シリーズ 宮西ナオ子のがんに挑むサプリメント
徹底リサーチ 第7回 フコイダン
フコイダンとは
がん患者さんに有名なサプリメントのひとつに「フコイダン」があげられます。これは特定の海藻を指すのではなく、多糖類水溶性の食物繊維の一種であり、褐藻類の表面に見られるヌルヌル部分に含まれる特有のヌメリ成分のことをいいます。
海草類は海水中の栄養成分であるミネラルやビタミンを十分吸収して生長しますが、フコース、硫酸化フコース、そのほかの糖(キシロース、ウロン酸、マンノース)が連結した総称をフコイダンというわけです。大きく分けてオキナワモズク由来、ガゴメ昆布由来、メカブ由来フコイダンの3つに分かれます。
高分子と低分子のフコイダン
高分子フコイダンは褐藻類に含まれている本来のフコイダンで、含まれる分子量が多いのですが、抽出されるときに意図的、もしくは偶発的に低分子化される低分子フコイダンも存在します。日本でフコイダンの研究をする主要な企業が参加する健康食品の業界団体、公益財団法人日本健康・栄養食品協会(日健栄協)の規格基準では、「フコイダン」=「高分子」を品質基準と定めており、原材料規格としては、分子量1万以上の多糖体が70%以上であるとされます。しかし研究では「高分子」「低分子」のどちらが良いという判断基準はなく、どちらが良いかの結論もでていません。ただし低分子のほうがエビデンスレベル(図1)の高い研究があるようです。
図1 エビデンス(科学的根拠)レベル
フコイダンの歴史と研究成果
1913年にスウェーデンの化学者H・N・キリン教授によって
発見され「フコイジン」と命名されました。その後、国際糖質命名規約で「フコイダン」と定義。しかしそれから数十年間、褐藻類の種類、部位、採取時期、個体の成長度などの条件によってフコイダンの分子構造が異なるため、化学構造が解明されないままでした。
しかし発見から83年が経過した1996年の「第55回日本癌治療学会」で「フコイダンの抗がん作用の研究報告」という細胞試験の研究成果が発表され、注目を集めました。これはガゴメ昆布由来のフコイダンを使用したもので、フコイダンが正常細胞にはほとんど影響を与えず、がん細胞だけを自然死させる作用(アポトーシス誘導作用)があるという研究成果でした。また2017年「第20回日本補完代替医療学会」でも「ガゴメ昆布フコイダンの免疫賦活作用」という研究成果が発表されました。またがんを移植したマウスを使った動物研究で、NK活性(免疫力)の上昇作用なども報告されています。その他、基礎研究として、血管新生抑制作用なども報告されています。
成分と効能
日健栄協の品質規格基準によると、モズク由来フコイダンは、フコイダンの含有量が多く、コンブ由来フコイダンは、ヌメリが強い。
メカブ由来フコイダンはワカメの生殖器にあたる部分で、特にフコイダンを多く含んでいるといわれます。含まれている栄養素には、各種ビタミン類、ヨウ素、カルシウム、マンガン、亜鉛、カリウムなどの豊富なミネラル。ガラクトース、マンノース、キシロース、グルクロン酸など。期待される効果は、抗腫瘍、抗ピロリ菌、胃部不快感改善、コレステロール・中性脂肪低減、血液凝固抑制(血栓防止)、血圧上昇抑制、血糖値上昇抑制、花粉症、アレルギー緩和、腸内環境改善、肝機能改善、便秘の改善、貧血の改善、老化防止などがあります。
フコイダンを使った料理
日本人は海藻をよく食しますが、実は、海藻を食べる文化がある国は、日本と韓国だけといわれます。フコイダンを使った料理は手軽で簡単。しかも美味で健康的なので、お勧めです。今回インターネットで求めたのは「めひび」(国産乾燥メカブ)、「天然がごめ昆布』(北海道産道南黒口浜産)、「太モズク」(沖縄県産)の3種類です。
〇メカブ料理
乾燥したメカブは、そのまま食べてもおいしいですが、日常的に食べている食材に混ぜるだけで一味違った味わいを楽しめます。
メカブ納豆
メカブ 適量
納豆 1パック
ポン酢、からし、海苔、ネギなど
納豆とメカブを混ぜるだけ。とても美味なうえにヘルシーです。
メカブ納豆
メカブの卵焼き
メカブ 適量
卵 1個
油 少々
フコイダンは加熱すると食材から溶け出し、体内に吸収されやすなるといいます。乾燥メカブはあらかじめ水で戻します。
メカブの卵焼き
〇ガゴメ昆布料理
ガゴメ昆布を細切りにしたものです。とろみの強さがあり栄養価が非常に高いといわれます。そのままおやつにして食べることもできますし、ご飯などに混ぜてもOK。メカブよりも噛み応えがあります。
ガゴメ昆布の釜玉うどん
うどん 1玉
卵 1個
乾燥ガゴメ昆布 適量
ポン酢 適量
普通のうどんにガゴメ昆布を適度に入れるだけで歯ごたえもあり風味も出ます。調理も簡単。
ガゴメ昆布の釜玉うどん
ガゴメ昆布とオクラのねばねば和え
ガゴメ昆布 5g
オクラ3本
塩 小1
みりん 大1
醤油 大1
顆粒出汁 小1/2
わさび 少々
とろとろした昆布とねばねばのオクラの絶妙な触感に加え、さっぱりしたお味も魅力的。
ガゴメ昆布とオクラのネバネバ和え
〇モズク料理
メカブとガゴメ昆布は乾燥したものでしたが、このモズクは生。よく水洗いして十分に塩抜きをして用います。
生モズクの味噌汁
生モズク 50g
昆布だし 8g
味噌 大1
刻みネギ 少々
水 500㏄
モズクは水で洗い塩抜きをします。風味がありおいしいみそ汁のできあがり。
生モズクの味噌汁
生モズクの炊き込みご飯
米 2合
モズク 200g
水
十六雑穀 1袋
塩こうじ 大1
モズクは水で洗い塩抜きをして。おかずが不要なくらいとてもおいしい炊き込みご飯ができました。
生モズクの炊き込みご飯
論文の見方
