(がんの先進医療: 2022年4月発売 45号 掲載記事)

山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第19回)
そこが知りたい 〝がん治療・再発予防〟のための
「漢方薬と漢方に基づく食事療法」

 がん治療の中でも注目されている「食養生(食事)」。漢方理論に基づいた治療や食事療法について日本薬科大学学長であり、百済診療所の丁宗鐵院長にお話を聞きました。漢方医学特有の診断方法で一人一人の体質を「実証」「虚証」「中庸」などに見極め、患者さんの病状を総合的に診断し、個々に合ったオーダーメイドの漢方薬を処方されています。また日常生活で気を付ける食習慣や生活習慣の改善ポイントを指導されています。今回は日常生活にも役立つヒントが満載のお話でした。

丁 宗鐵(てい・むねてつ)
1947(昭和22)年東京都に生まれる。横浜市立大学医学部入学後、学生サークル東洋医学研究会部長として活動。同大学大学院在学中に国立がんセンター研究所研修を経て、大学院修了後に北里研究所に入所。同研究所東洋医学総合研究所研究部門長、米国スローン・ケタリング癌研究所客員研究員、東京大学大学院生身体防御機能学助教授、東京女子医科大学特任教授を経て、現在日本薬科大学学長、百済診療所院長。テレビ、ラジオ出演も多い。国際東洋医学会(ICOM)理事、 東亜医学協会理事、元編集委員長、日本東洋医学会漢方専門医・指導医、 和漢医薬学会元理事、未病システム学会第11回学術総会会長・常務理事、 日本医史学会・臨床薬理学会・日本老年病学会評議員、日本統合医療学会評議員、日本抗加齢学会・バイオセラピー学会・EBM for Natural Products 推進協議会会長。WHO 元顧問 アドバイザー。著書に、『がんを治す「戦略的組み合わせ療法」』(二見書房)、『がんの嫌がる食事』(創英社、三省堂書店)ほか。主治医が見つかる診療所(テレビ東京)など出演。

丁 宗鐵(てい・むねてつ)
1947(昭和22)年東京都に生まれる。横浜市立大学医学部入学後、学生サークル東洋医学研究会部長として活動。同大学大学院在学中に国立がんセンター研究所研修を経て、大学院修了後に北里研究所に入所。同研究所東洋医学総合研究所研究部門長、米国スローン・ケタリング癌研究所客員研究員、東京大学大学院生身体防御機能学助教授、東京女子医科大学特任教授を経て、現在日本薬科大学学長、百済診療所院長。テレビ、ラジオ出演も多い。国際東洋医学会(ICOM)理事、 東亜医学協会理事、元編集委員長、日本東洋医学会漢方専門医・指導医、 和漢医薬学会元理事、未病システム学会第11回学術総会会長・常務理事、 日本医史学会・臨床薬理学会・日本老年病学会評議員、日本統合医療学会評議員、日本抗加齢学会・バイオセラピー学会・EBM for Natural Products 推進協議会会長。WHO 元顧問 アドバイザー。著書に、『がんを治す「戦略的組み合わせ療法」』(二見書房)、『がんの嫌がる食事』(創英社、三省堂書店)ほか。主治医が見つかる診療所(テレビ東京)など出演。

構成●宮西ナオ子
撮影●早坂 明

患者さん一人一人の状態や体質に合わせた治療が「漢方」

山田
 丁先生は「統合医療」に基づいて、漢方薬(表1・表2)と鍼灸、西洋医学を組み合わせ、さらには免疫療法と併用し、がんの再発予防にも実績をあげていらっしゃいますね。
表1 代表的ながん別の漢方処方

表1 代表的ながん別の漢方処方

表2 基本の処方に加えて免疫力を高める生薬

表2 基本の処方に加えて免疫力を高める生薬

私もがん経験者なので、再発については何年経過しても不安に思っており、食べ物にも気を付けていますが、体質にも関係があるとか? 先生はパッと見たときに、すぐに患者さんの体質などがわかるのですか?


 ある程度わかりますね。体格、声の大きさや張り、顔色、目の輝きなどから総合的に判断していきます。また脈の強弱や速さを見たり、舌の色や大きさ、形、舌苔の状態などを見ます。次に腹部を見ます。お腹やみぞおちを軽く押し、張り具合や痛み、お腹の力、緊張度などを確認してから、背中も見ます。
 ほかには話し方、体力があるのかどうかなどを総合的に見て、判断していきます。

丁宗鐡との対談は2022年3月3日(木)、アスリート・マーケティング㈱応接室にてオンライン方式によって行われた

丁宗鐡との対談は2022年3月3日(木)、アスリート・マーケティング㈱応接室にてオンライン方式によって行われた

山田
 興味深いですね。


 その後、漢方の考え方に沿って、患者さん一人一人の状態や体質に合わせ、オーダーメイドの治療法を提示していきます。これを服に例えると、服に身体を合わせる既製服が「標準治療」ならば、身体に合わせた服を仕立てるような柔軟性のある治療が「漢方」といえるでしょう。

山田
 先生のおっしゃる「体質」というのはどのようなものですか?


