(監修:伊藤病院 副院長 杉野公則先生)

1.甲状腺がんとは

1-1.甲状腺がんとは

  • 甲状腺にできる腫瘍は良性腫瘍が多く、悪性腫瘍(がん)は2割ほど。
  • 甲状腺がんの大部分はおとなしいがんで、命に関わることは少ない。

甲状腺は喉のそばにある小さな臓器で、甲状腺ホルモンを分泌する働きをしています。

(図1)甲状腺

甲状腺(甲状腺、甲状腺左葉、甲状腺右葉、甲状軟骨(のど仏)、副甲状腺(上皮小体)

甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝や成長などに関わるホルモンです。甲状腺にできる腫瘍の多くは良性腫瘍ですが、2割ほどを悪性腫瘍(がん)が占めています。これが甲状腺がんです。甲状腺がんは甲状腺の細胞から発生します。

(図2)がん種別5年生存率

がん種別5年生存率

引用:全国がん罹患モニタリング集計 2003-2005年生存率報告
独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書

(図3)甲状腺がんステージ別5年生存率

甲状腺がんステージ別5年生存率

引用:全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2015年8月集計)による)

甲状腺がんは女性に多いのが特徴です。国立がん研究センターの「最新がん統計」によれば、甲状腺がんの年間の罹患数(その年に甲状腺と診断される人数)は、男性が3490人、女性が1万250人で、計1万3740人となっています(2011年部位別がん罹患数全国推計値)。また、甲状腺がんによる年間の死亡数は、男性が570人、女性が1192人で、計1762人です(2014年部位別がん死亡数)。患者さんの年代は50代以降が多いのですが、子どもや若い人にも発症します。甲状腺がんの大部分はおとなしいがんで、命に関わるようなことはあまりありません。甲状腺がんと診断されても、96~98%の患者さんは治ります。

(図4)乳頭がん・濾胞がん・その他のがん別患者数

乳頭がん・濾胞がん・その他のがん別患者数(年代別)

引用:乳頭がん・濾胞がん・その他のがん別患者数(伊藤病院ホームページhttp://www.ito-hospital.jp/より)

甲状腺がんは、細胞の種類によって、「乳頭がん」「濾胞(ろほう)がん」「低分化がん」「髄様(ずいよう)がん」「未分化がん」に分類されています。大部分を占めているのは、乳頭がんと濾胞がんです。これらのがんは、「分化がん」と呼ばれ、おとなしい性質で進行もゆっくりです。

(表)甲状腺がんの種類

乳頭がん 甲状腺ホルモンを作る濾胞細胞から発生するがんで、甲状腺がんの90%程度を占めている。進行は遅く、おとなしい性質。リンパ節に転移することはあるが、遠くの臓器に転移することは多くない。触診でも、超音波画像でも、特徴的な所見があるため、診断がつきやすい。
濾胞がん 濾胞細胞から発生するがんで、甲状腺がんの5%程度を占めている。進行は遅く、おとなしい性質。リンパ節転移は少ないが、血流に乗って遠くの臓器に転移することがある。触診でも、超音波画像でも、良性腫瘍と所見が似ているため、区別がつきにくい。
低分化がん 乳頭がんや濾胞がんの細胞の間に、低分化の細胞を含んでいる。分化がん(乳頭がん・濾胞がん)と未分化がんの中間的な悪性度を示す。
髄様がん 甲状腺ホルモンを作る細胞ではなく、カルシトニンというホルモンを作る傍濾胞細胞から発生する。甲状腺がんの1~2%という特殊ながん。このがんの3分の1は、遺伝が関係している。
未分化がん 非常に未熟な細胞であるため、進行が速く、転移しやすい悪性度の高いがん。甲状腺がんの1~2%で、多くはない。

1-2.甲状腺がんの検査

  • 甲状腺がんの大部分を占める乳頭がんは触診でほぼ明らかになる。
  • 甲状腺がんの確定診断には、エコー下穿刺(かせんし)吸引細胞診が必要。

甲状腺がんができても、甲状腺の機能には異常が出ないので、特別な症状は現れません。多くの患者さんは、甲状腺が腫れていることに気づいて受診します。健康診断などで頸動脈の超音波検査を受け、そのときに甲状腺の腫瘍が発見されるケースも増えています。

甲状腺がんの疑いがある場合、まず行われるのは医師による「触診」です。乳頭がんは所見が特徴的なので、専門の医師であれば、触診だけでも診断がつきます。

触診に続いて行われるのが「超音波検査」です。画像を見て、形の変化から、がんかどうかを判断します。ただし、この検査だけで、甲状腺がんであると確定することはできませんし、がんの種類を判定することもできません。

甲状腺がんの確定診断には、「エコー下穿刺吸引細胞診」が必要になります。超音波画像を見ながら甲状腺に針を刺し、細胞を採取して調べる検査です。この検査は外来で行うことができます。

がんであることが明らかになった場合には、がんがどこまで広がっているかを調べる必要があります。そのために行われるのが「CT検査」です。リンパ節転移は超音波検査でもわかりますが、気管や食道への浸潤(しんじゅん)*、肺など離れた臓器への転移を正確に調べるためには、CT検査が欠かせません。

