部分が多くあります。免疫療法をがん治療の選択肢のひとつとして考える場合、その内容を十分に理解しておかなくてはいけません。

“免疫療法とは、どんな治療法なのか”―。国立がんセンター(現国立がん研究センター)研究所在籍当時、日本で初めてTリンパ球を増やす免疫療法の臨床研究に取り組み、現在、がん治療に使う免疫細胞を培養するラボを設立されている関根先生に、回答してもらいました。

回答者:
関根 暉彬(せきね てるあき)先生(医学博士)

経歴:
1967年~ 国立がんセンター研究所勤務
(78年~80年 ミシガン州ウイリアムポーマンホスピタル免疫研究室留学)
1986年~ 国立がんセンター研究所共通実験室室長
1987年~ 活性化自己リンパ療法に関する研究
1999年3月 国立がんセンター定年退官
1999年4月 株式会社リンフォテック設立

免疫療法とは?

Q免疫療法とは、どういう治療法のことをいうのでしょうか?
A

人の体内では毎日のようにがん細胞が発生しています。そのがん細胞を退治しているのが、誰の体にも備わっている“免疫”です。その免疫の働きは、白血球やリンパ球といった“免疫細胞”が担っています。

免疫療法とは、免疫細胞の働きを強化することで、がん細胞をやっつける治療法です。
がんの3大療法に次ぐ、第4の治療法として注目されています。

Q免疫療法には、どういった種類がありますか?
A

免疫療法は、大きく以下の2種類に分けられます。

直接、活性化した免疫細胞を体内に入れる「免疫細胞療法」
間接的に免疫細胞を活性化させる薬剤などを使う免疫療法>

「免疫細胞療法」は、患者さん自身の血液から免疫細胞を採取して、それを増やしたり、活性化させて、再び患者さんの体に点滴や注射で戻す治療方法です。活性化リンパ球、樹状細胞、NK細胞など、特定の免疫細胞を使ってがんを殺します。

「薬剤などを使う免疫療法」は、免疫細胞を活性化させる“免疫賦活(ふかつ)薬”などを内服や注射で投与することで、間接的に体の免疫力全体を高めて、がんを殺す治療法です。“ワクチン療法” “樹状細胞療法” “BRM剤”などが代表的です。

現在、最新の研究では、①と②を組み合わせて、免疫細胞の攻撃を邪魔する「免疫抑制細胞」を減らす薬剤を投与することで、免疫細胞療法の効果を高める研究が進んでいます。

免疫抑制細胞の解説

Q免疫療法の効果を飛躍的に高める最新研究とは?(免疫抑制細胞の研究)
A

近年、免疫療法の効果を倍増させる決定的なメカニズムが解明されつつあります。

がん細胞の周りに、免疫細胞の攻撃を邪魔する“免疫抑制細胞”がたくさん集まっていることが分かってきたのです。

これまで免疫療法に関わる医療者たちは、がん細胞だけを叩くことばかりに目をとらわれていました。その間違いに、やっと気づいたのです。この免疫抑制細胞をどうすれば減らすことができるのか。それが今、超えなくてはいけない最優先の課題です。実現することができれば、免疫療法はがんの治療法として、もっと強力な効果が発揮できると期待しています。

実際、すでにそのような作用のある薬が開発されてきています。それらの薬を使って、新たながんの治療の試みも始まっています。
この課題がうまく解決できれば、近い将来、免疫療法はがん専門医をはじめ、多くの方々に信頼される画期的な治療法になることは間違いありません。

免疫療法を検討する価値は?

Q免疫療法は、どんな患者さんの治療に向いているのでしょうか?
A

「再発転移予防」を期待する人
高齢で手術や抗がん剤の副作用に耐えられない人「QOLの改善」を期待する人
「延命効果」を期待する人 などに向いています。

一番向いているのは再発予防です。

なぜかと言えば、“副作用がない”からです。
通常、再発予防は、再発率の高いステージⅢやⅣで、手術後に一定期間、抗がん剤療法や放射線療法をやる“術後補助療法”が行われています。その補助療法と並行して行うか、その直後に免疫療法を始めると再発予防に効果的です。

それに、再発率が低いとされるステージⅡであっても、実際は4分の1ぐらいが再発しています。不安であれば副作用のない免疫療法で再発予防に備えるのが、最もいい選択肢だと思います。
また、高齢で手術や抗がん剤の副作用に体が耐えられないような患者さんにも向いています。副作用がなく、QOL(生活の質)が良くなるので最適な治療法といえます。

