(監修:日本赤十字社医療センター骨髄腫・アミロイドーシスセンター長
鈴木憲史先生)
1.血液のがんとは
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1-1.血液がんとは
- 血液がんは、血球になる細胞が分化し成熟していく過程でがん化して起こる。
- どこで分化が止まるかによっていろいろな種類の血液がんになる。
赤血球、白血球(リンパ球・顆粒球・単球)、血小板といった血液細胞は、造血幹細胞という1種類の細胞から生まれます。骨髄の中で造血幹細胞がいろいろな細胞に分化し、それが成熟していくことで、それぞれの血液細胞になっていくのです。血液がんは、血液細胞が分化する過程のどこかで、異常が発生し、正常ではない細胞がどんどん生み出されてしまう病気です。分化のどの段階で異常が起こるかによって、いろいろな種類の血液がんが発生します。ここでは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫について解説します。
国立がん研究センターの「最新がん統計」によれば、白血病の年間の罹患数(その年に新たに白血病と診断された人数)は、男性が7297人、女性が4912人で、計1万2209人です。悪性リンパ腫の年間の罹患数は、男性が1万5329人、女性が1万1303人で、計2万6632人です。血液がんの中で最も罹患数が多いのは悪性リンパ腫です。多発性骨髄腫の年間の罹患数は、男性が3566人、女性が3311人で、計6877人です。
(表)「部位別がん罹患数全国推計値(2012年)」
疾患 | 年間罹患数(人) | |
男性 | 女性 | |
白血病 | 7,297 | 4,912 |
悪性リンパ腫 | 15,329 | 11,303 |
多発性骨髄腫 | 3,566 | 3,311 |
白血病による年間の死亡数は、男性が4896人、女性が3300人で、計8196人です。人口10万人あたり1年間に何人が白血病で死亡するかを示す部位別がん死亡率は、男性が8.0人、女性が5.1人です。悪性リンパ腫による年間の死亡数は、男性が6457人、女性が5075人で、計1万1532人です。部位別がん死亡率は、男性が10.6人、女性が7.9人です。多発性骨髄腫による年間の死亡数は、男性が2203人、女性が1928人で、計4131人です。部位別がん死亡率は、男性が3.6人、女性が3.1人です。
(表)「部位別がん死亡数・部位別がん死亡数(2014年)」
疾患 | 年間死亡数(人) | |
男性 | 女性 | |
白血病 | 4,896 | 3,300 |
悪性リンパ腫 | 6,457 | 5,075 |
多発性骨髄腫 | 2,203 | 1,928 |
白血病の5年相対生存率(白血病と診断された人のうち、5年後に生存している人の割合が、日本全体で5年後に生存している人に割合に比べ、どの程度かを表す)は、男性が37.8%、女性が41.3%でした。悪性リンパ腫の5年相対生存率は、男性が62.9%、女性が68.5%でした。多発性骨髄腫の5年相対生存率は、男性が36.6%、女性が36.3%でした。(2006~2008年診断例)
(図) 「血球の分化」
白血病
白血病は、骨髄の中で異常な白血病細胞がどんどん作られるようになり、正常な血液細胞が作られなくなってしまう病気です。
血液細胞の元となる造血幹細胞は、まず骨髄系幹細胞とリンパ系幹細胞に分化し、それぞれがさらに分化していきます。白血病は、そのどちらからでも発生することがあります。骨髄系幹細胞から分化していく過程で発生する白血病を、骨髄性白血病といいます。また、リンパ系幹細胞から分化していく過程で発生する白血病を、リンパ性白血病と呼んでいます。さらに、これらの白血病は、進行の仕方によって、急性と慢性に分けられます。そのため、白血病は、急性骨髄性白血病(AML=Acute Myeloid Leukemia),急性リンパ性白血病(ALL=Acute Lymphoblastic Leukemia),慢性骨髄性白血病(CML=Chronic Myeloid Leukemia),慢性リンパ性白血病(CLL=Chronic Lymphocytic Leukemia)の4種類に分類されます。
