(監修:国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院頭頸部内科長 田原 信先生)

1.咽頭がんとは

1-1.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)とは

  • 上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんに分かれ、日本では下咽頭がんが最も多い。
  • 中咽頭がんはウイルスが原因となるタイプが半数を占め、増加している。
  • 中咽頭がんの半数と下咽頭がんの多くは喫煙と飲酒が主な原因で発生する。

咽頭は空気や食べた物が通過する部分で、鼻の奥から食道につながっています。上から上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つの部分に分けられています。上咽頭は鼻腔の奥にあたります。中咽頭は口の奥で、大きく口を開けることで一部を見ることができます。下咽頭はその下で、喉頭の後ろ側に位置しています。

上咽頭に発生するがんを上咽頭がん、中咽頭に発生するがんを中咽頭がん、下咽頭に発生するがんを下咽頭がんといいます。全体を咽頭がんと総称することもありますが、それぞれは別のがんです。発生する原因も違いますし、がんの性質や予後も違っています。そのため、治療法も同じではありません。特に上咽頭がんは、中咽頭がんや下咽頭がんとは、まったく異なるがんであるといえます。

国立がん研究センターの「最新がん統計」には、「口腔・咽頭がん」という項目で、「部位別がん死亡数(2014年)」「部位別がん罹患数(2012年全国推計値)」「部位別5年相対生存率」が公表されています。

(表)「部位別がん死亡数(2014年)」

  口腔・咽頭がん
男性 5263人
女性 2174人

(国立がん研究センター「最新がん統計」より)

(表)「部位別がん罹患数(2012年全国推計値)」

  口腔・咽頭がん
男性 13923人
女性 5309人

(国立がん研究センター「最新がん統計」より)

(表)「部位別5年相対生存率(2006~2008年診断例)」

  口腔・咽頭がん
男性 57.8%
女性 66.8%

※相対生存率=あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べ、どのくらい低いかを表している。

(国立がん研究センター「最新がん統計」より)

(図)がん種別5年生存率

(図)がん種別5年生存率 口腔がん・咽頭がん

(引用:全国がん罹患モニタリング集計 2003-2005年生存率報告
独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書)

上咽頭がん

上咽頭がんの大部分は、EB(エプスタイン・バー)ウイルスの感染が原因となって起こります。中国南部やシンガポールでは上咽頭がんが多いのですが、これはEBウイルスに感染する人が多いからです。日本ではこのウイルスに感染する人は少なく、上咽頭がんになる人も多くありません。患者数は頭頸部がん*全体の3.8%です。

頭頸部がんは、全てのがんの約5%程度と考えられています。

*頭頸部がん:脳の下側から鎖骨までの範囲(鼻、口、のど、耳など)にできるがん

上咽頭がんは上咽頭の粘膜に発生し、増殖していきます。初期には自覚症状が出にくいため、多くは進行してから発見されます。鼻出血が起きたり、首のリンパ節が腫れたりして受診し、見つかることがよくあります。

(図)上咽頭がんの位置

(図)上咽頭がんの位置

中咽頭がん

中咽頭がんは増加しているがんで、日本人の頭頸部がん全体の12.1%を占めています。かつてはタバコやアルコールが主な原因とされていましたが、最近はHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染によって起こる中咽頭がんが増えています。日本ではこれが約半数を占めるまでになっています。

HPVは子宮頸がんの原因ともなるウイルスです。オーラルセックスなど性行為の多様化が、中咽頭がんを増加させる背景となっています。HPVが中咽頭の粘膜に感染し、そこにがんを発生させるのです。HPV感染による中咽頭がんは、女性にも男性にも発症します。また、比較的若い年代でも発症します。

タバコやアルコールによって起きた中咽頭がんと、HPVの感染によって起きた中咽頭がんを比較すると、HPVによるもののほうが予後がよいことがわかっています。

(図)中咽頭がんの位置

(図)中咽頭がんの位置

下咽頭がん

下咽頭がんは咽頭がんの中では最も多く、頭頸部がん全体の16.3%を占めています。上咽頭がんや中咽頭がんに比べて予後が悪く、治しにくいがんです。主な原因はタバコとアルコールです。ヘビースモーカーでヘビードリンカーの場合、発症のリスクはきわめて大きくなります。

下咽頭がんができると、飲み込みが悪くなるという症状が出ることがあります。本人がそれを感じていても、喉頭がんによる声がれなどと異なり、周囲の人にはわかりません。本人がそれを放置すると、発見が遅れることになります。下咽頭がんはリンパ節転移を起こしやすいので、首のリンパ節が腫れて見つかるケースもよくあります。

下咽頭は食道につながっていますが、下咽頭がんを発症した人の3~4割ほどが、食道がんも併発しています。同じ原因によって起こるがんなので、どちらにもできていることが多いのです。下咽頭がんが見つかった場合には、必ず食道の検査も行います。

