(監修:がん感染症センター都立駒込病院外科部長 高橋慶一先生)

1.大腸がんとは

1-1.大腸がんとは

  • 大腸がんの5年生存率は、約70%と比較的高い。
  • 術後の再発も少なく、再発しても早期発見すれば治癒する可能性が高い。

大腸がんは、大腸の粘膜に発生するがんです。大腸壁は、内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という層に分かれています。大腸がんは、最も内側の粘膜で発生し、進行するにつれて深くまで達するようになります。
粘膜と粘膜下層にとどまっているがんを「早期がん」、粘膜下層を超えて広がっているがんや、他の臓器に転移しているがんを「進行がん」と呼びます。

大腸がんは、大腸のどこにできているかによって、「結腸がん」と「直腸がん」に分けられます。結腸には、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸が含まれます。これらの部位にできたがんが結腸がんです。それ以外の直腸にできたがんを直腸がんといいます。直腸は、直腸S状部、上部直腸、下部直腸に分けられます。

5年生存率は、他のがん種と比べて、高い方です。部位別で見ても、結腸がんも直腸がんも差はありません。
大腸がんは、手術後の再発が少なく、再発しても早期発見すれば手術で治癒する可能性が高いです。早期発見のためには、治療後の定期検診が大切です。

(引用:全国がん罹患モニタリング集計 2003-2005年生存率報告
独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書)

1-2.大腸がんの検査

  • 患者さんが検査で何を調べるのかを理解することが、その先の治療方針や治療法を決める手助けにもなる。
  • 「発見するための検査」「確定診断のための検査」「治療を進めるための検査」がある。

患者さんが検査で何を調べるのかを理解することは、自分の病状を把握しやすくし、治療方針や治療法を決める手助けにもなります。

大腸がんの検査には、3つの段階があります。検診などで症状のない人から大腸がんの人を見つける「発見するための検査」と、大腸がんかどうかを判定する「確定診断のための検査」と、大腸がんだった場合に「治療を進めるための検査」です。

1.発見するための検査

大腸がんがあると、便に血液が混じることが多いため、症状のない人から大腸がんを発見する検査として、「便潜血検査」が行われています。

検査名 検査のやり方 検査によってわかること
便潜血検査 2日間の便を少量採取し、血液が含まれるかどうかを調べる。目に見えない血液でも検出できる。 血液が検出された場合には、大腸がんの可能性があるため、精密検査が必要になる。

便潜血検査で陽性になった場合、大腸がんかどうかを診断するために、精密検査として行われるのが「大腸内視鏡検査」です。

検査名 検査のやり方 検査によってわかること
大腸内視鏡検査 大腸を空にした後、肛門から内視鏡を挿入し、大腸内を観察する。
ポリープなどの病変が見つかれば、内視鏡の先端から器具を出して、組織を採取して調べる(生検)。
・病変の発見だけでなく、できている部位、形、大きさなどもわかる。
・組織を採取し、病理検査を行うことで、大腸がんかを明らかにできる。

3.治療を進めるための検査

大腸がんの治療方針や治療法を決めるには、がんが大腸壁のどこまで達しているかを調べたり、がんがリンパ節や他の臓器へ転移しているかどうかを調べたりする必要があります。そのために行われるのが、「超音波内視鏡検査」「CT検査」「MRI検査」などです。

検査名 検査のやり方 検査によってわかること
超音波
内視鏡検査
先端に超音波の発信装置がついた特殊な内視鏡を大腸内に入れ、がんの近くから超音波を発信して、腸管や周辺臓器の断層画像を描き出す。 がんが大腸壁のどこまで浸潤しているかがわかる。また、周辺臓器への広がりや、リンパ節転移の有無もわかる。
CT検査 体の周囲からX線を照射し、得られた情報をコンピュータ処理して断層画像化する。 リンパ節転移や周辺臓器への浸潤の状況がわかる。また、肝臓や肺など、遠隔臓器への転移の有無もわかる。
MRI検査 体の周囲から強い磁気を当て、体内の状態を画像化する。 リンパ節転移や周辺臓器への浸潤の状況などが、CTよりも詳細にわかる。特に肝転移に関しては、CTよりもかなり正確に診断できる。

