がん治療(標準治療)の基礎知識
治療の流れを理解し、より適切な治療を受けるために
第1回 

土井先生
乳がん治療の基礎知識について、湘南記念病院かまくら乳がんセンター長 土井卓子先生に解説していただいた。

個々人に合った治療を選ぶためにがんの性格と進行度を知る

乳がんの治療では、個別化治療が進んでおり、どの患者さんにも同じ治療が行われるのではありません。検査によって1人1人の乳がんの患者さんの「がんの性格」や「進行度」をよく調べることで、予め治療効果の判定や打つべき手が推測できます。それらと患者さんの希望する治療方針を鑑みて、それぞれの乳がんに適した治療が行われるようになっているのです。

◆がんの性格

乳がんの性格は、「針生検」という検査で、乳房に針を刺して採取した組織で調べます。その結果で、乳がんのサブタイプ分類により、5タイプに分かれます(表1)。

乳がんのサブタイプ分類

さらに、核異型度という乳がん組織の〝顔つき〟を調べ、悪性度を3段階で判定します。

◆がんの進行度

乳がん進行の程度は、「がんの大きさ」「リンパ節転移の有無と広がり」「遠隔転移(他の臓器への転移)の有無」によって判断します(表2)。 

乳がんの進行度

遠隔転移の有無で治療の目的が異なる

乳がんの治療は、その目的によって、大きく2つに分けられます(図1)。

乳がんの治療の流れ

1つは、遠隔転移がない乳がん患者さんの治療です。この場合には、乳がんを完全に治すことを目的に、根治的な治療が行われます。乳がんの治癒を目指すためには、基本的には手術が必要になります。また、手術後の再発を防ぐ目的で、放射線療法や薬物療法が加えられる場合もあります。

もう1つは、遠隔転移がある乳がん患者さんの治療です。この場合には、治癒を目指すのではなく、悪化させないことを目指した治療が行われます。乳がんの手術後に再発した場合も、このような治療になります。

薬物療法が中心になりますが、できるだけQOL(生活の質)を低下させないようにし、副作用の軽い治療から行うようにします。

治癒を目指す乳がん治療と悪化させないことを目指す乳がん治療について、どのような治療なのかを解説していきます。

がんの大きさや広がりによって、手術の方法は変わってくる

治癒を目指す治療では、基本的に手術が行われます。乳がんの手術には次のようにいろいろな方法があります。がんの大きさや周囲への広がり、さらに治療後の見た目も考えて、患者さんが何を重要視しているかを考慮しながら、手術法を選択することになります。

乳がんの手術は、大きく「乳房温存術」と「乳房切除術」に分けられます。

◆乳房温存術

乳房温存術は、がんと共に乳房の一部だけを切除し、乳房を残す手術です。手術後、再発を防ぐために、残した乳房に対して放射線療法が行われます。

乳房温存術ができるのは、がんが3~4㎝までの大きさで、がんの部位が決まった範囲にある場合です。乳房を一部切除するため、どうしても乳房の変形が起こります。

◆乳房切除術

乳房切除術はがんを含めて乳房を切除する手術です。がんが大きい場合や多発する場合は、この手術になります。標準的な手術では、乳輪、乳頭を含め乳房全体が失われます。

◆乳房再建手術

がんを含めて乳房を切除し、その後、乳房を再建する「乳房再建手術」も行われるようになっています。乳房の形を維持するのに優れた方法です。

乳房再建には、自分の体の組織(腹部や背中の皮膚・脂肪・筋肉)を使う「自家再建」と、人工物を利用する「インプラント再建」があります。自家再建だけでなく、インプラント再建も、最近保険適用になりました。

自家再建には大掛かりな手術が必要となるため、患者さんの身体的負担は大きくなります。インプラント再建では、エキスパンダーと呼ばれる組織拡張器を胸の筋肉の下に入れ、それを少しずつ膨らませていきます。こうして乳房の形を作り、最終的に、エキスパンダーをシリコン製のインプラントに入れ替えます。

整容性が最も優れているのは、乳房の皮膚、乳輪、乳頭を残す「皮下乳腺全摘術」です。皮膚などを残して、がんと乳房の中身を切除します。筋肉の下にエキスパンダーを入れ、乳房の形を作ってからインプラントに入れ替えます。切開部位を乳房外縁にするため、傷あとも目立ちません。

◆腋下廓清(えきかかくせい)

