(監修:杏林大学医学部泌尿器科教授 桶川隆嗣先生)

1.精巣がんとは

1-1.精巣がんとは

  • 若い年代に多く、発症のピークは20歳代~30歳代。
  • 片側の精巣が大きくなるという症状が現れるので発見しやすい。

精巣は男性の陰嚢内にある卵形の臓器で、一般に睾丸とも呼ばれています。精子を作る働きと、男性ホルモンを分泌する働きを担っています。精巣がんは、精巣の細胞から発生する悪性の腫瘍です。

(図)「精巣」

精巣

精巣がんの好発年齢は、他のがんとは大きく異なっています。最大のピークは20歳代~30歳代で、小児期にもピークがあります。罹患率(精巣がんにかかる割合)は、10万人に1~2人で、まれながんと言えます。ただし、20歳代~30歳代の男性に限れば、固形がんの中で最も罹患率の高いがんです。

精巣にできる腫瘍の95%は、分化する前の胚細胞から発生したもので、「胚細胞腫瘍」と呼ばれています。胚細胞腫瘍の中にも、いろいろな種類の腫瘍があります。残りの5%は、精索(せいさく)※・間質腫瘍や、リンパ組織および造血組織から発生した腫瘍です。

※精索:精子が通る精管と血管が束になっている部分

精巣がんの危険因子としては、①家族に精巣がんの人がいる、②停留精巣(精巣が陰嚢に落ちていない)、③反対側の精巣が精巣がんになった、④不妊症や精液検査異常、⑤低体重児・未熟児や高身長、といったことが挙げられています。

精巣がんができると、その精巣が腫れてくるという症状が現れます。触ってみると、片側の精巣だけが大きくなっています。本人にもわかりやすい症状です。ただし、痛みがなく、発熱もないので、精巣が大きくなっていることに気づいても、深刻な病気だとは考えない人が多いのです。さらに、陰部の症状なので、診察を受けるのが恥ずかしいという心理も働き、症状に気づいていながら、受診が遅れることがよくあります。精巣が大きくなっていることに気づいたら、たとえ痛みや発熱がなくても、恥ずかしがらずに受診することが大切です。精巣がんは悪性度が高く進行が速いので、放置すると転移する可能性が高くなります。

精巣がんは、基本的には無痛性腫瘤が特徴的な症状ですが、徐々に大きくなるにつれて、不快感や牽引感(引っ張られるような感じ)を伴うようになります。また、精巣上体炎や血流障害による炎症などを引き起こした場合には、痛みを伴います。このような痛みが、精巣がんの患者さんの10~30%ほどに現れます。

転移が起きている場合には、それに伴う症状によって、精巣がんが発見されることもあります。

(表)「胚細胞腫瘍の種類」

良性 奇形腫(きけいしゅ)
悪性 ・未分化胚細胞腫(みぶんかはいさいぼうしゅ)
( 胚細胞腫)
・卵黄のう腫瘍(らんおうのうしゅよう)
・絨毛がん(じゅうもうがん)
・胎児性がん(たいじせいがん)

(表)「精巣がんの転移で現れる症状」

転移の起きた部位 症状
後腹膜リンパ節転移 腹部腫瘤、腰痛
肺・縦隔リンパ節転移 血痰、呼吸困難
脳転移 頭痛、嘔吐、神経症状

1-2.精巣がんの検査と診断

  • 陰嚢の超音波検査でほぼ診断がつく。
  • 腫瘍の種類や性質を知るために腫瘍マーカーを調べる。

精巣がんの原発巣に行われるのは、陰嚢の超音波検査です。これにより、充実性の腫瘤(固形成分でできた腫瘤)が見つかれば、精巣腫瘍であることがわかります。泌尿器科の専門医であれば、この時点でほぼ診断がつきます。

がんの広がりを調べるため、胸部X線検査、腹部超音波検査、CT検査、骨シンチグラフィー検査、MRI検査などで転移巣を探します。

腫瘍細胞が出す物質を調べる腫瘍マーカー検査も行われます。採血して、AFP(αフェトプロテイン)、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、LDH(乳酸脱水素酵素)などについて調べます。これらの腫瘍マーカー検査は、腫瘍の種類や性質を知る目安とするために行われます。また、治療後の効果判定や経過観察にも用いられます。

画像検査と腫瘍マーカーの値から、予後を予測し、治療方針を決定するために、IGCCC(International Germ Cell Consensus Classification=国際胚細胞腫瘍予後分類)による分類を行います。「予後良好」「予後中程度」「予後不良」に分類しますが、各群の5年生存率は、それぞれ94%、83%、71%となっています。最近の化学療法の進歩により、予後不良群の治療成績は、さらに良くなっていると考えられています。

精巣がんの治療ではまず手術が行われ、摘出した精巣に対する病理検査が行われます。それによって、精巣がんの診断が確定します。また、病理検査によって、腫瘍の種類を「セミノーマ(精上皮腫)」と、それ以外の「非セミノーマ」に分類します。セミノーマと非セミノーマでは、抗がん剤や放射線に対する感受性が異なるため、治療法が違ってくるからです。

