(監修:日本大学医学部長・大学院医学研究科長・消化器外科教授 高山忠利先生)

2.肝臓がんの治療について

2-1.肝臓がんの治療

  • がんの数や大きさと、肝障害度から治療法を選択する。
  • 肝障害度がAかBなら、多くの選択肢が考えられる。

肝臓がんの治療は、肝障害度、がんの個数、がんの大きさから、適切な方法が選択されます。

肝障害度がCの場合には、緩和ケア以外に治療の方法がありません。肝障害度がAかBの場合には、「手術」「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法」「肝動脈化学塞栓(そくせん)療法」「化学療法」といった治療の選択肢があります。

肝障害度

肝臓がんの治療法

2-2.肝臓がんの治療―1.手術

  • がんが3個までなら、大きさに関わらず手術できる。
  • 3個までなら、手術の方がラジオ波焼灼療法や肝動脈化学塞栓療法より再発率が低い。
  • 手術に適しているのは、肝障害度Aと、Bの中でも比較的肝機能がよい場合である。

肝臓の切除手術は、肝障害度がAかBで、がんの個数が3個までの場合が標準となっています。がんの大きさは問いません。がんが4個以上あっても切除はできますが、再発する可能性が高くなります。3個までなら、ラジオ波焼灼療法や肝動脈化学塞栓療法と比べても、再発率が低いことがわかっています。肝障害度に関しては、ガイドラインではAかBとなっていますが、最も適しているのはAで、Bの中でも比較的肝機能のよいものが対象となります。

肝障害度

肝臓がんの手術は、肝臓を8つの区域に分け、必要な区域だけを切除する「系統的区域切除」という手術が行われています。 肝臓は右葉と左葉に分かれ、その間に小さな尾状葉があり、血液の流れで見ると、8つの区域に分けることができます。各区域には、S(Segment)1~8の番号がつけられています。S1は尾状葉、S2~S4は左葉、S5~S8は右葉です。手術では、がんのできている部位の肝臓を、区域単位で切除します。

肝臓がんの治療法

肝臓に入っている門脈という血管は、8本に枝分かれして、それぞれの区域に血液を送っています。そのため、系統的に区域単位で切除することにより、手術による肝機能の低下を最小限に抑えることができます。また、血流に沿って区域切除するため、がんが血流に乗って転移するのを予防するのにも役立っています。

肝臓の切除手術は、かつては大きな身体的負担を伴う治療でした。しかし、手術方法が進歩し、出血を少なく抑えられるようになったことで、身体的負担も軽くなっています。出血が少なく抑えられた場合には、1週間ほどで退院できます。

腹腔鏡手術も行われるようになっていますが、標準的な治療法ではありません。腹腔鏡を使用しなければ切除できない肝臓がんは存在しないことに加え、時間が長くかかる、コストが高い、安全性が確保されていない、といった問題点が指摘されています。

2-3.肝臓がんの治療―2.ラジオ波焼灼療法

  • 体の外から肝臓に針を刺すが、切開しないので体への負担が軽い。
  • 再発しても、治療を繰り返すことができる。

ラジオ波焼灼療法は、手術と並ぶ肝臓がんの局所療法です。超音波画像でがんの位置を確認しながら、体の外から肝臓のがんに電極針を刺し、この電極から高周波の一種であるラジオ波を発信することで周囲を高温にします。それによって、がんを死滅させる治療法です。

ラジオ波焼灼療法

この治療法が適しているのは、がんの大きさが3㎝以内で、個数が3個以下の場合です。肝障害度はAかBならよく、手術と比較すると、肝障害度が進んでいても治療できます。治療によるダメージが少ないのが特徴です。再発しても、3㎝以内、3個以下の条件に当てはまっていれば、この治療を繰り返すことができます。

2-4.肝臓がんの治療―3.肝動脈化学塞栓療法

  • がんが4個以上ある場合には、まずこの治療が選択される。
  • がんが3㎝以上の大きさでも治療できる。
  • 再発後の治療として選択されることも多い。

がんが4個以上ある場合には、原則として手術もラジオ波焼灼療法も適応になりません。この場合、まず選択されるのは、肝動脈化学塞栓療法です。また、個数が3個以下でも、大きさが3㎝以上ある場合には、手術かこの治療を選択することができます。肝障害度は、Aと、Bの中でも比較的よい状態の人が適しています。

脚の付け根からカテーテルを入れ、それを肝動脈に進めて、がんの近くまで送り込みます。そこで抗がん剤を注入し、塞栓物質で血管を塞ぎます。高濃度の抗がん剤による作用と、肝動脈を塞がれて栄養と酸素が断たれることで、がんを死滅させます。抗がん剤はシスプラチンやエピルビシンなどが使われています。

肝動脈化学塞栓療法

カテーテルの進歩と、カテーテルを送り込む技術の進歩で、がんのすぐ近くまでカテーテルを入れられるようになったため、治療効果が向上し、周囲の組織へのダメージが小さくなりました。この治療を行った後で再発しても、条件に当てはまれば、繰り返し治療を行うことができます。

