(監修:JCHO 東京新宿メディカルセンター副院長 泌尿器科部長 赤倉功一郎先生)

1.前立腺がんとは

1-1.前立腺がんとは

  • 前立腺がんになる人が増え、罹患数は男性のがんで1位になった。
  • 罹患数の割に死亡数は少なく、早期発見と適切な治療で治る人も多い。

前立腺がんは、男性の生殖器である前立腺に発生するがんです。前立腺は膀胱の下に位置し、前立腺の中を膀胱から伸びる尿道が貫いています。精液の一部となる前立腺液を分泌する臓器ですが、弛緩・収縮することで排尿や射精をコントロールする役割も果たしています。前立腺の組織は、中心域、移行域、辺縁域(へんえんいき)に分けられます。前立腺がんは、どこからでも発生する可能性がありますが、多くは辺縁域から発生します。(図1,2)

かつては、欧米では発生頻度が高いものの、日本では比較的少ないと言われていました。しかし、近年では、わが国でも前立腺がんが急増しています。国立がん研究センターによる推計では、2015年には胃がんを抜き、9万8400人で、男性のがんの罹患数で第1位になっています。前立腺がんによる死亡数(2013年)は、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんに次いで第6位です(人口動態統計によるがん死亡データ)。

がん種別の5年相対生存率(2003~2005年診断例)は、93.8%です(地域がん登録によるがん生存データ)。罹患数は増えていますが、早期に発見して適切な治療を行うことで、治る人が多いがんだといえます。(図3,4)

前立腺がんは高齢者に多く、診断時の年齢は70歳代が最も多くなっています。日本で前立腺がんが急増しているのは、高齢者人口が増えていることも、重要な原因の1つです。

前立腺がんの細胞は、アンドロゲン(男性ホルモン)の影響を受けやすいという特徴があります。アンドロゲンの刺激で発育・増殖し、アンドロゲンがなくなると死滅する性質があるのです。このような性質を「アンドロゲン依存性」といいます。

(図1)「前立腺がんの位置」

(図2)「前立腺がんの構造」

(図3)がん種別5年生存率

(引用:全国がん罹患モニタリング集計 2003-2005年生存率報告
独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書)

(図4)前立腺がんステージ別生存率

(引用:全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2015年8月集計)による)

1-2.前立腺がんの検査

  • 前立腺がんはPSA(前立腺特異抗原)検査で早期に発見することができる。
  • 確定診断のためには、針生検で前立腺の組織を調べる。
  • がんの広がりを調べるために、MRI検査、CT検査、骨シンチグラフィーが行われる。

前立腺がんを早期発見するためのスクリーニング検査としては、血液中のPSA(前立腺特異抗原)を測定する「PSA検査」が効果的です。前立腺がんがあると、血液中に出てくるPSAの量が増えるのです。増加し続ける前立腺がんへの対策として、PSA検査による前立腺検診が提唱されています。前立腺がん検診を実施することで、進行がんや転移がんの発生を抑えることができ、死亡率が低下することが示されています。その一方で、前立腺がん検診を行えば、治療の必要のない前立腺がんを発見してしまうこともあります。それによる過剰診断、過剰治療が危惧されています。

前立腺がんを見つけ出し、確定診断を下し、がんの広がりを調べるために、表のような検査が行われます。

(表)「前立腺がんの主な検査」

検査の目的 検査名 検査のやり方 検査でわかること
発見するための検査 PSA検査 血液中のPSA(前立腺特異抗原)を測定する。 基準値は4.0ng/mlで、これを超えている場合、前立腺がんの疑いがある。
直腸指診 肛門から指を入れ、直腸の前壁越しに、その裏側にある前立腺を触れる。 固さなどから、がんの有無がわかる。
経直腸エコー 肛門から直腸に超音波の発信器を入れ、そこから超音波を発信して周囲を画像化する。 前立腺の大きさや形がわかる他、がんが描き出されることもある。
確定診断するための検査 前立腺針生検 前立腺に生検用の針を刺して組織を採取し、それを顕微鏡で観察して、がん細胞があるかどうかを調べる。針は会陰部から刺す方法と、直腸から刺す方法がある。針は10本以上で、前立腺全体からまんべんなく組織を採取する。 採取した組織にがんがあれば、前立腺がんと確定診断をくだすことができる。がんの組織型もわかる。
治療方針を決めるための検査 MRI検査 磁気を利用して体内を断層画像として描き出す。がんがはっきり見えるように、T2強調画像や拡散強調画像が用いられることもある。 前立腺内のがんの状態や、周囲への浸潤の状態がわかる。また、近年は確定診断できるケースもある。
骨シンチグラフィー 骨に取り込まれやすい放射性物質を用いて、骨への転移を画像上で示す。 骨転移の有無や、転移の起きている場所がわかる。
CT検査 エックス線を利用して体内を断層画像として描き出す。 リンパ節転移や、全身への転移の有無や場所がわかる。

