(監修:国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院頭頸部内科長 田原 信先生)

1.鼻腔・副鼻腔がんとは

1-1.鼻腔・副鼻腔がんとは

  • 女性よりも男性に多い。
  • 副鼻腔がんで最も多いのは上顎洞がん。
  • 鼻がつまるなど、初期から症状が出ることがあるが、気づきにくい。

鼻腔や副鼻腔の粘膜から発生するがんです。がんができても、なかなか気づかれません。鼻が詰まるような症状が出ることがありますが、日常的によく起こる症状なので、それをがんによる症状だと思わない人が多いのです。鼻腔には「鼻たけ」と呼ばれるポリープができることがありますが、これと間違われることもあります。耳鼻科医が診察しても、がんを鼻たけと診断していることがあるくらいです。がんが大きくなってくると、血の混じった悪臭を放つ鼻汁、眼球突出、痛みを伴う顔面の腫れなどの症状がみられます。

鼻腔・副鼻腔がんは男性にも女性にもできますが、男性に多いのが特徴です。これは男性に喫煙者が多いためと考えられています。他のがんも含めて、喫煙は鼻腔・副鼻腔がんの重要な原因となっています。また、多量飲酒も鼻腔・副鼻腔がんの発生に大きく関わっています。

また、がんは基本的に高齢者に多い病気ですが、若い人に発生することもあります。これも鼻腔・副鼻腔がんの特徴の1つです。副鼻腔には、上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形洞があります。副鼻腔がんは、これらのどこにでも発生することがあります。多いのは上顎洞にできるがんです。上顎洞は、上顎から目の下あたりにある空洞で、鼻腔につながっています。大きな空洞なので、がんがかなり大きくならないと気づかれません。また、副鼻腔炎がある人は、いつも詰まっているので、がんに気づくのが遅くなりがちです。蓄膿症(慢性副鼻腔炎)は、上顎洞がんが発生する原因の1つと考えられています。

(図) 「鼻腔・副鼻腔がんの位置」

鼻腔・副鼻腔がんの位置

1-2.鼻腔・副鼻腔がんの検査

  • 鼻鏡や、耳鼻科用の内視鏡が使用される。
  • 治療法を選択するためにもどこまで浸潤しているかを詳しく調べる。

鼻腔・副鼻腔がんの疑いがある場合には、鼻鏡(鼻腔内の観察するための検査器具)や、耳鼻科用の内視鏡を使って鼻腔内を観察します。鼻鏡では見えない部位も、内視鏡を使うことで観察することができます。

がんと確定診断を下すためには、組織の一部を切除し、それを顕微鏡で調べる生検を行う必要があります。

CT検査などの画像検査も大切です。腫瘍と骨の関係が明らかになります。どこまで浸潤しているのかを調べることができます。また、CT検査はリンパ節転移や遠隔転移を見つけるのにも役立ちます。

(表)鼻腔・副鼻腔がんの検査

検査名 検査のやり方 検査でわかること
鼻鏡検査 鼻鏡を使って鼻腔内を観察する。 鼻腔内の腫瘍の有無や、腫瘍の大きさなどがわかる。
内視鏡検査 内視鏡を使って鼻腔内を拡大して観察する。 鼻鏡では見にくい部位も観察することができる。腫瘍の有無や大きさなどがわかる。
CT検査 エックス線を利用して体内を断層画像として描き出す。 腫瘍がどこまで浸潤しているかがわかる。また、リンパ節転移や遠隔転移の有無がわかる。
生検 腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で調べる。 がんであるかどうかがわかる。

1-3.鼻腔・副鼻腔がんの状態を理解するための基礎知識

患者さんが本当に納得できる治療を受けるためには、治療法の大きな流れと診断のポイント、ご自身の体の状態について、しっかり理解しておくことが大切です。そのうえで、ご自身がこれからどのように生きたいかを考え、医師とよいコミュニケーションをとりながら、治療法を選んでください。

次のような点についてチェックすると、現状の把握や今後の治療法の検討に便利です。
そして、それぞれのがん種別に、以下の3つの分類を掛け合わせて病期を判断します。
①「T分類(がんの大きさ、浸潤の状態など)」、②「N分類(リンパ節への転移の状態)、③「M分類(遠隔転移の状態)

(表)鼻腔・副鼻腔がんのチェックリスト

チェック項目 それを知る意義
がんのできている部位 病期分類や治療法の選択に必要
がんの広がり(浸潤の程度)
リンパ節転移の有無と程度
遠隔転移の有無

1-4.鼻腔・副鼻腔がんの進行度

  • がんがどこまで浸潤しているかが重要。

鼻腔・副鼻腔がんの病期分類では、がんがどこまで浸潤しているかが特に重要です。

(表)「鼻腔・副鼻腔がん(上顎洞がん)の病期」

①「T分類(がんの大きさ、浸潤の状態など)」

TX 原発腫瘍の評価が不可能
T0 原発腫瘍を認めない
TiS 上皮内がん
T1 上顎洞粘膜に限局する腫瘍、骨吸収または骨破壊を認めない
T2 骨呼吸または骨破壊のある腫瘍、硬口蓋および/または中鼻道に進展する腫瘍を含むが、上顎洞後壁および翼状突起に進展する腫瘍を除く
T3 上顎洞後壁の骨、皮下組織、眼窩底または眼窩内側壁、翼突窩、篩骨洞のいずれかに浸潤する腫瘍
T4a 眼窩内容前部、頬部皮膚、翼状突起、側頭下窩、篩板、蝶形洞、前頭洞のいずれかに浸潤する腫瘍
T4b 眼窩尖端、硬膜、脳、中頭蓋窩、三叉神経第二枝以外の脳神経、上咽頭、斜台のいずれかに浸潤する腫瘍

②「N分類(リンパ節への転移の状態)

NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3㎝以下
N2a 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3㎝をこえるが6㎝以下
N2b 同側の単発性リンパ節転移で最大径が6㎝以下
N2c 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6㎝以下
N3 最大径が6㎝をこえるリンパ節転移

注:正中リンパ節は同側リンパ節である。

③「M分類(遠隔転移の状態)

M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

④「病気分類」

N0 N1 N2a,N2b,N2c N3
Tis 0
T1 ⅣA ⅣB
T2 ⅣA ⅣB
T3 ⅣA ⅣB
T4a ⅣA ⅣA ⅣA ⅣB
T4b ⅣB ⅣB ⅣB ⅣB
M1 ⅣC ⅣC ⅣC ⅣC

「頭頸部癌診療ガイドライン」2013年版、日本頭頸部癌学会編(金原出版)を参考に編集部にて作成。

1-5.鼻腔・副鼻腔がんの再発

  • 手術や放射線療法後でがんを取り除いても再発が起きることがある。
  • 再発は局所に起きることも離れた部位に起きることもある。

鼻腔・副鼻腔がんは、手術や放射線療法で取り除くことができても、その後に再発することがあります。手術や放射線療法でがんが消失したように見えても、肉眼では見えないがんが残っていることがあります。それが時間の経過とともに増殖してくることで再発が起こるのです。再発はがんがあった周囲の組織に起こることもありますし、リンパ節や離れた臓器への転移という形で現れてくることもあります。特に再発が起こりやすいのは、治療終了から3年間です。

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