特報:第20回日本補完代替医療学会学術集会レポート
がん領域でエビデンスレベルの高い天然素材の研究に注目が集まる
科学的エビデンスのしっかりした研究報告が増えてきた
第20回日本補完代替医療学会学術集会が、帝京国際大学の池袋キャンパスで開催された。この学会は、機能性食品を中心に、補完代替医療に関する最新の研究情報や臨床情報を提供している学会である。今回の学術集会は、比較統合医療学会との合同開催だった。
補完代替医療に関わる多くの研究発表が行われたが、今回の学術集会で印象的だったのは、科学的エビデンスのしっかりした研究報告が増えてきたことだった。
補完代替医療分野の研究は、ともすれば試験管レベルの研究や動物試験の報告、あるいは症例研究に偏りがちである。しかし、いくつかの天然素材に関しては、動物試験からヒトを対象とした安全性試験に進み、さらに臨床試験で有効性を確認する段階まで進んできているものもある。
特にがんの患者さんを対象にしたシイタケ菌糸体の臨床試験では、ランダム化比較試験(二重盲検試験)※も行われており、エビデンスレベルの高い研究成果が報告されている(表1・表2)。
表1 エビデンスレベル(ヒト試験でのエビデンスのみ)
表2 がん関連の研究素材
今回は、しっかりしたエビデンスを構築しているがん領域の研究にスポットを当て、紹介していくことにする。
※ ランダム化比較試験(二重盲検試験):患者を2グループに分け、どちらのグループに試験薬とプラセボ(偽薬)のどちらを与えたのか、医師(観察者)も患者もわからないようにして行うエビデンス(科学的根拠)が高い試験方法。
シイタケ菌糸体で二重盲検試験
■特別講演
『シイタケ菌糸体抽出物とその有用性』
シイタケ菌糸体抽出物(以下、シイタケ菌糸体)については、これまでにもがん領域での有用性に関する研究が続けられてきている。動物試験や安全性試験などの基礎的な研究に続き、がんの患者さんを対象にした臨床研究も長年にわたって続けられてきた。
たとえば、免疫療法を行っている胃がん、大腸がん、食道がん、乳がんなどの患者さんを対象に、シイタケ菌糸体を4週間摂取させた臨床研究が行われている。その結果、QOL(生活の質)のスコアが向上することが明らかになった。また、免疫機能の指標であるINFɤ(インターフェロンガンマ)が維持・上昇している人を調べてみると、血液中の免疫抑制細胞(Treg:ティーレグ)が減少していることがわかった。
乳がんの術後ホルモン療法を受けている人を対象に、シイタケ菌糸体を併用した臨床研究では、QOLのスコアが上昇するという結果が出ている。また、INFɤの値は、シイタケ菌糸体を摂取する前に低かった人で特に改善することが明らかになった。
乳がんの術後補助化学療法を受けている人を対象に、シイタケ菌糸体を併用し、免疫の指標であるNK活性※がどう変化するかを調べた研究もある。通常は抗がん剤を投与するとNK活性は低下するのだが、シイタケ菌糸体を併用するとNK活性の低下が抑えられることがわかった。また、抗がん剤治療はQOLも低下させるが、これもシイタケ菌糸体の投与で回復することが明らかになっている。
※NK活性:NK(ナチュラルキラー) 細胞が、がん細胞などの標的細胞を認識し破壊する能力。自然免疫力の評価に用いられる。
ランダム化比較試験(二重盲検試験)が行われたのは乳がんの術後補助化学療法を受けた患者さんを対象とした臨床研究である。対象となったのは、乳がんで根治的な手術を行うことができた患者さん43人で、この人たちを「化学療法+シイタケ菌糸体」のシイタケ菌糸体群(21人)と、「化学療法+プラセボ」のプラセボ( 偽薬)群(22人)に分け、それぞれの治療が行われた。その結果、プラセボ群のQOL(活動性)は低下したが、シイタケ菌糸体群ではQOL(活動性)の低下が抑えられることが明らかになった(図1)
図1 QOL(活動性)の推移
。また、シイタケ菌糸体群では、プラセボ群に比べ、免疫抑制細胞(Treg:ティーレグ)の増加が抑制される傾向を示していた(図2)。
図2免疫抑制細胞(Treg:ティーレグ)の変化
さらに、さまざまながん種の患者さんを対象に、4週間のシイタケ菌糸体摂取がQOLにどのような影響をもたらすかを調べた多施設での研究も行われている。それにより、QOLの改善傾向が示されたが、特にⅢ期、Ⅳ期の患者さんで改善の傾向が強いという結果だった(表3)。
表3 対象者の詳細
このように、シイタケ菌糸体については、ランダム化比較試験(二重盲検試験)や多施設協同試験が行われている。レベルの高いエビデンスが構築されている点は、高く評価されてよいだろう。