1-3.大腸がんの状態を理解するための基礎知識

  • 本当に納得できる治療を受けるには、患者さんが、治療法の考え方やご自身のがんの状態について理解することも大切。

患者さんが本当に納得できる治療を受けるためには、治療法の大きな流れと判断ポイント、ご自身の体の状態について、しっかり理解しておくことが大切です。その上で、ご自身がこれからどのように生きたいかを考え、医師とより良いコミュニケーションをはかりながら、治療法を選んでください。

受診の前後に、次のようなチェックリストを用意して記録して行くと、現状の把握や今後の治療法の検討に便利です。

チェックリスト
チェック項目 それを知る意義
部位
・結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)
・直腸(直腸S状部、上部直腸、下部直腸)
治療法を選択するために必要な情報として。
深達度(がんが大腸の壁のどこまで入り込んでいるか)
・結腸(M、SM、MP、SS、SE、SI)
・直腸(M、SM、MP、A、AI)
病期(ステージ)分類のために必要な情報として。
リンパ節転移
(N0、N1、N2、N3)
遠隔転移
腹膜転移(P0、P1、P2、P3)
肝転移(H0、H1、H2、H3)
その他の遠隔転移(M0、M1)
組織型
(高分化型腺がん、中分化型腺がん、低分化型腺がん)
内視鏡治療の適応となるかどうかの判断に必要な情報として。
大きさ
KRAS(ケーラス)
(野生型、変異型)
分子標的薬(セツキシマブ、パニツムマブ)を使用するための情報として。

大腸がんの進行度

大腸がんの治療方針は、がんの病期(ステージ)によって決められます。したがって、病期の判定は非常に重要です。

大腸がんの病期は、がんの「深達度」(がんが大腸の壁のどこまで入り込んでいるか)と「リンパ節や遠隔転移の有無」によって、分類されます。

この表のそれぞれの病期は、次のような状態を示します。

  • 0期・・・がんが粘膜内にとどまっている。
  • Ⅰ期・・・がんが粘膜下層、あるいは固有筋層にとどまっていて、かつ転移は起きていない。
  • Ⅱ期・・・がんが固有筋層を越えていたり、漿膜まで達していたりする状態で、かつ転移は起きていない。
  • Ⅲ期・・・がんの深達度に関わらず、リンパ節転移が起きている状態で、かつ遠隔転移は起きていない。
  • Ⅳ期・・・がんが遠隔転移している。

1-4.大腸がんの再発

  • 大腸がんの再発は、肝臓、肺、腹膜に起こりやすい。
  • 悪化させない治療を基本とするが、治癒を目指した治療が可能な場合もある。

がんを切除したにも関わらず、その後に再びがんが出てくることを再発といいます。大腸がんの再発には、肝臓への再発、肺への再発、腹膜への再発、大腸への局所再発などがあります。

再発が起こるのは、検査で見つからないような小さながんが、治療を終えた時点で体のどこかに潜んでいるためです。その小さながんが、徐々に増殖し、発見できるまでに大きくなったときに、再発と診断されるのです。

結腸がんと直腸がんでは、再発の傾向も異なります。

結腸がん

  • 結腸は直腸より長いので、手術時に広く切除でき、手術もしやすい。
  • 結腸のがんを取り残さないので局所再発は少ないが、肝臓や肺への転移がある。

直腸がん

  • 直腸は短い上に、周囲に臓器や神経があるため、切除が難しい部位。
  • そのため、がんの取り残しによる局所再発の可能性が、結腸がんより高い。

大腸がんの再発の治療法は種類も多く、効果が高いものもあり、簡単にあきらめる必要はありません。


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