この治療は、手術やラジオ波焼灼療法を受け、その後再発した場合に選択されることもよくあります。再発ではがんが多発しやすく、がんの個数が4個以上になってしまうことが多いからです。

2-5.肝臓がんの治療―4.化学療法

  • 肝動注化学療法は肝動脈化学塞栓療法ができないほど肝機能が低下しても可能。
  • 遠隔転移がある進行肝臓がんには、分子標的薬のソラフェニブが有効。

肝障害度がBでも、肝動脈化学塞栓療法が行えないほど肝機能が低下した場合には、肝動注化学療法が行われます。肝動脈に送り込んだカテーテルから、抗がん剤を注入する治療法です。肝動脈化学塞栓療法と違い、塞栓物質で血管を塞ぐことはしません。抗がん剤は、シスプラチンやドキソルビシンが使われています。

遠隔転移があるため、手術や局所療法の対象とならない進行肝臓がんには、分子標的薬のソラフェニブによる治療が有効であることが明らかになっています。プラセボ(偽薬)と比較した臨床試験で、ソラフェニブを使用することで、がんが悪化するまでの期間や生存期間が延長することが確かめられたのです。

ソラフェニブはいくつかの標的分子を持つ薬ですが、中心となっているのは、血管新生阻害作用です。がんが増殖するためには、新しい血管をつくって栄養を取り入れる必要がありますが、その血管をできないようにすることで、がんの増殖を抑えるのです。

2-6.肝臓がん治療で使われる薬剤

肝臓がんの治療では、次のような抗がん剤が使用されます。

肝臓がん治療で使う薬

治療法 使われる薬剤
肝動脈化学塞栓療法 シスプラチン、エピルビシンなど
肝動注化学療法 シスプラチン、ドキソルビシンなど
全身化学療法 ソラフェニブ

2-7.肝臓がん治療の副作用

肝臓がんの治療では、次のような副作用が現れます。

肝臓がん治療の副作用

治療法 副作用
手術 手術直後は痛みがあるが、薬などで十分に対処できる。手術による体へのダメージは出血量の影響が大きく、出血量が少ない場合は回復も早い。
ラジオ波焼灼療法 針を刺した部分が痛むことがあるが、十分に対処でき、問題はない。全身的にもダメージはほとんどない。
肝動脈化学塞栓療法 カテーテルをがんの近くまで入れて治療できるようになったため、副作用が起こりにくくなっている。副作用の程度は、塞栓した範囲や肝機能によって異なる。
肝動注化学療法 全身に投与するのと異なり、強い副作用は出にくい。ただし、肝障害度などによって、副作用の現れ方は異なる。
全身化学療法 ソラフェニブの副作用で最も問題となるのは手足症候群。手足の皮膚がぼろぼろになり、しびれ、痛みなどが現れる。その他に、高血圧、出血、倦怠感などの副作用がある。

2-8.肝臓がんの退院後の定期検診

  • 再発は早い段階で発見できれば再び根治的な治療ができる。
  • 肝臓の超音波検査とCT検査を定期的に受ける。

肝臓がんの治療では、次のような副作用が現れます。

肝臓がんは再発しやすいがんです。治療でがんを取り除くことができた場合、治療後は定期的な肝臓の検査を受け、再発したとしても、なるべく早い段階で発見できるようにします。早い段階で発見できれば、再び根治的な治療を行うことが可能だからです。

そのために、2~3カ月に1回は超音波検査を受け、1年に2回はCT検査を受けます。それを4~5年は続けるようにします。再発が起きた場合には、初発の肝臓がんと同じ基準で治療を選択します。

2-9.肝臓がんの患者さんがよく気にしたり悩んだりすることQ&A

Qセカンドオピニオンは、すべき?
A
担当医の意見が第一の意見であるのに対し、他の医師の意見をセカンドオピニオンと呼びます。すべての患者さんがセカンドオピニオンを聞きに行ったほうがよいわけではありません。担当医の説明を聞き、自分で納得できればそれで十分である場合も多いでしょう。
しかし納得がいかない場合には、これまでの治療経過・検査結果・今後の予定などを担当医に記載してもらい、別の医師の意見を聞くのもよいでしょう。そして、その結果を主治医に持ち帰って相談するのがベストです。
Q治療後、仕事に復帰できますか。
A
それまで仕事をしていた人であれば、手術、ラジオ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法などを受けた後、基本的には仕事に復帰することは可能です。手術を受けた場合でも、多くの患者さんは、手術後1カ月ほどで社会復帰しています。ラジオ波焼灼療法や肝動脈化学塞栓療法であれば、体へのダメージは小さいので、より早く復帰することも可能です。
Q手術を受ける医療機関の選び方は?
A
肝臓がんの手術は、肝臓の手術に習熟した医師がいる医療機関で受けたほうがよいでしょう。日本肝胆膵外科学会が、肝臓・胆道・膵臓の手術を安全に確実に行える医師として、「高度技能専門医」の認定を行っており、名簿を学会のホームページに紹介しています。
また、年間手術件数が少ない医療機関も勧められません。目安としては、年間50件以上の肝臓がん手術を行っている医療機関を選ぶとよいでしょう。

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