(監修:国立がん研究センター中央病院 泌尿器・後腹膜腫瘍科外来医長 込山元清先生)

2.腎臓がんの治療について

2-1.腎臓がんの治療

  • 病期に加え、切除手術が可能か不可能かも、治療方針を決定するポイントとなる。
  • 遠隔転移があっても手術が選択されることはある。

腎臓がんの治療方針は、病期だけで決まるわけではありません。切除手術が可能か不可能か、遠隔転移があるかないかによって、腎臓がんの治療戦略は決まってきます。

遠隔転移がない腎臓がんに対する最も適切な治療は「手術療法」です。ただし、がんが重要な臓器や血管に浸潤している場合などには、切除手術ができない場合もあります。

遠隔転移が発見されている場合には、それ以外の場所にもすでにがんが転移している可能性があるため、基本的には手術の適応はないと考えられてきました。しかし、遠隔転移が発見されていても、がんのある腎臓の切除が可能であれば、切除したほうが予後がよいとも言われています。各々の状況により方針は異なりますが、薬物療法と手術療法を組み合わせた治療も試みられています。

腫瘍が切除できない場合や、遠隔転移がある場合には、基本的には全身を対象とした「薬物療法」が選択されます。

図:「腎細胞がんの治療戦略」

2-2.腎臓がんの治療―1.手術

  • 腎全摘除術の治療成績は良好で、10年疾患特異生存率はステージⅠで90%、Ⅱで80%に及ぶ。
  • 小さながんに対しては腎部分切除術も標準治療として行われている。
  • 腎部分切除術では腎機能を温存することができる。

腎臓がんが腎臓内に限局している場合には、がんのある側の腎臓を、腫瘍とともに切除する手術が行われます。この手術が「腎全摘除術(根治的腎摘除術)」で、腎臓がんの最も標準的な手術です。

ステージⅠとステージⅡの場合、腎全摘除術による治療成績は良好で、10年疾患特異生存率*は、ステージⅠで90%、Ⅱで80%に及ぶ報告がほとんどです。

*10年疾患特異生存率:10年間腎臓がんで死亡せずに生存している人の率

図:「腎摘除術」

小さな腎臓がんに対しては、がんとその周囲の腎臓を一部切除する「腎部分切除術」が、広く行われるようになっています。腎機能を温存できるのが、この手術法の優れている点です。

どのような腎臓がんが腎部分切除術の対象となるのか、基準は定められていません。施設によってさまざまな基準が設けられていますが、国立がん研究センター中央病院では、腫瘍径が3㎝以内、かつ腫瘍が内側で腎洞(じんどう)に接していない、形態的に切除可能である、ということをおおよその基準として、腎部分切除術を行っています。この基準を満たしている場合、腎部分切除術の治療成績は、腎全摘除術と比べて遜色がなく、腎部分切除術はすでに標準治療となっています。

図:「腎部分切除術」

腎全摘除術でも腎部分切除術でも、腎臓に達する方法としては、「開腹手術」と「腹腔鏡(後腹膜鏡)下手術」があります。腹腔鏡(後腹膜鏡)下手術の主な対象は早期のがんです。腎臓に対する処置はどちらの手術でも同じですが、腹腔鏡(後腹膜鏡)下手術のほうが傷を小さくできます。

手術ではありませんが、局所的な治療として「凍結療法」が行われることがあります。小さながんに対し、体の外側から針を刺し、がんを凍らせて処理する治療です。体に与える侵襲が小さいことが利点ですが、根治性に関しては、まだ不明の部分があります。

2-3.腎臓がんの治療―2.薬物療法

  • インターフェロンは奏効率は低いが、劇的な効果をもたらすことがある。
  • 分子標的薬はインターフェロンに比べて奏効率が高い。
  • 分子標的薬をどのような順番で使用するのがよいか、まだ結論は出ていない。

