がん治療(標準治療)の基礎知識
治療の流れを理解し、より適切な治療を受けるために
第11回 

宇津木久仁子 がん研有明病院婦人科副部長

宇津木久仁子 がん研有明病院婦人科副部長 1959年、山形県生まれ。がん研有明病院婦人科副部長。リンパ浮腫治療室長。医学博士。1983年、山形大学医学部卒業、同大学医学部附属病院に勤務。1989年、米国ベイラー医科大学留学。1991年、山形大学医学部附属病院を経て、1994年より癌研究会附属病院に勤務。週1回の手術、週3回の外来、病棟での抗がん剤治療などを担当している。病棟でのメイクを認め、抗がん剤投与中の患者を対象に「帽子クラブ」を主宰するなど、患者の心情を汲み取る診療で知られる。日本がん治療認定医機構認定医、日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本臨床細胞学会専門医、国際細胞学会細胞病理医。著書に『知って安心 婦人科のがんと治療』(イカロス出版)ほか。
卵巣がん治療の基礎知識について、がん研有明病院婦人科副部長 宇津木久仁子先生に解説していただきました。

卵巣がんとは

卵巣は子宮の両側に位置し、卵子をつくったり、ホルモンを分泌したりする働きをしています。この卵巣から発生するがんが卵巣がんです。日本では、年間7000人以上の女性が卵巣がんに罹患し、400人以上が死亡しています。

初期に症状が出にくいのが、卵巣がんの特徴です。そのため、進行して腫瘍が大きくなったり、腹水がたまるようになったりしてから、発見されることがよくあります。

他の臓器のがんは、局所的に増殖して周辺の臓器に少しずつ浸潤していきます。ところが卵巣がんは、腫瘍表面が破たんすると、腹腔内にがん細胞がばらまかれ、腹ふくまくはしゅ膜播種という状態になります。こうなるとⅢ期と診断されます(詳しくは後述)。そのため、Ⅲ期で発見される例が多く、それが死亡数の多さの原因の1つであると考えられています。

検査

卵巣は腹腔内にある臓器なので、子宮頸がんや子宮体がんのように、簡単に細胞や組織を採取することができません。そこで、画像検査が中心となります。

卵巣にできる腫瘍には、悪性の卵巣がん以外に、良性の卵巣腫瘍や、境界悪性の卵巣腫瘍もあります。治療を進めていくためには、それらとの鑑別も重要です。

行われるのは、次のような検査です。

◆内診……腟から指を入れたり、おなかに触ったりして、卵巣の状態や周囲の状態を調べます。

◆経腟超音波検査……腟に入れた発信器から超音波を発信し、周囲の状態を画像化します。良性腫瘍と悪性腫瘍の推定ができるため、最初のスクリーニング検査としても行われます。外来ですぐに行えるのも、この検査の大きな特徴と言えます。

◆MRI検査……良性腫瘍、悪性腫瘍の鑑別の他、腹膜播種の有無を調べたり、組織型を推定したりするのにも役立っています。

◆CT検査……リンパ節転移の有無や、他臓器への転移を調べるのに役立ちます。

◆PET ‒ CT検査……体全体へのがんの広がりを調べるのに有用です。

◆腫瘍マーカー……CA125、CA19–9が有用です。

◆迅速病理診断……卵巣がんと確定診断を下すためには、組織を取って顕微鏡で調べる病理検査が必要です。しかし、卵巣は腹腔内の臓器なので、組織を採取することができません。そこで、画像検査でおおまかな診断をつけ、手術を行います。そして、手術中に切除した腫瘍の組織を急いで調べ、がんの確定診断を行うのです。がんであれば、病期に合わせた手術(説明後述)を行います。良性であれば、腫瘍を取って手術を終わりにします。

卵巣がんには、多くの組織型が存在し、大きく「表層上皮性・間質性腫瘍」「」「胚細胞腫瘍」の3つに分類されています。しかし、卵巣がんのほとんどは表層上皮性・間質性腫瘍なので、治療については、このタイプについて解説していきます。

病期(ステージ)

卵巣がんの病期は、次のように分類されています(表1、図1)。

図1 卵巣がんの病期

<Ⅰ期>
がんが卵巣に留まるもの
[ⅠA期]
片側の卵巣にがんがあるが、破れておらず、卵巣にがんが留まった状態。最も初期のがん。手術で子宮と両側の付属器(卵巣と卵管)の切除、骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節の郭清、大網(胃からぶら下がっている脂肪の網)の切除をする。若い方で、どうしても妊孕性(妊娠する力)温存を希望する場合、ⅠA期のみ健康な側の卵巣を残せる可能性がある
[ⅠB期]
両側の卵巣にがんがあるが、破れていないもの。子宮と両側付属器の切除、骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節の郭清、大網の切除をする
[ⅠC期]
がんは卵巣以外に広がっていないが、卵巣の表面が破れたりした状態。ⅠB期と同様の手術をするが、ⅠC期以上は抗がん剤投与の適応になる
※悪性細胞(+)腹水または洗浄液の細胞診で悪性細胞が認められる

