(がんの先進医療: 2019年7月発売 34号 掲載記事)

山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第8回 )
そこが知りたい「がん免疫療法」
初代厚生労働大臣
「免疫の力でがんを治す患者の会」会長・坂口 力氏に訊く

 がんの治療技術が高まっている今、注目されているのが「がん光免疫療法」ではないでしょうか。2012年にオバマ前大統領が一般教書演説で「がん細胞だけを殺す新しい治療法が実現しそうだ」と紹介し、米国で研究が進められてきました。2018年には日本での治験が国立がん研究センター東病院で始まりました。承認されれば奏効率も高く、QOLもよく、保険も適用できるという、まさに夢の治療法になりそうです。
 連載8回目は初代厚生労働大臣に就任され、免疫療法で大腸がんを克服された後、「免疫の力でがんを治す患者の会」を設立した坂口力氏に話を聞きました。

坂口 力(さかぐち・ちから)
1959年3月に三重県立大学医学部卒業。翌年に医師免許を取得。1964年7月より三重県赤十字血液センターに勤務。1972年12月に衆議院議員に初当選。2000年12月に森内閣の厚生大臣と労働大臣を経て、2001年4月に省庁再編により初代厚生労働大臣に就任。2004年9月に厚生労働大臣を退任。2009年7月に大腸の回盲部にがんが見つかる(手術後、化学療法を行わず免疫細胞療法を選択)。2012年11月に政界を引退。2016年9月に「免疫の力でがんを治す患者の会」を設立。

坂口 力(さかぐち・ちから)
1959年3月に三重県立大学医学部卒業。翌年に医師免許を取得。1964年7月より三重県赤十字血液センターに勤務。1972年12月に衆議院議員に初当選。2000年12月に森内閣の厚生大臣と労働大臣を経て、2001年4月に省庁再編により初代厚生労働大臣に就任。2004年9月に厚生労働大臣を退任。2009年7月に大腸の回盲部にがんが見つかる(手術後、化学療法を行わず免疫細胞療法を選択)。2012年11月に政界を引退。2016年9月に「免疫の力でがんを治す患者の会」を設立。

構成●宮西ナオ子
撮影●早坂 明

10年前に大腸がんが見つかり手術。しかし、抗がん剤や放射線治療は受けなかった

山田
坂口先生は大腸がんになられてから何年が経過するのですか?

坂口
2009年でしたから、もう約10年になりますね。

山田
私が乳がんになったのは2007年ですから同じ頃ですね。調子はいかがですか?

坂口
今はまったく何もありません。私の場合は回盲部分といって、盲腸があるところでした。検査をしてもなかなか内視鏡が届かず、すぐにはわからなかったのです。

山田
検便でもわからなかったのですか?

インタビューは2019年6月27日(木)、太田プロダクション大会議室において行われた

インタビューは2019年6月27日(木)、太田プロダクション大会議室において行われた

坂口
検便も1~2回出しましたが、その時も何もなかった。潜血反応もなかった。

山田
兆候はなかったのですか?

坂口
まったくありませんでした。でも内科では血液が薄いと言われた。ほかの先生に聞くと年のせいだということでしたが、不整脈で診てもらっていた内科の先生に「精密に調べたほうがよい」と勧められた。しかし何度検査しても悪いところは出てきません。最終的には、飲み込む内視鏡で何千枚という写真を撮りました。

山田
口から飲んで、腸の中を見た? すごい大がかりな検査ですね。

坂口
そこで小腸の最終部分に出血が見られ、回盲部にがんができていたのが発見されたのです。見つかるまで半年かかりましたね。

山田
その間、あきらめなかったんですね。

山田邦子 東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

坂口
よい先生に巡り合いました。その先生が執拗に言ってくれたおかげで命拾いした。

山田
がんが発見されてからすぐに手術をされたのですか?

坂口
当時の私は政治家でスケジュールがたてこんでいました。そこで手術までの1週間にスケジュールをこなし、朝一番で病院に行ったのです。4~5日検査をしてから、2009年7月末に2時間くらいの開腹手術を受けました。

山田
年齢がいってからの開腹手術は体力的にもリスクが大きいのではないですか?

坂口
開腹するか内視鏡で手術するか問われましたが、がん細胞が残るのが不安だったのです。15日間入院して8月15日に退院をしました。翌日から国会に出て、涼しい顔をして仕事をしました。

山田
そこからは放射線治療や抗がん剤に進みますが、それをされなかったのですね。

坂口
医師が抗がん剤をするかどうか訊きました。私は先生が勧めるならば考えますと申し上げたら、先生は「悪いところは取り除いた。今後、抗がん剤をして再発する率は60%。しなくても65%だ」と言うのです。5%の差なので、あなたに選択してほしいと言われた。私は抗がん剤をしないことを選択し、医師と合意した。このときの先生の決断、患者に対するものの言い方には感銘していますね。

半年間、免疫細胞療法を試みた

山田
その後、何かほかの治療をされましたか?