腎臓がんの薬物療法には、インターフェロンによる「サイトカイン療法」と、最近になって登場してきた分子標的薬による「分子標的治療」があります。

インターフェロンによる治療の奏効率*は、わずか15~20%程度です。この治療が現在でも行われているのは、効く人は少ないのですが、効いたときには劇的な効果をもたらすことがあるからです。また、日本人は欧米人に比べ、インターフェロンが効きやすいこともわかっています。

*奏効率:治療後にがんが縮小したり消滅したりする患者の割合

近年登場してきた分子標的薬が、腎臓がんに効果があることがわかってきました。腎臓がんには通常の抗がん剤はあまり有効ではありません。しかし、分子生物学の研究が進み、がんの転移や増殖に関わる標的分子が特定されてきました。この分子の働きを制御する薬剤である「分子標的薬」の開発が進められ、治療に用いられるようになってきました。

腎臓がんの治療に使用が認められている主な分子標的薬は6種類です。作用機序により、「チロシンキナーゼ阻害薬」と「mTOR阻害薬」に分類されています(詳しくは「薬物療法で使われる薬剤」を参照)。これらの薬剤による治療は、インターフェロンに比べて奏効率が高く、40%程度です。数カ月の予後延長効果があることもわかっています。

これらの分子標的薬を、どのような順番で使用するのが最も効果的なのか、現在の段階では、まだ結論は出ていません。それを明らかにするために、さまざまな研究が進められています。

一般的に、分子標的薬による治療は、遠隔転移や再発病変、もしくは切除不能な腎臓がんに用いられます。手術後の再発予防目的として用いられることの効果は、まだわかっておらず、通常は用いられません。

遠隔転移のある進行腎臓がんに対しては、予後を予測する目的で、リスク分類(Motzer criteria)が唱えられています。

  • KPS(全身状態)が80%未満。
  • 血清LDH(乳酸脱水素酵素)値が正常上限の5倍以上。
  • ヘモグロビン値が正常下限値未満。
  • 補正血清カルシウム値が10㎎/㎗以上。
  • 腎臓がんと診断されてから1年未満。

以上の予後因子のうち、いくつに当てはまるかで、リスク分類を行います。当てはまる予後因子が0個なら低リスク、1~2個なら中リスク、3個以上なら高リスクと判定します。このリスク分類が、分子標的薬の選択に利用されることもあります。

2-4.腎臓がんの治療―3.放射線療法

  • 放射線療法は、脳転移や骨転移に対して、症状緩和を目的に行われる。

腎臓がんは放射線が効きにくいがんです。そのため、手術の代わりに、根治目的で放射線療法が行われることはありません。放射線療法が行われるのは、脳転移や骨転移に対する治療です。脳転移に対しては「サイバーナイフ*」による治療が行われます。骨転移に対しては、疼痛緩和や骨折予防などの症状コントロールを目的として、放射線療法が行われることがあります。他の部位に対しても、症状緩和を目的として、放射線療法が行われることがあります。

*サイバーナイフ:がん細胞に対して放射線を集中させて照射する定位放射線治療システム

2-5.腎臓がん治療で使われる薬剤

腎臓がんの薬物療法では、主に次のような薬剤が使用されます。

腎臓がんの薬物療法で使われる主な薬剤

腎臓がんは放射線が効きにくいがんです。そのため、手術の代わりに、根治目的で放射線療法が行われることはありません。放射線療法が行われるのは、脳転移や骨転移に対する治療です。脳転移に対しては「サイバーナイフ*」による治療が行われます。骨転移に対しては、疼痛緩和や骨折予防などの症状コントロールを目的として、放射線療法が行われることがあります。他の部位に対しても、症状緩和を目的として、放射線療法が行われることがあります。

*サイバーナイフ:がん細胞に対して放射線を集中させて照射する定位放射線治療システム

治療法 使われる薬剤
サイトカイン療法 インターフェロン-α
インターロイキン-2
分子標的治療 チロシンキナーゼ阻害薬 スニチニブ
ソラフェニブ
アキシチニブ
パゾパニブ
mTOR阻害薬 エベロリムス
テムシロリムス

