(監修:国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院頭頸部内科長 田原 信先生)
2.咽頭がんの治療について
- 2-1.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の治療方針
- 2-2.上咽頭がんの治療
- 2-3.中咽頭がんの治療
- 2-4.下咽頭がんの治療
- 2-5.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の治療で使われる薬剤
- 2-6.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)治療の合併症と副作用
- 2-7.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の治療終了後の定期検診
- 2-8.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の患者さんがよく気にしたり悩んだりすることQ&A
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2-1.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の治療方針
- 根治性と機能の温存の両方を考慮して治療法を選択する。
咽頭がんの治療では、根治性と共に、機能の温存についても考慮する必要があります。中咽頭がんの手術では飲食物を飲み込む機能が失われることがあり、下咽頭がんの手術で喉頭を全摘出すると、声を出す機能が失われます。手術を受ける場合には、それによって失われる機能についても説明を受け、よく理解しておくことが大切です。
上咽頭がん
上咽頭がんの治療は、放射線療法と化学療法が中心です。上咽頭はすぐ後ろに脳があるので、早期でも手術を行うことはありません。解剖学的に手術できないがんなのです。
(図)上咽頭がんの病期と治療
* 放射線治療だけの場合と放射線治療の前後に抗がん剤治療を行う場合がある
** 放射線治療と抗がん剤治療を同時に行う
日本頭頸部癌学会編『頭頸部癌診療ガイドライン2009 年版』(金原出版)より一部改変
中咽頭がん
中咽頭がんの治療では、手術が行われる場合と、化学放射線療法が行われる場合があります。根治性と、手術などによって失われる機能についてよく考え、治療法を選択する必要があります。がんのできている部位によっては、手術によって、飲み込み機能が失われることになります。技術的に手術ができる場合でも、機能を温存するため、化学放射線療法が選択されることもあります。
(図)中咽頭がんの病期と治療
* 手術が行われることもある
** 残った腫瘍を手術で切除すること
日本頭頸部癌学会編『頭頸部癌診療ガイドライン2009 年版』(金原出版)より一部改変
下咽頭がん
下咽頭がんの治療は手術が基本です。がんが小さければ、放射線療法や化学放射線療法が選択されることもありますが、再発しやすいがんなので、安易に化学放射線療法を勧めることはありません。手術では下咽頭だけでなく、解剖学的特性から喉頭も摘出することになり、多くの機能が失われます。機能を温存するためには、化学放射線療法を選択することになりますが、それでがんが残ってしまった場合や、治療後に再発した場合には、手術が必要になります。放射線を照射した部位でも手術はできますが、リスクが高くなり、合併症が起きやすくなります。化学放射線療法を選択する場合には、そういったことも理解しておく必要があります。
(図)下咽頭がんの病期と治療
* 手術が行われることもある
** 残った腫瘍を手術で切除すること
日本頭頸部癌学会編『頭頸部癌診療ガイドライン2009 年版』(金原出版)より一部改変
2-2.上咽頭がんの治療
- Ⅰ期なら放射線療法が標準治療。
- Ⅱ期以上の場合は可能なら化学放射線療法が行われる。
上咽頭がんは放射線に対する感受性が高いため、放射線療法が基本となります。がんが局所にとどまり、リンパ節転移もなければ、放射線療法が標準的な治療です。
リンパ節転移が起きていたり、周囲への浸潤*が大きくなっていたりする場合には、放射線療法と化学療法(抗がん剤による治療)を同時併用する化学放射線療法が効果を発揮します。化学療法ではシスプラチンの単剤か、シスプラチンと5-FUの併用などプラチナ製剤を含む多剤併用療法が選択されます。抗がん剤には、放射線の感受性を高める働きもあるため、同時に併用することで治療効果が高まります。
※浸潤:がんが組織や臓器の内部に広がっていくこと
これらの治療で、上咽頭がんは比較的よく治ります。離れた臓器への転移がない局所のがんであれば、進行していても根治できる可能性があります。