 漢方では体質を大きく「実証」「中庸」「虚証」の3つに分類しています。漢方医学の考え方は、どちらかに傾いた身体の中のアンバランスを整え、「中庸」を目指すというもので、その人にとって偏りのない状態にすることです。そのため「実証」と「虚証」は治療や養生の対象となります(表3)。

表3 実証タイプと虚証タイプの特徴

表3 実証タイプと虚証タイプの特徴

山田
 私はどうでしょう?


 こうして拝見しますと、山田さんはもともと「実証」ですね。声が大きい(笑)。一方、声が小さい人は「虚症」です。食欲が旺盛な人は「実証」、食が細い人、食べ方もゆっくりな人は「虚証」。脈が強く打っている人は「実証」、虚証の人は脈が弱い。エネルギーに満ち溢れ、疲れも感じないのが「実証」。頑強なエネルギッシュタイプですね。一方、「虚証」は体力がなく疲れやすい人ですね。

山田
 これは変わることもあるんですか?


 時には手術前は「実証」だった人が術後、「虚証」になったりすることもありますね。

食事は決まった時間に規則的に摂ったほうがよい

山田
 まずは食事の摂り方について知りたいです。毎日、決まった時間に規則的に食事をするほうがいいのですか?

東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」。近著に、2021 年3 月に刊行した〝やまだかつてない〟『生き抜く力』がある

東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」。近著に、2021 年3 月に刊行した〝やまだかつてない〟『生き抜く力』がある


 そうです。食事の時間を決めておくと胃腸が自然に動いてくれるようになるわけです。不規則になると身体の負担になり、自律神経が乱れる原因になります。

山田
 1日3食がよいですか?


 本来は3食がよいですが、私は朝と夕方の2食です。配分としては朝食はしっかり摂り、夕食は主食を抜いて控えめに。体脂肪の多い人は、夕食を控えることをお勧めします。
 また食べ方ですが、適量をゆっくり噛んでインスリンをきちんと分泌させることです。こうすれば消化にかかる負担を軽減させることができるからです。

山田
 まずは規則正しく、ゆっくり噛んで。そしてある程度年を重ねたら、先生ご自身が実践されているように1日2食ですね。

「本来は3食がよいですが、私は朝と夕方の2食です。朝食はしっかり摂り、夕食は主食を抜いて控え目に。体脂肪の多い人は夕食を控えることをお勧めします」

「本来は3食がよいですが、私は朝と夕方の2食です。朝食はしっかり摂り、夕食は主食を抜いて控え目に。体脂肪の多い人は夕食を控えることをお勧めします」

漬物は最低でも1日おきに食べて酵母を補給するとよい

山田
 次に、がん予防のための食事とはどのようなものでしょうか?


 「一汁二菜の和食」がお勧めです。まずは具だくさんの味噌汁をいただきます。塩分を薄めにしてください。ほかには魚か肉。おひたし、温野菜などを一緒に食べます。

山田
 お肉はどのくらいが適量ですか?


 100g以下がよいですね。肉は体力をつけ、免疫力を高めてくれますし、味噌漬けにすることで、たんぱく質が分解されますから消化が良くなり、虚証の人でも食べられます。
 また漬物は発酵食品ですから酵母発酵により大量のビタミンC を摂取できます。がん細胞はビタミンCを取り込むと弱っていきます。がん細胞にとっては毒性のデヒドロアスコルビン酸などの中間代謝物ができるからです。そこで糖分を制限している状態でビタミンCを摂取すると、がん細胞が間違えて取り込んでしまうというわけです。ですから漬物はぜひとも食べてください。

山田
 毎日食べたらいいですか?


 最低でも1日おきに食べて酵母を補給するとよいでしょう。酵母は腸内の善玉菌を増やし、腸の免疫促進作用を高めてくれますが、1週間くらい発酵食品を摂取しないと元に戻ってしまいます。漬物の他に魚の干物やキムチがお勧めです。またチーズ、ヨーグルト、発酵バターなどは摂り過ぎなければOKです。

山田
 乳製品が大好きなので嬉しいですね。

大型魚は食物連鎖を通じて有害ミネラルが多く含まれている

山田
 私は釣りをしますので、魚はよく食べますが、大きい魚が好きなんです。


 大型魚は控えるほうがいいですね。有害ミネラルは食物連鎖を通じて大きい魚に多く含まれるからです。小さい魚はプランクトンを食べますが、大きい魚になるにつれて重金属などが蓄積していくわけです。できれば10センチくらいの小魚・青魚を中心に食べ、サケよりも大きい魚は控えたほうがいいです。

