(監修:国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科 科長 奥坂拓志先生)

2.膵臓がんの治療について

2-1.膵臓がんの治療

膵臓がんの標準治療は、手術(外科治療)、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療の3つがあります。がんの広がりや全身状態などから、標準治療を組み合わせた集学的治療も行われることがあります。

がんが膵臓に留まっている場合は、手術単独、または手術と術後に化学療法を併用する術後補助療法が一般的です。がんが大事な血管を巻き込んでいたり、他の臓器に転移したりして手術ができないときは、放射線治療や化学療法が行われます。それらの治療に加え、バイパス手術を組み合わせる場合もあります。

「膵癌診療ガイドライン」を一部参照して作成

2-2.膵臓がんの治療―1.手術

  • 膵臓がんの場合、手術が適応になるのは、「他の臓器に転移がない」「腹膜播種(ふくまくはしゅ)※がない」「大きな血管にがんが広がっていない」の3条件
  • がんが膵頭部にあれば「膵頭十二指腸切除術」が、膵体部から膵尾部にあれば「尾側膵切除術」が選択される。

膵臓がんの場合、手術が適応になる条件は、次の3つです。
①肝臓や肺などへの転移がない。
②腹膜播種がない。
③重要な臓器に栄養を運ぶ大きな血管にがんが広がっていない。

※腹膜播種=お腹の中にがんが広がっている状態

膵臓がんの手術は、病巣の位置や広がり具合によって、その方法が選ばれます。

膵頭部を中心にがんがある場合には、十二指腸、胆管、胆嚢を含めて膵頭部を切除する「膵頭十二指腸切除術」が行われます(図1)。その場合、切除後には、膵臓・胆管・消化管の再建が必要となります。また、がんが胃の近くにあるケースでは、胃の一部も切除することがありますし、血管にがんが広がっている疑いがあるときは、その血管の一部も合わせて切除して再建します。

図1:膵頭十二指腸切除術

膵体部・膵尾部にがんがある場合には、膵体部や膵尾部だけでなく隣接する脾臓も摘出する「尾側膵切除術」が行われます(図2)。この術式では膵頭部を残すので膵液が問題なく十二指腸に流れることができます。

図2:尾側膵切除術

がんが膵臓臓全体に及ぶ場合は、膵全摘術が行われます(図3)。ただし、この手術では消化酵素やホルモンを分泌する機能が失われます。膵全摘では膵臓の機能がすべて失われてしまい体への負担が大きいため、がんの程度、患者さんの全身状態、家族や周囲のサポート体制を考慮して手術を行うか判断します。膵臓を全摘した後は血糖をコントロールするためのインスリンが産出されなくなるため、糖尿病と同じ状態になってしまいます。

図3:膵全摘術

がんを切除することができない場合でも、十二指腸が塞がって食事が摂れなくなるのを防ぐため、胃と小腸を繋ぐ消化管バイパス手術や、胆汁の流れを良くするために胆管と小腸を繋ぐ胆道バイパス術を行う場合があります。

その他に、黄疸の症状を改善するため、患部にステント(人口の管)を挿入し、塞がった胆管に溜まった胆汁を流すステント療法を行う場合もあります。

2-3.膵臓がんの治療―2.化学療法

  • 抗がん剤治療の第一選択は5つあり、病状などによって選択する。

局所高度進行、高度なリンパ節転移、肺や肝臓などへの遠隔転移があるなどして、手術でがんを取り除くことができない場合、あるいは再発した場合には、化学療法(抗がん剤治療)が行われます。切除不能や再発した膵臓がんに対する抗がん剤の投与は、疼痛緩和や、生存期間の延長を目的としています。

膵臓がんに対する抗がん剤治療の第一選択は次の5つです(表1)。

一般に、体調が芳しくなく軽めの抗がん剤治療を受ける場合は、①か、②を選択します。
体調が良く徹底的に抗がん剤治療を受ける場合は、③、④、⑤を選択します。

表1:再発膵臓がんの治療方法

治療方法
①ゲムシタビン単体療法
②Sー1単体療法
③ゲムシタビン+エルロティニブ併用療法
④FOLFIRINOX療法
⑤ゲムシタビン+ナブ・パクリタキセル併用療法

2-4.膵臓がんの治療―3.放射線治療

  • 明らかな遠隔転移はないものの、手術による摘出が困難な場合に行われる。
  • 化学療法と併用されることが多い。

放射線治療は、X線やガンマ線、電子線などの電磁波を患部に照射してがんを制御する治療です。がんが膵臓とその周囲のリンパ節にとどまっているものの、手術による摘出が困難な場合に行われます。

膵臓がんに対する放射線治療は、抗がん剤と併用されることがほとんどです。その化学放射線療法は、明らかな転移はないものの、手術ができない場合(局所進行膵がん)における標準治療の1つとして用いられています。ただ、抗がん剤治療が進歩し、抗がん剤のみの治療でも良い成績が得られるようになってきたこと、放射線治療は毎日行うため遠方だと入院しなければならないこと、胃や十二指腸も照射を受けるため副作用が強く出現することがあること、などを考え、放射線治療を行わない医療機関が増えてきました。

