がん治療における補完代替医療研究の最前線
─乳がんホルモン療法施行患者におけるシイタケ菌糸体の臨床研究─

鈴木先生
鈴木信孝 金沢大学大学院医学系研究科 臨床研究開発補完代替医療講座特任教授
(2014年.vol12)
 日本補完代替医療学会は、代替医学領域における基礎的・臨床的研究の促進と情報の収集・交換を図り、代替医療の進歩・普及・発展への寄与を趣意としている。2013年11月30日(土)と12月1日(日)の2日間にわたり、同学会の学術集会(第16回)が石川県金沢市の金沢勤労者プラザにおいて開かれた。
 その1日目に、同学会の理事長を務める鈴木信孝氏(金沢大学大学院医学系研究科 臨床研究開発補完代替医療講座 特任教授)が「シイタケ菌糸体抽出物の概要と有用性」というタイトルの話を繰り広げた。その講演の中心は「乳がんホルモン療法施行患者におけるシイタケ菌糸体の臨床研究」で、積年の研究成果などが発表された。

シイタケ菌糸体の特長とがん治療補助への可能性

鈴木氏は、これまでさまざまな機能性食品(functional foods)のエビデンスをわかりやすく多くの人に伝えることも大切だと捉え、複数の学会でそれを発表してきた。

講演をスタートさせるにあたり、鈴木氏はシイタケ菌糸体抽出物について述べた。
「今日は機能性成分のお話の一環として、シイタケ菌糸体抽出物を取り上げます。シイタケに限らずキノコは、山火事などが起きるとその胞子を遠くに飛ばし、自分の子孫を残します。ですから、本当のシイタケの実体は菌糸体だと言えるかもしれません」

一般的に、私たちが口にするシイタケのキノコの形状をした部分を「子実体」と呼んでいる。そして、シイタケの「菌糸体」は、目には白い糸状のように映り、子実体の種や母体のようなものである。
「シイタケ子実体由来のレンチナンは、胃がんの抗がん剤として承認されています。その主成分は、β‐1、3‐グルカンという多糖体です。そして、レンチナンは、シイタケの子実体を利用した薬剤として知られています」

鈴木氏は、キノコの抗腫瘍効果に疑いを持つ医師には、レンチナンの話をしているという。
「レンチナンは、手術不能または再発胃がん患者におけるテガフールという薬剤との併用による生存期間の延長が認められています。レンチナンとテガフールとの併用療法による胃がんの患者さんの5年生存率は、明らかな有意差を持って延長します。」

鈴木氏は、この子実体だけでなく、菌糸体の抽出物にもっと大きな秘密が隠されていると説く。そのシイタケ菌糸体の抽出物は、東京大学、富山医科薬科大学などのグループによって、抗腫瘍と免疫調節作用についての研究が始まった。さらに、小林製薬株式会社などの製薬会社も長年にわたり、研究を進めている。
「シイタケ菌糸体の抽出物は、がんの予防にも使用できるかもしれないですし、再発予防にも使用できるかもしれません。あるいは、がん治療補助にも応用できるかもしれないということで、注目を集めています」

シイタケ菌糸体の抽出物の製造法は、まずその菌糸体を培地に植えることから始める。次に、安定環境で約5カ月間にわたり培養する。すると、菌糸体が成長してくる。それを粉末化・顆粒化するとシイタケ菌糸体抽出物(以下:)ができる(図1)。

図2

「シイタケ菌糸体の主な有用成分は、多糖類、フェノール類のほか、その他の未同定の成分もあるとされています。その点でも、将来的に同定される有用物質も出てくる可能性があると言えます。さらに、シイタケ菌糸体の多糖類の特徴は、αグルカンにあります。その他、もちろん、βグルカンもありますし、アラビノキシランも含まれています。他にも抗酸化作用を持つ、シリンガ酸、バニリン酸や免疫調節作用のあるリグニンといった有用成分も含まれています」現在、このようなシイタケに限らずキノコ由来の免疫活性化効果を持ち合わせている成分が注目されている。そし て、さまざまな研究開発が行われているのである。

