コラム

妊娠中の「がん治療」
二つの命を守りたい

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラムです。

(2016年.vol23)

子どもを授かる――。そんな女性にとって最も幸福な時、がんを宣告されるという厳しい現実に直面したら、あなただったらどういう選択をするだろうか。
近年、女性の出産年齢は年々高くなってきている。厚生労働省の資料によると、出生順位別に母の平均年齢は、平成26年では、第一子は30・6歳、第二子は32・4歳、第三子は33・4歳となっており、昭和50年に比べ、それぞれ4・9歳、4・4歳、3・1歳上昇している。そして、女性特有のがん、特に乳がんの発症率は、30代から徐々に増えていくことがわかっている。女性の妊娠中のがんの発症率は今後増加すると考えられる。

妊娠中にがんの発症がわかった場合、「抗がん剤治療をしながら妊娠の継続はできないので、子どもをあきらめて治療してください」と医師に言われることがあるという。それは、がんに関しての検査や治療は妊娠周期によって胎児に異なる影響を及ぼすとされているからで、よく言われるレントゲンの放射線やMRIの磁場の問題で、これらの作用は特に胎児の発育が盛んな妊娠前期には奇形などの原因となるとされている。また、抗がん剤治療や手術時の麻酔なども妊娠前期には胎児に影響を及ぼすとされている。放射線治療やホルモン療法などはどの周期でも胎児に悪影響が出ることから出産後に行う。

しかし、日本乳癌学会のガイドラインによると、妊娠中ということや出産、授乳ががんに何か影響を与えるということはないとされている。つまり、これらのことによってがんが進行したり、再発してしまうということはない。また、乳がん治療のなかには妊娠中のどの時期においても胎児への影響があるものと、妊娠前期のみ影響があるものがあり、抗がん剤や手術の際の麻酔薬は、妊娠前期では胎児への影響があるが、妊娠中期や後期では胎児へ悪影響を及ぼす可能性が低くなるという。つまり、時期や方法を慎重に選ぶことで妊娠中も実施できる場合があるということがわかってきている。

欧米では研究が進み、がんを治療しながら出産できる方法が広く知られているのだという。

日本でもがんと妊娠をめぐっては、強力ながん治療の前に卵子や卵巣を凍結保存し、将来に妊娠の可能性を残す取り組みに社会の関心が向くようになった。しかし、妊娠中のがんは数が少ないこともあり、注目度は高くなかった。妊娠中にがんが見つかるのは、日本での頻度は不明だが欧米の研究によると、最も多い乳がんが妊婦3000人に1人、血液や甲状腺など他のがんも合わせると1000人に1人ほどと推定される。

NHKの情報番組で国立がん研究センター乳腺・腫瘍内科の北野敦子医師は、妊娠中のがんについてこう述べていた。

「妊娠とがんの治療を両立できる事実を知らない医療者が多い。患者さんにもその情報が十分に行き渡っていないので、試みる前に人工中絶してしまうケースも多いと思う。お母さんの命も子どもの命も救えるっていう事実を届けたいし、救いたい。この輪を、私たちの今の思いをひとつずつ広げていきたい」
もちろん、時期や方法を慎重に考慮しても、すべてのケースでその選択ができるわけではないだろう。だが、女性にとって最も幸福な時、医師が「子どもをあきらめるしかありません」ではなく、「おめでとうございます」と声をかけられる状況が一つでも増えてほしいと思う。

相談窓口は、今の段階では聖路加国際病院が窓口になっている。電話で『がん相談支援室』に問い合わせると、対応できる医療機関を紹介してくれる。
TEL:03–5550–7098(がん支援相談室)

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラム

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