(2016年.vol22)
2016年6月15日、世界保健機関(WHO)の研究機関である国際がん研究機関(IARC)は、「非常に熱い飲み物」を「グループ2A」(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に、「コーヒー」および「マテ茶」を「グループ3」(ヒトに対する発がん性について分類できない)に分類することを発表した。コーヒーに関しては、これまで「グループ2B」(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)に分類されていた。コーヒーを飲まないようにする若者が増えるなど悪者扱いされていたが汚名返上となったかたちだ。
私たちは、こういった発がん性について研究機関の発表に右往左往しがちだが、こういう情報とどう向き合えばよいのだろうか。
去年(2015年)10月のIARCの「ソーセージなどの加工肉は、人にとって発がん性がある」という発表では、買い控えなどが起き、大手加工肉メーカーなどは反発、大きな波紋を広げたことは記憶に新しい。私自身も一時スーパーから無塩せき以外のハムやベーコンが一切なくなったのを覚えている。
発表では、毎日50gの加工肉(ソーセージなら3本、ハムなら5枚、薄切りベーコンなら3枚程度)を食べると、大腸がんになるリスクが18%増加すると指摘。加工肉を食べることによる発がん性のリスク評価は5段階で最も高いレベルとし、消費者に食べ過ぎないように警告していた。
まず、これに反発したのは大手加工肉メーカー業界トップの日本ハムで、末沢寿一社長は10月30日の決算会見で、「基本的に日本人の摂取量では問題ない」と安全性を強調し、日本の研究機関などの調査を引き合いに「お肉は体に良いということを訴えていく」とした。
丸大食品もこれを援護射撃するかのように、IARC公表直後の数日、ウインナーの販売が2割ほど落ちたことを明かし、科学的根拠のない風評によって営業妨害される「被害者」という立場を強調した。
北米食肉協会(NAMI)はIARCの発表を「最初から特定の結果を導き出すため、データを歪曲した」と強く批判した。
問い合わせが殺到したWHOは「一切食べないようにとは求めていない」と弁明に追われた。
これに振り回されたのは消費者だ。「18%もリスクが増加するなら食べれない」「何を食べたらいいのか」などネットでは波紋が広がった。
では、実際にメーカーの言うように安全であり、今までと変わらず食べていいのだろうか。
国立がん研究センターは今回の騒動を受けて、《すでに2007年に世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による評価報告書で、赤肉、加工肉の摂取は大腸がんのリスクを上げることが〝確実〞と判定されており、赤肉は調理後の重量で週500g以内、加工肉はできるだけ控えるように、と勧告しています。今回の結果を踏まえて以後どのように公衆衛生上の目標を定めるかは、各国の赤肉などの摂取状況とその摂取量範囲でのリスクの大きさに基づいた〝リスク評価〞、さらには、がんや他の疾患への影響などを踏まえて行われるべきものです。》としている。
つまりは加工肉の発がん性は認めているものの、日本人の食生活を考えながら目標を策定する必要があり、総合的な健康影響からはある程度の摂取も今は必要という側面から急に控える必要はないということ。
そもそも、加工肉の中の添加物が調理の過程で化学物質を生み出し、その化学物質に発がん性があるのだ。無添加のハムやソーセージを製造することは高コストだが可能である。確かに、添加物を使わない高価格の商品は今までのように売れないと思う。だが、メーカーはそこに目を背けず問題に立ち向かってほしい。そして、発がん性のリスクなどは急に上がったり下がったりするものではない。消費者は報道などに急に慌てず、情報を自分で精査し、なによりも健康習慣全般に気を配ることが大切なのである。