第21回 日本補完代替医療学会レポート
エビデンスレベルの高い研究が報告されるようになってきた
科学的根拠の収集が求められている
2018年11月10日・11日の両日、東京都武蔵野市の日本獣医生命科学大学・日本医科大学武蔵境校舎において、第21回の「日本補完代替医療学会」が開催された。
「人間と動物の健康促進・未病改善をめざして」をテーマに開催された「第21回日本補完代替医療学会」
日本補完代替医療学会は、代替医学領域における基礎的・臨床的研究の促進と情報の収集・交換をはかり、代替医療の進歩・普及・発展に寄与することを目的とした学会である。年に1回の学術集会を開いているが、2017年度に引き続き、比較統合医療学会との合同開催となった。今回のテーマは、「人間と動物の健康促進・未病改善をめざして」であった。がんに関する研究発表も多く、その一部を表にまとめてみた(表1)。
表1 がんに関する研究発表一覧
AMEDは、文部科学省、厚生労働省、経済産業省に内閣府を加えた3省1府が一体となって、補助金の管理・配分を行う機関である。この公募からも明らかなように、補完代替医療にはエビデンスレベルの高い研究が求められるようになっている。研究にはいろいろな方法があるが、エビデンスレベルは次のようにランク分けされている(表2)。
表2 エビデンスレベル(ヒト試験のみ)
そういった状況を反映してか、今回の学術集会では、エビデンスのしっかりした研究の報告も目についた。エビデンスレベルに注目しながら、がんに関する研究報告を紹介しよう。
シイタケ菌糸体で医薬品レベルの臨床試験
「企業における食品免疫機能評価の取り組み」と題する特別講演の中で、シイタケ菌糸体抽出物(以下、シイタケ菌糸体)の研究が紹介された。ここで紹介された臨床研究では、医薬品の開発で行われるようなランダム化二重盲検比較試験も実施されており、エビデンスレベルに関しては群を抜いて高いものだった。ランダム化二重盲検試験とは、対象者を無作為抽出によって2群に分け、片方に試験薬、もう一方にプラセボ(偽薬)を与え、どちらを投与しているのか、対象者も試験を行う人もわからないまま行う比較試験である。
シイタケ菌糸体については、すでに20年ほど研究が続けられており、基礎研究として、免疫機能低下を改善する作用や、炎症を抑制する作用が報告されている。
マウスにがん細胞を接種してがんが発症した状態にすると、普通餌を与えた群では、免疫の働きを抑えてしまう免疫抑制細胞( Treg:テ ィーレグ)が増えてくる。ところが、シイタケ菌糸体を配合した餌を与えた群では、それが抑えられることが明らかになっている。
がんになると慢性炎症が起こることも知られているが、シイタケ菌糸体はこれを抑える働きもする。普通餌群では、炎症の指標となるIL – 6(インターロイキン6)というサイトカインが増えるが、シイタケ菌糸体を配合した餌を与えた群では、この上昇が抑えられていた。
こうした基礎研究を重ねてから、臨床試験も数多く行われてきた。その一つが、シイタケ菌糸体の免疫低下に対する作用を調べたランダム化二重盲検比較試験である。対象者は乳がんの術後化学療法を受けている43人で、これを無作為に2群に分け、一方にはシイタケ菌糸体、もう一方にはプラセボが投与された。
その結果、プラセボ群のQOL(生活の質)は、化学療法を開始したときに比べ、2コース終了したときには明らかに低下していた。ところが、シイタケ菌糸体を投与した群では、化学療法2コース終了後にも、QOLの明らかな低下は見られなかったのである(図1)。
図1 QOL スコア(活動性)の推移
免疫抑制細胞(Treg)についても調べてみると、統計学的に有意な差ではなかったが、シイタケ菌糸体群のほうが、抑えられる傾向が認められた(図2)。
図2 免疫抑制細胞(Tregティーレグ)の変化
免疫抑制細胞とは、その名の通り、増えると免疫の働きを抑制してしまう細胞である。がんになると、この免疫抑制細胞が増えることがわかっているため、免疫力を維持するには免疫抑制細胞を増やさないことが大切である。
有機ゲルマニウムの有用性を確認した
健康食品の原料として広く活用されている有機ゲルマニウムについて、「末期がん患者のがん性疼痛をはじめとする各種症状(QOLを含む)に対する有機ゲルマニウムの改善効果の評価」という一般講演があった。基礎研究では免疫に関わる作用や鎮痛作用などが確認されている有機ゲルマニウムを、がん性疼痛をはじめとするさまざまな症状が現れている患者さんに投与し、QOLの改善効果を評価した研究である。