<Ⅱ期>
腫瘍が1側あるいは両側の卵巣に存在し、さらに骨盤内への進展を認める
[ⅡA期]
卵巣のがんが卵管や子宮などに広がった状態。子宮と両側付属器の切除、骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節の郭清、大網の切除を行う。抗がん剤投与の適応
[ⅡB期]
卵巣のがんが卵管や子宮以外の骨盤内臓器、すなわち膀胱腹膜やダグラス窩腹膜などに広がった状態。この場合、子宮と両側付属器の切除、骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節の郭清、大網切除に加えて、がんが広がった骨盤内腹膜の切除も必要になる。抗がん剤投与の適応

<Ⅲ期>
卵巣のがんが骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節、骨盤外の腹膜などに広がった状態。同じⅢ期でも、腹膜播種(※)よりリンパ節転移のほうが5年生存率が高いことから、このように細かく分類されている。子宮、両側付属器、大網、その他がんが広がった腹膜や臓器を切除する。抗がん剤投与の適応で、抗がん剤を先行させることもある
※腹膜播種:がん細胞が散らばることを「播種」、おなかの中にがん細胞が散らばった状態を「腹膜播種」という
 
[ⅢA(i)期]
骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節に転移したもので、転移巣の最大径が10㎜以下
[ⅢA(ii)期]
骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節に転移したもので、転移巣の最大径が10㎜を越える

<Ⅲ期>
卵巣のがんが骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節、骨盤外の腹膜などに広がった状態。同じⅢ期でも、腹膜播種(※)よりリンパ節転移のほうが5年生存率が高いことから、このように細かく分類されている。子宮、両側付属器、大網、その他がんが広がった腹膜や臓器を切除する。抗がん剤投与の適応で、抗がん剤を先行させることもある
※腹膜播種:がん細胞が散らばることを「播種」、おなかの中にがん細胞が散らばった状態を「腹膜播種」という
[ⅢA2期]
リンパ節転移の有無にかかわらず、骨盤外に顕微鏡でしかわからないような播種がある状態
[ⅢB期]
骨盤外の腹膜に2㎝以下の播種があるもの
[ⅢC期]
骨盤外の腹膜に2㎝を越える播種があるもの

<Ⅳ期>
遠隔転移のあるもの。胸水に悪性細胞を認める場合はⅣA期、肝臓や肺などの実質臓器への転移や鼠径リンパ節などの腹腔外のリンパ節転移がある場合はⅣB期となる。まず抗がん剤治療を行ってから、その後の治療方針を決定する
※悪性細胞(+)胸水中に悪性細胞が認められる

表1 卵巣がんの進行期と標準的な治療法(Ⅰ C 期以上はすべて術後化学療法の適応)

進行期 進行期の状態 標準的な治療法
ⅠA期 腫瘍が一側の卵巣に限局している 単純子宮全摘術+両側付属器切除術+骨盤リンパ節郭清術+傍大動脈リンパ節郭清術+大網切除術。IC期は術後に化学療法
ⅠB期 腫瘍が両側の卵巣に限局している
ⅠC期 上記の状態で腫瘍の皮膜破綻や腹水細胞でがん細胞陽性
Ⅱ A 期 子宮や卵管に進展 単純子宮全摘術+両側付属器切除術+骨盤リンパ節郭清術+傍大動脈リンパ節郭清術+大網切除術+骨盤内腫瘍の切除。その後、
ⅡB期 他の骨盤内臓器に進展
ⅢA期 後腹膜リンパ節のみの転移や骨盤外の顕微鏡的播種 ・Primary debulking surgery(PDS) 単純子宮全摘術+両側付属器切除術+大網切除術+その他の播種のある腹膜や臓器(直腸やS 状結腸)を切除。その後、化学療法
 あるいは
 ・Interval debulking surgery(IDS) 試験開腹術や審査腹腔鏡で腹腔内の状態を観察し、がんの一部組織を採取。化学療法後、単純子宮全摘術+両側付属器切除術+大網切除術+その他の播種のある腹膜や臓器(直腸やS 状結腸)を切除。術後に化学療法を追
ⅢB期 骨盤外への播種(2㎝以下)
ⅢC期 骨盤外への播種
(2㎝を越す大きさ)
ⅣA期 胸水中に悪性細胞を認める まず化学療法を行い、その効果や症状により次の治療を決定
ⅣB期 遠隔転移

