山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第11回 )
そこが知りたい 再発を防ぐための『がん免疫治療』の最前線

 今や二人に一人はがんに罹る時代。がん治療においても分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などを用いた新たな治療方法により腫瘍を縮小させる可能性が増えてきました。
とはいえ、がん患者さんの多くは常に転移・再発の恐怖を抱えているのは事実です。今回は東京・新宿にあるビオセラクリニックの谷川啓司院長をお尋ねし、再発予防を中心とした「がん免疫治療」の基礎知識から最新の「ネオアンチゲン療法」までをお訊きしました。

谷川啓司(たにがわ・けいし)
ビオセラクリニック院長。1964 年生まれ。防衛医科大学校卒業後、東京女子医科大学消化器外科入局、1996 年東京女子医科大学消化器外科医療練士修了。専門は消化器外科、腫瘍外科。米ミシガン大学医学部腫瘍外科において免疫細胞療法、遺伝子治療の研究にsenior research fellow として従事し、医師・大学院生に免疫療法の研究を指導。1999 年東京女子医科大学消化器外科帰局後、外科医としてだけでなく癌免疫細胞療法チームとして癌免疫細胞療法の臨床研究に携わる。樹状細胞ワクチン、樹状細胞腫瘍内局注療法など多数の臨床試験を開始。東京女子医科大学にて医学博士号取得後、2001 年ビオセラクリニック開設。日本外科学会認定医、日本消化器外科学会認定医、日本ハイパーサーミア学会認定医。著書に『がんを告知されたら読む本』(プレジデント社)がある。

谷川啓司(たにがわ・けいし)
ビオセラクリニック院長。1964 年生まれ。防衛医科大学校卒業後、東京女子医科大学消化器外科入局、1996 年東京女子医科大学消化器外科医療練士修了。
専門は消化器外科、腫瘍外科。米ミシガン大学医学部腫瘍外科において免疫細胞療法、遺伝子治療の研究にsenior research fellow として従事し、医師・大学院生に免疫療法の研究を指導。1999 年東京女子医科大学消化器外科帰局後、外科医としてだけでなく癌免疫細胞療法チームとして癌免疫細胞療法の臨床研究に携わる。
樹状細胞ワクチン、樹状細胞腫瘍内局注療法など多数の臨床試験を開始。東京女子医科大学にて医学博士号取得後、2001 年ビオセラクリニック開設。日本外科学会認定医、日本消化器外科学会認定医、日本ハイパーサーミア学会認定医。著書に『がんを告知されたら読む本』(プレジデント社)がある。

構成●宮西ナオ子
撮影●早坂 明

手術後の半年間で、目に見えないがん細胞がゼロになるかどうかが重要

山田
 先生はがんの専門医ですが、お父様も奥様もがんで亡くされたとご著書にも書かれていらっしゃいましたね……。

谷川
 はい。私が大学の医学部で学んでいるとき、2年が終わる春休みでした。父の末期の肝臓がんが見つかりました。そして数カ月後、その年の8月に亡くなりました。

山田
 お父様のご病気がきっかけで免疫の勉強をされたのですか?

谷川
 父の闘病中に知り合った免疫学の先生のもとで大学3年から卒業するまで免疫について学びました。卒業後、東京女子医科大学の外科で学び、7年目の途中から米国に渡って免疫療法の研究を始めました。

谷川啓司医師との対談は2020 年3 月26 日(木)、ビオセラクリニック院長室において行われた

谷川啓司医師との対談は2020 年3 月26 日(木)、ビオセラクリニック院長室において行われた

山田
 先生は外科医ですよね?

谷川
 そうです。食道がんが専門でした。しかし手術の後、抗がん剤治療をしても再発する人が多いので免疫の力に改めて注目したのです。

山田
 私は手術の後は、ホルモン治療だけでした。抗がん剤治療はしませんでしたが、ありがたいことに、もうすでに13年が経過しています。

谷川
 それはよかった。もう一安心ですね。

山田
 でも先輩の中には16年たっても、20年たっても再発する人がいます。がん患者さんには再発を恐れている人が非常に多いですが、先生はそこを研究してくれているのですね。どうしたら再発を防げるのでしょうか?