急性白血病が発症すると、正常な血液細胞が作られなくなるため、貧血、白血球減少、血小板減少が起こるようになります。それに伴って、息切れ、感染による発熱や倦怠感、皮下出血などが起こりやすくなります。慢性白血病ではこのような症状は目立ちませんが、健康診断の血液検査で異常が発見されたりします。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は、主にリンパ節の中でリンパ球ががん化してしまう病気です。がん化したリンパ球は、リンパ液の流れに乗って全身をめぐり、多くの場合、リンパ節で腫瘤を作ります。リンパ節以外の部位に腫瘤を作ることもあります。
悪性リンパ腫は非常に多くのタイプに分類されています。WHO(世界保健機関)の分類では、30種類以上のタイプに分類されているのです。まず、ホジキンリンパ腫(HL=Hodgkin Lymphoma)と非ホジキンリンパ腫(NHL=Non Hodgkin Lymphoma)に分類されます。日本人に多いのは非ホジキンリンパ腫で、約90%を占めています。非ホジキンリンパ腫は、B細胞性リンパ腫とT/NK細胞性リンパ腫に分けられます。日本人に多いのはB細胞性で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞(ろほう)性リンパ腫などがあります。
(表)「WHO(世界保健機関)分類を基にした主な非ホジキンリンパ腫の臨床分類」
疾患 | B細胞性 | T細胞性・NK細胞性 |
インドレントリンパ腫 | 慢性リンパ性白血病/ 小リンパ球性リンパ腫 リンパ形質細胞性リンパ腫 脾B 細胞辺縁帯リンパ腫 有毛細胞性白血病 粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ 腫(MALT リンパ腫) 節性辺縁帯リンパ腫 濾胞性リンパ腫(Grade 1, 2) |
T 細胞大顆粒リンパ球性白血病 成人T 細胞白血病/ リンパ腫(くすぶり型) 菌状息肉症/ セザリー症候群 |
中等度アグレッシブリンパ腫 | B 細胞前リンパ球性白血病 マントル細胞リンパ腫 濾胞性リンパ腫(Grade 3) |
T 細胞前リンパ球性白血病 成人T 細胞白血病/ リンパ腫(慢性型) 節外性鼻型NK/T 細胞リンパ腫 血管免疫芽球性T 細胞リンパ腫 |
アグレッシブリンパ腫 | びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫 | 末梢性T 細胞リンパ腫、非特定型 腸管症関連T 細胞リンパ腫 未分化大細胞リンパ腫 肝脾T 細胞リンパ腫 |
高度アグレッシブリンパ腫 | B 細胞リンパ芽球性白血病/ リンパ腫 バーキットリンパ腫/ 白血病 |
T 細胞リンパ芽球性白血病/ リンパ腫 成人T 細胞白血病/ リンパ腫(急性型、リンパ腫型) アグレッシブNK 細胞白血病 |
多発性骨髄腫
多発性骨髄腫(MM=Muitiple Myeloma)は、白血球の一種である形質細胞が、がん化することで起こる病気です。すべてのがんの約1%、血液がんの約10%を占めています。発症頻度は人口10万人あたり約5.4人で、高齢社会の到来とともに増加傾向が見られます。
形質細胞は免疫で重要な役割を果たす抗体を作る働きをしていますが、がん化した骨髄腫細胞(骨髄腫細胞)は抗体を作れず、Mたんぱくという異常なたんぱく質を作り出します。そのため、免疫が低下してしまいます。また、骨髄腫細胞は骨を溶かす作用を持つため、骨が弱くなって痛みが出たり、骨折しやすくなったりします。
1-2.血液がんの検査と診断
- 白血病は骨髄検査で診断がつき、骨髄性かリンパ性かもわかる。
- 悪性リンパ腫は組織を調べて種類を判断する。
- 多発性骨髄腫では血液検査と尿検査が行われる。
白血病
白血病が疑われる場合には、まず血液検査が行われます。白血病であれば、赤血球、白血球、血小板などが減少し、白血病細胞が増えています。
血液検査で、血球数が減少していたり、白血病細胞が見つかったりした場合には、骨髄検査が行われます。骨盤の骨(腸骨)に太い針を刺して骨髄液を採取し、それを顕微鏡で調べるのです。正常ならばいろいろな細胞が見られますが、白血病の場合には、白血病細胞ばかりが増えています(図)。骨髄検査では、白血病細胞の特徴から、骨髄性かリンパ性かも調べます。
