第52回日本癌治療学会レポート
がん治療の効果を高める「免疫抑制の解除」の最前線
免疫力を高める方法が変わる 世界的に注目を集める話題を取材

癌治療学会

がん治療を変える.免疫抑制の解除への大きな期待と課題

8月28~30日の3日間にわたり、「第52回日本癌治療学会」が横浜市で開催された。がんの治療に関する日本最大級の学会で、毎年、がん治療に関する最新の研究報告が行われている。今回も多くの注目すべき発表があった。

なかでもシンポジウム11「免疫逃避機構の克服に向けた新しいムーブメント」では、免疫抑制の解除に関する興味深い発表が行われた。免疫抑制の解除は、ここ数年、世界的に注目が集まっている期待のがん治療である。会場は、立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。

シンポジウムの冒頭、座長を務める埼玉医科大学教授の柴田氏から、がん免疫療法の現状に関して、次のような内容の話があった。

がんに対する治療効果を高めるには、がん患者の免疫力低下の主な原因である免疫抑制の解除が重要であるということがわかり、研究が進められてきた。そして、ここ数年、複数の免疫抑制解除薬が、がんの治療薬として国内外で承認されている(表1)。

シイタケ菌糸体摂取による免疫抑制解除と腫瘍増殖抑制

こうした動きが、今後のがん治療を大きく変えることになるだろうと期待されている。しかし、その一方で、がん患者の免疫力を低下させる免疫抑制の主な原因であるTreg(制御性T細胞)やMDSC(骨髄由来免疫抑制細胞)などの免疫抑制細胞を克服する方法は、まだ確立されていない。今回のシンポジウムでは、それらをテーマにした5題を選んでいる。

がん患者の体内は、免疫抑制状態になっている

学会で発表された内容を理解しやすくするため、がんにおける免疫抑制とその解除について、簡単に説明しておこう。

私たちの体には免疫力が備わっていて、体内の異物を排除してくれている。免疫は、がん細胞も異物として認識し、それを排除する力を持っている。この免疫の力を利用する治療法が、がん免疫療法である。しかし、これまでのがん免疫療法の効果は、必ずしも十分とはいえなかった。

その理由を探る研究が進められた結果、がん患者の体内では、免疫抑制細胞が異常に増えるなどして、免疫抑制状態になっていて、免疫力が低下していることがわかってきた。この状態に陥ると、免疫の力が弱まって、免疫の力でがんを排除することができなくなってしまうのである(図1)。

がんと免疫力低下,免疫抑制の関係

免疫の力による がん治療が実用化の段階にきた

逆に、免疫抑制をを解除することができれば、免疫が正常に機能し、免疫の力でがんを排除できると考えられる。そこで、免疫抑制を解除する作用を持つ医薬品などの開発が進められてきた。その結果、一部の薬剤でがんに対する効果が認められ、近年、国内外で医薬品として承認されることになった。こうして実用化の段階に入ったのである。

こうした一連の研究が評価されて、「がんの免疫療法」は、世界的な科学雑誌である『サイエンス』が、科学におけるブレイクスルーに貢献した研究成果を毎年発表する「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー」の2013年のトップに選ばれた。この事実からも明らかなように、免疫抑制とその解除は、多くの研究者の注目を集め、がん治療の成功につながると期待されている分野なのである。

しかし、これまでに承認された医薬品は、免疫抑制の主な原因である免疫抑制細胞の異常増加に対して、直接対抗するものではない。今後は、免疫細胞の異常増加に直接対抗する治療法の開発が期待されている。

免疫抑制細胞が、治療の予後や再発に影響する

免疫抑制細胞の研究は、現時点でどこまで進んでいるのだろうか。前出の柴田氏の発表によれば、次のようなことが明らかになってきたという。
さまざまな種類のがんで、免疫抑制細胞(MDSC)は、がんの進行とともに増加する。患者の血液中の免疫抑制細胞と予後の関係を調べてみると、免疫抑制細胞が多い患者ほど予後が悪く、少ない患者ほど予後がよいことが明らかになった。たとえば、ステージ4の大腸がんでも、免疫抑制細胞の少ない患者では予後がよかったという。

乳がんでは、手術でがんを取り除くと免疫抑制細胞は減少するが、再発した患者では、再び増加していた。こうしたことから、免疫抑制細胞の増加は、再発とも関係すると考えられるそうだ。
山口大学大学院准教授の硲彰一氏によれば、がんペプチドワクチン療法にも、免疫抑制の解除が重要であることがわかってきたという。

