(監修:国立がん研究センター副院長・肝胆膵外科科長 島田和明先生)
2.胆道がんの治療について
- 2-1.胆道がんの治療
- 2-2.黄疸の治療
- 2-3.胆道がんの治療―1.肝門部・上部胆管がんの手術
- 2-4.胆道がんの治療―2.遠位(中下部)胆管がん・乳頭部がんの手術
- 2-5.胆道がんの治療―3.胆のうがんの手術
- 2-6.胆道がんの治療―4.術後補助化学療法
- 2-7.胆道がんの治療―5.化学療法
- 2-8.胆道がんの治療―6.放射線療法
- 2-9.胆道がんの退院後の定期健診
- 2-10.胆道がん治療の副作用
- 2-11.胆道がんの患者さんがよく気にしたり悩んだりすることQ&A
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2-1.胆道がんの治療
- 胆道がんが完治する可能性がある治療は切除手術である。
- 切除手術ができるかどうかは、慎重に判断する必要がある。
胆道がんの治療で、唯一完治が期待できるのは「切除手術」です。そこで、まず切除手術が可能かどうかを判断する必要があります。切除手術が可能なら切除手術が行われ、切除手術ができない場合には、「化学療法」や「放射線療法」が行われます。
図:「標準治療手順のフローチャート」
(エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドラインを一部参照して作成)
切除手術ができないと判断されるのは、次のような場合です。
局所過進展 | がんが広範囲に広がり、重要な血管に浸潤※しているため、安全に切除することができない場合。 |
---|---|
遠隔転移 | 肝臓や肺などの離れた臓器に転移している場合や、大動脈周囲のリンパ節に転移している場合。 |
腹膜播種(ふくまくはしゅ) | 腹膜にがんが散在するように広がっている場合。 |
切除手術が可能かどうかの判断は非常に難しいため、肝胆膵を専門とする外科医の意見を聞くことが勧められます。
※浸潤=がんが広がること
2-2.黄疸の治療
- 黄疸(おうだん)の治療はがんの治療に先立って行われる。
- たまった胆汁は管を通して排出する。
黄疸(おうだん)がある場合、胆道がんの治療の前に、黄疸(おうだん)に対する治療が行われます。黄疸(おうだん)が出ているときは、がんによって胆汁の通り道が塞がれ、肝臓の機能が低下しているため、そのままでは手術を行ったり、抗がん剤治療を行ったりするのが困難だからです。黄疸(おうだん)に対する治療を「減黄処置」といいます。
減黄処置には、ERBD(内視鏡的逆行性胆管ドレナージ)と、PTBD(経皮経胆管ドレナージ)という2つの方法があります。
図:黄疸の治療
ERBDは内視鏡を使う方法です。内視鏡を口から十二指腸まで入れ、乳頭部から胆管にカテーテルを挿入します。それを、がんで閉塞している部分の上流まで送り込み、カテーテルを通して胆汁が十二指腸に排出されるようにします。そして、胆汁の流れを確保するため、胆管内にステントを留置します。技術的にはPTBDほど難しくないので、広く行われています。まれにですが、重症の膵炎が引き起こされることがあります。
PTBDは体の外側からカテーテルを入れる方法です。超音波画像を見ながら、体表から肝臓内にカテーテルを挿入し、肝臓内から拡張している胆管まで、カテーテルを送り込みます。そして、このカテーテルを通して、たまっている胆汁を体外に排出させます。この方法の欠点は、技術的に難しいのと、胆汁を体外に誘導するため、患者さんの生活が一時的に不便になる点です。ただ、黄疸を確実に治療することができますし、膵炎などを起こす危険性はありません。
2-3.胆道がんの治療―1.肝門部・上部胆管がんの手術
- がんの部位に応じて肝臓の片葉と肝門部胆管を切除する。
- 左葉は小さいので、右葉を切除する場合には、手術の前に左葉を肥大させる治療が行われる。
手術の方法は、がんのできている部位によって異なります。
肝門部胆管や上部胆管にがんができている場合の手術です。がんのできている部位に応じて、「拡大肝右葉切除」あるいは「拡大肝左葉切除」と、「肝外胆管切除」を併せて行うのが、標準的な手術です。拡大というのは、右葉あるいは左葉の片葉だけでなく、尾状葉を含めて切除することを意味しています。
図:「拡大肝右葉切除の切除範囲と再建」