坂口
そのときに免疫療法について聞きましたが、当時は「勧められない」と言われ、何もしませんでした。しかし数カ月経過してやはり心配になり、有名な免疫療法の先生に連絡し、免疫細胞療法を試みることにしたのです。

「がんの光免疫療法は、正常細胞には影響を与えず、がん細胞のみを死滅させる画期的な治療法です」

「がんの光免疫療法は、正常細胞には影響を与えず、がん細胞のみを死滅させる画期的な治療法です」

山田
それはどのような療法なのですか?

坂口
大きく分けて免疫療法全体の中の一つに免疫細胞療法があると考えてよいと思いますが、免疫細胞療法は、採血により自分の身体のなかにある免疫細胞を体内から一度取り出して、それを培養し、増殖・活性化させて再び体内に入れるというものです(図1)。

図1 免疫細胞療法

図1 免疫細胞療法

坂口
つまり、がん細胞に対して闘う兵隊を増やして体内に入れるというわけですね。これを半年間、月に一度実施しました。

山田
効果について何か実感しましたか?

坂口
体力がついてきたのを感じ、体が楽になったと思いました。それ以上のことはわからなかった。でも先生がおっしゃるには、特に外科手術をした人が免疫細胞療法をすると非常に効果があるということでした。時には抗がん剤と併用している場合もあると思いますが、この療法は民間療法の部類に入るために病院で相談すると、拒否されることが多いと思います。

山田
そうなりがちですね。民間療法は効果や安全性の面で問題があるのではないかという報道も多いですから。

坂口
それに多くの医者は、自分がやっている療法を優先する傾向にあります。たとえば、薬を出すにしても自分が使い慣れている薬が一番良いと思っている。がんに対しても自分が扱っているものが一番だと思っているので、ほかの治療に対して見向きもしない。違う治療をやりたいと言うと、それなら、よそに行ってほしいということになる。これでは患者に選択の余地がありません。もう少し患者目線に立った医療機関にしてほしいと思います。

山田
治療法は個々人によって異なりますから、一人一人に向き合ってほしいですね。

坂口
特にがんは患者からすれば、いわゆるQOL(生活の質)が高ければよいわけで、元気に普通の生活ができる期間がどのくらいあるかが大切です。しかし医者は、QOLよりもがんの大きさが小さくなるかどうかに集中しがちだと思いますね。

免疫細胞療法で助かった患者さんやご家族の方々と出会い、「免疫の力でがんを治す患者の会」を設立

坂口
手術後、主治医からは余命宣告されませんでしたが、若い先生から3年と言われました。それが、いつのまにか3年たち、5年たち、今や10年が経過したというわけです。

山田
がんを克服されたということでしょうね。免疫細胞療法が効果をなしたのですね?

坂口
かなり効果があったのではないかと思っています。そして、免疫細胞療法を受けたほかの患者さんやご家族と話すようになりました。免疫細胞療法で助かった方もいますし併用療法でがんと共存する人もいます。人それぞれですが、延命されている人にもたくさん会いました。そこで2016年9月に「免疫の力でがんを治す患者の会」を設立したのです。

山田
全国でセミナーなどをされているわけですね。会員数はどのくらいいらっしゃいますか?

坂口
約100名です。去年(2018年)は北海道で地域の大学病院と連携をとり免疫細胞療法について説明したり、みなさんからの質問に答えたりしました。今年になり、もう一度初心に返ってみなさんのお声を聴こうと思っています。

山田
がんになって困っていることや嬉しかったことなど患者さんが一番よく知ってますからね。とはいえ免疫細胞療法は保険がきかず、治療費が少しお高いですね。

「がんの治療法も日進月歩ですが、今、注目されている『がんの光免疫療法』について教えてください」

「がんの治療法も日進月歩ですが、今、注目されている『がんの光免疫療法』について教えてください」

坂口
そこを厚労省に訴えたいのです。先日も抗がん剤と免疫細胞療法を併用しても混合診療として認められるように大臣に申し出ました。混合診療の場合、少なくとも保険に入っていないところは自己負担してもいいから、保険の領域に入っているところは保険適用にしてくださるようにお願いしています。

(編集部注:免疫細胞療法に関して、一部の医療機関では「先進医療」として承認されている。その場合、検査や入院などの医療費は保険が適用され、免疫細胞療法の費用は全額自己負担となる。)

