がん治療(標準治療)の基礎知識
治療の流れを理解し、より適切な治療を受けるために
第19回 血液がん(白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫)
血液がんには多くの種類のがんが含まれる
赤血球、白血球(リンパ球・顆粒球・単球)、血小板といった血球細胞は、造血幹細胞という1種類の細胞から生まれます。骨髄の中で造血幹細胞がいろいろな細胞に分化し、それが成熟していくことで、それぞれの血球細胞になっていくのです(図1)。
血液がんは、血液細胞ができる過程のどこかで、異常が発生することによって起こります。どこかの段階で分化が止まってしまうことで、正常ではない細胞がどんどん生み出されてしまうのです。どこで分化が止まるかによって、いろいろな種類の血液がんになります。
血液がんは、このようにして発生するいろいろな種類のがんの総称です。ここでは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫について解説していきます。
■白血病
白血病は4種類に分類される
白血病は、骨髄の中で異常な白血病細胞がどんどんつくられるようになり、正常な血液細胞がつくられなくなってしまう病気です。血液細胞の元となる造血幹細胞は、まず骨髄系幹細胞とリンパ系幹細胞に分化し、それぞれがさらに分化していきます。白血病は、そのどちらからでも発生することがあります。
骨髄系幹細胞から分化していく過程で発生する白血病を、骨髄性白血病といいます。また、リンパ系幹細胞から分化していく過程で発生する白血病を、リンパ性白血病と呼んでいます。
さらに、これらの白血病は、進行の仕方によって、急性と慢性に分けられます。そのため、白血病は、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病の4種類に分類されます。
急性白血病が発症すると、正常な血液細胞がつくられなくなるため、貧血、白血球減少、血小板減少が起こるようになります。それに伴って、息切れ、感染による発熱や倦怠感、皮下出血などが起こりやすくなります。慢性白血病ではこのような症状は目立ちませんが、健康診断の血液検査で異常が発見されたりします。
白血病が疑われる場合には、まず血液検査が行われます。白血病であれば、赤血球、白血球、血小板などが減少し、白血病細胞が増えています。血液検査で、血球数が減少していたり、白血病細胞が見つかったりした場合には、骨髄検査が行われます。骨盤の骨(腸骨)に太い針を刺して骨髄液を採取し、それを顕微鏡で調べるのです。正常ならばいろいろな細胞が見られますが、白血病の場合には、白血病細胞ばかりが増えています(図2)。
骨髄検査では、白血病細胞の特徴から、骨髄性かリンパ性かも調べます。また、染色体や遺伝子についても調べます。慢性骨髄性白血病の大部分、急性リンパ性白血病の一部は、フィラデルフィア染色体(図3)という特殊な染色体を持っています。9番染色体と22番染色体の一部が結合してできた異常な染色体で、その染色体が持つbcrablという遺伝子が、白血病細胞の異常増殖を促してしまうのです。
急性白血病は化学療法が治療の中心
急性白血病の治療は、抗がん剤を組み合わせた強力な化学療法です。代表的なのは、イダルビシンとシタラビンの併用療法です。寛解導入療法* で寛解*が得られた場合は、再発を防ぐために地固め療法* を行います。この治療によって、3~4割は治癒します。
若い人で特に予後不良のタイプと判断された場合には、移植を考えることになります。行われるのは、血縁者や骨髄バンクのドナーから提供を受ける同種造血幹細胞移植です。
急性リンパ性白血病の中には、フィラデルフィア染色体陽性のタイプがあります。この場合には、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブといった分子標的薬が治療に使われます。優れた治療効果を発揮します。
*寛解導入療法: 骨髄中の白血病細胞の数を、全白血球数の5%未満に減らし、寛解状態を目指す治療法。
*寛解: 症状がほぼなくなったものの、完全に治癒していない状態。
*地固め療法: 白血病の第2 段階( 導入療法後) としてしばしば行われる大量化学療法の一種。
慢性白血病は分子標的薬治療が中心
日本における慢性白血病は大部分が慢性骨髄性白血病で、慢性リンパ性白血病は白血病全体の数%しかいません。
慢性骨髄性白血病は、大部分がフィラデルフィア染色体陽性なので、まず分子標的薬による治療が行われます(図4)
イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブが使われ、それが効かなくなった場合にはボスチニブも使えます。これらの分子標的薬は非常に効果的です。現在は4種類の分子標的薬が使えるので、副作用が出た場合や、効果が不十分な場合には、薬を変えていくことができます。
薬による治療で十分な効果が得られない場合には、同種造血幹細胞移植を検討します。
慢性リンパ性白血病は、ゆっくりと進行することが多く、初期にはほとんど症状が現れません。その場合は特に治療せず経過を観察します。Ⅲ期以上で症状が現れてきたら化学療法が行われます。使われる抗がん剤はフルダラビンなどです(図5を参照)。
それが効かなくなった場合には、オファツムマブやアレツムマブなどの分子標的薬が使用できます。
■悪性リンパ腫
悪性リンパ腫には多くのタイプがある
悪性リンパ腫は、骨髄の中でリンパ球ががん化してしまう病気です。がん化したリンパ球は、リンパ液の流れに乗って全身をめぐり、多くの場合はリンパ節で腫しゅりゅう瘤をつくります。リンパ節以外の部位に腫瘤をつくることもあります。
