(監修:東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科教授 藤井靖久先生)

1.膀胱がんとは

1-1.膀胱がんとは

  • 膀胱がんは高齢者に多く、男性に多い傾向がある。
  • 発見するための有効なスクリーニング検査はなく、血尿が出て発見されるケースが多い。
  • 筋層非浸潤がんと筋層浸潤がんに大別される。約70%を占める筋層非浸潤がんは、比較的予後がよい。

膀胱がんは、膀胱の最も内側を覆っている粘膜から発生します。この粘膜は、尿路上皮粘膜といい、腎盂(じんう)、尿管、尿道の粘膜と同じです。したがって、膀胱がんの組織型は、腎盂、尿管、尿道に発生するがんと同じで、尿路上皮がんに分類されています。

好発年齢は60~70歳代で、高齢者に多いがんです。社会の高齢化に伴い、日本では患者数が増加しています。男性に多いという特徴があります。がん研究振興財団がまとめた『がんの統計’14』によれば、膀胱がんによる2013年の死亡者数は、男性が5266人(2.4%)、女性が2419人(1.6%)でした。また、膀胱がんの5年相対生存率(膀胱がんと診断された人で5年後に生存している人の割合を、日本全体で5年後に生存している人の割合で割って求める)は、73.5%となっています。

図:がん種別5年相対生存率

(引用:全国がん罹患モニタリング集計 2003-2005年生存率報告
独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書)

膀胱がんには多発するという特徴もあります。がんが発見された時点で、すでに多発しているケースが、30~40%はあります。また、治療後に、尿路(腎盂、尿管、膀胱、尿道)にがんが再発してくることもあります。

発がんの危険因子としては、喫煙があげられています。また、職業的に特定の化学物質(芳香族アミンなど)に長期間接触することも、発がんの原因となることがわかっています。

膀胱がんを発見するための検診は行われていません。スクリーニングに適した検査がないためです。膀胱がんと診断される人の85~90%ほどは、肉眼的血尿(肉眼で見てわかる血尿)が出て受診しています。一方、膀胱がんと診断された時点で、膀胱刺激症状(頻尿や排尿時痛)のある人は、20%ほどしかいません。血尿と膀胱刺激症状が両方現れる人も一部いますが、多くの場合、頻尿や排尿時痛などの症状はないのに血尿が出ることになります。血尿はいったん出ても数日で止まることが多く、そのために受診が遅れることがよくあります。血尿が出た場合には、たとえ痛みなどの症状がなくても、数日で止まったとしても、泌尿器科を受診することが大切です。

粘膜で発生した膀胱がんは、膀胱壁の深部へと増殖していきます。がんがどの深さまで達しているかを示すのが深達度です。膀胱がんは深達度によって、「筋層非浸潤がん」と「筋層浸潤がん」に大別されます。膀胱壁は、内側から、粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜が重なった構造になっています。粘膜から発生したがんが、粘膜下層まで(T1まで)にとどまるのが筋層非浸潤がん、筋層以上(T2以上)に浸潤するのが筋層浸潤がんです。多いのは筋層非浸潤がんで、膀胱がん全体の約70%を占めています。

図:膀胱がんの深達度

筋層非浸潤がんと筋層浸潤がんは、性質が異なり、進行の仕方も違っています。そのため、両者は治療方針も違っています。一般に、筋層非浸潤がんは予後がよく、筋層浸潤がんは予後が悪いとされています。ただし、筋層非浸潤がんの中には、「上皮内がん」という予後の悪い種類もあります。上皮内がんは、悪性度の高いがん細胞が、粘膜に沿って広がっていくタイプのがんです。

1-2.膀胱がんの検査

  • 血尿があるなど膀胱がんが疑われる場合は、まず膀胱鏡検査が行われる。
  • 深達度や転移の有無は、MRIやCTなどの画像検査で調べる。
  • 確定診断を下すためには膀胱生検が必要。

がんの存在を調べる検査

無症状の人から膀胱がんを発見するための、スクリーニングに適した検査はありません。血尿などの症状があり、膀胱がんが疑われる場合には、「膀胱鏡検査」と「尿細胞診検査」が行われます。がんの有無を調べるための検査で、特に重要なのは膀胱鏡検査です。

表:がんの存在を調べる検査

検査名 検査のやり方 検査でわかること
膀胱鏡検査 膀胱鏡は膀胱内を観察するための内視鏡。尿道から挿入する。ゼリー状の麻酔薬で尿道に麻酔をかけてから行う。膀胱鏡は太さが5~6㎜ほどしかなく、尿道に沿ってくねくね曲がる軟性鏡なので、痛みで辛い思いをすることはまれである。 腫瘍の有無だけでなく、形態、数、大きさ、できている位置もわかる。また、腫瘍以外の部位の粘膜の変化も調べることができる。
腫瘍の形を見ることで、筋層非浸潤がんと筋層浸潤がんを鑑別することが、ある程度できる。乳頭状で茎があれば筋層非浸潤がんの可能性が高く、非乳頭状で茎がなければ筋層浸潤がんの可能性が高くなる。
尿細胞診検査 尿を採り、そこに混入している細胞を顕微鏡で調べる。患者さんの身体的な負担はほとんどない。 がん細胞が見つかれば、膀胱がんの可能性が高くなる。ただし、悪性度の低いがんでは、膀胱がんがあっても陽性にならないことがある。そのため、結果が陰性でもがんがないと判断することはできない。