最終的には、手術が行われ、浸潤の状態や転移の有無が明らかになることで、最終的に病期が決定します。

◆Ⅰ期……がんが卵巣内に限局しています。片方の卵巣のみにがんがある場合はⅠa期、両側の卵巣にがんがあればⅠb期となります。Ⅰc期は、がんの表面が破れていたり、腹水細胞診でがん細胞が見つかったりした場合です。

◆Ⅱ期……がんが骨盤内に広がった状態です。
ⅡA期はがんが子宮や卵管に及んでいるもの、ⅡB期はそれ以外の骨盤内臓器に広がっているものです。
ⅡC期は、がんの表面が破れていたり、腹水細胞診でがん細胞が見つかったりした場合です。

◆Ⅲ期……がんが骨盤外の腹腔内に広がるもの、あるいはリンパ節転移があるものです。ⅢA期は、後腹膜リンパ節のみの転移や、骨盤外に顕微鏡では見える播種があるもの。ⅢB期は、直径2㎝以下の骨盤外への播種があるもの。ⅢC期は、直径2㎝を越える骨盤外への播種があるものです。

◆Ⅳ期……がんが腹腔を越えて転移しているものです。

治療

ⅠA期とⅠB期の卵巣がんは、手術のみで治療します。それ以外の場合には、手術と化学療法を組み合わせた治療が行われます。

治療①手術

・ⅢA期までの手術
原則としてⅢA期までは手術が行われます。子宮全摘出術+両側付属器(卵巣と卵管)切除術が基本で、さらに骨盤リンパ節、傍大動脈リンパ節、大網(胃から垂れ下がって小腸と大腸を覆っている網状の脂肪組織)も切除します。これが卵巣がんの根治術とよばれる基本的な手術です。

・ⅢB期、ⅢC期の手術肉眼的な腹膜播種があるⅢB期以上の場合には、通常の手術では腫瘍を取り切れないため、腫瘍を取り切るための腫瘍減量手術(DS=デバルキング・サージャリー)が行われます。腫瘍減量手術には、次の2つの方法があります。

◆PDS(プライマリー・デバルキング・サージャリー)……1回の手術で、子宮全摘出術、両側付属器切除術、大網切除術に加え、必要に応じて直腸やS状結腸、横隔膜、肝臓の一部、脾臓など、腹腔内でがんが広がっている部分を可能な限り切除します。

◆IDS(インターバル・デバルキング・サージャリー)……最初に試験開腹術を行います。このときは無理をせず、卵巣のみ摘出するか、卵巣がんの一部を切除するかします。その組織を調べてがんの組織型を確認し、次に抗がん剤治療を行います。そして、がんが縮小してから、再度手術を行います。この時には子宮全摘出術、両側付属器切除術、大網切除術に加え、必要に応じて周辺臓器の合併切除を行います。

腫瘍減量手術については、PDSを中心に行っている施設と、IDSを中心に行っている施設があります。どちらの方法でも肉眼的に見える腫瘍は、可能な限り小さくなります。5年生存率などの治療成績は、どちらも同じ程度です。ただPDSのほうが、手術時間が長く、出血量が多く、合併症も出やすい傾向があります。

卵巣がんの根治術には、骨盤リンパ節郭清と傍大動脈リンパ節郭清が含まれますが、Ⅲb期以上の場合には、リンパ節郭清は行われません。肉眼的に腹膜播種がある状態では、リンパ節転移が残るかどうかよりも、腹膜播種を制御できるかどうかが最も重要な問題だからです。

また、術後に化学療法を加えるため、腹膜播種に効果がある抗がん剤は、リンパ節転移にも効果があると考えられます。これもリンパ節郭清を行わない理由の1つとなっています。

・Ⅳ期の手術
遠隔転移があるため、化学療法が行われますが、腹腔内の状況によっては、症状を軽減するために卵巣がんだけでも摘出するなど、手術を先行することもあります。患者さんの状態に応じて、ケースバイケースの治療が行われます。

治療②化学療法

卵巣がんは再発しやすいがんなので、がんが卵巣内に留まっているⅠA期とⅠB期を除き、手術後に再発予防の目的で化学療法が行われます。ただしⅠA、ⅠB期でも悪性度が高い組織型のときは、化学療法を追加します。