2-6.腎臓がん治療の副作用

腎臓がんの治療では、次のような副作用が現れることがあります。

手術療法では、がんとともに正常な腎臓の組織も切除するため、腎機能の低下が起こります。ただし、手術前の腎機能が正常であれば、腎全摘除術で片方の腎臓を切除しても、多くの場合、十分な腎機能を残すことができます。また、腎部分切除術では、切除範囲が小さくなるため、失われる腎機能も少なくてすみます。

薬物療法では、表のような副作用が現れることがあります。

腎臓がんの薬物療法で使われる薬の主な副作用

薬品名(一般名) 薬品名(商品名) 主な副作用
インターフェロンα イントロン、スミフェロンなど 発熱、全身倦怠感、食欲不振、頭痛、筋肉痛、関節痛などのインフルエンザ様症状、脱毛など
スニチニブ スーテント 皮膚変色、手足症候群、食欲不振、疲労、下痢、貧血、高血圧、肝機能障害など
ソラフェニブ ネクサバール 手足症候群、脱毛、下痢、発疹・皮膚落屑、疼痛、高血圧、疲労、体重減少、食欲不振、口内炎、かゆみ、吐き気、しゃがれ声、皮膚乾燥など
アキシチニブ インライタ 下痢、便秘、嘔吐、吐き気、腹痛、口内炎、高血圧、発声障害、咳嗽、食欲減退、手足症候群、発疹、皮膚乾燥、関節痛、疲労、無力症、体重減少、粘膜の炎症、胸痛、倦怠感、頭痛、甲状腺機能低下症、味覚異常、鼻出血、浮腫など
パゾパニブ ヴォトリエント 下痢、高血圧、疲労、吐き気、髪の変色、食欲減退、肝機能障害、味覚異常、嘔吐、手掌・足底発赤知覚不全症候群、体重減少など
エベロリムス アフィニトール 口内炎、発疹、貧血、疲労、下痢、無力症、食欲減退、高コレステロール血症、吐き気、粘膜の炎症、嘔吐、末梢性浮腫、高トリグリセリド血症、咳嗽、かゆみ、感染症、皮膚乾燥、鼻出血、呼吸困難、味覚異常など
テムシロリムス トーリセル 発疹、口内炎、食欲不振、貧血、吐き気、粘膜炎など

2-7.腎臓がんの退院後の経過観察

手術を受けた後は、体調の確認と再発の有無を調べるため、定期的に通院することになります。通院の頻度に決まったものはありませんが、当院では最初の2年間は3ヶ月ごと、それ以降は6ヵ月ごとに診察を行っています。再発の有無や腎機能などを調べるために、必要に応じて、超音波検査、胸部X線検査、CT検査などが行われます。

2-8.腎臓がんの患者さんがよく気にしたり悩んだりすることQ&A

Q手術を受けた後、仕事に復帰できますか。
A
仕事に復帰することには、何も問題ありません。多くの人が、手術後に職場に復帰し、元気に仕事を続けています。腎全摘除術で片方の腎臓を取った場合でも、残っている腎臓が正常に働いているのであれば、手術前と変わらない生活を送ることができます。手術を受けたことを、気にしすぎないことが大切です。
Q糖尿病や高血圧がある場合、手術後の生活で注意すべきことは?
A
腎臓は多くの血管が集まっている臓器です。そのため、糖尿病や高血圧のように血管を障害する病気があると、それによって腎機能が低下する可能性があります。残された腎機能が低下し、十分な機能を果たせなくなると、食塩、たんぱく質、カリウムなどを制限する食事療法が必要になったり、さらに悪くなれば人工透析が必要になったりすることもあります。そうならないためには、糖尿病や高血圧の治療を受け、血糖値や血圧値をきちんとコントロールすることが必要です。また、塩分を取り過ぎないなど、残った腎臓を大切にすることも心がけてください。

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