手術時、わきの下のリンパ節を切除する「腋下廓清」が行われることがあります。がん細胞が最初に運ばれていくリンパ節をセンチネルリンパ節といい、ここに転移がなければ、腋下廓清は行われません。この転移を調べる検査が「センチネルリンパ節生検」です。この検査結果は、その後の治療選択のための重要な情報となります。

再発を防ぐために薬物療法を加える

手術によって乳房のがんを取り除くことができても、画像検査でわからないほど小さな転移が、すでに起きている可能性があります。それを放置すると再発につながるので、薬物による全身療法を加えます。

薬物療法とは、抗がん剤治療・ホルモン療法など、薬を使う治療のことです。使うタイミングで、「術後薬物療法」と「術前薬物療法」に分かれます。

がん細胞が乳管内に留まっている「」の場合は、転移する可能性がないので薬物療法は不要です。

◆術後薬物療法

使用する薬剤は、乳がんのサブタイプ(表1)や再発危険因子(がんの広がり、リンパ節転移の有無と個数など)から、総合的に判断します(表3)。

乳がんの薬物治療

ルミナールAの場合にはホルモン療法が選択され、5~7年続けます。使用される薬は、閉経前の患者さんなら抗エストロゲン薬、閉経後ならアロマターゼ阻害薬です。再発危険因子が多い場合には、抗がん剤を加えることもあります。

ルミナールBの場合も、ホルモン療法を5~7年続けますが、再発危険因子などを考慮して、抗がん剤や抗HER2薬を加える場合もあります。

HER2タイプの場合は、抗HER2薬(トラスツズマブ)と抗がん剤を併用します。抗HER2薬は3週毎で18回(1年間)、抗がん剤は3週毎で4~8回です。

トリプルネガティブの場合は、抗がん剤治療をしっかり行います。たとえば、FEC療法(フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミド)3週毎4回と、タキサン系抗がん剤(ドセタキセルまたはパクリタキセル)3週毎4回を続けて行います。

◆術前薬物療法

再発予防のための薬物療法を手術前に(約6ヶ月)行うのが、術前薬物療法です。使用される薬剤は、基本的に術後薬物療法と同じです。ただし、閉経前の患者さんに対する術前ホルモン療法は、ガイドラインでは推奨されていません。

薬物療法を術後に行っても、術前に行っても、治療後の生存期間などには差がありません。ただ、術前薬物療法には次のような利点があり、そのために術前薬物療法を受ける患者さんが増えています。

まず、がんが縮小することで、手術の切除範囲が少なくなります。それにより、乳房温存術が可能になったり、乳房の変形が少なくなったりします。また、薬剤が効くかどうかを術前に判定できるのも、利点の1つです。

遠隔転移がある場合は薬物療法を長く続ける

遠隔転移がある場合には、基本的に薬物療法を行います。乳がんのサブタイプや現在の病状などから、使用する薬剤を選びます。がんを縮小させることを目指すのではなく、悪化させないことを目標にします。できるだけQOLをよい状態に保つため、副作用の軽い薬剤から使用するようにします。

サブタイプがホルモン受容体陽性の場合には、基本的にホルモン療法を行います。使っている薬剤が効かなくなったら、別の薬剤に変え、ホルモン療法を続けます。ホルモン療法は副作用が軽いため、治療を行いながら普通の日常生活を送ることができます。

ホルモン療法剤を使い切った場合や、病状が悪化して生命の危険があるような場合には、抗がん剤治療に移ります。

HER2タイプの場合は、抗HER2薬と抗がん剤を併用します。それで効かなくなった場合には、抗HER2薬と併用する抗がん剤を変更します。

トリプルネガティブの場合は、抗がん剤による治療が行われます。なるべくQOLを低下させないことを考える必要があります。ある抗がん剤を使用していて、効果がなくなれば、抗がん剤を変えて治療を続けます。

どの薬剤を使用するにしても、できるだけ長く治療を継続できるようにするのが、遠隔転移がある場合の治療の基本です。

おわりに

乳がんの治療法の大きな流れと判断ポイント、ご自身の体の状態について、患者さんがしっかり理解することが大事です。そのために、ご自身の各種診察・検査の結果や治療などを、お手元に記録管理しておくと便利です(かまくら乳がんセンターでは、そのための手帳をお渡ししています。下写真)。

乳がん治療手帳

それに加えて、ご自身がこれからどのように生きたいかを考えて、医師とより良いコミュニケーションをはかりながら、本当に納得できる治療を選んでください。

 

 

 

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