がんの縮小効果、もしくは延命効果を期待する場合では、2つの要件が関係してきます。“がんが小さい”ことと、“抗がん剤をたくさん使っていない”ことです。
そういう患者さんには、よく効いています。

Q免疫療法は、再発転移予防ではどれくらいの期間続ければいいのでしょうか?
A

免疫療法をどれぐらいの期間続ければ、どれぐらい再発が防げるかという正確なデータは、まだ出ていません。

実際に免疫療法を受けている患者さんの経過を見ても、1年続けて再発しない人もいれば、3年続けて再発しない人もいます。また、5年続けて、止めたら再発した人もいます。

以下はおおよその目安ですが、
免疫療法を1年間続けると、再発転移の可能性は約半分の50%に。
免役療法を2年間続けると、さらにその半分の25%に。
3年、4年と年を追うごとに12.5%、6.25%と半減していく。
―と考えるのが良いと思います。

それを目安に、費用面も考えながら治療期間を決めていけばいいと思います。

Q免疫療法は、標準治療と組み合わせても大丈夫なのでしょうか。
A
問題ありません。むしろ標準治療の3大療法を“後押しをする治療法”として組み合わせて使ったほうが、効果が期待できます。他の療法を妨害することは一切ありません。
Q免疫療法は、がんの種類によって効果に違いはあるのでしょうか?
A

免疫療法の効果は、がんの種類によって違ってきます。

ここで説明する効果の回答は、私が研究を続けてきた経験による“活性化自己リンパ球療法”の効果に限らせてもらいます。
簡単に言うと、免疫細胞療法は増殖の遅いがんによく効く。増殖の速いがんには効きにくい。それが原則だと思ってください。

従来の抗がん剤の多くは、その真逆になります。ですから、免疫細胞療法には“抗がん剤の効きにくいがん”によく効くという特徴があります。
例えば、増殖の遅いがんには、肝がん、腎細胞がんなど。増殖の速いがんには、白血病、すい臓がんなどがあります。

さらに、1つのがんの塊でも、増殖の速いがん細胞と遅いがん細胞が混ざり合っています。

最初に抗がん剤治療をすると、増殖の速いがん細胞は全部死滅できます。しかし、増殖の遅いがん細胞は残ってしまいます。その中に“がん幹細胞”があるので、抗がん剤治療だけでは、まだ再発する可能性があるのです。

ですから、抗がん剤治療の直後に免疫療法をやれば、残った増殖の遅いがん細胞を退治できます。

Q免疫療法のエビデンス(科学的根拠を示す臨床試験データ)は出ているのでしょうか?
A

残念ながら、免疫療法全体で言えば、きちんとした信用できるエビデンスの出ているものが非常に少ないのが現状です。唯一、活性化自己リンパ球療法において無作為化比較試験で行われた肝臓がんの手術後の再発予防の論文発表(「THE LANCET」)があるのみです。

ただし、小規模な試験ではありますが、最近はきちんとしたデータもどんどん出てきています。また、治験として行われている例もあり、近いうちに状況がずいぶん変わっていくと思っています。
免疫療法のエビデンスが少ないのは、非常に臨床試験をやりにくいからです。

免疫療法を頼って受けに来る患者さんは、それまで標準治療を受けていて「もう他に治療法がありません」と言われて、その後に受診される方が多いのが現状です。
みなさんのがんの状態がまったく違う。同じ条件の患者さんを大勢集めて、治療効果の比較・検討ができないのです。

Q免疫療法は信用していいのでしょうか?
A

免疫療法は、根本的には信用していい治療法です。

ただし、免疫療法と称する療法の中には、信用できないものも含まれています。それが誤解されて解釈されてしまう原因です。

現在、全国の大学病院で次々と免疫療法の研究が盛んに行われています。実際、「樹状細胞及び腫瘍抗原ペプチドを用いたワクチン療法」「活性化自己リンパ球移入療法」「ペプチドがんワクチン療法」「NKT細胞療法」などが、先進医療として国から認められています。(免疫療法の先進医療一覧を参照)
近い将来、免疫療法はがん治療の一番重要な部分を占める治療法になると確信しています。

実際に免疫療法を開始するとなったら?