肝臓は右葉が全体の6~7割を占め、左葉が3~4割を占めています。そのため、左葉を切除する手術は、肝臓の機能を十分に残せるため問題はありません。しかし、右葉を切除する手術では、肝臓の機能を十分に残せない可能性があります。そこで、右葉を切除する場合には、その前に左葉を十分に肥大させてから手術が行われます。
左葉を肥大させるためには、右葉に行く門脈という血管を塞栓物質で詰まらせます。すると、門脈の血液は左葉にだけ流れていくようになり、左葉が従来よりも肥大してくるのです。この方法を「門脈塞栓術」といいます。2~3週間かけて左葉を肥大させてから、右葉を切除する手術が行われます。
2-4.胆道がんの治療―2.遠位(中下部)胆管がん・乳頭部がんの手術
- 遠位(中下部)胆管がんや乳頭部がんでは、膵頭十二指腸切除が標準的な手術である。
- 早期に発見された乳頭部がんに対しては、内視鏡的切除などが行われることもある。
下部胆管は、膵臓の中を通って十二指腸の乳頭部につながっています、そのため、遠位(中下部)胆管がんや乳頭部がんは、膵臓に浸潤することがあります。そこで、遠位(中下部)胆管がんや乳頭部がんの場合には、膵頭部と十二指腸を切除する「膵頭十二指腸切除」が標準的な手術となっています。切除後は、残った膵臓、胆道、幽門輪を温存し十二指腸を小腸とつなぎ、胆汁や膵液が小腸に流れるように再建します。
図:「全胃温存膵頭十二指腸切除術と再建」
中部胆管に限局している早期の胆管がんに対しては、肝外胆管だけを切除する「肝外胆管切除」が行われる場合もあります。ただし、このようなケースは多くはありません。また、早期に発見された乳頭部がんに対しては、「経十二指腸的乳頭切除」や「内視鏡的切除」が行われます。近年、内視鏡検査が普及したことから、黄疸の出ていない早期の乳頭部がんが発見されることがあります。
2-5.胆道がんの治療―3.胆のうがんの手術
- 粘膜にとどまる早期がんなら、胆のうを切除するだけの手術が行われる。
- 肝臓、胆管、リンパ節、膵臓などに浸潤している可能性がある場合は、それらの部位も切除する手術となる。
健康診断などで偶然に発見される早期の胆のうがんから、他臓器に浸潤するような進行がんまで、さまざまな状態で治療が行われます。どの程度進行しているかによって、手術の方法は大きく違ってきます。
胆道がんは、胆管や胆のうの内側を覆う粘膜から発生しますが、粘膜にとどまっているような早期のがんであれば、胆のうを切除する「単純胆摘術」が行われます。
がんが漿膜下層以上に進行している場合には、肝臓の一部を合併切除し、リンパ節郭清も伴った「拡大胆摘術」が標準的な手術となります。
がんが胆管に浸潤している可能性がある場合や、リンパ節転移がある場合には、「肝外胆管切除」が追加されます。
胆のうがんが進行し、肝外胆管や肝動脈に浸潤している場合には、肝門部胆管がんの場合と同じように、「拡大肝右葉切除」と「肝外胆管切除」が行われます。膵頭部や十二指腸に浸潤している場合には、下部胆管がんの場合と同じように、「膵頭十二指腸切除」が行われることがあります。
2-6.胆道がんの治療―4.術後補助化学療法
- 再発を防ぐ術後補助化学療法に効果があるという明確なエビデンスはないが、再発のリスクが高い場合には行われる場合もある。
進行胆道がんは、切除手術を行っても再発が起こりやすく、画像検査で見えているがんをすべて取り除いても、再発することがあります。ただ、再発を防ぐための術後補助化学療法に関しては、これまでのところ明確なエビデンス(科学的根拠)がありません。現在、臨床試験が進められています。結果が出るまでには、まだ数年かかりそうです。
リンパ節転移があるなど、再発のリスクが高いと考えられる場合には、術後補助化学療法を行っている施設も多くあります。抗がん剤としては、ゲムシタビンやS-1が使われています。
2-7.胆道がんの治療―5.化学療法
- 切除手術ができない場合は化学療法が行われる。
- 一次治療の標準治療はGC療法(ゲムシタビンとシスプラチンの併用)である。
切除手術の対象とならない場合や、手術後に再発した場合には、全身の病気と考えられるため、抗がん剤による治療が行われています。なるべく生活の質を低下させず、進行を抑え、生存期間を延ばすことが治療の目標となります。
一次治療の標準治療とされているのが、ゲムシタビンとシスプラチンという抗がん剤を併用する「GC療法」で、吐き気、倦怠感、食欲不振、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)などが出ることがあります。