2-5.膵臓がんの治療―4.術後補助化学療法

膵臓がんを手術で摘出した後に、再発までの期間や生存期間の延長を期待して行う抗がん剤治療を術後補助化学療法といいます。術後補助化学療法は、通常6ヵ月間行います。

大規模な臨床試験の結果、塩酸ゲムシタビンによる術後補助化学療法は、補助化学療法を行わない場合よりも良好な治療成績を示すことが明らかにされたため、世界的な標準治療とされています。

日本ではS1による術後補助化学療法と塩酸ゲムシタビンによる補助化学療法を比較する臨床試験が行われ、S1のほうが良好な治療成績を示したため、S1が第一選択とされており、塩酸ゲムシタビンは副作用などでS1が使えない場合に選択されます。

2-6.膵臓がん治療で使われる薬剤

膵臓がんの治療では、主に次のような抗がん剤が使用されます(表1、2)。

表1:単独で使用される抗がん剤

名称 投与法 投与間隔
ゲムシタビン 点滴 週1回×3回点滴 その後1週間休む
S-1 経口 1日2回×4週間服用 その後2週間休む

表2:複数の抗がん剤を併用する治療方法

治療法 名称 投与法 投与間隔
ゲムシタビン+エルロティニブ併用療法 ゲムシタビン+エルロティニブ 点滴

経口
ゲムシタビンに加え、エルロティニブを1日1回×毎日服用
FOLFIRINOX療法 5-FU+ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチン 点滴 2週間を区切りとし、1週目の初日に点滴(約50時間)を開始

2週目は休む
ゲムシタビン+ナブ・パクリタキセル併用療法 ゲムシタビン+ナブ・パクリタキセル 点滴 週1回×3回点滴
その後1週間休む

2-7.膵臓がん治療の副作用

膵臓がんの治療では、次のような副作用が現れます。

表1

治療法 副作用
ゲムシタビン単独療法 白血球減少、貧血、血小板減少、悪心・嘔吐、疲労感、発疹、肝障害、腎障害などの症状が起こる
Sー1単独療法 白血球減少、貧血、血小板減少、下痢、悪心・食欲不振、倦怠感、口内炎、肝障害、色素沈着などの症状が起こる
ゲムシタビン+エルロティニブ併用療法 ゲムシタビンの副作用+ 下痢、にきび様皮疹などの症状が起こる
FOLFIRINOX療法 白血球減少、貧血、血小板減少、発熱性好中球減少、倦怠感、食欲不振・吐き気・嘔吐、末梢神経障害、下痢、口内炎、骨髄抑制、脱毛などの症状が起こる
ゲムシタビン+ナブ・パクリタキセル併用療法 白血球減少、貧血、血小板減少、脱毛、末梢神経障害、関節痛・筋肉痛、発疹、発熱、食欲不振、吐き気・嘔吐、口内炎、疲労感などの症状が起こる

2-8.膵臓がんの患者さんがよく気にしたり悩んだりすることQ&A

Qセカンドオピニオンは、受けるべきですか?
A
担当医の意見が第一の意見であるのに対し、他の医師の意見をセカンドオピニオンと呼びます。すべての患者さんがセカンドオピニオンを聞きに行ったほうがよいわけではありません。担当医の説明を聞き、自分で納得できればそれで十分である場合も多いでしょう。
しかし納得がいかない場合には、これまでの治療経過・検査結果・今後の予定などを記載した紹介状を担当医に作成してもらい、別の医師の意見を聞くのもよいでしょう。そして、その結果を主治医に持ち帰って相談するのがベストです。
Q治療後、職場に復帰できますか?
A
退院後、運動などに制限はありませんが、自身の体調に合わせ、無理のない程度から実行してください。ただ、退院から2カ月ほどは職場で無理をしないで、その後は自分の体と相談しながら慣らしていきましょう。職場復帰に関しては職種やその患者さんの体力によって異なってくると思いますので、仕事開始時期や仕事の内容については主治医と相談して決めるのが良策です。
Q手術後はどのような食生活をすればいいのですか?
A
膵臓は、体内の脂肪を分解する膵液(膵リパーゼ)を分泌しています。ですから、膵臓がんの患者さんは、脂肪分を食べると下痢をしやすくなることもあります。加えて、膵臓がんの患者さんは糖尿病にもなりやすいので、血糖やカロリーのコントロールが重要になってきます。暴飲暴食は控え、バランスのよい食事をすることが大事です。また、一度にたくさん食べられなければ、食事の回数を増やし、少しずつ食べるようにすると良いでしょう。
Q治療を受ける医療機関を選ぶポイントは?
A
膵臓がんの手術は、難易度が高く、高度の技術を必要とします。また、膵臓がんの抗がん剤治療や放射線治療についても、副作用を上手にコントロールして快適な生活を送ることが大切です。ですから、膵臓の手術を受ける場合は、その手術や化学療法、放射線治療の専門医がいて、膵臓がんに対する数多くの治療を行っている医療機関を受診することが望ましいです。

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