(がんの先進医療: 2019年10月発売 35号 掲載記事)

山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第9回 )
そこが知りたい
南雲吉則医師の がんを寄せつけない「命の食事」

 連載第9回目の本シリーズでは、がん予防の専門家でもあるナグモクリニックの南雲吉則総院長をお迎えしました。
 身長173㎝の総院長ご自身が以前は80㎏以上の体重になり、ダイエットの方法を研究。「南雲式健康法」を打ち立てました。さらに親しい友人のがん転移をきっかけに、がん予防に力を入れようと決意。30年間でがんの死亡率半減を目指す「命の食事プロジェクト」を発足し「がんから救う命の食事」を提唱しています。今回は、がん患者さんとそのご家族にも役立つ、がん予防のための「食の在り方」について聞いてみました。

南雲吉則(なぐも・よしのり)
1955年生まれ。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、東京女子医科大学形成外科の研修医、東京女子医科大学形成外科、癌研究会付属病院外科を経て東京慈恵会医科大学第一外科乳腺外来医長。1990 年医療法人社団ナグモ会ナグモクリニック開設。1994 年6 月 東京慈恵会医科大学より博士(医学)を取得。2015 年60 歳以上の生き方が輝いている人として『第1 回プラチナエイジ授賞式』で「プラチナエイジスト」を受賞。「一日一食」「ゴボウ茶」「水シャワー」などの若返りダイエット健康法を展開。著書多数。テレビ出演多数。

南雲吉則(なぐも・よしのり)
1955年生まれ。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、東京女子医科大学形成外科の研修医、東京女子医科大学形成外科、癌研究会付属病院外科を経て東京慈恵会医科大学第一外科乳腺外来医長。1990 年医療法人社団ナグモ会ナグモクリニック開設。1994 年6 月 東京慈恵会医科大学より博士(医学)を取得。2015 年60 歳以上の生き方が輝いている人として『第1 回プラチナエイジ授賞式』で「プラチナエイジスト」を受賞。「一日一食」「ゴボウ茶」「水シャワー」などの若返りダイエット健康法を展開。著書多数。テレビ出演多数。

構成●宮西ナオ子
撮影●早坂 明

食生活は、喫煙よりも発がんリスクが高い

山田
 南雲先生は、乳がんの分野では早くからテレビにも出演されていましたが、急に若々しくなられましたね。大変身を遂げられたのでびっくりしました。

南雲
 実は私が38歳の時に父親が心筋梗塞で倒れ引退したことをきっかけに、病院を継ぐストレスがあって暴飲病食をしているうちに体重が80キロを超えてしまったのです。顔は老け、関節や心臓に負担がかかり、毎日、体調が悪く辛い日々が続きました。そこでさまざまなダイエット方法を試して7年間かかりましたが、やっと南雲式健康法を確立してから現体重に落ち着いているんですよ。

南雲医師との対談は2019 年8 月27 日(火)、東京都千代田区にあるナグモクリニックの会議室において行われた

南雲医師との対談は2019 年8 月27 日(火)、東京都千代田区にあるナグモクリニックの会議室において行われた

山田
 しかも先生は乳がん専門と思っていましたが、近年ではがん全体に対しての予防を訴えているわけですね。

南雲
 以前は乳がん手術一辺倒の治療をしていましたが、今ではがん全体の死亡率を下げたいと思っています。日本はこの30年の間に、何が一番よくなかったかというと、早期発見早期治療を唱えたことなんですね。

山田
 えっ? それがいけなかった?
東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

南雲
 早期発見早期治療では死亡率は減らなかった。患者さんの数が増えただけです。そこで大切なのは予防医学と考えたのです。例えばがんになる原因のひとつは感染症。ピロリ菌で胃がん、ヒトパピローマウイルスで子宮頸がん、肝炎ウイルスで肝がんですが、最近は衛生状態もよくなり感染症は減っています。それに対して増えているのはタバコと食生活。喫煙に関しては、米国では1970年から禁煙運動が始まり1990年から肺がんの死亡率は減り、今や往時よりも48%も減少しているのです(図1参照)

図1 アメリカでの一人あたりのタバコ消費量と肺がん死亡率の推移

図1 アメリカでの一人あたりのタバコ消費量と肺がん死亡率の推移

南雲
しかし日本ではまだまだ増え続けています。さらに喫煙よりも発がん性の高いものが食生活だったわけですね(図2参照)。

図2 がんの原因(出所:R.Dole and R.Pe to1981)

図2 がんの原因(出所:R.Dole and R.Pe to1981)

がん細胞は、糖を利用して成長する

山田
 先生は「がんが喜ぶ 3つの狂った食事」を示していらっしゃいますね(表1参照)。

表1 南雲医師が提唱している「命の食事」

表1 南雲医師が提唱している「命の食事」

山田
 これは、患者さんや再発予防に取り組んでいる方などにも役立ちますね。

南雲
 そうですね。まずは精製した糖質の摂り過ぎです。がん細胞は糖を利用して成長しますから、がんを予防したい場合は、雑穀玄米や黒パンなど未精製の穀物に切り替えること。がんになってしまったら、糖質を極力避けることです。白米、白いパン、白い麺、ポテト(じゃがいも)、砂糖と小麦粉で作ったお菓子の「白物5品目」を控えることですね。

