がん闘病に必要な食事と栄養

第5回 バンクーバーから日本のがん医療を見る がんと向き合うドクターと、患者の意識と価値観

がん闘病に必要な食事と栄養について半田えみ先生(医療法人社団 中成会 半田醫院)に解説いただいた。

自分のことは自分でしっかり納得して決める

私はカナダのバンクーバーにてみなさんにお伝えしたいことを書いています。ここでは、日本より統合医療がたくさん行われています。実際に統合医療を行うドクターや患者さん、薬剤師、栄養士の方々にお会いして、とても素晴らしい情報をいろいろと得ることができました。

がんと栄養、食事のお話を中心にお伝えしていくわけですが、今回はその前に、がんと向き合うドクターと患者さんの意識や価値観がこんなにも日本とは違うのかと実感したことをお話しします。

以前、本連載でウィーンでのクリニックについてご紹介したときに、「そこには悲愴感漂う、背中を丸めた痩せこけたがん患者さんがいない」ということを書いたことがありました。

ここバンクーバーもまさにそうで、これががんの患者さんの診察室なの?とビックリするぐらい明るかったり、患者さんがしっかりリサーチされていていい感じに白熱したり、時には私たちに逆に人生観や人生設計をしているかなどと問われたり、とにかくすごいのです。

ドクター曰く、

「この国では、自分のことは自分でしっかり納得して決めていくというのが当たり前で、治療においても効果とリスクについてもよく理解しているよ」

と……。そして、その上でドクターとの絶大な信頼関係を築いて一緒にがんと向き合っていると言うのです。日本では、まだまだ患者さんは医療側に依存しすぎている部分が大きいと思います。

医療側が提供する治療だけに固執せず、統合医療の一部を担う

この、依存して医療側と付き合う日本と、自分たちで決めて信頼関係を築くのとではかなり大きな差があると思うのです。医療側だけに依存しないと言えば、こんな患者さんがいらっしゃいました。

「私は生きたいのよ、人生1度きりだからね。先生方5年後、10年後に向けて人生設計している?私はコーチングのクラスにも通い始め、しっかりと計画してるわよ。ドクターの言うように、しっかりと栄養療法もしてるしね」と言うのです。この患者さんからは、生きる姿勢というか、生き抜くパワーみたいなものが伝わりました。

診察や点滴について言えば、日本では休日や、わずかな医師の休暇の時には診察や点滴ができません。そうすると、たいていみなさん不安がります。バンクーバーでも、基本的にはドクターは長期の休みは取らずに働いています。

「クリスマスのときにはお休みになるかな。でも、そんなときこちらが言わなくても患者さんが来たがらないよ。クリスマス休暇ぐらい、がんを忘れて家族と過ごしたいねというのがほとんど。こちらが来なさいって言っても来ないよ」と……。

私の経験では休みが入ると、「なぜ先生休むの? 点滴できなくて心配です、休み中に何かあったらどうするのですか」と言われる患者さんが多いのです。この1つをとっても温度差を感じました。

ここバンクーバーでは、自分たちでも統合医療の一部を担い医療側が提供する治療だけに固執していないのです。

食と栄養の充足感は、完璧なメニューや食卓で決まるのではない

今回、改めて「食・栄養」ということを見つめてみて感じることは、〝食〟ということだけを独立させて考えてはいけないということです。口から入る物はすべて、私たちの体をつくるにも壊すにも影響します。何をどうやって食べるかもとても重要です。

みなさんもそうでしょうが、食事をするときただ情報だけに振り回されて、頭でっかちなメニューをつくり完璧な食卓ができたとします。話す相手もなくひとりぼっちで座って、いい音楽も素敵な明りもないなか、その完璧な食事はおいしいでしょうか? 消化もよくできるでしょうか?

私は大家族で育っており、いつも食事はわいわいとみんなで楽しみます。このバンクーバーでの滞在では1人で食事をすることが多く、お皿の数も少なくほぼ無言な状態で黙々と食べていると、いつものような満足感がありません。時に、突然ながらも隣り合わせた人と会話が弾むと食事もぐっとおいしくなります。がんにおいての栄養療法も、これと同じことが言えると思います。サプリメントや点滴の栄養療法も同時に大切ですが、何と言っても普段の食生活の形が大切なのです。

〝Cancer care centre〟でがん患者さんに混じってLife programの中の栄養の部分に参加したときに、その講師の言葉には普段から私が言っていることと同じように共感するところが多かったのです。そのプログラムはmeditation(瞑想)からスタートします。

meditationは怒りや不安、筋肉のこわばりを取り除きます。消化も促し、がん患者さんの落ちている消化器症状も改善させてくれます。そして、コルチゾールレベルもコントロールでき元気にもなってくるでしょう。

セルフケアで大切なことを列挙します。

Motivation(意欲)

Philosophy of life(人生観、人生哲学)

Nutrition(栄養)

Sleep(睡眠)

Exercise(体を動かすこと)

Hygiene(養生)

Weight control(体重制限)

Personal habits(個人の趣味)

Creativity passion(創造的情熱)