染色体や遺伝子についても調べます。慢性骨髄性白血病の大部分、急性リンパ性白血病の一部は、フィラデルフィア染色体(図)という特殊な染色体を持っています。9番染色体と22番染色体の一部が結合してできた異常な染色体で、その染色体が持つbcr-ablという遺伝子が、白血病細胞の異常増殖を促してしまうのです。
(図) 「正常な骨髄と白血病の骨髄」
(図) 「白血病細胞の異常増殖を促すフィラデルフィア染色体」
(表) 「白血病の主な検査」
検査の目的 | 検査名 | 検査のやり方 | 検査でわかること |
白血病の診断 | 血液検査 | 血液を採取し、血球数や、未成熟な血液細胞である白血病細胞の有無や状態を調べる。 | 血球数に異常があるかどうか、白血病細胞が増えているかどうかがわかる。 |
骨髄検査 | 腸骨に針を刺して骨髄液を採取し、それを顕微鏡で調べたり、遺伝子や染色体を調べたりする。 | 白血病かどうか、骨髄性かリンパ性か、特殊な遺伝子をもっているかどうかがわかる。 |
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫が疑われる場合には、生検を行ってリンパ節から採取した組織を調べます。それによって、悪性リンパ腫かどうか、どのタイプの悪性リンパ腫か、という診断がつきます。悪性リンパ腫は、多くのタイプに分類されています。さらに病期分類のために、CT検査、MRI検査、PET検査などの画像検査や、骨髄検査などが行われます。
(図) 「悪性リンパ腫」
(表) 「悪性リンパ腫の主な検査」
検査の目的 | 検査名 | 検査のやり方 | 検査でわかること |
悪性リンパ腫の診断 | 生検 | 腫れているリンパ節や腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で調べる。 | 悪性リンパ腫かどうか、どのタイプの悪性リンパ腫かがわかる。 |
病期を調べる | 画像検査(CT検査、MRI検査、PET検査) | 病変の広がりから病期を判定する。 | |
骨髄検査 | 腸骨に針を刺して骨髄液を採取し、顕微鏡で調べる。 | 病変が骨髄まで広がっているかどうかを調べる。 |
多発性骨髄腫
多発性骨髄腫が疑われる場合には、血液検査と尿検査が行われます。血液検査では造血機能にどのような影響が現れているかがわかります。尿検査では、Mたんぱくの一部が尿に出てくることで診断に役立ちます。それで異常があれば骨髄検査を行い、診断を確定します。全身の骨の状態を調べるため、X線検査、CT検査やMRI検査などが行われます。
(表) 「多発性骨髄腫の主な検査」
検査の目的 | 検査名 | 検査のやり方 | 検査でわかること |
多発性骨髄腫の診断 | 血液検査 | 血液を採取し、血球数などを調べる。 | 造血機能への障害の程度がわかる。 |
尿検査 | 尿を採取し、Mたんぱくの一部であるBJP(ベンスジョーンズたんぱく)が排出されているかどうかを調べる。 | BJPが出ていれば多発性骨髄腫の可能性が高い。 | |
骨髄検査 | 腸骨に針を刺して骨髄液を採取し、顕微鏡で調べる。 | 多発性骨髄腫であるかどうかがわかる。 | |
病変の広がりが骨の状態を調べる | 画像検査(X線検査、CT検査、MRI検査) | 病変の全身への広がりや、全身の骨の状態がわかる。 |
1-3.血液がんの状態を理解するための基礎知識
患者さんが本当に納得できる治療を受けるためには、治療法の大きな流れと診断のポイント、ご自身の体の状態について、しっかり理解しておくことが大切です。そのうえで、ご自身がこれからどのように生きたいかを考え、医師とよいコミュニケーションをとりながら、治療法を選んでください。
次のような点についてチェックすると、現状の把握や今後の治療法の検討に便利です。
(表)「白血病のチェックリスト」
チェック項目 | それを知る意義 |
「骨髄性」か「リンパ性」か | 治療法の選択に必要 |
「急性」か「慢性」か | |
フィラデルフィア染色体の有無 |
(表)「悪性リンパ腫のチェックリスト」
