(監修:がん研有明病院 婦人科副部長 宇津木久仁子先生)

1.卵巣がんとは

1-1.卵巣がんとは

  • 卵巣がんができても、初期には自覚症状はほとんど現れない。そのため、早い段階で発見するのが難しい。
  • 腹膜播種(ふくまくはしゅ)※が起きると、おなかが張る、腹部が太くなるなどの症状が現れることがある。

    ※腹膜播種=お腹の中の腹膜に、種をまいたようにがんが散らばっている状態

卵巣は子宮の両側に位置し、卵子をつくったり、ホルモンを分泌したりする働きをしています。この卵巣から発生するがんが卵巣がんです。新たに卵巣がんと診断される人は、年間9000人以上います(2011年は9314人)。また、卵巣がんで死亡する人は、年間4500人を超えています(2013年の推計値は4717人)※。

※国立がん研究センターがん対策情報センターのデータ。

初期に症状が出にくいのが、卵巣がんの特徴です。そのため、初期には発見しにくく、進行して腫瘍が大きくなったり、腹水がたまるようになったりしてから、発見されることがよくあります。

卵巣がんの進行の仕方は、他の臓器のがんとは異なっています。他の臓器のがんは、局所的に増殖して周辺の臓器に少しずつ浸潤していきます。ところが卵巣がんは、腫瘍表面が破たんすると、腹腔内にがん細胞がばらまかれ、腹膜に数多くの転移が起きた腹膜播種という状態になります。腹膜播種が起きると、腹水がたまって、おなかが張る、腹部が太くなる、といった症状が現れてきます。腹膜播種が起きている状態はⅢ期と診断されます(詳しくは「進行度」を参照)。そのため、Ⅲ期で発見される例が多く、それが死亡数の多さの原因の1つであると考えられています。

卵巣がんの病期別の5年生存率は表に示す通りです。婦人科のがんの再発は、2~3年目に起こることが多いので、5年生存率は、そのがんの治りやすさや、進行期ごとの治りやすさを知る1つの手がかりとなります。卵巣がんは、Ⅰ期、Ⅱ期で治療すれば高い5年生存率が期待できますが、Ⅲ期以降になると50%を切ってしまいます。前述したように、Ⅲ期で発見されることが多いことを考えると、比較的治りにくいがんであるといえます。

(表)「卵巣がんの病期別5年生存率」

(2006年に治療を開始した人の5年生存率)
出典:日本産科婦人科学会

1-2.卵巣がんの検査

  • 細胞や組織を採れないため、画像検査が検査の中心となっている。
  • 確定診断のために、手術中に迅速病理診断が行われている。

卵巣にできる腫瘍には、悪性の腫瘍である卵巣がん以外に、良性の卵巣腫瘍や、境界悪性※の卵巣腫瘍もあります。治療を進めていくためには、それらとの鑑別も重要です。しかし、卵巣は腹腔内にある臓器なので、子宮頸がんや子宮体がんのように、簡単に細胞や組織を採取することができません。そこで、表に示したような画像検査が行われます。それによって、腫瘍の大きさや位置、広がりを調べるだけでなく、悪性、境界悪性、良性の鑑別も行います。

※境界悪性腫瘍=良性、悪性の中間的な性質をもつ腫瘍

ただし、卵巣がんと確定診断を下すためには、組織を採って顕微鏡で調べる病理検査が必要です。そこで、画像検査でおおまかな診断をつけて手術を行い、手術中に病理検査を行います。手術で切除した腫瘍の組織を急いで調べ、手術中にがんの確定診断を行うのです。これを迅速病理診断といいます。その結果、がんと診断できれば、病期に合わせた手術が行われます。良性であれば、腫瘍を取って手術を終わりにします。

卵巣がんには多くの組織型が存在し、大きく「表層上皮性・間質性腫瘍」「性索間質性(せいさくかんしつせい)腫瘍」「胚細胞腫瘍」の3つに分類されています。卵巣がんの大部分は表層上皮性・間質性腫瘍なので、治療についてはこのタイプについて解説します。

(表)「卵巣がんの主な検査」

検査名 検査のやり方 検査でわかること
経膣超音波検査 腟の中に超音波の発信器であるプローベを入れ、そこから超音波を発信して、周囲の状態を画像化する。腹部から超音波を発信する腹部超音波検査より、近くから超音波を当てるため、卵巣や子宮の状態をより正確に調べることができる。 腫瘍の大きさや位置に加え、悪性腫瘍か良性腫瘍かを推定することができる。そのため、最初のスクリーニング検査としても行われる。外来ですぐに行えるのも、この検査の大きな特徴である。
MRI検査 磁気を利用して体内を断層画像として描き出す。造影剤が使われる。 悪性腫瘍と良性腫瘍の鑑別の他、腹膜播種の有無を調べたり、がんの組織型を推定したりするのにも役立つ。
CT検査 エックス線を利用して体内を断層画像として描き出す。造影剤を利用する。 リンパ節転移の有無や、他臓器への転移の有無を調べるのに役立つ。
PET-CT検査 放射性同位元素を付けた糖を使い、がんなど糖を多く利用する部位を探し出す。 体全体へのがんの広がりを一度に調べることができる。
腫瘍マーカー がん細胞が作り出すたんぱく質などを、血液検査で調べる。
CA125やCA19-9が使われる。
卵巣がんの有無を推定することができる。ただし、腫瘍マーカーが出にくいがんもある。

1-3.卵巣がんの進行度

  • がんが卵巣に限局しているか、骨盤内に広がっているか、骨盤外の腹腔内に広がっているか、腹腔を越えて広がっているかでⅠ~Ⅳ期に分類される。

卵巣がんの病期(ステージ)は、図に示すように分類されています。Ⅰ期は、がんが卵巣内に限局しているものです。Ⅱ期は、がんが骨盤内に広がった状態。Ⅲ期は、がんが骨盤外の腹腔内に広がっているか、リンパ節転移がある場合です。Ⅳ期は、がんが腹腔を越えて転移している場合です。

(表)「卵巣がんの進行期」

IA期 腫瘍が1個の卵巣に限局している
IB期 腫瘍が両側の卵巣に限局している
IC期 上記の状態で腫瘍の皮膜破綻や腹水細胞でがん細胞陽性
IIA期 子宮や卵管に進展
IIB期 他の骨盤内臓器に進展
IIIA期 後腹膜リンパ節のみの転移や骨盤外の顕微鏡的腫瘍
IIIB期 骨盤外への腫瘍(2cm以下)
IIIC期 骨盤外への腫瘍(2cmを越す大きさ)
IVA期 胸水中に悪性細胞を認める
IVB期 遠隔転移

日本産科婦人科学会編『卵巣がん取扱い規約第3版』(金原出版)より作成

(図)「卵巣がんの病期」

1-4.卵巣がんの再発

  • 腹膜播種(ふくまくはしゅ)※、リンパ節転移、遠隔転移などの形で再発が起こる。
  • 治療後2~3年で起こることが多い。

※腹膜播種=お腹の中の腹膜に、種をまいたようにがんが散らばっている状態

卵巣がんは、手術で取り除くことができた場合でも、しばしば再発します。腹膜播種として再発が起こることがありますし、リンパ節転移や、遠隔転移(肝転移、肺転移、脳転移、骨転移など)という形で再発してくることもあります。治療後5年以上経過して再発が起こることもありますが、再発の多くは治療後2~3年で起こります。


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