Social a emotional environment(感動的な社会生活)

このなかでもNutrition(栄養)、Exercise(体を動かすこと)は特に大切なことであり、それよりもっと大切なことはSleep(質の良い十分な眠り)です。きちんとした睡眠がなければ、どんなにいい食事も身になりません。

それから、いい栄養療法をするにも上記のセルフケアをみなさんにも実践して欲しいのですが、まずはがむしゃらにすべてを足し算的にスタートするでしょうが、最初にしなくてはいけないことは、まず今の状態から引き算をすること。そののち足し算を行うことです。

健康な人もそうですが特にがんを患っている方は、体の中に入れる食べ物と体に接触させるものをできるだけ有害な物を避け、クオリティーの高いオーガニックな物を取り入れるようにしてください。安全な水をたくさん摂り、精製された砂糖を禁止し、とにかくがんの方は体に毒を入れないように!

このセルフケアに関係したお話を1つ。がん統合医療をするドクターの外来で出会った1人の女性患者さんが私に話してくれたことです。クリニックの点滴室でビタミンCなどの入った点滴を彼女は受けていました。

私が軽くご挨拶をすると同時に「何のがんで治療しているのですか」と尋ねましたら、「あなたの最初の診断は何だったのと聞きなさい」と言われてしまいました。一瞬「?」と思いましたが、「私は最初は非ホジキンリンパ腫と言われたけど、自分でどんな治療がいいのか考え、ここのドクターと統合医療でやっていくことを決めたのよ。

私はその後生活を変え睡眠をたくさん取り、体に有害な物とストレスをなくし、愛と穏やかな環境に包まれ癒されもう違う状態になっているから最初の診断とは違うわ、分かった?」と微笑みながら言うのです。

こんな言葉、私もかなりのがん患者さんとお付き合いしてきていますが聞いたことありませんでした。まさに、先ほど列記した内容のセルフケアを実践されて、そして、ドクターと医療的に治療もしていて顔色もよくはつらつとしているわけです。

さて、消化吸収を良くしていい食事を体に有効に取り入れるには快適な睡眠が必要であるということは先ほども少し触れましたが、ここで快適な睡眠に必要なメラトニン、このホルモンががん、栄養と結構関わっていることに触れたいと思います。

口から入ったアミノ酸のトリプトファンからセロトニン、メラトニンと体内で生成されます。メラトニンをしっかり生成させるためには、その基であるトリプトファンをたくさん摂ること。トリプトファンは大豆、動物性たんぱく質に多く含まれます。夕食には肉や魚も適度に摂るメニューを考えるといいでしょう。

最近こんな報告もあるのです。女性ナースのデータですが、夜勤が多く睡眠のリズムが不規則になっていてメラトニンがきちんと出せていないということから乳がんが他の女性より増えているというのです。同様なことは、女医の勤務状況にも言えるでしょう。メラトニンは、がんを抑制しているという報告です。

実際にまだ日本では、がん治療にメラトニンを積極的に取り入れていくということはほとんどやられていないのではないでしょうか。メラトニンはサプリメントで補給していくことは可能であり、特に乳がんの治療に取り入れていくといいでしょう。

その量は多めに内服していきますので、メラトニンでその反応(睡眠や夢)は個人差があり内服するタイミングや量を増減させていきます。医師の相談のもと行ってください。

乳がんでタモキシフェンによる治療をしている方も多いと思われますが、メラトニンをしっかり使ってあげますとタモキシフェンの効果にもいい働きをします。また、骨髄をサポートするので、抗がん剤の治療を行う人も多めに摂っていくとよいでしょう。とにかく、メラトニンに関してのポイントはその量です。

次に、がんの患者さんも適度なexerciseは大切です。適度なウオーキングなどもいいでしょう。動くことが困難な方は窓を開けて深呼吸を毎日5分するというだけでもいいわけです。そうした体の動きをつけることで、やはり消化器の状態にも影響してきます。

すなわちいい栄養が体に吸収されやすくなり補給できます。食事が美味しいと感じることもできるでしょう。

ちなみに、がんを発症した方でウオーキングを1時間/週行った人は20%、3~5時間/週では50%、5時間以上/週では44%リスクを下げたという報告があります。この報告からも適度な運動がよく、やり過ぎることは逆効果になってしまいます。少し参考になりますでしょうか。

今回は少し総論的になりましたが、人の体は五感で感じる部分、思考、臓器などどれか1つを取って独立させるものではなく、これらすべてが私達の体の中にあるものでトータルしてそれぞれが作用し合って体をつくり生きているのです。

がんを患っている方もセルフケアすることでどう治療して、どう生きていくか自分で決めることが大切なのです。人生はがんであろうがなかろうがすべてみな平等に1度きりです。私の患者さんでも末期がん、余命告知された方でもがんをはね除けた方が何人もいます。

彼らはこのセルフケアがしっかりできているのです。さあ、みなさんもセルフケア始めてみてください。そして、たまには環境を変えて旅に出たりするのもいいと思います。大きな空、山、森、海に包まれてみるのもいいものですよ。