(がんの先進医療: 2015年4月発売 17号 掲載記事)

コラム

余命宣告を受けた女子バスケットボール選手の生涯

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラムです。

(2015年.vol17)

脳腫瘍を患い余命わずかとされながらも全米大学バスケットボールのコートに立ち、シュートを続けて決め全米の感動を呼んだ女子選手ローレン・ヒルさん(19)が4月10日に亡くなった。

ヒルさんは、高校時代にバスケをしている最中にめまいを感じ、診断の結果、脳腫瘍が見つかり手術も困難とされ、余命2カ月と宣告されていた。

脳腫瘍は通常何らかの症状が出現したときには、すでに腫瘍はある程度の大きさに成長しているため、脳浮腫を引き起こしている場合がほとんどであり、頭蓋内圧亢進症状すなわち、頭痛、吐き気、嘔吐などを起こすとともに、発生部位によっては局所症状として視野欠損や難聴、運動麻痺、言語障害などを伴うことがある。また皮質に病巣がある場合はけいれん発作を起こす場合が少なくない。そんな辛い症状のなか、

「簡単に諦めるような人間と思われたくない」

そんな気持ちで練習に打ち込んでいたヒルさん。大学に入ってからも病状は良くならず、頭痛や吐き気が激しくなり、利き手の右手がうまく動かず歩行がおぼつかないなど症状は悪化していた。ヒルさんの両親は「娘は夢を追いかけているのです」「1度だけでも娘をコートに立たせてほしい」と願っていた。

ヒルさんの強くまっすぐな思いと両親の愛が多くの人を動かすことになる。試合に出て得点を挙げたいというヒルさんの願いをかなえようと、全米大学体育協会は、特例で開幕戦を2週間も早め、去年(2014年)の11月2日に行い、試合会場も2000人ほどしか入らない母校の体育館ではなく、40キロほど離れた男子強豪校、ゼイビアー大の1万250人収容のアリーナになった。チケットは開始30分で完売し、試合はFOXが生中継。前半の開始17秒、不自由になっていた利き手とは反対の左手でヒルさんはシュートを決めて男女を通しての今季の〝全米初得点〟を記録。後半の残り26秒から再びコートに登場すると、今度は麻痺が強くなっている利き手でもある右手でシュートを成功させた。

試合後にヒルさんは「素晴らしかった! 自分の足でコートを踏みしめ、コートの響きを自らの耳で聞いて……大学の試合に出ることは夢だったんです。自分自身のためにやっているわけじゃないんです。私に生きる力を与えてくれる、みんなのためにやっているんです」と語った。

そう、彼女はたくさんの人に支えられたからこそコートに立つことができた。しかし、ゴールしたときの彼女の笑顔を見たとき、そして、〝ラストゲーム〟と冠された試合に「冗談じゃないです! 1試合で終わるつもりはありません。もっとたくさん試合をするつもりです」と言う彼女を見たとき、彼女を支えながらコートに立たせ、称賛の拍手を送った人々の気持ちがわかる気がした。彼女の短いけれど多くの人々の心に感動を与えた生涯は、理不尽と思えるような困難な人生でも前向きに夢や希望を持つことの尊さを教えてくれた。
同様の境遇にある人やその家族だけではなく、普段は普通に生活できている人も、彼女ほど強くなろうとする必要はないと思う。ただ、困難に向き合ったときに思い出してほしいのです、彼女の笑顔を――。

がん先進医療【2015年4月発売 17号】病をおしてコートに立ち全米の感動を呼んだローレン・ヒルさん

病をおしてコートに立ち全米の感動を呼んだローレン・ヒルさん

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラム

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