山田
 ううむ……。白いご飯、ダメですか? 私、銀シャリ大好きなんですが……。

南雲
 もともと日本人は玄米や雑穀米を食べていました。精製した白米を食べるようになったのは元禄時代以降です。当時参勤交代で江戸に滞在する武士は「江戸煩い」に悩まされました。地方の侍が地元にいるときには麦飯を食べているので元気ですが、江戸に1、2年いると足腰が立たなくなったのです。徳川時代の将軍が20代30代で亡くなっているのは「江戸煩い*」が原因といわれます。

山田
 へえ。そうなんですね。それ以後ずっと白米の食生活が続き、令和でやっと先生の提唱で考え直すことになったわけですね。

*江戸煩い:脚気(ビタミンB1欠乏症)のこと。

悪い油が細胞の炎症を促進。がん細胞は塩分を使って増殖する

南雲
 2つ目は悪い油の摂取です。例えば「サラダ油」に含まれるリノール酸は、細胞の炎症を促進しますから、がんをはじめとして様々な病気を引き起こす原因になります。またマーガリンやショートニングなどの「トランス脂肪酸」も控えることです。

山田
 これまでサラダ油は多くの家庭で使われてきたのではないでしょうか?

南雲
 炒めものにサラダ油を使ったら酸化してしまい体に悪いわけです。また体内でアラキドン酸に代わって、炎症を起こします。戦前は結核菌などが多かったし、負傷した場合、血液を固めるので、止血の効果がありました。でも今や感染症や負傷者もほとんどいません。むしろ炎症作用が身体を攻撃してアレルギー、膠原病、うつ病、がんなどを引き起こします。また血液をどろどろにすることで心筋梗塞を起こします。日本人の5大疾患はサラダ油が引き起こしていることになります。

山田
 ひとことで「油」といってもいろいろな油があるわけですね。

南雲
 油は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分かれます(表2参照)。

表2 油の種類と使い方

表2 油の種類と使い方

南雲
 飽和脂肪酸は、植物油では熱帯地方のココナッツオイル、動物油では牛、豚、鶏があります。固まりやすく、熱に強く酸化しにくいという特徴があります。不飽和脂肪酸は、さらにオメガ3(n – 3系)脂肪酸、オメガ6(n – 6系)脂肪酸、オメガ9(n – 9系)脂肪酸に分けられます。

「食に関する説はよく変わります。今では固まりにくいオメガ3を使うことがよいとされています」

「食に関する説はよく変わります。今では固まりにくいオメガ3を使うことがよいとされています」

山田
 オメガ3・6・9とあるわけですね。

南雲
 そうです。その中でも、オメガ3が最も固まりにくく、熱に弱く酸化しやすいという特徴があります。オメガ3は、植物油では寒帯地方でとれるしそ科の油で、えごま油や亜麻仁油、動物油では魚の油などがあります。オメガ6は、温帯地方のサラダ油、ゴマ、米、菜種、紅花、ひまわり、大豆、トウモロコシ、グレープシードの油などです。これらは酸化しやすいので、炒めものなどに使ってはいけません。オメガ9は、地中海気候に育つオリーブオイルなどがあります。オメガ9は室温では液体ですが、冷蔵庫に入れると固まります。冷たい料理には、オメガ3を使い、温かい料理には、加熱しても酸化しにくいココナッツオイルやバターやラードなどを使うことですね。もし冷えたサラダにかけるならばオリーブオイルは使ってはいけません。たとえばサラダをつくり、オリーブオイルをかけて冷蔵庫に入れておくと固まってしまうので、冷たい料理には合わないのです。

山田
 ええっ? オリーブオイルは体によいと聞いていたので、じゃんじゃん使っています。

南雲
 今から50年前に米国ミネソタ大学のアンセル・キーズ博士が「地中海沿岸に住んでいる人は心筋梗塞が少ない。それはオリーブオイルのおかげだ」と言ったことが原因でしょう。ほかにも、肉は食べない、卵は2個まで、できれば黄身は食べない。バターではなくてマーガリンやオリーブオイルを使いなさい。穀物、パン、パスタをたくさん食べなさいと推奨していました。

山田
 ええっ? 今とは真逆の説ですね。

「ええっ? オリーブオイルは体によいと聞いていたので、じゃんじゃん使っています。今とは真逆の説ですね」

「ええっ? オリーブオイルは体によいと聞いていたので、じゃんじゃん使っています。今とは真逆の説ですね」

南雲
 その後、米国の糖尿病有病率が2・8倍になりました(表3参照)。

図3 米国の糖尿病有病率の推移

図3 米国の糖尿病有病率の推移

南雲
 そして彼は、意図的に資料を改ざんしていたことがわかったのです。

山田
 私もその説を刷り込まれていましたね。

南雲
 食に関する説はよく変わります。今では固まりにくいオメガ3を使うことがよいとされています。えごま油、亜麻仁油、カメリナオイル、サチャインチオイルなどEPAには抗炎症作用、抗凝固作用があるので、炎症を抑えてがんを予防します。しかも、血液をさらさらにして心筋梗塞や脳梗塞の予防にもなります。

山田
 「3つの狂った食事」の「精製した糖質」「悪い油」の次の3つ目は何でしょう?