病期診断に必要な検査

膀胱鏡検査などで膀胱がんが見つかった場合には、病期診断のための検査が必要になります。がんの深達度や転移の有無を調べるため、「MRI検査」や「CT検査」といった画像検査が行われます。

表:病期診断に必要な検査

検査名 検査のやり方 検査でわかること
MRI検査 磁気を利用して、体内の状態を断層画像として描き出す。 がんの深達度を調べるのに有用。粘膜下層まで(T1まで)にとどまっているか、筋層以上(T2以上)に浸潤しているかを、60~90%の精度で診断することができる。リンパ節転移の診断にも有用。
CT検査 X線を利用して、体内の状態を断層画像として描き出す。 がんの深達度、リンパ節転移や遠隔転移の有無がわかる。深達度に関しては、膀胱外まで増殖したがんの診断に適している。リンパ節転移や遠隔転移の有無を調べるのに適している。

確定診断のための検査

膀胱にできている腫瘍が、膀胱がんであると診断するためには、組織を採取して顕微鏡で調べる「膀胱生検」が必要です。また、筋層に浸潤しているかどうかを診断するためにも、採取した組織を調べる必要があります。膀胱生検は、通常、TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除)として行われます。

表:確定診断のために必要な検査

検査名 検査のやり方 検査でわかること
膀胱生検 TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除)を行い、切除した腫瘍の組織を病理検査する。 がん細胞が見つかれば、膀胱がんと確定診断を下すことができる。深達度についても、この検査の結果が最終診断となる。異型度(グレード)の評価も行う。異型度とは、がん細胞の形、大きさ、細胞のまとまりなどから評価したがんの悪性度のこと。

1-3.膀胱がんの状態を理解するための基礎知識

患者さんが本当に納得できる治療を受けるためには、治療法の大きな流れと判断ポイント、ご自身の体の状態について、しっかり理解しておくことが大切です。その上で、ご自身がこれからどのように生きたいかを考え、医師とより良いコミュニケーションをはかりながら、治療法を選んでください。

受診の前後に、次のようなチェックリストを用意して記載していくと、現状の把握や今後の治療法の検討に便利です。

チェックリスト
チェック項目 それを知る意義
膀胱がんのタイプ
・筋層非浸潤がん(上皮内がん以外)
・上皮内がん
・筋層浸潤がん
治療法を選択するのに必要な情報。
異型度(グレード)
・低異型度(グレード1、2)
・高異型度(グレード3)
リスクの評価に必要な情報。
腫瘍の数
・単発
・多発
リスクの評価に必要な情報。
腫瘍の大きさ リスクの評価に必要な情報。
深達度
Ta、T1、T2a、T2b、T3、T4
病期(ステージ)診断に必要な情報。
リンパ節転移や遠隔転移
・無
・有
病期(ステージ)診断に必要な情報。

膀胱がんの進行度

  • 膀胱がんの病期は「深達度」と「転移の有無」で判断する。
  • 深達度では筋層に達しているかどうかの診断が特に重要。

膀胱がんの病期(ステージ)は、「がんの深達度」と「リンパ節や他の臓器への転移の有無」によって、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期に分けられます。がんの深達度は、Tis(上皮内がん)、Ta(浸潤なし)、T1(粘膜下層まで浸潤)、T2a(筋層の上側1/2まで浸潤)、T2b(筋層の下側1/2まで浸潤)、T3(筋層を越えて浸潤)、T4(隣接臓器まで浸潤)と分けられます。

図:膀胱がんの臨床病期

図:膀胱がんの深達度

1-4.膀胱がんの再発

  • 筋層非浸潤がんはTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除)で切除しても、膀胱内再発を起こしやすい。
  • 筋層非浸潤がんが筋層浸潤がんに進展することもある。
  • 膀胱全摘除術を行った場合の再発は、他臓器への転移という形で起こる。

膀胱がんは再発しやすいがんです。筋層非浸潤がんの場合、TURBT(詳しくは「筋層非浸潤がんの治療」を参照)でがんを切除しても、40~60%という高い確率で膀胱内再発が起こるとされています。しかも、それを繰り返す患者さんが多いのも特徴です。また、なかには筋層非浸潤がんが筋層浸潤がんに進展することもあります。したがって、がんを切除するだけでなく、再発を防いだり、進展を防いだりする治療も必要になります。

筋層浸潤がんなどで膀胱全摘除術を行った後は、すでに膀胱がないため、再発は他の臓器への転移という形で起こります。

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