(がんの先進医療: 2019年4月発売 33号 掲載記事)

新シリーズ 宮西ナオ子のがんに挑むサプリメント
徹底リサーチ 第1回 アガリクス

 補完代替医療の利用実態調査(2005年)によると、がんの医療現場で44.6%のがん患者さんがいずれかの補完代替医療を用いており、そのうちの96.2%が健康食品やサプリメントを利用していると回答しています。厚生労働省の「がんの代替医療の科学的検証に関する研究班」は2006年4月にがん治療に関する補完代替医療の役割などについて解説した一般向けのガイドブック『がんの補完代替医療ガイドブック』を作成。補完代替医療の基礎的な解説や注意事項などを記した活用編と健康食品素材の学術的評価などを記載した資料編に分けて情報を伝えています。
 本シリーズでは、補完代替医療を検討する患者さんに客観的な視点から取り入れることができる論文をご紹介していきます。
 第1回目はアガリクスを使ったサプリメントについてリサーチしました。

アガリクスは、産地や菌種、栽培方法などによって含有成分が異なる

 アガリクスは学名をAgaricusblazei Murill(アガリクスブラゼイムリル)といい、「ハラタケ属」全体の総称です。ハラタケ属には姫マツタケを含めてハラタケ、ツクリタケ、シロオオハラタケなど32種類のキノコがあり、それぞれ固有の成分や特性を備えています。現在、一般的に認識されているアガリクスは、ブラジルのピエターデ地方特産のものです。もともとはこの地方に生活習慣病の患者が少ないことから、米国研究者が調査をし、アガリクスに多くの有効成分が含まれていることが判明したのです。
 自生する条件として、昼間の気温は20~25℃、湿度は80%以上、定期的に訪れるスコールが必要になります。天然のアガリクスの収穫量は年間10トン程度(乾燥重量)と見積もられており、その多くはブラジルで消費されたりアメリカなどに輸出されたりするので、日本で入手するのはなかなか困難です。とはいえブラジル原産のアガリクスが日本に持ち込まれたのが1965年。以来、日本国内で人工栽培が試みられるようになり、現在では数社がアガリクスを人工栽培しています。また昨今では中国産アガリクスを原料に使用した製品が市場の大半を占めているようです。
 このように「アガリクス」とひと口にくくっても、産地(ブラジル、中国、日本、米国)、菌種や栽培方法(自然露地栽培、ハウス栽培、タンク培養栽培法)などによっても含有成分が異なります。またアガリクスは成長する過程で、栽培されている土地の栄養分をたっぷり吸収するために重金属の多い大地で栽培されたものは、重金属を含んでいるかもしれず、産地の確認は大切です。またサプリメントとなったアガリクスは手軽に入手できるものの、種類も多く玉石混交です。かつては副作用や、発がんプロモーター作用を持つ成分が含有されていることがあると報告されたものもあります。アガリクスを選ぶときは、産地や菌種、栽培方法などを確認したいものです。

 

アガリクスは、自然治癒力効果をもたらす成分が豊富

 優れた産地、菌種、製法で産出されたアガリクスの成分は、タンパク質が非常に多く40%となっています。キノコの持つ多糖体は、自然治癒力を高めますが、アガリクスは他のキノコに比べて特にその種類が豊富です。自然治癒力効果をもたらす成分としては、子実体(キノコ状)に含まれる多糖体類、β–グルカン、α–グルカン、β–ガラクトグリカン、核酸(RNA)、ペクチドグルカン、キシログルカンなどがあります。特にβ–グルカンの含有量は、キノコの中で最多といわれています。アガリクスはシイタケやマイタケのように食材として食べることも可能です。

 

アガリクスを使った料理

 滋養満点のアガリクスを料理して食してみるのも有効です。炊いたり焼いたりするなど簡単な調理でおいしくいただけます。そこで料理を試みるためにアガリクス3本を入手しました。ふっくらとしたアガリクスは、きのこ独特の香りがあります。下準備としては軽く洗って根元の土がついた部分を包丁で削って料理に使います。今回作った料理は3つ。

アガリクス

アガリクス

アガリクスと小松菜のカルシウム炒め

材料:
アガリクス1本、小松菜1把、ちりめんじゃこ大匙2、白ごま大匙1、ごま油大匙1、醤油少々。

作り方:
アガリクスは薄切り、小松菜は5センチ幅に切る。フライパンにごま油を敷き、ちりめんじゃこを炒め、アガリクスと小松菜を加えてさらに炒める。味を見てお好みで醤油を。最後に白ごまを加えてよく混ぜる。

アガリクスと小松菜のカルシウム炒め

アガリクスと小松菜のカルシウム炒め

アガリクスとあさり貝のオイル焼き

材料:
アガリクス1本、あさり貝大8個、ブロッコリー1、プチトマト8個、アスパラガス2本、白ネギ1本、オリーブオイル大匙3、レモン適量。

作り方:
野菜はすべて食べやすい大きさに切り、ブロッコリーやアスパラガスは下ゆでする。
アガリクスは縦に等分する。
野菜の上にあさり貝をのせ、オリーブオイルをかけて、250度に温めたオーブンで5~6分焼く。
器に盛りつけレモン、塩、醤油などで味付けを。