*浸潤:がん細胞が周りに広がっていくこと

(表)甲状腺がんの検査

検査の目的 検査名 検査のやり方 検査でわかること
スクリーニング 触診 医師が体の外から甲状腺に触れ、その感触で判断する。 所見が特徴的な乳頭がんなら、がんであることがほぼ明らかになる
超音波検査 体内に超音波を発信し、反射してくる超音波をとらえて体内を画像化する。 画像の所見から、がんかどうかがわかる。確定診断はできない。がんの種類もわからない。
確定診断 エコー下穿刺吸引細胞診 超音波画像を見ながら甲状腺に針を刺し、吸引して細胞を採取。その細胞を顕微鏡で調べる。 細胞を調べることで、がんかどうかが明らかになる。がんの種類も判定することができる。リンパ節転移の有無もわかる。
がんの広がりを調べる CT検査 X線を利用して、体内の状態を断層画像として描き出す。 気管や食道など隣接する臓器への浸潤の有無、リンパ節転移の有無、離れた臓器への転移の有無を、正確に判定できる。

1-3.甲状腺がんの状態を理解するための基礎知識

患者さんが本当に納得できる治療を受けるためには、治療法の大きな流れと診断のポイント、ご自身の体の状態について、しっかり理解しておくことが大切です。そのうえで、ご自身がこれからどのように生きたいかを考え、医師とよいコミュニケーションをとりながら、治療法を選んでください。

次のような点についてチェックすると、現状の把握や今後の治療法の検討に便利です。

(表)チェックリスト

チェック項目 それを知る意義
がんの種類 病期診断、治療法の選択に必要。
年齢 乳頭がん、濾胞がんの病期診断に必要。
転移の有無 病期診断、治療法の選択に必要。
転移の起きている部位 病期診断、治療法の選択に必要。
浸潤の程度 病期診断、治療法の選択に必要。
がんの大きさ 病期診断、治療法の選択に必要。

1-4.甲状腺がんの進行度

  • 乳頭がんと濾胞がんでは年齢によって病期の診断基準が異なっている。

病期のこれからたどる経過の見通しを予後といいますが、甲状腺がんの予後には、患者さんの年齢が大きく関わっています。若い人の甲状腺がんは予後がよく、年齢が高くなると予後が悪くなります。そのため、乳頭がんと濾胞がんに関しては、病期(ステージ)分類が、45歳未満と45歳以上の2つに分けられています。

乳頭がんと濾胞がんの45歳未満の病期分類は、Ⅰ期とⅡ期しかありません。遠くの臓器に転移していても治るため、Ⅱ期なのです。乳頭がんと濾胞がんの45歳以上と髄様がんの病期分類は、Ⅰ期からⅣ期までに分類されています。未分化がんは、すべてがⅣ期です。

(表1)乳頭がん、濾胞がん(45歳未満)の病期

Ⅰ期 がんが頸部にとどまっており、遠くの臓器に転移がない
Ⅱ期 がんが甲状腺から肺や骨など、遠くの臓器にまで転移している

甲状腺外科研究会編「甲状腺取扱い規約(第6 版)」(金原出版)より一部改変

(表2)乳頭がん、濾胞がん(45 歳以上)および髄様がんの病期

Ⅰ期 がんが甲状腺内にとどまっており、大きさは2㎝以下
Ⅱ期 がんが甲状腺内にとどまっており、大きさは2㎝を超え4㎝以下
Ⅲ期 ・がんの大きさが4㎝を超える。もしくはがんが甲状腺のすぐ外側まで広がっているが、リンパ節までは転移していない
・がんが甲状腺のすぐ外側まで広がっており、さらに気管周囲または喉頭付近のリンパ節まで転移している
Ⅳ A 期 ・頸動脈の外側の(頸部)リンパ節あるいは縦隔* の上寄り部分のリンパ節まで転移している
・がんが甲状腺の外側の臓器(皮膚組織、咽頭、気管、食道、反回神経**)まで広がっている
Ⅳ B 期 がんが甲状腺の外側に広く(椎骨前筋膜、縦隔の血管や頸動脈)広がっている。遠くの臓器への転移はないが、リンパ節まで転移していることもある
Ⅳ C 期 がんが甲状腺から肺や骨など、遠くの臓器にまで転移している

* 左右の肺に囲まれている部分(心臓や食道、気管、心臓に通じる大血管な
どがあるところ)
** 甲状腺の後ろにある声帯の運動をつかさどる神経
甲状腺外科研究会編「甲状腺癌取扱い規約2005年9月(第6版)」(金原出版)より一部改変

(表3)未分化がんの病期

Ⅳ A 期 がんの大きさにかかわらず、甲状腺内にがんがとどまっているが、リンパ節まで転移していることもある
Ⅳ B 期 甲状腺の外側までがんが広がっており、リンパ節まで転移していることもある
Ⅳ C 期 がんが甲状腺から肺や骨など、遠くの臓器にまで転移している

甲状腺外科研究会編「甲状腺取扱い規約 2005 年9 月(第6 版)」(金原出版)より一部改変

1-5.甲状腺がんの再発

  • 甲状腺がんの手術後の再発の多くは局所に起こる。

甲状腺がんを手術で取り除いたとしても、再発することがあります。手術でがんをすべて取り除けたように見えても、見えないほど小さながんが、残っていることがあるからです。時間の経過に伴ってそれが増殖してくることで、再発が発見されます。多くは局所再発といって、残っている甲状腺に再発が起きたり、甲状腺の周囲のリンパ節に再発が起きたりします。遠くの臓器に再発が起こることもありますが、多くはありません。甲状腺がんのほとんどは進行が遅いため、手術後、長い年月が経過してから再発が見つかることもあります。再発を防止するため、アイソトープ治療(詳しくは、「甲状腺がんの治療2-アイソトープ治療」を参照)を追加することもあります。

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