Q治療の流れはどのようになるのでしょうか。
A

治療の流れは、その医療機関の外来に行って、点滴や注射の投与を受けるだけです。
所要時間は、免疫療法の種類によって若干違いはありますが、点滴なら1回の投与で1時間ほどです。

私たちが実施している“活性化自己リンパ球療法”は、事前に患者さんの血液を30cc採血させてもらいます。それを2週間培養すると、リンパ球が1000倍に増えます。それを点滴で体内に戻すだけです。
免疫細胞療法は、どの施設もこのような治療の流れが基本になります。

Q治療を受けて、すぐ職場に戻れるのでしょうか。
A
多くの免疫細胞療法では治療を受けたら、休憩を取るなどの制約はありません。体にはまったく影響ないので、仕事やスケジュールに支障が出るようなことはありません。ただし、発熱などの副作用がある免疫療法もあるので、事前に医師に確認してください。
Q免疫療法は、どれぐらいの間隔で受けなければいけないのでしょうか?
A

がん細胞の増殖が比較的おとなしいときは、免疫療法を受ける間隔を長くして構いません。増殖を今すぐ抑えなくてはいけないようなときは週1回ぐらいでやります。その患者さんの状態によります。

通常、最初に週1回で始めて、順調であれば、2週に1回、3週に1回、4週に1回、2カ月に1回と間隔を延ばしていきます。

Q免疫療法の費用はどれぐらいかかるのでしょうか。
A

免疫細胞療法の場合、1回の投与で20万円前後が大方の目安です。
何回、どれぐらいの期間やるかも、患者さんの状態によって異なります。

ですから、免疫療法がよく効くタイミングで投与しないと、それだけ回数が必要になり、結果的に治療費が高額になってしまう場合があります。

Q最初に免疫療法の医師の話を聞くとき、注意すべきことはありますか。
A

免疫療法の説明を聞く際に、「治ります」や「がんが小さくなります」という言葉を使う医師は、あまり信用できないと思っていいでしょう。

免疫細胞療法の延命効果は、多かれ少なかれあります。それは例えば、「副作用がなく、がん細胞が体にあまり悪さをしない大きさに抑え続ける」といったことで、必ずしも「がんが小さくなる」ということを意味しているものではありません。
その免疫療法で「できること(治すこと、小さくすること、がんはあっても比較的元気に延命すること、再発予防など)」をエビデンスとともに確認しながら話を聴きましょう。それから、その免疫療法のことを事前によく勉強しておくことが大切です。

Q免疫療法の受診を相談(セカンドオピニオン)できる公的機関や相談窓口はあありますか。
A

免疫療法には種類がたくさんあり、どれもやり方や考え方が少しずつ違います。すべての免疫療法に詳しく、比較・説明のできる相談窓口はないでしょう。

普通はセカンドオピニオンで医師が患者さんに説明するときは、エビデンスを基にして説明しなくてはいけません。免疫療法は、そのエビデンスが出ているものが少ないので対応できる相談窓口がないのです。

Q免疫療法を受ける際、どのような点を十分理解しておく必要があるでしょうか。
A

免疫療法を理解する上で大切なのは、1つは、きちんとした臨床試験データが出ているものが非常に少ないこと。
それから、効果判定基準によって免疫療法の有効性が違うことです。

例えば、免疫療法をやっていてがんが大きくなってきたら、従来なら、そこで“効かない”と中止になります。ところが、その後も治療を続けながら経過を見ていくと、延命効果の有効性が高いことが分かってきました。
つまり、免疫療法の効果判定は“延命期間”で見れば効果が十分評価できるのです。この効果判定の見方は、近年のがん治療を変える起点になっています。

患者さんも、このような視点で理解してもらうことが大切になると思います。

Q免疫療法を行っている医師が出版している書籍を参考にするべきでしょうか。
A

著者である医師が自分の施設で行っている免疫療法だけをアピールしている書籍の多くは、効果のあった症例ばかりを載せていることを承知しておく必要があります。「画像診断でがんが小さくなりました」という症例は、そのまま自分のがんにも同じ効果が得られると過信しないほうがいいと思います。

効果の見られた少数の症例を紹介した論文は、これまでもたくさんあります。それだけで信用できるエビデンスかといったら、エビデンスレベル的には非常に低いのです。

免疫療法の将来性は?

Q世界では免疫療法は認められているのでしょうか?
A

米国では、国の研究機関を中心にペプチド・ワクチンやリンパ球療法などに力を入れて研究に取り組んでいます。米国は皆保険ではないですが、保険に取り入れられている免疫細胞療法もあります。明らかに次の時代は、“免疫療法の時代”という流れです。

米国でも免疫療法は、これまで“がん治療”を中心に行われてきました。しかし、これからは“がんの再発予防”をメイン・ターゲットにした方向で動き出しています。

Q免疫療法は健康保険の対象になるでしょうか?
A
 保険対象になるには、現状の薬事法の下では、まず医薬品の認可を取らなければいけません。それには、きちんとした臨床試験が必要になります。大規模な臨床試験がやれるかどうかがポイントになると思います。それができれば、健康保険の対象になると思います。

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