硲氏らは、進行した大腸がん患者を対象に、がんペプチドワクチン療法の臨床試験を行った。その結果、がんによる炎症の程度が弱く、免疫抑制がそれほど強くないと考えられる患者では、延命効果が認められた。今後、より多くの患者が、がんペプチドワクチン療法の効果を得られるようにするには、炎症と免疫抑制の克服が重要だという。

免疫抑制細胞を減少させる 医薬品開発の最前線

増えてしまった免疫抑制細胞を減らすには、どうしたらよいのだろうか。

前出の柴田氏は、抗がん剤や抗炎症薬の中にも、免疫抑制細胞を減らし、低下した免疫力を高める効果が期待できるものがあると語っている。今後、こうした薬の効果を検証していくことが、期待されているということだった。

名古屋市立大学大学院准教授の石田高司氏は、がん治療薬であるモガムリズマブを、免疫抑制細胞(Treg)の除去薬として利用できないかという研究を行ってきた。モガムリズマブは、CCR4陽性の成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)という血液がんの治療に使われている薬である。モガムリズマブは、白血病細胞の表面に出ているCCR4というたんぱく質と結合し、その細胞を殺す働きをする。

免疫抑制細胞もCCR4を細胞の表面に持っているため、モガムリズマブで、免疫抑制細胞が除去できるのではないかというのである。

標準治療で効果のなかった肺がんや消化器がんの患者を対象に、2013年から臨床試験が始まっている。まだ試験が進行中の段階だが、肺がんの患者で、がんの進行が抑えられた症例が確認できているという。

また、東京大学教授の松島綱治氏は、抗CD4抗体という抗体薬を使用して、免疫抑制細胞(Treg)を除去する治療法について、治験の準備を進めているという。結果が出るのはまだ数年先になるが、期待が寄せられている。
ただし、これらの抗体薬は副作用を伴う場合があり、その軽減も重要な課題である。

より簡易な方法で 免疫抑制の解除を目指す

島根大学教授の原田守氏は、患者の負担がより少ない治療方法で、免疫抑制を解除できないだろうか、という方向で研究を進めてきた。抗がん剤や経口免疫賦活製剤(免疫力を高める薬剤)を使用する方法である。

シクロフォスファミドやゲムシタビンは、現在広く用いられている抗がん剤である。これを通常よりも低用量で、適切な間隔をあけて投与すると、免疫抑制細胞(MDSC・Treg)の異常増加が抑えられ、低下した免疫力が回復することで、抗がん剤としての治療効果が高まる可能性がある、という研究結果が報告された。

さらに、経口免疫賦活製剤のLEM(シイタケ菌糸体エキス)も期待が持てるようだ。がんを移植したマウスにシイタケ菌糸体エキスを経口投与すると、免疫抑制細胞(Treg)の異常な増加が抑制され、低下した免疫力が回復し、がんの進行が抑えられたのである。

また、シイタケ菌糸体エキスをがんペプチドワクチンと併用してみると、やはり免疫抑制細胞の異常な増加が抑えられ、低下した免疫力が回復し、治療効果が高まることが明らかになった。さらに、シイタケ菌糸体エキスを低用量のゲムシタビンと併用した試験でも、抗がん剤の治療効果が高められていた。

こうした結果から、抗がん剤の低用量投与とシイタケ菌糸体エキスの利用は、免疫抑制を解除し、患者本来の免疫力を導き出す簡便で汎用性のある治療法となる可能性があるという。

シイタケ菌糸体摂取による免疫抑制解除と腫瘍増殖抑制

免疫抑制の解除で がん治療が大きく変わる

がんを免疫の力で治す治療法は、期待されながらも、なかなかそれに見合う成果を上げられずにきた。しかし、がんの治療効果を高めるには、免疫抑制を解除し、低下した免疫力を回復させることが重要であるということが明らかになってから、この分野の研究は急速に進みつつある。研究に対する注目度も高く、この日のシンポジウムにも、多数の研究者や医療従事者が集まっていた。

そして、免疫抑制を解除できるようになれば、がんの治療が大きく変わる可能性があるという期待感が、研究に拍車をかけている。今回の5人の研究者による発表でも、免疫抑制細胞の異常増殖を抑える方法の研究が、着々と進んでいることが明らかになった。
今後ますます研究が進むことで、がん治療が大きく変わる可能性がある。

本記事に関連するキーワード

, , , , , , , , , , , ,