QOLの評価は、まず投与開始前に行い、投与開始後は4週間おきに行った。併せて腫瘍マーカーなどによりがんの進行状況を調べ、有機ゲルマニウムの安全性についても調べた。有用性については、QOLの評価と安全性を検討した。
試験に登録されたのは20症例だったが、投与期間が4週間未満だった11例を除き、4週間以上(4~88週間)投与した9例を評価可能とした。9例のがんの種類は、肺がんをはじめとする5種類のがんであった(表3)。
表3 原発巣の詳細
9症例の評価結果は、「有用」が3症例、「やや有用」が1症例、「どちらとも言えない」が5症例だった。有用と評価された3例は、有用と評価された期間が、88週間、24週間、20週間だった。やや有用の症例では12週間だった。また、自覚症状や血液検査からは有害事象は認められなかった。
基礎研究の進んでいる紅豆杉の症例報告
イチイ科の植物である紅豆杉は、中国雲南省の高山に自生する樹木である。この紅豆杉に関して、「紅豆杉と補完医学」という特別講演が行われ、基礎研究の紹介と、補完医学としてがんの患者さんに投与したときの症例が紹介された。
イチイ科植物は、タキサン系抗がん剤(パクリタキセルやドセタキセルなど)の主成分であるタキサン型ジテルペンを含んでいることで知られている。また、紅豆杉の木部は、古くからがんや糖尿病など、さまざまな病気の治療に使われてきたという。
近年は、紅豆杉の科学的な基礎研究が積み重ねられてきている。この講演では、「フリーラジカル除去活性および細胞増殖抑制活性」「ラジカル除去ならびにNO(一酸化窒素)産生抑制活性」「肝臓保護作用」「血糖降下活性物質」「がん細胞のアポトーシス誘導」についての研究が紹介された。これらは、試験管レベルの研究と実験動物を使った研究である。
最後に紹介されたのが、補完医学としてがんの患者さんに投与した場合の症例報告だった。乳がん、肺がん、大腸がん、卵巣がん、悪性リンパ腫、膵臓がんなどの症例が報告された。基本的には手術、抗がん剤、放射線などの標準治療を補完する形で紅豆杉が使用され、いずれも優れた抗がん作用が発揮された症例である。抗がん剤の治療では骨髄抑制や脱毛などの副作用が現れるが、紅豆杉にはそのような心配がないといった症例が報告された。
食品の有用性に関する症例報告と動物試験
「肺がん治療に特定食品が寄与した一例」と題する発表があった。特定食品とは、中鎖脂肪酸、イミダペプチド、生キクラゲ、オリーブ油、高濃度水素水である。対象となった患者は50代の男性。治療前から特定食品を摂取していたが、肺がんが見つかったことで摂取量を増やした。
がんは肺腺がんで、リンパ節転移も見つかり、ステージⅢAと診断された。患者は大学病院で標準治療を受け、特定食品の摂取も続けた。その結果、80日後にはがんが消失し、リンパ節転移も消失していた。抗がん剤の副作用はなく、食欲低下も認めなかった。
動物試験としては、「沖縄県生産甘藷(かんしょ)のがん予防作用に対する基礎評価」という一般講演があった。甘藷の葉と葉柄(ようへい)は食用に供されてカンダバーと呼ばれているが、これにがんを予防する作用があるかどうかを調べた研究である。がん細胞を用いた試験管レベルの試験と、マウスを用いた動物試験が行われた。
がん細胞を使った試験管内の試験では、甘藷の葉と葉柄には、がん細胞の発現を抑制する作用が認められ、がん予防作用があると示唆された。この結果に基づき、がんを発現させる飼料を与えたマウスに、甘藷の葉と葉柄を与える試験が行われた。その結果、がんの発生が40%程度抑制されることが明らかになった。また、がんが現れる時期に関しても、発現を1~2週間遅らせる作用が認められた。
学会発表は日本医科大学武蔵境校舎において行われた
まとめ
がん領域の補完代替医療にも、確かなエビデンスが求められる時代になっている。症例報告に留まらず、科学的な研究を積み重ねていく必要があるだろう。その中で、がん細胞を使った試験管内の試験や、小動物を用いた動物試験などはもちろん重要だが、そうした基礎研究を経たうえで、臨床試験で結果を出していくことが必要である。医薬品レベルのランダム化二重盲検比較試験が、もっと行われるようになることを期待したい。