卵巣がんの治療に使用できる抗がん剤には数多くの種類があります(表2参照)。

表2 婦人科で使用される多剤併用療法
宇津木久仁子著『知って安心 婦人科のがんと治療』(イカロス出版)を参考に編集部にて作成

多剤の名称 使用薬剤(カッコ内は商品名) 主に対象となるがん
TC(またはTJ) パクリタキセル(タキソール)、カルボプラチン(パラプラチン) 卵巣がん、、子宮体がん
TP パクリタキセル(タキソール)、シスプラチン(ブリプラチン、ランダ) 子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん
DP ドセタキセル(タキソテール)、シスプラチン(ブリプラチン、ランダ) 子宮体がん、卵巣がん
DC ドセタキセル(タキソテール)、カルボプラチン(パラプラチン) 卵巣がん、子宮頸部腺がん
IEP イホスファミド(イホマイド)、塩酸エピルビシン(ファルモルビシン)、シスプラチン(ブリプラチン、ランダ) 子宮体部、卵巣、子宮頸部腺がん
CAP シクロホスファミド(エンドキサン)、ドキソルビシン(アドリアシン)、シスプラチン(ブリプラチン、ランダ) 腺がんに対する基本的な抗がん剤
AP ドキソルビシン(アドリアシン)、シスプラチン(ブリプラチン、ランダ) 子宮体がん
BEP ブレオマイシン(ブレオ)、エトポシド(ペプシド、ラステット)、シスプラチン(ブリプラチン、ランダ) 卵巣がんの胚細胞腫瘍
CPT/NDP 塩酸イリノテカン(カンプト、トポテシン)、ネダプラチン(アクプラ) 子宮頸がん
BOMP ブレオマイシン(ブレオ)、硫酸ビンクリスチン(オンコビン)、マイトマイシンC(マイトマイシン)、シスプラチン(ブリプラチン、ランダ) (子宮頸がん、腟がん、外陰がんなど)
CPT/MMC 塩酸イリノテカン(カンプト、トポテシン)、マイトマイシンC(マイトマイシン) 卵巣がんや子宮体がんのうち、シスプラチンでは効果がない組織型
DOC/CPT ドセタキセル(タキソテール)、塩酸イリノテカン(カンプト、トポテシン) 卵巣がんや子宮体がんのうち、シスプラチンでは効果がない組織型
GC ゲムシタビン(ジェムザール)、カルボプラチン(パラプラチン) 卵巣がん
GD ゲムシタビン(ジェムザール)、ドセタキセル(タキソテール) 子宮肉腫

その中で、1次治療としてよく用いられるのは、タキサン系抗がん剤とプラチナ系抗がん剤を組み合わせた「パクリタキセル+カルボプラチン併用療法」です。

この併用療法は、3週毎に投与する方法と、それを3回に分けて毎週投与する方法とがあります。術後化学療法では、6コースの治療が行われます。

それ以外の選択肢としては、「ドセタキセル+カルボプラチン併用療法」や、シスプラチン単剤、カルボプラチン単剤などがあります。

また、これらの治療に分子標的薬のベバシズマブを組み合わせることもできます。

1次治療が効かなくなった場合には、2次治療が行われます。

治療③再発治療

卵巣がんはしばしば再発します。腹膜播種として再発が起こることもありますし、遠隔転移(肝転移、肺転移など)や、リンパ節転移という形で再発してくることもあります。

再発したがんに対しては、化学療法が主な治療となります。ただし、再発病巣が1つである場合は、化学療法を行い、新たな再発病巣が現れてこないことが確認できた場合は、手術で病巣を摘出することもあります。

再発に対する治療で使用する抗がん剤は、前回の抗がん剤治療終了日から再発までの期間に応じて、薬剤を選択します。

◆6カ月以内に再発……初回の抗がん剤治療に対して抵抗性のがんであると考え、初回治療とは異なる薬剤を選択します。この場合には、いかなる抗がん剤にも抵抗性を示すことも考えられるので、単剤でQOL(生活の質)に配慮した治療を行います。

◆6~12カ月で再発……プラチナ系抗がん剤を含む多剤併用療法が推奨されています。「ドセタキセル+カルボプラチン併用療法」「ゲムシタビン+カルボプラチン併用療法」「パクリタキセル+カルボプラチン併用療法」などがあります。

◆12カ月以降に再発……初回の抗がん剤治療に効果があったと判断し、初回治療で使用した併用療法を行います。

卵巣がんの治療で使用できる抗がん剤の数が増えています。最近の数年で、リポソーム化ドキソルビシン、ゲムシタビン、ノギテカンなどが加わっています。これらの抗がん剤は、主に再発の治療で使われています。

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