(図)下咽頭がんの位置

(図)下咽頭がんの位置

1-2.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の検査

  • 内視鏡を使って咽頭の奥まで拡大して観察することができる。
  • がんの広がりを調べるために、超音波検査、CT検査、MRI検査などを行う。

上咽頭がん

上咽頭は鼻腔の奥なので、鼻から内視鏡を入れて調べます。確定診断のためには、内視鏡を使って細胞組織を採取し、顕微鏡で調べる生検(病理診断)が行われます。

がんの広がりを調べるためには、超音波検査、CT検査、MRI検査などの画像検査が行われます。転移はまず周辺のリンパ節に起こり、それから全身に広がっていきます。肺や肝臓にも転移するので、その検査も必要です。骨に転移することもあるため、骨への転移の有無を調べる骨シンチグラフィーを行うこともあります。

中咽頭がん

中咽頭は口の奥なので、口を開けることで見える部分もあります。ただ、中咽頭の範囲は広く、見えない部位もあるので、そのような部位には内視鏡を使って診察が行われます。確定診断のためには、細胞組織を採取して調べる生検(病理診断)が行われます。がんの広がりを調べるためには、超音波検査、CT検査、MRI検査などが必要となります。

原因を明らかにするため、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を調べる検査が行われることがあります。予後を予測するためには有用ですが、治療法の選択に有用であるかどうかはわかっていません。

下咽頭がん

下咽頭はのどの奥なので、内視鏡を使って観察します。確定診断のためには細胞組織を採取して調べる生検(病理診断)が行われます。がんの広がりを調べるためには、超音波検査、CT検査、MRI検査などが行われます。

(表) 「咽頭がんの主な検査」

検査名 検査のやり方 検査でわかること
内視鏡検査 内視鏡を使って咽頭内を拡大して観察する。 口からでは見えない部位も観察することができる。腫瘍の有無や大きさなどがわかる。
超音波検査 体内に超音波を発信し、反射してくる超音波をとらえて、体内を画像化する。 浸潤*の程度、リンパ節転移や遠隔転移の有無などがわかる。
CT検査 エックス線を利用して体内を断層画像として描き出す。 浸潤の程度、リンパ節転移や遠隔転移の有無などがわかる。
MRI検査 磁気を利用して体内を断層画像として描き出す。 浸潤の程度、リンパ節転移や遠隔転移の有無などがわかる。
生検 腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で調べる。 がんであるかどうかがわかる。

※浸潤:がんが組織や臓器の内部に広がっていくこと

1-3.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の状態を理解するための基礎知識

患者さんが本当に納得できる治療を受けるためには、治療法の大きな流れと診断のポイント、ご自身の体の状態について、しっかり理解しておくことが大切です。そのうえで、ご自身がこれからどのように生きたいかを考え、医師とよいコミュニケーションをとりながら、治療法を選んでください。

次のような点についてチェックすると、現状の把握や今後の治療法の検討に便利です。

(表) 「上咽頭がんのチェックリスト」

チェック項目 それを知る意義
がんのできている部位 病期分類や治療法の選択に必要
がんの広がり(浸潤の程度)
リンパ節転移の有無と程度
遠くの臓器への転移の有無

(表) 「中咽頭がんのチェックリスト」

チェック項目 それを知る意義
がんのできている部位 病期分類や治療法の選択に必要
がんの大きさ
がんの広がり(浸潤の程度)
リンパ節転移の有無と程度
遠くの臓器への転移の有無

(表) 「下咽頭がんのチェックリスト」

チェック項目 それを知る意義
がんのできている部位 病期分類や治療法の選択に必要
がんの大きさ
がんの広がり(浸潤の程度)
声帯の状態
リンパ節転移の有無と程度
遠くの臓器への転移の有無

1-4.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の進行度

  • がんの大きさ、浸潤の程度、リンパ節転移の有無と程度、離れた臓器への転移の有無などで判断する。

上咽頭がん

がんが上咽頭にとどまり、リンパ節転移も遠くの臓器への転移もない場合がⅠ期です。Ⅰ期とそれ以外で標準的な治療が異なります。

(表) 「上咽頭がんの病期」

①「T分類(がんの大きさ、浸潤の状態など)」

TX 原発腫瘍の評価が不可能
T0 原発腫瘍を認めない
Tis 上皮内がん
T1 上咽頭に限局する腫瘍、または中咽頭および / または鼻腔に進展する腫瘍
T2 傍咽頭間隙への進展を伴う腫瘍*
T3 頭蓋底骨組織および / または副鼻腔に浸潤する腫瘍
T4 頭蓋内に進展する腫瘍および / または脳神経を取り囲む腫瘍、下咽頭、眼窩に浸潤する腫瘍、または側頭下窩 / 咀嚼筋間隙への進展を伴う腫瘍

*:傍咽頭間隙への進展とは、後外側への浸潤を意味する。

②「N分類(リンパ節への転移の状態)

NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 鎖骨上窩より上方の片側頸部リンパ節転移および / または片側 / 両側咽頭後リンパ節転移で最大径が6cm以下
N2 鎖骨上窩より上方の両側頸部リンパ節転移で最大径が6cm以下
N3a 最大径が6cmをこえるリンパ節転移
N3b 鎖骨上窩へのリンパ節転移

注:正中リンパ節は同側リンパ節である。

③「M分類(遠隔転移の状態)