チェック項目 | それを知る意義 |
悪性リンパ腫のタイプ(WHO分類) | 治療法の選択に必要 |
悪性度 | |
腫瘍のできている部位と数 |
(表)「多発性骨髄腫のチェックリスト」
チェック項目 | それを知る意義 |
骨髄腫による障害の程度 | 治療法の選択に必要 |
骨の破壊の程度 | |
腫瘍の量 | |
Mたんぱくの有無 |
1-4.血液がんの進行度
白血病
急性白血病には進行度分類がありません。
慢性骨髄性白血病は、「慢性期」「移行期」「急性転化期」に分類されます。最初は慢性期ですが、その後、移行期、急性転化期へと進むことがあります。
慢性リンパ性白血病は、「0期」「Ⅰ期」「Ⅱ期」「Ⅲ期」「Ⅳ期」に分類されます。進行が遅いため、Ⅱ期までは経過観察、Ⅲ期以降が治療対象となります。
(表) 「慢性骨髄性白血病の病期」
慢性期 | 骨髄では白血病細胞が増えているが、多くの場合、特に自覚症状はない。この時期に治療を行わなかった場合や、治療で十分な効果が得られなかった場合は、3~5年で移行期を経て、急性転化期へと進行する。 |
移行期 | 慢性期から急性転化期に進行する時期。治療していても薬が効きにくくなり、貧血、発熱、出血傾向などの症状が現れるようになる。 |
急性転化期 | 急性白血病と同じような状態になる。貧血、白血球減少、血小板減少による症状が現れ、治療が困難な状態になる。 |
(表) 「慢性リンパ性白血病の病期」
0期 | 血液中のリンパ球や骨髄のリンパ球が増加している。 |
Ⅰ期 | 0期の状態に加え、リンパ節の腫れがある。 |
Ⅱ期 | 0期~Ⅰ期の状態に加え、肝臓と脾臓のどちらか、あるいは両方に腫れがある。 |
Ⅲ期 | 0期~Ⅱ期の状態に加え、貧血がある。 |
Ⅳ期 | 0期~Ⅲ期の状態に加え、血小板減少がある。 |
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫の進行度は、リンパ腫のできている数と部位によって決まります。リンパ腫が1か所ならⅠ期、2ヵ所以上でも上半身か下半身のどちらかに限られていればⅡ期、上半身と下半身の両方にあればⅢ期、リンパ腫がリンパ外臓器に広範に広がっていればⅣ期となります。
(表) 「悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)の病期」
Ⅰ期 | リンパ腫が1か所に限られている。 |
Ⅱ期 | リンパ腫が2ヵ所以上あるが、横隔膜を境にして、上半身か下半身のどちらかに限られている。 |
Ⅲ期 | リンパ腫が2ヵ所以上あり、横隔膜を境にして、上半身にも下半身にもある。 |
Ⅳ期 | リンパ腫が、リンパ節以外の臓器にも広がっている。 |
多発性骨髄腫
(表) 「多発性骨髄腫の病期」
Ⅰ期 | 血清β2ミクログロブリンが3.5㎎/ℓ未満 血清アルブミンが3.5g/㎗以上 |
Ⅱ期 | Ⅰ期でもⅢ期でもないもの |
Ⅲ期 | 血清β2ミクログロブリンが5.5㎎/ℓ以上 |
Ⅱ期には以下の2つが含まれる。
・血清β2ミクログロブリンが3.5㎎/ℓ未満で、血清アルブミンが3.5g/㎗未満のもの。
・血清アルブミン値に関わらず、血清β2ミクログロブリンが3.5㎎/ℓ以上、5.5㎎/ℓ未満のもの。
(注)最近、R-ISS分類も併用され、LDH値と染色体異常が加わりました。
1-5.血液がんの再発
白血病
治療によって白血病細胞が減少し、ある基準を下回る状態になった場合、寛解※が得られたと判定されます。ただし、これは治癒ではないため、再び白血病細胞が増殖を始め、白血病が再発することがあります。
※寛解:症状が一時的に軽くなったり,消えたりした状態
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫でも再発は起こります。検査でがん細胞が認められなくなっていても、再発してくることはあります。再発した場合、悪性度の高い悪性リンパ腫になっていることもあります。
多発性骨髄腫
治療でよくなっていても、再発することがよくあります。造血幹細胞移植※がうまくいった場合でも、再発することがあります。
※造血幹細胞移植:健康な造血幹細胞を移植して正常な血液を作るようにする治療法