アガリクスとあさり貝のオイル焼き

アガリクスとあさり貝のオイル焼き

アガリクスと豆腐の中華サラダ

材料:アガリクス1本、豆苗2分の1袋、絹ごし豆腐2分の1、ザーサイ大匙1杯、サラダ油少々、中華ドレッシング。

作り方:アガリクスは食べやすい大きさに。豆苗は2等分の長さに。豆腐は2センチ角に切る。フライパンに油を敷きアガリクスに火を通す。器に野菜、豆腐を盛り、みじん切りにしたザーサイとアガリクスを乗せ、中華ドレッシングで和える。
アガリクスと豆腐の中華サラダ

アガリクスと豆腐の中華サラダ

 
 どれも簡単に作れて美味。アガリクスの持つ甘みやうまみも感じられました。夕飯で食し、就寝したところ、翌日の寝覚めはよく、便通もよく、健康的な1日を迎えることができました。身体も軽く感じられました。

米国で有名なPubMedは掲載までに厳しい査読があり、公平な視点から論じられる

 アガリクスについては多くの論文や記述が発表されていますが、どの媒体に掲載されたかということも信憑性の目安になります。権威ある科学誌や医療関係の書籍などでは掲載までに厳しい査読(*)があり、公平な視点から論じられます。米国で有名なPubMed(パブメド)は、生命科学や生物医学に関しての参考文献や要約を掲載するMEDLINEなどへ通じる無料検索エンジンです。米国国立衛生研究所の米国国立医学図書館(NLM)が情報検索Entrezシステムの一部としてこのデータベースを運用しており、1997年6月から一般公開されました。
 加えて論文発表のベースになるエビデンス(科学的根拠)のレベル(表1)には、7段階あります。最高峰のレベル1は、「システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス」といって、複数の研究を統合して統計解析を行ったもの。7レベルは、「患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見」となっています。

表1 エビデンスレベル

表1 エビデンスレベル

高
Ⅰ システマティック・レビュー/ RCT のメタアナリシス
Ⅱ 1つ以上のランダム化比較試験による
Ⅲ 非ランダム化比較試験による
Ⅳa 分析疫学的研究(コホート研究)
Ⅳb 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
Ⅴ 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
Ⅵ 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見
低

(*)査読:学術誌に投稿された学術論文を専門家が読み、その内容を査定すること。

アガリクスは、PubMedに6件のヒト臨床試験の論文が掲載されている

 最後にPubMed( パブメド)に掲載された論文を紹介します。

●ヒト臨床試験


高用量化学療法および自己幹細胞移植を受ける多発性骨髄腫患者におけるアガリクス抽出エキスの免疫調節効果:無作為化二重盲検臨床試験(ランダム化比較試験)

〈使用アガリクス〉
 アガリクス含有率85%のキノコ抽出物AndoSan

〈解説〉
 高用量化学療法および自己幹細胞移植を行った多発性骨髄腫患者におけるアガリクスの免疫調節効果について、無作為化二重盲検臨床試験を行ったところ、幹細胞導入後に回収した白血球除去産物では、AndoSan投与患者で制御性T細胞および形質細胞様樹状細胞の割合の増加が認められた。また治療終了時に結成IL–1ra、IL–5、IL–7の値に有意な上昇が見られたが、免疫抑制細胞が増えたため、有意な効果は見られなかったという報告。

 PubMed No.25664323
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=25664323
 2015年1月18日
 Biomed Res Int誌

㊟無作為化二重盲検臨床試験(ランダム化比較試験)とは?
 二重盲検法(Double blindtest)とは実施している薬や治療法などの性質を、医師からも患者からも不明にして行う。プラセボ効果や観察者バイアスの影響を防ぐ意味がある。盲検化を含んだランダム化比較試験(RCT)は、客観的な評価のためによく用いられる。

〈コメント〉
 この論文では無作為化二重盲検臨床試験を行っていることから客観性が高いと思われる。


寛解状態のがん患者におけるアガリクスキノコ抽出物服用後のQOL(生活の質)改善

〈使用アガリクス〉
 アガリクス(ABM)顆粒SI株式会社、東京)

〈解説〉
 オープン試験によりアガリクスが、寛解状態のがん患者に対して、身体的および精神的いずれの要素においてもQOLの改善を示したという報告。

 PubMed No.24050580
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=24050580
 2013年8月12日
 Complement Ther Med誌

〈コメント〉
 オープン試験とは、被験者がどの治療群に割り当てられたか医師や被験者に、スタッフにわかっている方法で行う試験のこと。無意識的にしろバイアスがかかることもある。


