(がんの先進医療: 2018年10月発売 31号 掲載記事)

抗がん剤の副作用を減らす方法
~抗がん剤治療という試練を乗り切るために~
2.抗酸化サプリメント

水上 治 健康増進クリニック院長 一般財団法人国際健康医療研究所理事長

1.抗がん剤の多くは活性酸素を増やす

多くの細胞障害性抗がん剤は活性酸素を増やします。もちろんそれほど増やさないものもありますが、基本的に抗がん剤が活性酸素を増やすと考えていいのです。抗がん剤の副作用の多くは増加した活性酸素による正常細胞に対する傷害と考えられています。すなわち、抗がん剤の副作用のうち、余分に増えた活性酸素によるものは、抗酸化作用のあるものを摂取することによって軽減する可能性があります。

2.抗酸化サプリメントは抗がん剤の効果を邪魔するか?

長年論争になっているのですが、抗がん剤の多くが活性酸素を増やすことでがん細胞を殺しているので、抗酸化作用が抗がん効果を減弱するのではないかという危惧が臨床現場で持たれているのです。抗がん剤治療時に、患者さんが飲んでいるサプリメントを病院でチェックされることが多いことは、多くの医師がこの危惧を持っているからです。確かにその可能性を示唆する論文が出ていますが、逆に抗がん剤の作用を減弱しないという論文も出ています。しかし大規模な臨床試験が未施行のため、結論は持ち越しになっています。とは言え、今抗がん剤を受けている人にとっては、結論が出るかもしれない数年後まで待てません。今どうしたらいいのでしょうか。

3.抗酸化サプリメントで副作用軽減

抗酸化物と化学療法あるいは放射線療法と併用した結果をMEDLINEとCANCERLITを用いてまとめた論文があります(Altern Ther Health Med 13;22-28, 2007)。280論文をまとめたもので、細胞実験62論文、動物実験と人間で218論文 、その内人間のデータで50論文、 患者8521名に抗がん剤か放射線療法と併用して抗酸化物が与えられました。結論として、抗酸化物は抗がん剤や放射線の治療を妨害しない、むしろ抗がん作用を強化する可能性があり、副作用を軽減したというものでした。

4.野菜や果物など食品中の抗酸化物は避けるべきか?

米国のある医師は、野菜や果物を摂ると抗酸化作用によって抗がん剤の効果が減る可能性があるから、施行日には摂取をやめるように言うと聞いたことがありますが、こうなると極端過ぎると思います。こういう後ろ向きの姿勢では抗がん剤に耐える体力を失う可能性が増えます。

レンチナンという健康保険適応の制がん剤はシイタケ由来ですし、クレスチンという飲み薬はかわらたけというキノコの成分です。これらは軽度の免疫賦活作用を持っていますが、同時に抗酸化作用も持っています。これらはある種のがんにおいて抗がん剤との併用が抗がん効果を高めることが健康保険適応の理由になっています。たとえば抗がん剤治療の最中に、シイタケを食べることは禁じられていません。それなら、シイタケのエキスをサプリメントとして飲むのも問題ないのではないかと私は考えます。

がんが進行するほど栄養失調になるので、栄養を補うために栄養サプリメントを補助的に使うことは理にかなっています。抗酸化サプリが抗がん剤の作用を妨害しうるなどという議論でなく、栄養を補助するという観点で考えてみたいのです。その結果として、より元気になり、副作用が減れば、患者さんにとってこんなにいいことはありません。栄養サプリメントには、βカロテン、ビタミンCやE、時にはセレンなど微量元素が入っているものが多いのです。抗がん剤の副作用を減らすというよりも、闘病中の体力を維持するために栄養補助剤を使う、という観点で摂取すればいいのです。

5.抗がん剤と抗酸化サプリメントの併用が効果的な可能性

ある臨床試験を紹介します。136名のステージⅢbとⅣの非小細胞肺がん患者をくじ引きで2群に分け、片方には化学療法のみ、もう片方には化学療法と共に抗酸化サプリメント(ビタミン・E・ベータカロテン)を与え、経過を見ました(J Am Coll Nutr 24; 16, 2005)。化学療法群は縮小33%で完全緩解なく、併用群は縮小37%で完全緩解2名でした。生存月数はそれぞれ9カ月と11カ月、1年後の生存率はそれぞれ32・9%と39・1%、2年後は11・1%と15・6%でした。化学療法の副作用は両群とも有意差は認められませんでした。化学療法と抗酸化サプリメント併用のほうが、化学療法単独よりもより効果的な可能性があります。

6.ビタミンC点滴が抗がん剤を妨害?