悪性リンパ腫は非常に多くのタイプに分類されています。WHO(世界保健機関)の分類では、30種類以上のタイプに分類されているのです。
まず、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分類されます。日本人に多いのは非ホジキンリンパ腫で、約90%を占めています。非ホジキンリンパ腫は、B細胞性リンパ腫とT/NK細胞性リンパ腫に分けられます( 表1)
日本人に多いのはB細胞性で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾ろ ほうせい胞性リンパ腫などです。
悪性リンパ腫が疑われる場合には、生検を行ってリンパ節から採取した組織を調べます(図6)。
それによって、悪性リンパ腫かどうか、どのタイプの悪性リンパ腫か、という診断がつきます。悪性リンパ腫は、多くのタイプに分類されています。さらに病期分類のために、CT検査、MRI検査、PET検査などの画像検査や、骨髄検査などが行われます。
放射線療法と化学療法で治療する
悪性リンパ腫のⅠ期とⅡ期では、放射線療法が行われることがあります。リンパ腫のできている区域が限られている場合に対象となります。全身への影響が少なくてすむのが、この治療の特徴です。
治療の中心となるのは化学療法で、新しい分子標的薬もたくさん登場しています。よく行われているのはR – CHOP療法です。抗がん剤のシクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンに、ステロイド剤のプレドニゾロンを加えたのがCHOP療法。これに分子標的薬のリツキシマブを加えたのがR – CHOP療法です。
R – CHOP療法を行って再発した場合には、ESHAP療法が行われます。抗がん剤のエトポシド、シタラビン、シスプラチンに、ステロイド剤を組み合わせた併用療法です。
それでも十分な効果が得られない人が移植の対象となります。自家造血幹細胞移植も行われますが、モゾビルという新しい薬を使用することで、末梢血から造血幹細胞を採取しやすくなっています。
■多発性骨髄腫
骨髄腫細胞は骨を溶かして骨折を招く
多発性骨髄腫(MM:Multiple Myeloma)は、白血球の一種である形質細胞が、がん化することで起こる病気です。増血器腫瘍の一つであり、全悪性腫瘍の約1%、全造血器腫瘍の約10%を占め、発症頻度は人口10万人あたり約5・4人であり、高齢社会の到来とともに増加傾向が見られます。
形質細胞は免疫で重要な役割を果たす抗体をつくる働きをしていますが、がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)は抗体をつくれず、Mたんぱくという異常なたんぱく質をつくり出します。そのため、免疫が低下してしまいます。また、骨髄腫細胞は骨を溶かす作用を持つため、骨が弱くなって痛みが出たり、骨折しやすくなったりします。
多発性骨髄腫が疑われる場合には、血液検査と尿検査が行われます。血液検査では造血機能にどのような影響が現れているかがわかります。尿検査では、Mたんぱくの一部が尿に出てくることで診断に役立ちます。それで異常があれば骨髄検査を行い、診断を確定します。全身の骨の状態を調べるため、X線検査、CT検査やMRI検査などが行われます。
新しい薬が登場して治療成績が向上した
多発性骨髄腫は、症状のない無症候性の段階では経過観察とし、症状が現れ症候性になった段階で治療を開始します(図7を参照)。治療の中心となるのは化学療法と移植です。
国内のガイドラインでは、初回標準治療として、ボルテゾミブやレナリドミドを含めた2剤あるいは3剤併用療法が推奨されています。特に、高齢あるいは合併症により移植非適応の患者さんに対してはレナリドミドをキードラッグとしたレナリドミド+ 低用量デキソメタゾン(R d) 療法、ボルテゾミブをキードラッグとしたボルテゾミブ+ メルファラン+ プレドニゾロン(VMP)併用療法が推奨されています(表3)。
化学療法の初回治療では、分子標的薬のボルテゾミブ、免疫調整薬のレナリドミドなどを含む併用療法が行われます。これらの薬が登場することで、それ以前の時代に比べ、多発性骨髄腫の治療成績は大幅に改善してきました。
年齢が65歳未満で合併症がない多発性骨髄腫に対しては、自家造血幹細胞移植が行われます。末梢血を使った移植です。
日本赤十字社医療センターのRVD lite 療法変法では、ボルテゾミブ投与日にレナリドミド服用を行わないスケジュールが組まれており、原法では全奏功割合が90%、グレード3以上の有害事象発現は31%と奏効率を保持したまま重篤な副作用発現を減少した治療レジメンです(図8)。
再発・難治症例に対しては、ボルテゾミブ、レナリドマイド、サリドマイドに加え、ポマリドミド、パノビノスタット、カルフィルゾミブ、エロツズマブなどの新しい薬が使用できるようになっています。
初回治療の最終投与日から6カ月以上経過してからの再発・再燃であれば初回導入療法に対する感受性を持っている場合も多いため再度初回導入療法を試みるか、新規薬剤を含む治療法に変更します。初回治療終了後6カ月未満の再発・再燃や、治療中の進行・増悪の場合、4番染色体と14番染色体の転座といった高リスク染色体異常を持っている場合には、新規治療薬を含む救援化学療法の選択が推奨されます。
現在、再発・難治性骨髄腫に対して適応がある新規治療薬は前述のボルテゾミブ、レナリドミド、サリドマイドに加え、ポマリドミド、パノビノスタット、2016年7月に承認された新規プロテアソーム阻害剤のカルフィルゾミブがあります。日本赤十字社医療センターにおけるカルフィルゾミブの治療法を図9に示します。