M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

④「病気分類」

0期 Tis N0 M0
Ⅰ期 T1 N0 M0
Ⅱ期 T1
T2
N1
N0/1
M0
M0
Ⅲ期 T1/2
T3
N2
N0/1/2
M0
M0
ⅣA期 T4 N0/1/2 M0
ⅣB期 Tに関係なく N3 M0
ⅣC期 T,Nに関係なく M1

「頭頸部癌診療ガイドライン」2013年版、日本頭頸部癌学会編(金原出版)を参考に編集部にて作成。

中咽頭がん

がんの大きさ、どこに浸潤しているか、リンパ節転移の数や程度なども、病期の診断に関わっています。

(表) 「中咽頭がんの病期」

①「T分類(がんの大きさ、浸潤の状態など)」

TX 原発腫瘍の評価が不可能
T0 原発腫瘍を認めない
Tis 上皮内がん
T1 最大径が2cm以下の腫瘍
T2 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
T3 最大径が4cmをこえる腫瘍、または喉頭蓋舌面へ進展する腫瘍
T4a 喉頭,舌深層の筋肉 / 外舌筋(オトガイ舌筋,舌骨舌筋,口蓋舌筋,茎突舌筋)、内側翼突筋、硬口蓋、および下顎骨のいずれかに浸潤する腫瘍*
T4b 外側翼突筋、翼状突起、上咽頭側壁、頭蓋底のいずれかに浸潤する腫瘍、または頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍

*:舌根または喉頭蓋谷の原発腫瘍から喉頭蓋舌面粘膜への進展は喉頭浸潤ではない。

②「N分類(リンパ節への転移の状態)

NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下
N2a 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下
N2b 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下
N2c 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N3 最大径が6cmをこえるリンパ節転移

注:正中リンパ節は同側リンパ節である。

③「M分類(遠隔転移の状態)

M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

④「病気分類」

0期 Tis N0 M0
Ⅰ期 T1 N0 M0
Ⅱ期 T2 N0 M0
Ⅲ期 T1/2
T3
N1
N0/1
M0
M0
ⅣA期 T1/2/3
T4a
N2
N0/1/2
M0
M0
ⅣB期 T4b
Tに関係なく
Nに関係なく
N3
M0
M0
ⅣC期 T,Nに関係なく M1

「頭頸部癌診療ガイドライン」2013年版、日本頭頸部癌学会編(金原出版)を参考に編集部にて作成。

下咽頭がん

がんの大きさ、喉頭の状態(声帯が固定*されているかどうか)、どこに浸潤しているか、リンパ節転移の数や程度なども、病期の診断に関わってきます。

*声帯が固定される:がんが声帯まで浸潤して、うまく動かせない状態

(表) 「下咽頭がんの病期」

①「T分類(がんの大きさ、浸潤の状態など)」

TX 原発腫瘍の評価が不可能
T0 原発腫瘍を認めない
Tis 上皮内がん
T1 下咽頭の1 亜部位に限局し、および / または最大径が2cm以下の腫瘍
T2 片側喉頭の固定がなく,下咽頭の1 亜部位をこえるか、隣接部位に浸潤する腫瘍、または最大径が2cmをこえるが4cm以下で片側の喉頭の固定がない腫瘍
T3 最大径が4cmをこえるか、または片側喉頭の固定、または食道へ進展する腫瘍
T4a 甲状軟骨、輪状軟骨、舌骨、甲状腺、食道、頸部正中軟部組織* のいずれかに浸潤する腫瘍
T4b 椎前筋膜、縦隔に浸潤する腫瘍、または頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍

*:頸部正中軟部組織には、前頸筋群および皮下脂肪組織が含まれる。

②「N分類(リンパ節への転移の状態)

NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下
N2a 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmをこえるが6cm以下
N2b 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下
N2c 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
N3 最大径が6cmをこえるリンパ節転移

注:正中リンパ節は同側リンパ節である。

③「M分類(遠隔転移の状態)

M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

④「病気分類」

0期 Tis N0 M0
Ⅰ期 T1 N0 M0
Ⅱ期 T2 N0 M0
Ⅲ期 T1/2
T3
N1
N0/1
M0
M0
ⅣA期 T1/2/3
T4a
N2
N0/1/2
M0
M0
ⅣB期 T4b
Tに関係なく
Nに関係なく
N3
M0
M0
ⅣC期 T,Nに関係なく M1

「頭頸部癌診療ガイドライン」2013年版、日本頭頸部癌学会編(金原出版)を参考に編集部にて作成。

1-5.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の再発

  • 再発が起こりやすいのは、治療終了から3年間。
  • 再発はがんがあった周辺に起きることも離れた部位に起きることもある。

咽頭がんは、手術や放射線療法で取り除くことができても、その後に再発することがあります。手術や放射線療法でがんが消失したように見えても、肉眼では見えないがんが残っていることがあり、それが時間の経過とともに増殖してくることで再発が起こるのです。再発はがんがあった周囲の組織に起こることもありますし、リンパ節や離れた臓器への転移という形で現れてくることもあります。特に再発が起こりやすいのは、治療終了から3年間です。

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