(がんの先進医療: 2014年4月発売 13号 掲載記事)

コラム

愛犬(かぞく)のがんを考える―最良の治療を選択するために

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラムです。

(2014年.vol14)

私たちに癒しを与えてくれる犬は、核家族化が進んだ現代人にとってかけがえのない「家族の一員」として、注がれる愛情も格段に深くなっている。そして、そうした愛情を注ぐ飼い主で、犬のがん治療に悩む人たちが増えている。

獣医療の進化に伴い、犬の平均寿命は、数年前は11歳だったのが今では13歳を超えてきている。人間で言うと8年から12年ほど延びたことになる。平均寿命が延びたことで死亡原因として多くなってきたのが「がん」だ。10歳以上では50%の死亡原因はがんであり、犬の死亡原因の第1位になっている。 がんの原因は、老化、紫外線、ウイルス、ホルモン、遺伝などが考えられており、特に遺伝では犬種によって2~15%ほどの差があるとわかっている。

治療法としては、外科療法、化学療法、放射線療法、最近では免疫細胞療法などがあり、人の治療法とほぼ変わらないさまざまな治療法があり、それが飼い主の人たちを悩ませる理由にもなっている。

犬は自分で治療法を選ぶことはできない。

「苦しい治療をするくらいなら家で少しでも長く飼い主と一緒にいて、最期を看取ってほしい」と主張することはできない。飼い主の人たちは、これは本当に犬が望んでいる治療なのか、自分たちのエゴではないのかと悩みながら決断しなくてはならないのだ。

ある飼い主の人は、医者にまだ手術できると言われ、「長く一緒にいられるのなら」という一心で2度目の手術を行ったが、開腹してみて手術ができないということで閉じることになった。化学療法などを行ったが目に見えて弱ってしまい、最期を迎えた後も深く後悔したという。

また、保険がきかない犬のがんの治療費は高い。手術では1万円~数十万円、抗がん剤では1回につき2万~3万円、放射線は1回1万~5万円(全20回ほど)だ。入院費用は犬種やケアの充実度にもよるが、1日2000円~5000円ほどである。

どのようながん治療を行うか否かの判断は、人間と同様、獣医の飼い主への十分なインフォームド・コンセント ( 十分な説明に基づく同意 )がベースにあり、治療方法、寛解・根治率、治療期間、治療リスク、費用すべてにおいてきちんと議論し納得したうえで方針を決めることが大切なのだ。

そういう辛い事態になる前にできることがある。犬のがんで、精巣がん、卵巣がん、乳腺がんは去勢、避妊手術などで予防することができるのだ。

また、人間同様、早期発見・早期治療はとても大事で、犬のがん細胞の倍加時間は人間が30日程度なのに対し、犬は2~7日だという。つまり、人よりも犬のがんは進行がとても速いのだ。10歳を超えたら検診を年に1回するべきだという。

検診でなくても、がんによる症状は、体重の減少、食欲の不振、リンパ節の腫れ、運動を嫌がる、慢性的にぐったりしている、持続的な微熱などで出てくるので、普段からスキンシップしている際に注意し、チェックを習慣づけることが大切だ。

犬は私たちよりも寿命が短い。飼い主になった以上は、必ず死に向かいあわなくてはならない時が来るのだ。愛犬が最期の時にどう考えていたか、私たちは知ることはできない。 犬の病気と治療について勉強し、たくさん悩みながら一緒に過ごしていくその過程をいかに真摯に取り組んだか、それが愛犬の死と向かい合う唯一の方法なのかもしれない。

フリーライター 奈津野 亜希子さんのコラム

  • イラストで理解できるがんと免疫

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