2008年に発表された「ビタミンCが抗がん剤の細胞殺傷性を減弱する」という題の論文(Cancer Res 68;8031, 2008)をどう解釈すべきでしょうか。確かに細胞実験やマウスの実験では、ビタミンCが抗がん性を減弱させる可能性を示唆していますが、この論文をよく読むと、ビタミンC(アスコルビン酸)そのものでなく、酸化したビタミンC、すなわちデヒドロアスコルビン酸が使われています。酸化物はビタミンCではなく、この実験でビタミンCが抗がん作用を減弱するとは言えず、題も「酸化ビタミンCが抗がん剤の抗がん作用を減弱する」と修正すべきです。

7.ビタミンCは抗がん剤の副作用を減らすという研究

ビタミンCは肺がんを移植されたマウスにおいて、抗がん効果を減弱せず、腎障害からマウスを守ります(Nutr Cancer 6;1085,2014)。アドレアマイシンという抗がん剤は、心臓への副作用が懸念されます。アドレアマイシン投与時にビタミンCサプリメントを与えられたマウスとモルモットは明らかに心臓への副作用が減りました(Cancer Res 42;309,1982)。

ビタミンCは内服でも点滴でも抗がん剤の副作用を減らすことが多数の論文で示されています。筆者自身抗がん剤とビタミンC点滴の併用例を1000例以上経験し、ほぼ全例に、程度の差はあれ副作用軽減効果を認めています。高濃度のビタミンCは体内で化学反応を起こして過酸化水素H2O2を生じ、これが抗がん作用を持ちますので、併用では抗がん剤の抗がん作用を補強します。世界中18の大学病院やがん専門病院で行われているビタミンC点滴療法の臨床試験では、ほとんどが化学療法併用で、抗がん剤の効果を補強するとともに、ビタミンC点滴の副作用軽減効果が認められています。

一部の論文を報告します。膵がん患者へのアイオア大学でのビタミンC点滴と抗がん剤ゲムシタビン併用例では副作用は減っていました(Curr Pharm Biotechinol. 16;759, 2015)。モントリオールの病院でのステージⅣ(遠隔転移)14例の化学療法とビタミンC点滴では、強い副作用は見られませんでした(PLOS ONE1 Dol:10,1371,2015)。

筆者の経験でも、抗がん剤とビタミンC点滴の併用は、明らかに副作用が軽減しています。化学療法を受けていて、途中からビタミンC点滴を開始すると、副作用軽減を感じる人がほとんどなのです。化学療法の副作用として特に危険なのは白血球減少による重篤な感染症ですが、筆者の臨床経験では重い感染症は1例も起きていません。風邪もほとんどひかなくなります。

ビタミンC点滴が進行がんの人のQOL(生活の質)を改善することが、いくつかの論文で示されています。確かに点滴後の夜あたりから、元気になってくる人が多いので、リピーターがほとんどで、抗がん剤にも強くなるのかもしれません。

8.筆者の臨床体験

私は長年の経験で、抗がん剤の副作用軽減には抗酸化サプリメントが役立つと考えていますし、特にビタミンC点滴は役に立つとの確信を深めていますので、今副作用で苦しんでいる方は重要な選択肢としてお考えください。専門家はビタミンCに関して筆者の論文(Modern Physician 37;1040, 2017)をご覧ください。

また、同様のメカニズムで、ビタミンCは放射線治療による副作用を減らします(J Radiat Res 51;145, 2010)。

健康増進クリニック
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水上  治(みずかみ・おさむ)
1948年、北海道生まれ。弘前大学医学部卒業後、河野臨床医学研究所附属北品川総合病院勤務。1974年より東京医科歯科大学で疫学専攻、医学博士。1978年、東京衛生病院内科勤務。1990年より米国カリフォルニア州ロマリンダ大学公衆衛生大学院で学び、1994年修了。米国公衆衛生学博士。東京衛生病院健康増進部長を経て、現在健康増進クリニック院長。一般財団法人国際健康医療研究所理事長。主として欧米からあらゆる医療情報を集め、先端の西洋医療を大切にしながら補完医療を加えた診療内容を実践している。『日本一わかりやすいがんの教科書』『がん患者の迷いに専門医が本音で答える本』『難しいことはわかりませんが、がんにならない方法を教えてください!』など著書多数。

水上 治(みずかみ・おさむ)
1948年、北海道生まれ。弘前大学医学部卒業後、河野臨床医学研究所附属北品川総合病院勤務。1974年より東京医科歯科大学で疫学専攻、医学博士。1978年、東京衛生病院内科勤務。1990年より米国カリフォルニア州ロマリンダ大学公衆衛生大学院で学び、1994年修了。米国公衆衛生学博士。東京衛生病院健康増進部長を経て、現在健康増進クリニック院長。一般財団法人国際健康医療研究所理事長。主として欧米からあらゆる医療情報を集め、先端の西洋医療を大切にしながら補完医療を加えた診療内容を実践している。『日本一わかりやすいがんの教科書』『がん患者の迷いに専門医が本音で答える本』『難しいことはわかりませんが、がんにならない方法を教えてください!』など著書多数。

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