東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

谷川
 がんは正常細胞の遺伝子異常により、がん化したものです。そこで塊になったがん細胞を切除しますが、まだ体内に残っている目に見えないがん細胞をやっつけるのに必要なのが抗がん剤、ホルモン剤を使用する化学療法や放射線治療です。がん細胞は少ないときのほうが叩きやすいため、手術後の治療が行われるほぼ半年間にがん細胞がゼロになるかどうかが重要です。このときに標準治療に免疫療法を併用することで、再発予防の効果を高めることを期待しているのです。がんの増殖抑制をする抗がん剤などと、自らの攻撃力を増強する免疫が必要になるわけです。

いま、ネオアンチゲン療法が注目されている

山田
 免疫とはどのようなものですか?

谷川
 私たちの身体は細胞からできています。最初はたった一つの受精卵から始まります。細胞が分裂していくわけですから同じ仲間の集合体です。そこで自分たちと違うものが入ってきたら追い出すというシステムが働きます。これが免疫です。

東京都新宿区新宿5丁目にあるビオセラクリニック

東京都新宿区新宿5丁目にあるビオセラクリニック

山田
 それでは、なぜ私たちの免疫ががんに負けてしまうのでしょうか?

谷川
 敵が増えるスピードとこちらが攻撃する力の関係です。がん細胞は増殖するスピードが非常に速い。一方、免疫細胞は入ってくる細胞の外見を見て、自分の仲間でなければ攻撃しますが、違いが微差で気づきにくいと、がんへの攻撃が弱まります。そこでがん細胞と正常細胞の違いを気づかせて、免疫細胞による攻撃を高めさせる必要があります。

「ところで、山田さんに質問です。治療するのに二つのオプションがあるとします。ひとつはすごく苦しい治療をして1年生きる。もうひとつは苦しい治療をしないで半年で死ぬ。どちらを選びますか?」

「ところで、山田さんに質問です。治療するのに二つのオプションがあるとします。ひとつはすごく苦しい治療をして1年生きる。もうひとつは苦しい治療をしないで半年で死ぬ。どちらを選びますか?」

山田
 どのようにして気づかせるのですか?

谷川
 がん細胞もやがては死んでいきますが、その死骸を片付ける特殊な免疫細胞ががん細胞に特有な情報をみつけ、攻撃をかける免疫細胞に伝えます。この目印となる情報をもとに、免疫が働きがん細胞を攻撃できるのです。この情報を伝える細胞は樹状細胞というヒトデのような形をしています。具体的には、この樹状細胞から情報を教えられたリンパ球と呼ばれる免疫細胞が、がん細胞を攻撃します(図1)。

図1 樹状細胞から指令を受けたリンパ球ががん細胞を攻撃する

図1 樹状細胞から指令を受けたリンパ球ががん細胞を攻撃する

谷川
 免疫細胞療法の一つに、活性化リンパ球療法があります。これは、患者さんの血液を採取しリンパ球を活性化させ、体内に戻しがん細胞を攻撃する治療法です(図2)。

図2 活性化リンパ球療法

図2 活性化リンパ球療法

谷川
 。また、
この治療法と併用して行う樹状細胞療法があります。これは、患者さんの血液から樹状細胞を採取し、がん細胞を特定できる抗原(目印)を認識させ、その人の身体に戻します。すると樹状細胞が、がん細胞の情報をリンパ球に新たに教えてくれるので免疫がより多くのがんを攻撃しやすくなるのです。

山田
 へえぇ。もはやそこまで研究が進んでいるとは、すごいですね。

谷川
 さらに新しい流れがあって、今はネオアンチゲン療法が注目されています。

山田
 それはどういう治療法ですか?

