(がんの先進医療: 2015年10月発売 19号 掲載記事)

コラム

川島なお美さん
夫に「本当に立派でした」と言われた最期

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラムです。

(2015年.vol18)

54歳という若さで、胆管がんで亡くなられた女優の川島なお美(かわしま・なおみ)さん。久々にメディアの前に見せた「激ヤセ」した姿と9月17日に出演中のミュージカルを降板してからわずか7日後の24日に亡くなるという衝撃もあり、各メディアでも多く取り上げられた。その中で川島さんが抗がん剤を拒否して代替療法を取り入れていたことがネットでは物議を醸している。

川島さんは2013年の8月に健康診断でがんが見つかり、即手術を勧められたが、翌年の1月に腹腔鏡手術を受け、5年生存率は50%と宣告されていたという。術後は抗がん剤による治療は行わず、高濃度ビタミンC点滴療法や食事療法、ごしんじょう療法と言われるものなど、いわゆる代替療法に取り組んでいた。

まず、高濃度ビタミンC点滴療法は、高濃度のビタミンCを血管に直接点滴するというもので、副作用のないがん治療法としてだけでなく、最近はアンチエイジングとしても広まっているものだ。食事療法は、肉や動物性脂肪、加工食品はとらないなど、食べるものや食べ方を変えることでがんになりづらい体をつくるというもの。ごしんじょう療法は、ごしんじょうと呼ばれる純金製の棒で生命エネルギーを整えることを目的としている療法だ。いずれも手術や放射線、抗がん剤治療などの標準治療を代替もしくは補完する治療法と言われるものである。

ネットでは、「代替療法を選んだことが間違っていた」、「そもそも手術を行うまでに時間がかかりすぎた」、「やはり抗がん剤治療は受けるべきだった」、「胆管がん自体がとても難しい病気なので抗がん剤で助かっていたとは必ずしも言えない」などさまざまな意見が出ている。

どうだろうか? 医療技術が発展してもなお、完治の難しいがん。がんと一言で言っても種類やできる部位、ステージ、転移の有無によっても治療法や延命の可能性は人それぞれ。専門の医者であっても提示する治療方法が確実だとはそうそう言い切れない。交通事故のように突然死んでしまうわけではない。だが、生と死と向き合わなければならない病気なのだ。だから私は、がんを宣告されてからの治療法の選択は〝その人の生き方〟だと考えている。

前述したような意見は、治療法に対する意見のようだが、そもそもそんな論議は必要ないのではないか。治療法は彼女自身が信用している医者と相談して決めたことだからだ。そして、夫でパティシエの鎧塚俊彦氏は、《最後の最期まで女優として、女房として、人として全力で生を全う致しました。なお美を支え応援して下さった皆様方には心より御礼申し上げます。息を引き取るまで川島なお美はやっぱり川島なお美のままでした。本当に立派でした》と自身のFacebookで綴っている。

一番そばに居た人のこの言葉が彼女の人生の総括であり、その言葉に後悔や遺恨などは感じない。きっと、必死に前向きに治療に取り組んでいたのだろうと感じさせる。女優として最後まで生きたいと強く願う彼女に対して、場合によっては肌がボロボロになったり、髪が抜けたりするなどの副作用が出る抗がん剤だけを強く勧める医者は良心ある医者と言えるだろうか。

今では、日本人の2人に1人が将来的にはがんになると言われている。患者は自分自身を手術して治すことはできないし、治療法を専門的に知り尽くし判断することも難しい。だからこそ、良心ある医者は患者の選択を尊重し手助けするのだ。
想像してほしい。病と向き合って前向きな姿勢でいることの難しさと尊さを。あなたはどんな生き方をするだろうか。

私は、がんになって身近な人を後に残すことになったら、多少は他人のせいにしたり、恨み言を言ったりするかもしれない。それでも、最後にはその人に「本当に立派でした」と言ってもらって人生を締めくくりたい。

がんの先進医療【2015年10月19号】胆管がんで亡くなられた女優の川島なお美さん

川島なお美さん

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラム

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