きちんと段階を踏んだ研究によるエビデンス
■特別講演
『ガゴメ昆布フコイダンの免疫賦活作用』
がん領域におけるガゴメ昆布フコイダンについては、科学的なエビデンスが着実に積み上げられてきた経緯がある。まず、がんを移植したマウスに対して用量依存的に腫瘍の増殖を抑制することが明らかになり、その抗腫瘍効果のメカニズムを解明するため、ガゴメ昆布フコイダン摂取によるNK活性やINFɤを調べる研究が行われた。それにより、抗腫瘍効果には、NK活性やINFɤが関与することが明らかになっている。
こうした基礎的研究に加え安全性試験が行われ、臨床試験へと進んでいった。
がん治療を終えた人や抗がん剤やホルモン剤を使用中の人を対象とした8週間の摂取試験では、NK活性の上昇が認められた。
婦人科系がんの既往者を対象に、ガゴメ昆布フコイダンを4週間摂取する試験では、摂取1週間目においてNK活性の上昇傾向が認められた。また、QOLに関しては、疲労感の軽減傾向が認められている。
また、血液中のサイトカインを調べてみると、IL– 7(インターロイキン7)、IL–17(インターロイキン17)、Eotaxin(エオタキシン)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)など※の減少が認められ、腫瘍が増殖しにくい環境になっている可能性が示唆された。
※IL–7、IL–17Eotaxin 、VEGF:いずれもがんの増殖に関わると報告されている因子。炎症の誘導、免疫細胞の遊走、血管の新生などに関わる。
このように、ガゴメ昆布フコイダンに関しては、きちんと段階を踏んで研究を行い、がん領域における有用性のエビデンスを構築してきた経緯がある。今後、さらにエビデンスが積み上げられていくことが期待されている。
がんに対する天然素材の興味深い報告
今回の学術集会では、天然素材のがんに対する作用を研究した報告がいくつかあった。興味深かったのは、次のような研究である。
『がん特有の代謝・炎症を考慮したがん治療~紅豆杉(こうとうすぎ)投与症例の報告も含めて~』
紅豆杉は中国雲南省に群生するイチイの木から抽出された物質で、活性酸素除去作用や抗腫瘍効果が報告されている。この紅豆杉を、転移を有する進行性大腸がん、大腸がん術後再発、手術不能進行膵がん、膵がん術後再発、胃がん術後再発などの患者さんに投与した。いずれも進行期あるいは再発がんであったにも関わらず、QOLを損なうことなく良好な経過を示した。
『霊芝菌糸体培養培地抽出物(MAK)の抗腫瘍効果とそのメカニズムの解析』
黒色腫メラノーマの細胞を移植したマウスにMAKを摂取させ、黒色腫メラノーマの腫瘍重量の変化を調べた。MAKを摂取することにより、抗腫瘍効果が示された。また、マウスのINFɤが増加し、免疫抑制細胞(Treg:ティーレグ)は減少していたことから、この抗腫瘍効果には免疫が関与していることが示唆された。
『カツオ節菌産生化合物の抗酸化
作用とがん予防作用』
カツオ節の製造に利用されるカツオ節菌は、抗酸化物質を産生する。それらの中で2種類の物質(flavoglaucin とisodihydroauroglaucin)について、皮膚がんの発がんモデルマウスを使い、この物質の発がん予防効果を調べた。これらの物質を皮膚に塗布した群と、塗布しなかったコントロール群とを比較したところ、腫瘍の発生率や腫瘍の数から、がん予防作用が確認された。
『健常者におけるシイタケ菌糸体抽出物配合顆粒の免疫機能維持・改善作用』
シイタケ菌糸体は、がんなどで免疫機能が低下している状態で摂取することにより、免疫機能やQOLの低下を抑制することが複数報告されている。
この研究では、健常者を対象にシイタケ菌糸体の20週間連続摂取の影響を調べた。その結果、INFɤが上昇する傾向が観察され、健常者に対しても免疫機能の維持・改善に寄与する作用を持つことが示唆された。シイタケ菌糸体の新たな可能性を引き出す研究と言えるだろう。
医薬品レベルの試験など補完代替医療はさらに進歩
がん領域における補完代替医療が進歩していくためには、しっかりした科学的エビデンスを積み上げていく必要がある。そういう点から見ていくと、今回の学術集会には、長い年月をかけて研究を継続し、基礎的な研究から臨床研究へと段階を追って進み、着実にエビデンスを構築している研究が目についた。
特にランダム化比較試験(二重盲検試験)のように、医薬品レベルの試験も行われているのには驚かされる。こうした傾向が続いていくことで、がん領域における補完代替医療がさらに進歩していくことを期待したい。