谷川
 ネオとは新しいという意味です。アンチゲンは抗原(目印)です。患者さんの個人レベルで最適な治療方法を分析・選択し、それを施す個別化医療(プレシジョン医療)であり、がん細胞の遺伝子変異に由来して形成されたがん細胞にしか存在しない抗原をターゲットにした免疫療法です。つまり患者さん自身のがん細胞に生じた遺伝子変異をみつけ、この変異によってつくり出される、その人のがん細胞にしかない目印であるネオアンチゲンを解析しようとするものです。解析結果よりネオアンチゲンとなるものを人工的に合成し、これを樹状細胞に認識させ、患者さんの体に戻すというものです(図3)。

図3 ネオアンチゲン療法

図3 ネオアンチゲン療法

谷川
 がん細胞にしかない目印だけを攻撃目標とするので、正常細胞を攻撃することはありません。

山田
 自分自身のがん細胞でつくるのですか?

谷川
 そうです。ネオアンチゲンはその人にしかない目印です。個々の患者さんによって異なるオーダーメイドの治療です。いま、その研究が進められています。

サプリメントの選択基準は、臨床試験を行っているか否かである

山田
 免疫力を高めるためには栄養価の高い食事も大切と思いますが、最近ではサプリメントも取り入れたほうがいいかなと思いますが、いかがでしょうか?

谷川
 サプリメントには二つの種類があります。足りないものを補うのがベースサプリメントといってビタミンなどです。一方、オプショナルサプリメントは特定の機能をあげるためのもので、がんでは免疫力を上げる海藻系やキノコ系などのものがよく利用されていますね。

山田
 どんな基準で選んだらよいでしょう?

谷川
 サプリメントは食品というカテゴリーですが、食品だって毒のあるものがありますし、飲み合わせの問題もあります。それに過度に治療効果を期待しないほうがよいです
ね。
 薬ならば、厳密な安全性検査をしていますが、サプリメントにはそこまで厳密な基準が設けられていません。ですから安全性の高いものを選ぶという意味では、トクホ(特定保健用食品)と同レベルの安全性試験が行われているものを使用してほしいと思います。臨床試験と呼ばれるヒトを対象とした試験を行っているようなしっかりしたものがよいでしょう。たとえば小林製薬シイタケ菌糸体を使い、いろいろな臨床研究を行っています。そのようなものを選択することが大切ですね。

山田
 温熱療法はいかがですか?

谷川
 免疫力アップのために体温を上げることは有効です。お風呂に長く入ると体温は1℃くらいは上がります。でも38℃、39℃にするには専用の機械が必要です。そして42℃、43℃になるとがんは死ぬといわれます。

山田
 私は43℃のお風呂に入れますよ。

「私は苦しくても治療します。少しでも長く生きているうちに、もう少しいい治療や新薬が出てくるかもしれないので・・・」

「私は苦しくても治療します。少しでも長く生きているうちに、もう少しいい治療や新薬が出てくるかもしれないので・・・」

谷川
 それですと皮膚表面は温まりますが、身体の内部は温まりません。せいぜい37℃です。がんの部位が温まる必要があります。

山田
 温熱療法の効果を教えてください。

谷川
 二つあります。ひとつが抗がん剤や放射線療法の効果を上げること。もうひとつは免疫を上げることです。まず一つ目ですが、がん細胞は増殖するために栄養が必要ですから、新しい血管をつくります。それは急場しのぎでつくられる筋肉の乏しい未熟な血管です。人間の身体は体温が高くなると血管が開きますが、がん細胞にある血管には筋肉がないので細いままです。しかし、強制的にがんのある部分を温めると、正常な組織では血管をすぐに拡張させて温度を下げますが、がん部では筋肉に乏しい血管なのですぐには拡張して温度を下げてくれません。しかし、しばらく時間がたつと、熱さに弱いがんは、乏しい筋肉を駆使してゆっくり拡張して温度を下げようとします。しかし、その時点では、すでに周囲の正常な部分は温度も戻っており、血管は普通の太さに戻っています。つまり、この時点で、がん部の血管だけが太くなっていることになります。そこで抗がん剤を入れると、拡張した血管の内部に多くの血液があることになり、血液に溶けた抗がん剤もより多くがん部に存在することで、ぐんと治療効果が上がります。放射線治療に対しても同じような理由で効果的です。
 もう一つ、体温が上がると免疫細胞ががん細胞を攻撃対象だと特定しやすくなります。がん細胞の表面には免疫細胞が敵と見つけられる目印があるのですが、それは細胞表面を出たりひっこんだりします。ですから免疫細胞ががん細胞を特定しにくいのです。でもがん部を温めるとがん細胞の目印情報が細胞表面に出て、免疫細胞ががん細胞を見つけやすくなるのです。体温が上がると免疫力も高まり、がん細胞を攻撃しやすくなるので、免疫療法に温熱療法を併用したら効果が上がるのです。

