(がんの先進医療: 2014年7月発売 14号 掲載記事)

コラム

身近になる遺伝子検査―結果をどう捉えるか

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラムです。

(2014年.vol14)

ディー・エヌ・エー(DeNA)が4月に設立したDeNAライフサイエンスは一般消費者向け遺伝子検査サービス「MYCODE(マイコード)」を6月に発表した。日本では去年、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査の結果により乳房を切除するというニュースが話題になり注目を集めたが、アメリカでは既に普及しており、日本でも10社ほどがサービスを提供しているようだ。

MYCODEは、検査を受けた人の遺伝子情報を読み取り、がんや生活習慣病、その他疾病リスクと肥満や肌質などの体質関連を合わせ、最大283の検査項目に関する情報を提供するサービスだ。 検査の方法は、専用のウェブサイトからコースを選択し、申し込むと検査キットが送られてくる。その専用の容器に唾液を入れて返送するだけという手軽さだ。3種類のコースが用意されており、すべての検査項目を網羅した「オールインワン280+」(税別2万9800円)、がん、生活習慣病、体質から100項目を選んだ「ヘルスケア100+」(税別1万9800円)、肥満、肌質、髪質など体質に関する35項目を選んだ「カラダ30+」(税別9800円)から選べる。

東京大学医科学研究所と共同で研究開発し、ソーシャルゲーム大手のDeNAがサービスを提供するということで、日本でも遺伝子検査サービスの普及が進む可能性がある。

遺伝子検査ではどういったことがわかるのか。まず、検査を受けた人の病気のかかりやすさ、体質などの統計的傾向を知ることができる。また、個人が持って生まれた特性を調べることができる検査もある。その人の素質や、どういった分野に才能があるかなどその特性や傾向がわかる。

しかし、遺伝子検査にはまだまだ多くの課題がある。最も懸念されるのは、検査結果を受けて、かえって当人自身が悩んでしまうことだ。がんなどの難病のリスクが他人よりも何倍もあると知れば、切除手術などを今すぐしなければいけないのではないかと考えてしまったり、鬱になってしまったりする人が出てくる危険性がある。検査結果はあくまでも可能性である。

DeNAでも今回サービスを開始するにあたり、2週間ほどサービス開始が遅れたことに、「準備は順調に進んでいる。検査結果をユーザーに伝えた後のカウンセリング体制の充実を図るために時間を取った」と説明している。

また、検査の結果は統計的なものであり、同じ病気に対しての結果であっても、サービスを提供する企業により参考にする文献の違いから結果が変わってしまう可能性がある。そういった面からも、検査結果の信頼性の確保は課題がありそうである。

他にも、婚約者に検査を強要する、保険加入の条件になるケースなどが考えられ、アメリカでは既にそういうことを禁止する法律の制定がされている。また、未成年に対する検査は、その子供の将来を左右しかねない危険性があるとして、緊急性がないかぎりは成人するまで保留すべきだという意見もある。

問題点を見ていると、遺伝子検査サービスの危険性はむしろその結果をどう捉えるべきかということにありそうだ。もちろん、行政的なアプローチの必要性、企業倫理に関する問題もあるのだろうが、一般消費者が利用できるサービスとして提供されるようになるのならば、利用者が正しい知識を持って認知する必要があるはずだ。

遺伝子検査は自分の運命がわかるものではない。病気のリスクは生活習慣や日常のストレスなどにより大きく変わるものである。遺伝子検査は結果を鵜呑みにするのではなく、生活習慣を改善するための一助として利用することが大事だ。

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラム

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