(図) 「上咽頭がん 治療方法」
*1:放射線低感受性腫瘍や縮小効果不良の場合は化学療法の併用を考慮
*2:全身状態不良、高齢などで考慮
*3:放射線治療後2~3ヶ月程度でPETを含む画像での評価を考慮
2-3.中咽頭がんの治療
- 小さいがんを口腔内から手術した場合は後遺症が軽い。
- 手術で切除する部位によっては飲み込み機能が失われる。
がんが小さい場合や、切除しても咽頭の機能に影響しない場合には、手術が選択されることがあります。がんのできている部位によっては、口腔内からの手術(口内法)が可能なことがあり、この方法だと後遺症は少なくてすみます。
がんが大きい場合や、切除することで咽頭の機能が損なわれるような場合には、重い後遺症が残ることがあります。そのような場合には、手術はせずに化学放射線療法を選択することができます。たとえば、舌根部に大きながんができている場合(舌根部も中咽頭に含まれる)、舌根と咽頭を切除すると、飲み込む機能が失われてしまいます。そのため、飲食ができなくなり、胃瘻(いろう)*から食事をとる生活になります。こうしたことを避けるため、技術的に手術ができる場合でも、化学放射線療法が選ばれることがあるのです。
※胃瘻(いろう):腹壁を切開して胃内に管を通し、食物や 水分や医薬品を直接胃に投与する方法
中咽頭がんの治療では、根治性と失われる機能についてよく考え、治療法を選択します。手術を勧められた場合には、その手術によって失われる機能についても説明を受け、よく理解しておくことが大切です。
化学放射線療法で使われる抗がん剤は、シスプラチン単剤や、シスプラチンと5-FUの併用などプラチナ製剤を含む多剤併用療法が選択されます。
(図) 「中咽頭がん 治療方法」
2-4.下咽頭がんの治療
- 治療の中心は手術だが、下咽頭と喉頭を摘出すると、飲み込み機能と発声機能が失われる。
- 下咽頭に小腸を移植する手術で飲み込み機能は維持できる。
- 手術できないケースでは化学放射線療法が行われる。
がんが小さい場合には、放射線療法や化学放射線療法が選択されることもあります。ただし、治療の基本となるのは手術です。進行した下咽頭がんの治療は、手術が中心となっています。
手術では、喉頭摘出を余儀なくされることが多いのですが、下咽頭と喉頭を摘出すると、飲み込み機能も発声機能も失われてしまいます。ただ、下咽頭に小腸を移植する「遊離空腸移植」によって、飲み込みはできるようになります。声に関しては、食道を使った食道発声法や、電気喉頭と呼ばれる機械を使用することで、音声によるコミュニケーションは可能です。
がんが大きくて手術できない場合は、化学放射線療法が行われます。下咽頭と喉頭は残りますが、放射線療法の晩期毒性※には注意が必要です。飲み込みが悪くなり、嚥下障害が起きることがあるのです。治療後何年も経過してから起こることもあります。こうした後遺症を防ぐために、嚥下リハビリが行われています。
※晩期毒性:時間が経過して起こる副作用
導入化学療法を行い、さらに放射線治療を続けるという方法が、欧州では標準治療となっています。導入化学療法では、シスプラチン、フルオロウラシル、ドセタキセルの3剤を併用します。
もう1つ、セツキシマブと放射線療法を併用する方法もあります。臨床試験では「セツキシマブ+放射線療法」と「放射線療法」を比較し、放射線療法単独より効果が高いことが証明されています。ただし、標準治療である化学放射線療法との比較は行われていません。化学放射線療法ができる患者さんであれば、そちらが優先されます。
(図) 「下咽頭がん 治療方法」
2-5.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の治療で使われる薬剤
咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の治療では、主に次のような抗がん剤が使用されます。
(表) 咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の治療で用いられる主な抗がん剤
一般名 | 商品名 | 特徴 | 主な有害事象 |
シスプラチン | ブリプラチン、ランダなど | プラチナ(白金)製剤の一種。高い抗腫瘍効果を発揮するが、副作用も強い。 | 腎機能障害、白血球減少、貧血、血小板減少、悪心・嘔吐、口内炎など。 |
フルオロウラシル | 5-FUなど | 代謝拮抗薬の一種。DNAの合成を阻害して抗腫瘍効果を発揮する。 | 悪心・嘔吐、下痢、食欲不振、白血球減少など。 |
ドセタキセル | タキソテールなど | タキサン系抗がん剤の一種。がん細胞の分裂を妨げる働きがある。 | 白血球減少、貧血、血小板減少、ショック症状、浮腫など。 |