治療はもちろん、精神的にどのようにサポートできるかを常に考えている

谷川
 ところで、山田さんに質問です。がんになったときは、何のために治療しますか?

山田
 そうですね。死なないためですね。

谷川
 それでは二つのオプションがあるとします。ひとつはすごく苦しい治療をして1年生きる。もうひとつは苦しい治療をしないで半年で死ぬ。どちらを選びますか?

山田
 私は苦しくても治療します。少しでも長く生きているうちに、もう少しいい治療や新薬が出てくるかもしれないので……。

谷川
 その通り。もちろん人によって選択肢は異なりますし、正解はありません。それはその人の人生観によります。そして大切な治療の目的は、その人が求める生活をサポートするようなものではないでしょうか?

山田
 今は、治療方法や生き方を選べる時代になりましたからね。

谷川
 私の家内も直腸がんでした。彼女は人間ドックに毎年通っていました。結婚してすぐに妊娠したので、その年は検査をスキップしましたが、子供が生まれて10カ月くらい経過したときに検査を受けたら進行がんが見つかったのです。子供が0歳のときです。特殊な直腸がんでしたから抗がん剤がきかない。家内は子供と一緒に暮らしたいということで、手術や血管内治療以外では入院せず、有効ではない抗がん剤治療は行わずに自宅療養で免疫療法のみとなりました。彼女が少しでも普通でいられる時間をつくり、海外出張のときは一緒に行ったり、子供と一緒に家族旅行に行き、多くの思い出をつくりました。
 子供が2歳になりかけたときに、家内は子供とアフリカ旅行をしたいというので、彼女の両親に同行をお願いし、2週間の旅行を楽しみました。亡くなる4カ月前のことでした。それからだんだん弱り、骨にも転移してしまい、最後は子供を抱っこすることもできなくなりました。可哀そうでしたが、少しでも子供との間に幸せな生活を築きましたが亡くなりました。子供が2年8カ月のときでした。。私は主治医として、家族として、夫として、父親として、治療にあたってきましたので、今も患者さんを診るときは、自分の経験から患者さんの気持ちがとてもよくわかります。治療はもちろん大切ですが、精神的にどのようにサポートできるかを常に考えています。初めての患者さんの医療相談は、2時間から3時間かけますし、患者さんがどのように生きたいのか、どのような治療を求めているのか希望を聞きそれに沿った治療を提案しています。在宅で闘病する場合は、在宅で介護することについてもアドバイスしていますよ。

対談を終えたあと、記念撮影

対談を終えたあと、記念撮影

山田
 それはありがたいですね。心理的な部分も含めてトータルでサポートしてくださる先生のような方がいらしてくださるとは、患者の立場としても本当に嬉しく思います。これからもお健やかに頑張ってください。今日は本当にありがとうございました。

山田 邦子●やまだ・くにこ● 1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。2008年、〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008~2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。2009年、NPO法人「リボン運動 がんの薬を普及する会」を結成し、代表理事に就任。栄養士の資格を持っている。

山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。2008年、〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008~2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。2009年、NPO法人「リボン運動 がんの薬を普及する会」を結成し、代表理事に就任。栄養士の資格を持っている。

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より詳しい研究内容は「ビオセラクリニック」まで
ビオセラクリニック>>

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