南雲
 塩分・化学調味料の摂り過ぎです。がん細胞は塩分を使って増殖します。がんの成長を抑えるため、減塩をこころがけてください。依存性のあるナトリウム、「グルタミン酸ナトリウム」などの化学調味料を控えるようにすることですね。

皮ごと食べると感染症が原因の胃がん、肝臓がん、子宮頸がんなどを予防してくれる

山田
 これで狂った食事がわかりました。今度は「がんから救う 3つの命の食事」を教えていただきましょう。まずは、オメガ3オイルを使用することですね。

南雲
 そうです。次に皮ごと、葉ごと、根っこごと丸ごと食べる完全栄養摂取です。丸ごといただくことは食べ物に対する敬意でもありますが、実際に野菜は捨てるところがありません。昔の日本人は毎日の食事で家族の健康を守ってきました。大根でいえば葉、皮、根ごと食べる。葉は干ひば 葉といって干しておき、冬には、おみおつけに入れたりしていました。ニンジンの皮にはポリフェノールという物質が含まれており、病気治癒のために非常に大切な抗酸化物質となります。抗菌作用もありますから感染症が原因の胃がん、肝臓がん、子宮頸がんなどを予防してくれます。リンゴはもちろんですが、ナシやモモ、ミカンも丸ごと食べるとよいのです。

山田
 ええっ? ミカンもですか? それは難しいですね( 苦笑)

南雲
 ミカンの皮は漢方では陳ちんぴ皮といって生薬として珍重されています。小魚も皮、骨、頭ごと食べます。イワシやサンマなどの青魚の皮には身よりも豊富にオメガ3が含まれおり、小魚の骨は豊富なカルシウムが含まれています。また全粒米ぬかに含まれているフィチン酸は、抗酸化作用、抗がん作用があり、大腸がん、乳がん、肺がん、皮膚がんを減少させます。
 
ナグモクリニック(乳房再建センタービル)

ナグモクリニック(乳房再建センタービル)

昔の日本人は食物繊維をたくさん摂っていたから大腸がんが少なかった

南雲
 それから3つ目に大切なのが食物繊維とチーズやヨーグルト、みそ、納豆、漬物などの発酵食品です。麹菌、酵母菌、乳酸菌、納豆菌などは善玉菌を摂るのに最適です。たとえ胃酸で殺菌されても、菌の残骸が体内に入れば善玉菌が増えて免疫力が高まり、がんを予防できます。またこれらは腸内環境を整えます。
毎日きれいな便が出ていれば腸内環境がよい証拠ですが、便秘や下痢が続いたり、便の悪臭がするときは悪玉菌が繁殖しており、腸の中に炎症が起きています。腸炎は腸ポリープや大腸がんの原因になります。

山田
 腸内環境については最近ますます注目されていますからね。

南雲
 昔の人は食物繊維をたくさん摂っていました。おからやきんぴらごぼうは食物繊維の塊です。だから昔の日本人は大腸がんが少なかった。ところが今や加工食品が増え、男女ともに死亡率のトップが大腸がんです。女性のがんの罹患率は確かに乳がんではありますが、死亡率は5位。女性でも死亡率が一番高いのが大腸がんなのです。そこで日本人の大腸がんを減らすためには食物繊維や発酵食品をもっと摂りましょうということで、注目されているのが甘酒です。しかし甘酒だけですと糖の塊ですから、これに乳酸菌を小さじ1杯入れたら、ブドウ糖を乳酸に変えた低糖質のスーパーフードになりますよ。これに早寝早起きや身体を動かすという生活習慣を採り入れたらよいですね。

山田
 なるほど「おいしいもの」ではなく「からだによいもの」が大切ですね。今日は目からうろこが落ちるような貴重なお話をありがとございました。若々しく、健康であることを先生ご自身で体現されているので、とても納得しました。本日お聞きしたことを早速、日常生活に取り入れていきたいです。

対談を終えたあと、記念撮影

対談を終えたあと、記念撮影

山田 邦子●やまだ・くにこ● 1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。2008年、〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008~2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。2009年、NPO法人「リボン運動 がんの薬を普及する会」を結成し、代表理事に就任。栄養士の資格を持っている。

山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。2008年、〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008~2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。2009年、NPO法人「リボン運動 がんの薬を普及する会」を結成し、代表理事に就任。栄養士の資格を持っている。

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