GC療法は3週間サイクルで行われます。抗がん剤を投与するのは週に1回で、第1週、第2週に投与し、第3週は休薬します。これを繰り返していきます。抗がん剤は点滴で投与され、1回の投与に3時間ほどかかります。
現在、2次治療の標準治療は確立したものはありませんが、我が国では内服薬であるS-1が保険適応を受けており、比較的よく用いられています。
表:ゲムシタビンとシスプラチンの併用療法
治療法 | 名称 | 投与法 | 投与間隔 |
---|---|---|---|
GC療法 | ゲムシタビン+シスプラチン | 点滴 | 3週間を区切りとし、第1週と第2週に点滴を投与 第3週は休む |
2-8.胆道がんの治療―6.放射線療法
- がんが局所にとどまっているときに行われる。この場合の治療目的は根治ではなく、進行を抑えることである。
放射線療法は局所に対する治療なので、がんが局所にとどまっている場合が対象となります。胆道がんの初回治療で放射線療法が選択されるのは、がんは局所にとどまっているが、がんのできている部位に問題があって、切除手術では取れないような場合です。ただし、この場合でも根治的な治療ではなく、治療の目的は進行を抑えることになります。
2-9.胆道がんの退院後の定期健診
- 術後は体力が回復するが、再発には注意する必要がある。
- 術後2年間は3~4ヵ月おきに、その後は6ヵ月おきにCT検査を受ける。
胆道がんの手術の多くは、比較的大きな手術になりますが、経過が順調であれば、術後2~3週間で退院となります。
膵頭十二指腸切除は大掛かりな手術ですが、それでも術後の回復は早く、QOL(生活の質)も比較的良好な状態に保たれます。
肝臓を大きく切除した場合には、回復に多少の時間がかかりますが、日常生活に支障のないレベルまで体力が回復します。
術後5年間は再発の危険があるため、定期的にCT検査を受ける必要があります。再発は2年目までが多いので、術後2年間は3~4ヵ月おきに、その後は6ヵ月おきに検査を受けます。
2-10.胆道がん治療の副作用
がんの治療では、次のような副作用が現れます。
治療法 | 副作用 |
---|---|
切除手術 | 胆管や膵臓を切除した場合には、切除部分から胆汁がもれて腹膜炎を起こしたり、膵液がもれて出血や感染を起こしたりすることがある。そのため、手術後しばらくは、体内にたまった胆汁、膵液、血液などを抜くため、ドレーンと呼ばれる管が腹部に留置される。 膵頭十二指腸切除術の術後は、一時的に胃停滞を起こすことがあるが、多くの例で自然に軽快する。 |
化学療法 | GC療法では強い副作用は現れない。ただし、吐き気、倦怠感、食欲不振、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)などが起こることがある。 |
2-11.胆道がんの患者さんがよく気にしたり悩んだりすることQ&A
- Qセカンドオピニオンは、すべき?
- A
- 胆道がんの治療では、切除手術を行えるかどうかが大きな分かれ目となります。ある施設では「切除手術は不可能」と言われていた患者さんが、ある施設では「切除手術可能」と診断されることも珍しくありません。特に肝門部(肝臓からの出口近く)にがんがある場合には、技術的に難しい手術となるため、治療方針に差が出ることが多いのです。切除手術の可能性については、肝胆膵を専門とする外科医に相談することが勧められます。
- Q手術後、仕事に復帰できますか。
- A
- 治療前に仕事をしていた人であれば、手術後に仕事に復帰することは基本的に可能です。回復までの期間は手術内容によって異なり、肝臓を大きく切除した場合には、そうでない場合に比べて時間がかかります。仕事をしていない人でも、日常生活に支障がないレベルまで体力は回復します。しかしながら合併症で社会復帰が遅れることや、がんの再発で抗がん剤による治療などを行わなければならない場合もあります。
- Q手術を受ける医療機関の選び方は?
- A
- 胆道がんの手術は、肝胆膵を専門とする外科医がいて、症例数も多い医療機関で受けることが勧められます。日本肝胆膵外科学会は、肝臓・胆道・膵臓の手術を安全に確実に行える医師として、「高度技能専門医」の認定を行っています。その名簿は学会のホームページで見ることができます。