(図)前立腺生検

前立腺生検

1-3.前立腺がんの状態を理解するための基礎知識

患者さんが本当に納得できる治療を受けるためには、治療法の大きな流れと診断ポイント、ご自身の体の状態について、しっかり理解しておくことが大切です。そのうえで、ご自身がこれからどのように生きたいかを考え、医師とよいコミュニケーションをとりながら、治療法を選んでください。

次のような点についてチェックしておくと、現状の把握や今後の治療法の検討に便利です。

グリソンスコアは、組織学的な悪性度の指標です。悪性度をグレード1~グレード5の5段階に分類し、最も多いグレードと2番目に多いグレードはどれなのか生検で採取した組織を顕微鏡で調べます。2つのグレードの合計値(2~10の9段階)で悪性度を評価します。

例)最も多いグレードが「4」で、2番目に多いグレードが「3」の場合、「4+3=7」と評価される。

(表)「チェックリスト」

チェック項目 それを知る意義
転移の有無 治療法を選択するのに必要。
転移の起きている部位
自覚症状の有無と程度
前立腺におけるがんの広がり がんのリスク分類に必要。
治療法を選択するのに必要。
グリソンスコア
PSA値

1-4.前立腺がんの進行度

  • 進行度は腫瘍の大きさや広がり、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無で決められる。
  • 限局がん、局所進行がん、転移がんに分けることもある。

前立腺がんは、腫瘍の大きさや広がり(T)、リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)によって、進行度が分類されています。また、がんが前立腺に限局している「限局がん」、前立腺の被膜を越えて周囲の組織や隣接する臓器に浸潤している「局所進行がん」、リンパ節、骨、他の臓器への転移が起きている「転移がん」に分けることもあります。

(表)「前立腺がんの病期分類」(TMN分類)

TNM分類
T1a 直腸診や画像検索では見つからないが、組織を調べると、切除した組織の5%以下に、偶然発見されたがん
T1b 直腸診や画像検索では見つからないが、組織を調べると、切除した組織の5%を超え、偶然発見されたがん
T1c 直腸診や画像検索では見つからないが、PSA値の上昇で疑われ、生検によって確認されたがん
T2a がんが前立腺の片葉の2分の1にとどまっている
T2b がんが前立腺の片葉の2分の1を超えているが、両葉には及ばない
T2c がんが前立腺の両葉に広がっているが、前立腺内にとどまっている
T3a がんが前立腺の被膜外へ広がっている
T3b がんが精嚢まで広がっている
T4 がんが精嚢以外の隣接臓器(膀胱頸部、外尿道括約筋、直腸、拳筋、骨盤壁)に広がっている
N0 リンパ節転移なし
N1 前立腺の近くにあるリンパ節にがんが広がっている
M0 遠隔転移なし
M1 前立腺から離れたリンパ節や臓器などへの転移、骨への転移がある

1-5.前立腺がんの再発

  • 画像検査でわかる前にPSA(前立腺特異抗原)値が上昇するので、定期的なPSA検査で再発を早期に発見できる。

手術や放射線療法で根治的な治療を行った場合でも、前立腺がんが再発することはあります。それを早く発見するためには、治療終了後も定期的にPSA検査を受ける必要があります。画像検査で再発が見つかる前に、PSA値が高くなるからです。画像検査では見つかっていないが、PSAが上昇して再発が疑われる状態を「PSA再発」と呼びます。

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