(表)「IGCCC」

予後良好
非セミノーマ 肺以外の臓器転移がない。
かつAFP < 1,000ng/ml
かつhCG < 5,000IU/L
かつLDH < 1.5 ×正常上限値
セミノーマ 肺以外の臓器転移がない。
かつAFPは正常範囲内
hCG 、LDHは問わない。
予後中程度
非セミノーマ 肺以外の臓器転移がない。
かつ1,000ng/ml≦AFP≦10,000ng
またはhCG<5,000IU/L
かつLDH<1.5x 正常上限値
セミノーマ 肺以外の臓器転移がある。
かつAFPは正常範囲内
hCG 、LDHは問わない。
予後不良
非セミノーマ 肺以外の臓器転移がない。
かつ1,000ng/ml ≦ AFP ≦ 10,000ng/ml
または5,000IU/L ≦ hCG ≦ 50,000IU/L
または1.5 ×正常上限値≦ LDH ≦ 10 ×正常上限値
セミノーマ 該当なし

日本泌尿器科学会、日本病理学会編「泌尿器・病理 精巣腫瘍取扱い規約
2005年3月【第3版】」(金原出版)より作成

(表)「精巣がんの主な検査」

検査の目的 検査名 検査のやり方 検査でわかること
がんを見つける 陰嚢の超音波検査 陰嚢部に超音波を発信し、その反射を利用して画像化する。 精巣に腫瘍ができているかどうかがわかる。
がんの広がりを調べる 胸部X線検査 胸部にX線を照射し透過する 胸部への転移の有無や転移の状態がわかる。
腹部超音波検査 腹部に超音波を発信しその反射を利用して画像化する。 腹部への転移の有無や転移の状態がわかる。
CT検査 X線を利用して体内の状態を画像化する。 全身への転移の有無や転移の状態がわかる。
骨シンチグラフィー検査 骨に取り込まれやすい放射性物質を用いて、骨への転移を画像上に示す。 骨への転移の有無や転移の状態がわかる。
MRI検査 磁気を利用して体内の状態を画像化する。 全身への転移の有無や転移の状態がわかる。
予後を予測する 腫瘍マーカー検査
・AFP
・hCG
・LDH
採血し、血液中のそれぞれのマーカーの含有量を調べる。 予後予測に役立つ。
確定診断 病理検査 腫瘍の組織を顕微鏡で観察する がん細胞があれば、精巣がんと診断できる。腫瘍の種類(セミノーマかそれ以外)も特定できる。

1-3.精巣がんの状態を理解するための基礎知識

患者さんが本当に納得できる治療を受けるためには、治療法の大きな流れと診断のポイント、ご自身の体の状態について、しっかり理解しておくことが大切です。そのうえで、ご自身がこれからどのように生きたいかを考え、医師とよいコミュニケーションをとりながら、治療法を選んでください。

次のような点についてチェックすると、現状の把握や今後の治療法の検討に便利です。

(表)チェックリスト

チェック項目 それを知る意義
転移の有無 病期分類と治療方針の決定に必要
転移の起きている部位と大きさ
腫瘍マーカーの値 予後予測と治療方針の決定に必要
腫瘍細胞の種類
(セミノーマ・非セミノーマ)

1-4.精巣がんの進行度

  • 転移の有無と広がりでⅠ期~Ⅲ期に分けられる。

精巣腫瘍の病期(ステージ)は、転移の有無、転移が起きているのが後腹膜リンパ節までか、肺や脳などの全身かによって、Ⅰ期からⅢ期までに分類されています。転移がない場合がⅠ期、転移があるが後腹膜リンパ節に止まっている場合がⅡ期、遠隔転移がある場合がⅢ期です。

(表)「精巣腫瘍の病期分類」

Ⅰ期 転移がない
Ⅱ期 横隔膜以下のリンパ節のみ転移がある
ⅡA 後腹膜転移巣が5㎝未満
ⅡB 後腹膜転移巣が5㎝以上
Ⅲ期 遠隔転移
Ⅲ0 腫瘍マーカーが陽性であるが、転移巣不明
ⅢA 横隔膜以上のリンパ節に転移がある
ⅢB 肺に転移がある
ⅢB1 片側の肺の転移が4個以下かつ2㎝未満
ⅢB2 片側の肺の転移が5個以上または2㎝以上
ⅢC 肺以外の臓器にも転移がある

※陰嚢内に留まる腫瘍は、腫瘍の大きさによる差を見出しがたいため、手術の困難さ、転移により分類している
日本泌尿器科学会、日本病理学会編「泌尿器・病理・精巣腫瘍取扱い規約2005年3月【第3版】」(金原出版)より作成

1-5.精巣がんの再発

  • 手術後、リンパ節や他の臓器に再発が起こることがある。

精巣がんは、手術で取り除くことができたように思えても、検査で見つからないほど小さながんが転移していることがあります。治療終了後、これが大きくなってくるのが再発です。精巣がんの場合、精巣はすでに摘出されているので、再発はリンパ節や他の臓器に起こります。

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