前立腺がん根治治療後の生化学的再発に使用される医療用キノコ:非盲検試験

〈使用アガリクス〉
 アガリクスキノコ抽出物を含有する仙生露のサプリとマンネンタケを含有する鹿角霊芝のサプリ。

〈解説〉
 日本の前立腺がん患者に2種類の異なる薬用キノコの有効性と安全性を評価するために実施された。被験者はアガリクスキノコ抽出物を含有する仙生露のサプリとマンネンタケを含有する鹿角霊芝のサプリのいずれかを6カ月間摂取した。これらの2種類の医療用キノコの摂取による有意な抗がん効果は認められなかった。深刻な副作用も認められなかった。

 PubMed No.20412340
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=20412340

㊟非盲検試験とは?
 オープントライアル。臨床試験(治験)を行う際に、被験者がどの治療群に割付けられたか、医師、被験者、スタッフにわかっている方法。

〈コメント〉
 前立腺がんについての本論文では、使用されたアガリクスはあまり効果を認めないようだ。


担子菌アガリクスの抽出物内服の知覚効果の測定:日本のがん患者の調査

〈使用アガリクス〉
 担子菌アガリクスキノコ(Sen-Sei-Ro, 仙生露)

〈解説〉
 担子菌アガリクスキノコ(Sen-Sei-Ro、仙生露)抽出物を摂取したがん患者に調査を行った。その後、効果の自己評価を測定し、今後の無作為化試験に使用する手段を開発した。アンケート調査票を設計・翻訳し、仙生露を使用している自己申告による日本人のがん患者2346人に送付した。本調査で、仙生露使用のがん患者回答者からは良好な知覚効果が報告された。今後有効性が確認されれば、がん患者における補完代替医療(CAM)を評価する臨床試験で、有用な成果になりうる。

 PubMed No.17967191
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=17967191

〈コメント〉
アンケート調査で感情面や肉体面での健康という抽象的な恩恵が多いというが、患者の良好な知覚効果も闘病には必要と思われる。


代替療法薬剤のアガリクスががん患者に重度の肝機能障害を引き起こした可能性

〈使用アガリクス〉
 アガリクス抽出物

〈解説〉
 重度の肝障害を呈した進行がん患者3例が報告され、そのうち2例は劇症肝炎で死亡。患者すべてがアガリクス抽出物を服用していた。アガリクス抽出物と肝障害との間に強い因果関係のあることが示唆され、少なくともアガリクス抽出物の摂取で、臨床的判断過程が非常に複雑になった。予期せぬ肝臓障害が報告された場合、医師はアガリクス抽出物の使用を原因要素の1つとして考えるべきであると考察されている。

 PubMed No.17105737
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=17105737

 〈コメント〉
 一口にアガリクスが良いといっても患者の症状や服用状況などによって作用は異なり、時としては害になるという報告。


【タイトル】
キノコ抽出物アガリクスの摂取により、化学療法を受けている婦人科がん患者のナチュラルキラー細胞の活性および生活の質が改善した。

〈使用アガリクス〉
 キノコ抽出物協和アガリクス(ABMK)

〈解説〉
 キノコ抽出物協和アガリクス(ABMK)は、抗突然変異誘発効果および抗腫瘍効果を有することが報告されている。ナチュラルキラー細胞活性は、有意に高かったことが観察された。食欲不振、脱毛、情緒的安定性、および全身衰弱などの化学療法に関連する副作用はすべてABMK治療によって改善された。総合すれば、この結果はABMK治療が化学療法を受けている婦人科がん患者にとって有益なことを示唆している。

 PubMed No.15304151
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=15304151

〈コメント〉
 ここで使用されたアガリクスは化学療法を受けている婦人科がん患者にとって有効だと考えられる。

総評・まとめ

 アガリクスは食品として食べる分には美味で滋養もありますが、サプリメントとして選ぶ場合は、ある程度の注意が必要かもしれません。紹介した論文の中でも、たとえば前立腺がんには効果がないことが認められましたが、一方では化学療法を受けている婦人科系のがんには有効だったというように、がんの種類によっても効果の有無があるようです。また無効というだけならともかく、アガリクス抽出物が肝臓障害の原因として考えられるという結果が出たりしていることから、一概にサプリメントとして安易に使用してよいのかという疑問点も残ります。
 さらに本文でも述べたように、産地、菌種、栽培方法などによって摂取するアガリクスの安全性や有効性が異なります。できればトレーサビリティやエビデンスがしっかりしているものを選び、代替医療や統合医療に理解がある医師や専門家の意見を聞くことも必要ではないでしょうか。

研究関連情報:

宮西ナオ子

宮西ナオ子(みやにし・なおこ)
上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。

本記事の関連リンク

宮西ナオ子のがんの生存率・再発率に関連する食事・栄養や、サプリメント成分の研究比較

宮西ナオ子のがんに挑むサプリメント 徹底リサーチ

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