コラム

がん検診を人工知能が行う時代になる

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラムです。

(2016年.vol20)

近年、目覚ましい人工知能の発達により、人工知能の医療での活用が始まっている。

去年(2015年)、IBMが開発した人工知能システム「Watson(ワトソン)」を、「がん」の治療に役立てる試みがアメリカとカナダで開始された。Watsonは膨大な過去の医療データや論文などをデータベースに格納しており、これと実際の患者の医療データを照らし合わせることで、最も適切と思われる治療方針や薬についての情報を医師や患者に提案してくれるシステムだ。

これまでのがん治療では多くの場合、がんと診断された患者には外科手術による切除や化学療法、放射線療法などの治療方法が用いられる。しかし、遺伝子解析技術が発達し、活用のハードルが下がった現代では、がんを引き起こす特定の変異細胞を狙った治療が可能になり、その恩恵を受ける患者が徐々に増えてきている。

しかしここで問題になるのが、先述のような分析に要する時間の問題。およそ100ギガバイトにも相当すると言われる人間の遺伝子情報を短時間で解析し、その内容を過去の症例や学会の論文、医療機関の症例などと照らし合わせることは非常に困難が伴う作業となっていた。

このような作業もWatson を活用することでわずか数分で行うことができるようになると言われている。IBM Watson Health のスティーブ・ハーベイ副社長は、「われわれが新たに持ち込もうとしているこの技術により、人類の最も大きな課題の1つである『がんとの戦い』にコグニティブ(最適解を導く)・コンピューティングが重要な役割を果たすことが可能になります。これは従来成し得なかった新しい方法となります」とその意義を語っている。

さらに、現在では「ディープラーニング(深層学習)」という人工知能の技術により、画像に対する多角的な解析ができるようになるという。そのことにより、がんの発見にも人工知能が活用できるようになる可能性があるのだ。

私は少し前に見たSF映画に「医療カプセル」というものが出てきたことを思い出した。カプセル型の寝台のようなものに人が入り、悪い箇所を指摘され、治療法を提案される。自ら治療法を選択すると、そのまま麻酔が開始されロボットアームのようなもので手術される。

富裕層の家庭には、置き薬のように一家に一台、医療カプセルがあるのだ。

その時には、まさにSF的で病巣の発見から治療までロボットやシステムで完結するなんて、きっとまだ未知の技術なのだろうなと感心したりしていたが、現在の人工知能の発達を知ると想像し得ないことでもないのだと思った。

医療分野での人工知能の技術。専門家は、今後の課題として法的な整備の必要性を指摘している。

たとえば、人工知能が示した〝診断〞に誤りがあり、そのために間違った治療を受けたり、治療が遅れたりすることになった場合、人工知能は責任を取ることはできない。あくまで、人工知能は人間の医師をサポートするものであると整理する必要があり、医療現場の研究や臨床に使われる場合は、医師に利用を限定する必要があるし、サービスが民間に拡大した場合には、たとえば届け出制にするなどの対応が必要になるかも知れない。

人工知能が私たちの健康にどれほどの恩恵をもたらしてくれるのか。人工知能が医者の代わりにがんを発見したり、治療法を提案したりする時代がすぐそこまで来ているのかもしれない。

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