山田
 サケがぎりぎり?
 冬になるとブリやヤマサがとれるので……カツオも大きいし。とはいえ、私も最近ではアジ、サバ、イワシなどを西京焼きなどにして食べていますよ。


 それはいいですね。また日本食はスパイスが足りないので、それを補ったのがカレーです。カレーは体温を上げることで免疫力が高まり、自律神経の切り替えがスムーズになります。特に朝に食べると良いですね。

山田
 朝からですか? 朝は身体が冷えているから温まりますものね。スポーツ選手はカレーが好きですね。元プロ野球選手のイチローさんはカレーを出していれば機嫌がいいといいますね。


 イチローさんは現役のとき、1年365日カレーを食べていましたね。

山田
 私も3回くらいお会いしましたが、全部カレーをご一緒しましたよ(笑)。


 イチローさんがカレーを食べるようにしたのは、奥さんが私の話を聞いたからです。

山田
 え~! 先生だったんですか? すごい。素晴らしいです。


 あれだけ活躍してくださったのには、びっくりいたしました。
イチローさんの体質は中庸ですが、どちらかといえば虚証に偏っているので、カレーを食べたほうがよいのです。

山田
 へえええ。それは意外ですね。

「まずは規則正しく、ゆっくり噛んで。そしてある程度年を重ねたら、先生ご自身が実践されているように1 日2食ですね」

「まずは規則正しく、ゆっくり噛んで。そしてある程度年を重ねたら、先生ご自身が実践されているように1 日2食ですね」

がん細胞は糖分を、その次にアミノ酸を好む

山田
 それでは次に、がんが好む食事についてお聞きしたいのですが。


 まずは甘いものですね。がん細胞は通常細胞と比べ、約3~8倍のブドウ糖を消費します。日本人は昔はあまり糖分を好まなかったのですが、近年は多く摂取するようになりました。そこで糖分は極力、控えるほうがいいのです。

山田
 果物はいかがですか?


 果物の摂り過ぎにも注意したいものです。品種改良が進んだ現代は、糖度が高い果物が多いからです。

山田
 それでは生野菜はいかがですか?


 若いうちはいいかもしれませんが、年を重ねたら消化が悪いので基本的には摂らないほうがよいですね。特に虚証の人、がんを患っている人は避けたほうが良いと思います。野菜は加熱処理とアク抜きが大切です。われわれの身体は植物の細胞膜を取り込めませんから。

山田
 最近は「アミノ酸飲料」などと書いてある商品が販売されていますが、アミノ酸はいかがですか?


 がん細胞は糖分の次にアミノ酸を好みますから、アミノ酸の摂り過ぎにも注意したほうがいいですね。アミノ酸はいろいろな組織に沈着し、糖と結合したとき、動脈硬化の起こる確率が非常に高まります。そのためアミノ酸が多い豆類、発芽玄米、乳製品、スポーツドリンクなども控えたほうがよいのです。
 アミノ酸が一番多く含まれているのは肉ですね。そこで牛や豚などの動物性脂肪は控え、がん抑制効果が確認されているEPAを含んだ魚油やシソ油、亜麻仁油などの植物油がお勧めです。また肉や野菜に含まれるアミノ酸が焦げると発がん物質「ベンツピレン」が発生するので、焦げた部分は避けてください。

体温が下がると身体の免疫が働きにくくなり、がんが増殖しやすくなる


 冷たい食べ物や飲み物も摂らないほうがいいですね。つまり温かい食事を摂ることです。体温が下がると身体の免疫が働きにくくなり、がんが増殖しやすくなるために、常に温かい食べ物や飲み物を摂るのが理想的です。アイスクリームも身体によいとはいえません。

山田
 ええええっ!
 私はアイスクリームが大好きなんです。でもよくよく考えてみたら、糖分もいっぱい入っているし、冷たい……。
対談はオンライン方式によって行われた

対談はオンライン方式によって行われた


 同時に塩分も控えることです。過剰摂取するとナトリウムとカリウムのバランスが崩れ、細胞の代謝に異常をきたしますからね。

山田
 先生、私は、玄米が大好きなのですが、玄米はいかがですか?


 実は玄米もあまりお勧めしていません。白米に比べ消化が悪く、特に虚証の人、がんを患っている人は消化吸収にエネルギーを要するため、身体に大きな負担をかけてしまうし、栄養吸収率も低下してしまうからです。とはいえ山田さんのように「実証」であれば、無農薬で作った玄米ならいいでしょう。

山田
 いやあ。本当に奥深いですね。これからも先生のご著書『がんを治す「戦略的組み合わせ療法」』や『がんの嫌がる食事』をぜひとも拝読させていただきたく思います。本日はありがとうございました。

山田 邦子●やまだ・くにこ● 1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。2008年、〝がん撲滅〞を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008〜2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。

山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。
2008年、〝がん撲滅〞を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008〜2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。

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