ヒト臨床研究で機能性を確認する

シイタケ菌糸体の研究は1990年代にスタートした。2001年からは全国10以上の大学医学部が参加して臨床研究を進める研究会も開催されているという。
「がん患者さんを対象とする臨床研究をするのは、簡単なことではありません。というのは、もちろんご本人の同意も必要ですし、さまざまながんのいろいろなステージの方々がいらっしゃるからです。さらに、その人自身が持病を抱えている場合もあり、均一な動物実験のようにはいきません。それでも、試験管内試験、動物試験の次には臨床研究を行っていないと、シイタケ菌糸体のような日本の機能性成分を国際的に広げることができません。シイタケ菌糸体については、症例数こそ十分ではありませんが、きちんとした形で、がん患者さんを対象にした臨床研究が行われているのです(図2)。」

図2

 

乳がんホルモン療法時の併用でQOLが改善

鈴木教授らのグループも、石川県内の総合病院で、乳がんの術後でホルモン療法を実地している20例を対象に、シイタケ菌糸体の有用性を調査した臨床研究を実施した。その期間は12週間で、最初の4週間はホルモン療法だけを行った。その後の8週間は、1日に1・8gのシイタケ菌糸体摂取を併用。こうして有用性を評価したのである。この間の評価の回数は計4回。試験開始時(0週目)と4週目・8週目、そして試験終了の12週目であった。

その結果、シイタケ菌糸体を摂取した後ではQOLが改善し、とりわけ「活力」のスコアがいちばん改善していた(図3)。

図3

「がん患者さんは、どうしても活力が少なくなってしまいます。そして、今回のデータから言えるのは、シイタケ菌糸体を摂取すると、活力が出てくるということです。シイタケ菌糸体を摂取すると肝機能が改善されるというデータもあるのですが、いずれにしても、QOLを上昇させることは、臨床上、患者さんを診るときに重要なことです」

免疫状態が低い患者さんの免疫状態を改善する

また、今回の臨床研究では採血を行って、シイタケ菌糸体を摂取したことで、どれだけ免疫機能が改善されたのかに関しても検証されている。その結果、シイタケ菌糸体摂取前に免疫の値が低かった患者さんでは、摂取後にその値が上昇していた(図4)。

図4

「症例数が少ないので全体で見ると免疫機能の有意差が表れにくかったのですが、(20例中の)摂取前の値が低かった6例で見てみると、シイタケ菌糸体摂取後の4週目・8週目で上昇していました。臨床上では、免疫機能が低い人が上がればいいので、元々、免疫機能が正常な人はそれ以上に上がる必要はないのかもしれません。ですから、この結果は理想的であった可能性があります。たとえば、症例数を100例近くに増やすと、免疫機能に関しても全体的な有意差が出た可能性があります。こうした小規模な臨床研究は、将来の大規模な臨床研究をするときの大きなヒントを残してくれます」

乳がん以外でもシイタケ菌糸体の臨床研究が進む

鈴木氏は、「乳がんホルモン療法施行患者におけるシイタケ菌糸体の臨床研究」について、次のように結んだ。

①乳がん術後ホルモン療法患者におけるシイタケ菌糸体の摂取は、患者さんのQOLを改善することが示唆される。

②乳がん術後ホルモン療法患者で、免疫状態が低い患者さんにおけるシイタケ菌糸体の摂取は、免疫状態(サイトカイン産生能)を改善することが示唆される。

その後、鈴木氏は、他の施設で行われた「乳がん術後化学療法におけるシイタケ菌糸体摂取」によって免疫機能の低下が改善した論文報告や、「消化器がん化学療法におけるシイタケ菌糸体摂取」によって免疫機能が上昇した論文報告(図2)などを紹介し、講演を終えた。
シイタケ菌糸体の臨床研究は、日々、進んでいる。がん補完代替医療分野においては、乳がんホルモン療法中の患者さんなどに対し、QOLの向上・免疫機能を高める、という結果が紹介された講演であった。

パンフ

↑当日配布されたパンフレット

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