(監修:国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院頭頸部内科長 田原 信先生)
1.口腔がんとは
- 1-1.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)とは
- 1-2.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の検査
- 1-3.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の状態を理解するための基礎知識
- 1-4.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の進行度
- 1-5.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の再発
- 2.口腔がんの治療について次のページ »
- 3.口腔がんに関する記事一覧/先進医療/医療機関情報次々のページ »
1-1.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)とは
- 口腔がんの中で、最も多いのは舌がんである。
- 口腔がんは、本人にも見える場所にできるので、発見しやすい。
口腔がんは口の中にできるがんです。最も多いのは舌がんで、その他に歯肉がんなどもあります。これらのがんは、外から加わる刺激が原因となって発症すると言われています。
舌がんが多いのは、口の中では舌が最も刺激を受けやすい部分だからなのでしょう。インド、パキスタン、台湾などでは、檳榔樹(びんろうじゅ)の実を噛む習慣があり、それが口腔がんの重要な原因となっています。
日本では、高齢者だけでなく、幅広い年代に発症しています。特に舌がんは若い人にも見られ、顎が小さい人に目立ちます。これは、顎が小さいために舌が顎に当たりやすく、その刺激が原因になっているのではないかと言われています。
口腔がんは本人にも見える場所にできるので、発見しやすいがんです。早期に気づくことが多いのですが、それが早期発見・早期治療に結びつかないこともあります。たぶん口内炎だろうと考えてしまったり、医療機関を受診しても、がんと診断されないまま、2~3ヵ月たってしまったりすることがあるのです。具体的な症状としては、3週間以上治らない口内炎がある、口の中に「しこり」がある、口や唇にしびれや痛みがある、口臭が強くなるなどがあげられます。口腔がんは比較的進行の早いがんなので、回り道して専門医にたどり着く頃には、かなり進行してしまっていることもあります。
また、口腔がんは、顎の舌にある骨や首のリンパ節に転移しやすく、口腔がんの多くを占める舌がんの場合は、舌には多くのリンパ節があるため、早い段階でリンパ節に転移しやすいという特徴があります。
(図1)口腔がんの位置
口腔・咽頭がんの5年相対生存率(膀胱がんと診断された人で5年後に生存している人の割合を、日本全体で5年後に生存している人の割合で割って求める)は、54.3%となっています。
(図2)がん種別5年生存率
引用:全国がん罹患モニタリング集計 2003-2005年生存率報告
独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書
(図3)口唇がん・口腔がん・咽頭がんステージ別生存率
引用:全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2015年8月集計)による
(図4)舌がんステージ別生存率
引用:全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2015年8月集計)による
1-2.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の検査
- 見える場所にできるため、確定診断のため生検が行われる。
- 治療法を選択するためにもどこまで浸潤しているかを詳しく調べる。
見える場所にできるので、確定診断のために生検が行われます。組織の一部を採取し、顕微鏡で調べます。
がんの大きさ、周囲への浸潤の程度、リンパ節転移や遠隔転移の有無などを調べるため、CT検査やMRI検査などの画像検査が行われます。
(表)口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の検査
検査名 | 検査のやり方 | 検査でわかること |
生検 | 腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で調べる。 | がんであるかどうかがわかる。 |
CT検査 | エックス線を利用して体内を断層画像として描き出す。 | がんの浸潤の程度、リンパ節転移や遠隔転移の有無などがわかる。 |
MRI検査 | 磁気を利用して体内を断層画像として描き出す。 | がんの浸潤の程度、リンパ節転移や遠隔転移の有無などがわかる。 |
1-3.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の状態を理解するための基礎知識
患者さんが本当に納得できる治療を受けるためには、治療法の大きな流れと診断のポイント、ご自身の体の状態について、しっかり理解しておくことが大切です。そのうえで、ご自身がこれからどのように生きたいかを考え、医師とよいコミュニケーションをとりながら、治療法を選んでください。
次のような点についてチェックすると、現状の把握や今後の治療法の検討に便利です。
(表)口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)のチェックリスト
チェック項目 | それを知る意義 |
がんのできている部位 | 病期分類や治療法の選択に必要 |
がんの大きさ | |
がんの広がり(浸潤の程度) | |
リンパ節転移の有無と程度 | |
遠隔転移の有無 |
1-4.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の進行度
- 「がんの大きさ」「浸潤の有無」「リンパ節転移の程度」「遠隔転移の有無」の4つの条件によってステージを決定する。
口腔がん(特に舌がん)の病期分類では、腫瘍の大きさが重要で、さらに周囲への浸潤や転移の状態で判断します。
そして、それぞれのがん種別に、以下の3つの分類を掛け合わせて病期を判断します。
①「T分類(がんの大きさ、浸潤の状態など)」、②「N分類(リンパ節への転移の状態)、③「M分類(遠隔転移の状態)
(表)「口腔がん(舌がん)の病期」
①「T分類(がんの大きさ、浸潤の状態など)」
TX | 原発腫瘍の評価が不可能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
Tis | 上皮内がん |
T1 | 最大径が2㎝をこえるが4㎝以下の腫瘍 |
T2 | 最大径が2㎝をこえるが4㎝以下の腫瘍 |
T3 | 最大径が4㎝をこえる腫瘍 |
T4a | 内質骨、下深層の筋肉/外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)、上顎洞、顔面の皮膚に侵潤する腫瘍 |
T4b | 咀嚼筋間隙、翼状突起、または頭蓋底に侵潤する腫瘍、または内頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍 |
注:歯肉を原発巣とし、骨および歯槽のみに表在性びらんが認められる症例はT4 としない。
②「N分類(リンパ節への転移の状態)
NX | 所属リンパ節転移の評価が不可能 |
N0 | 所属リンパ節転移なし |
N1 | 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3㎝以下 |
N2a | 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3㎝をこえるが6㎝以下 |
N2b | 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6㎝以下 |
N2c | 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6㎝以下 |
N3 | 最大径が6㎝をこえるリンパ節転移 |
注:正中リンパ節は同側リンパ節である。
③「M分類(遠隔転移の状態)
M0 | 遠隔転移なし |
M1 | 遠隔転移あり |
④「病気分類」
N0 | N1 | N2a,N2b,N2c | N3 | |
Tis | 0 | – | – | – |
T1 | Ⅰ | Ⅲ | ⅣA | ⅣB |
T2 | Ⅱ | Ⅲ | ⅣA | ⅣB |
T3 | Ⅲ | Ⅲ | ⅣA | ⅣB |
T4a | ⅣA | ⅣA | ⅣA | ⅣB |
T4b | ⅣB | ⅣB | ⅣB | ⅣB |
M1 | ⅣC | ⅣC | ⅣC | ⅣC |
「頭頸部癌診療ガイドライン」2013年版、日本頭頸部癌学会編(金原出版)を参考に編集部にて作成。
1-5.口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の再発
- 手術や化学放射線療法でがんを取り除いても再発が起きることがある。
- 再発は局所に起きることも離れた部位に起きることもある。
口腔がんは、手術や化学放射線療法で取り除くことができても、その後に再発することがあります。手術や放射線療法でがんが消失したように見えても、肉眼では見えないがんが残っていることがあります。それが時間の経過とともに増殖してくることで再発が起こるのです。再発はがんがあった周囲の組織に起こることもありますし、リンパ節や離れた臓器への転移という形で現れてくることもあります。特に再発が起こりやすいのは、治療終了から3年間です。