坂口
当会の設立目的も、免疫細胞療法が国からの臨床研究費などを得て、ますます研究が進み、保険の対象になることを掲げています。そして患者が多大な経済的負担を強いられなくても受けられる治療としての普及を目指しています。

光免疫療法は、がん治療に革命を起こすと思っている

山田
がんの治療方法も日進月歩ですが、今、注目されている光免疫療法について教えてください。

坂口 
これは、がん細胞のみを死滅させる画期的な治療法です。最初にがん細胞を標的とする抗体(分子標的薬)が発見されました。患者さんに対してこの抗体を予測し、IR700という光吸収体を結合した複合体を患者さんに注射した後、近赤外線をあてると、光吸収体ががん細胞内で熱を発する物質に変化して、がんを物理的に破壊するのです(図2)。

図2 がん細胞のみを破壊させるメカニズム

図2 がん細胞のみを破壊させるメカニズム

山田
ピンポイントで直撃するのですね?

坂口
そうです。ここで急激な細胞破壊により放出された腫瘍抗原により免疫が活性化します。周辺の免疫の司令塔である樹状細胞が活性化し、免疫細胞のT細胞が分裂・増殖します。また光が届かない部位のがん細胞にも有効性を示すであろうと期待されています。

山田
それはすごいですね。

坂口
2018年に国内での治験が国立がん研究センター東病院で始まりました。私も昨年末に実際にアメリカ国立衛生研究所(NIH)で研究されている小林久隆主任研究員からお話を伺ったところ、たぶん日本で承認されるのは今年の暮れ、遅くとも来年(2020年)の初めには承認されるのではないかという話でした。それほど研究は進んでいるし、治験も進んでいます。

山田
がん細胞を直接破壊することの他に何か特性はありますか?

坂口
がん細胞を守る免疫抑制細胞(制御性T細胞)を破壊することもできます。この細胞は、がん細胞の近くで、免疫細胞の攻撃を邪魔するがん細胞の番犬のようなものです。先ほどの話と同様、複合体を投与し、近赤外線をあてると、この免疫抑制細胞が破壊され、免疫が活性化します(図3)

図3 がん細胞を守る免疫抑制細胞(制御性T細胞)を破壊するメカニ
ズム

図3 がん細胞を守る免疫抑制細胞(制御性T細胞)を破壊するメカニズム

坂口
この2つを同時に併用する治療法が効果的といわれます。研究室では、マウス実験でこの2つを同時併用する治療法を確立しています。

(編集部注:1カ所のがんを1回治療するだけで全身の転移がんも治療し、しかも治療したがん細胞に対するワクチン効果で2度と再発させない方法に仕上げると言われている)

山田
どのくらいの効果があるのですか?

坂口
小林先生の話ですと、光免疫療法は、8割から9割の人に効くということです。

山田
おおおお。素晴らしい!

坂口
すでに米国で首から上の再発頭頸部のがん(喉、口、耳、顎など)にできる扁平上皮がんで、3大療法ができない方を7名選びこの治療をしたところ、5名は治りました。1名は頸動脈のがんは治ったものの、頸動脈が破裂して出血多量で亡くなりました。一人だけはうまくいかなかったのですが、7名中5名が治ったわけです。

(編集部注:現在臨床試験が進んでいるのは、頭頸部がんで、内視鏡を使わなくても身体の外から光を当てられるのが主な理由)

山田
すごい結果ですね。

坂口
光免疫療法はがん治療に革命を起こすと思っています。楽天の三木谷浩史社長が大変支援をされているとのことです。心強い限りです。素晴らしい研究には、一線級の経営者が財政的支援をする見本が生まれつつある、と考えています。

山田
もはやがんでは死なない時代がくるのですね。副作用はないのですか?

対談を終えたあと、記念撮影

対談を終えたあと、記念撮影

坂口
副作用もほとんどないと聞きます。それに神の手を持っている人だけの治療法ではなく誰でもどこの病院でも可能です。しかも保険適用ができるので、患者さんは多額な費用を負担しなくてもよくなるでしょう。これでがん治療が大きく様変わりすると思います。

山田
嬉しい時代がやってきましたね。ところで先生は現在、東京医科大学で統合医療研究講座をされていますね。

坂口
はい。免疫力を高める方法として、食事療法やサプリメント、鍼灸などを医療に組みわせることが大切だと思っており、それらを講座で伝えています。

山田 やっぱり免疫力を高めるための組み合わせが必要なんですね。これからもお元気でご活躍ください。本日はありがとうございました。

本記事の関連リンク

山田 邦子●やまだ・くにこ● 1960年東京生まれ。タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京生まれ。タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

山田邦子のがんとのやさしい付き合い方

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