セツキシマブ | アービタックスなど | 分子標的治療薬の一種。がんの増殖などに関係する体内の特定の分子を狙い撃ちする。 | 高血圧、皮膚障害、消化管穿孔、血栓症など。 |
2-6.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)治療の合併症と副作用
放射線療法で唾液腺が障害され、唾液の出が悪くなることがあります。放射線を患部に集中させるIMRT(強度変調放射線療法)だと、唾液腺にかかる放射線を少なくできるため、この合併症が軽くなります。唾液腺の障害以外に、声がかれる、食べ物を飲み込みにくい、といった症状が現れることがあります。
化学療法では、使用する抗がん剤に応じて副作用が現れます。シスプラチンの代表的な副作用は、悪心・嘔吐、腎機能障害、白血球減少など。5-FUでは、悪心・嘔吐、下痢、食欲不振、白血球減少などが、ドセタキセルでは、白血球減少、貧血、血小板減少などがよく起こります。
手術では、切除する範囲によっては、機能が損なわれることがあります。中咽頭がんの手術で咽頭を切除する場合、切除範囲によっては、飲み込み機能が失われます。飲み込み機能が失われた場合には、飲食ができないため、胃瘻*から食事をとることになります。下咽頭がんの手術で喉頭を全摘すると、声帯がなくなるため声が失われます。また、首の前面にあけた気管孔に気管をつなぐので、ここから呼吸をするようになります。ただし、食道を使う発声法を身につけたり、電気喉頭(人工喉頭)と呼ばれる機械を使用したりすることで、代用音声によるコミュニケーションは可能です。
*胃瘻(いろう):腹壁を切開して胃内に管を通し、食物や 水分や医薬品を直接胃に投与する方法
2-7.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の治療終了後の定期検診
- 治療後の経過観察では小さな再発を発見するためCT検査を受ける。
- 再発の可能性が高い3年間は3~4ヵ月毎に受診する。
治療が終了し、がんがなくなったとしても、再発してくる可能性はあります。そこで、治療終了後は定期的に受診し、経過観察を続けることが大切です。治療終了から1年間は、3ヵ月ごとに受診し、診察を受け、さらにCT検査を受けます。小さな再発は診察しただけではわからないので、必ず画像検査を受ける必要があります。放射線治療の副作用などで毎月のように受診している場合でも、3ヵ月に1回は画像検査を受けるようにします。
再発の可能性が高いのは、治療終了後3年間なので、そこまでは3~4ヵ月ごとに画像検査を受けます。3年を過ぎたら半年に1回、5年を過ぎたら1年に1回にします。
化学放射線療法などで腫瘍が瘢痕化※(はんこんか)した場合には、PET-CT検査が適しています。CT検査で瘢痕化した部分が映った場合、そこに生きたがん細胞が残っているかどうかはわかりません。その点、PET-CT検査なら、生きている組織なのか死んだ組織なのかがはっきりします。
※瘢痕:治った状態の傷跡
治療後の経過観察では、再発のチェックだけでなく、新たながんの出現にも注意を払う必要があります。咽頭がんは、喫煙や多量飲酒が原因になっていることが多いので、それらがリスクとなる肺がんや食道がんが発症してくる危険性もあるからです。
2-8.咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)の患者さんがよく気にしたり悩んだりすることQ&A
- Qセカンドオピニオンは、すべき?
- A
- 担当医の意見が第一の意見であるのに対し、他の医師の意見をセカンドオピニオンと呼びます。すべての患者さんがセカンドオピニオンを聞きに行ったほうがよいわけではありません。担当医の説明を聞き、自分で納得できれば、それで十分である場合も多いでしょう。しかし、納得がいかない場合には、これまでの治療経過・検査結果・今後の予定などを担当医に記載してもらい、別の医師の意見を聞くのもよいでしょう。そして、その結果を担当医に持ち帰って相談するのがベストです。
- Q治療法を選択するときに考えるべきことは?
- A
- 咽頭がんの治療では、飲み込みや発声の機能が障害されることがあります。治療法を選択する際には、根治性と共に、障害される機能についても考慮する必要があります。治療後の生活に何を望むのかをはっきりさせ、担当の医師とよく相談することが勧められます。
- Q治療後はタバコと酒はやめるべきですか?
- A
- 喫煙と飲酒は、咽頭がんの最大の原因となっています。日本人の場合、中咽頭がんの約半数と下咽頭がんの多くは、喫煙と飲酒が原因と考えられています。したがって、治療後は禁煙し、飲酒も避けたほうがいいでしょう。特にアルコールを飲むと顔が赤くなる人(あるいは若い頃は飲酒で顔が赤くなった人)は、飲酒によってがんが発生しやすいことがわかっています。