フコイダンのヒト臨床論文の情報を探してみました。PubMed掲載件数を見ると、2000年以降は4件のヒト臨床論文が掲載されています。エビデンスレベルは9つのランクがあり、フコイダンについては、エビデンスレベルの2番目に高いランダム化二重盲検比較試験が行われています。これは低分子フコイダンを用いた試験ですが、疾患制御率(DCR)で有意差が認められたと考えられる研究結果です。
また日本のほかに、台湾やオーストラリアなど様々な国で研究が進められていることも注目に値します。ホルモン療法実施中の乳がん患者、転移のあるがん患者、転移性の大腸がん患者、切除不能な大腸がん患者を対象に試験が行われています。
論文
1.進行がん患者のQOL(生活の質)とフコイダンの抗炎症作用に関する予備的研究
〈解説〉
転移のある進行がん患者20名にフコイダン400㎖/d(10mg/㎖)を2週間、4週間投与した前向きオープンラベル臨床試験を行った結果、インターロイキン– 1β(IL– 1β)、IL– 6、腫瘍壊死因子– α(TNF – α)をはじめとする主要な炎症性サイトカインは、フコイダン摂取の2週間後に有意に減少した。
〈コメント〉
進行がんの患者さんがフコイダンを摂取すると、主要な炎症性サイトカインが2週間後に有意に減少し、疲労を含むQOLスコアは試験期間中に有意な変化はなくほぼ安定していた。今後は特に化学療法を受けている患者の支持療法として、より規模の大きい盲検比較対照試験が必要である。
PubMed No. 28627320
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28627320
Integr Cancer Ther. 誌、2018年6月号、17(2):282-291. doi:10.1177/1534735417692097.Epub 2017 Feb 12.
2.転移性大腸がん患者における補足療法としての低分子フコイダン(LMF)の効果:二重盲検無作為化比較試験
〈解説〉
本研究は、台湾で転移性大腸がん(mCRC)患者における標的化学療法剤の補足療法としての有効性を評価することを目的とし二重盲検無作為化比較対象前向き試験を行った。患者さん60名のうち最終的に54名の患者さんが参加。うち28名を実験群、26名を対照群としたダブルブラインド試験。実験群および対照群の疾患制御率(DCR)はそれぞれ92.8%と69.2%であり、追跡期間中央値は11・5カ月であった。OS(全生存期間)、PFS(無増悪生存期間)、ORR(全奏効率)、AE(副作用)、QOL(生活の質)には両群間で有意差を認めなかった。
〈コメント〉
mCRC患者の低分子フコイダン(LMF)の有効性を評価した初の臨床試験であり、標的化学療法剤と低分子フコイダン(LMF)の併用は、生存期間や奏効率の改善効果は認めなかったが、疾患制御率(DCR)を有意に改善したことを示している。
PubMed No. 28430159
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28430159
Mar Drugs. 誌、2017 年4月21号、15(4). pii: E122. doi: 10.3390/md15040122.
3.乳がん患者におけるレトロゾールとタモキシフェンの薬物動態に対するワカメフコイダンの効果
〈解説〉
オーストラリアで悪性乳がん患者20例。乳がん患者に広く使用される2つのホルモン療法薬レトロゾールあるいはタモキシフェン服用中の活動性悪性腫瘍患者を対象にしたオープンラベル非交差試験。ワカメ由来フコイダンの同時投与をした。患者はフコイダン抽出物の形で3週間(500mgを1日2回)経口服用。観察期間中に不具合はなかった。
〈コメント〉
レトロゾールあるいはタモキシフェンの定常状態血漿濃度に有意な変化は認められず、フコイダンの副作用も認められなかった
PubMed No. 28008779
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28008779
Integr Cancer Ther. 誌、2018年3月号、17(1):99-105. doi:10.1177/1534735416684014.
4.フコイダンは、切除不能な進行性または再発性の大腸がん患者の化学療法の毒性を軽減。
〈解説〉
日本で抗がん剤の毒性抑制に対するフコイダンの効果を分析した。FOLFOXまたはFOLFIRIによる治療を受ける予定の切除不能な進行または再発大腸がん患者20名をフコイダン治療群(n=10)とフコイダン治療なしの対照群(n=10)に無作為に振り分けた。結果、フコイダンが化学療法中の疲労発生を制御することを示し、フコイダン併用の化学療法は非併用化学療法よりも長期間継続された。
〈コメント〉
切除不能な進行性または再発性の大腸がん患者が化学療法に併用してフコイダンを摂取すると、化学療法中の疲労発生を制御することを示す結果が得られた。フコイダン併用群で薬剤の副作用(体力の低下)が改善された。
PubMed No. 22866084
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=22866084
※ 2Oncol Lett. 誌、2011 年3月号、 2(2):319-322. Epub 2011Jan 21.
総論
フコイダンはワカメ、メカブ、モズクなど手軽に入手できる食材から得ることができ、料理も簡単で多岐にわたります。しかも相性のよい食材が山芋、納豆、豆腐、おくらといった具合にヘルシーなものが多く、相乗効果でよい結果が得られるのではないでしょうか。しかもお味もさっぱりしているものが多く、食欲のないときや夏場でも十分に楽しむことができます。そういう意味では、日ごろから予防医学的な意味も含めてフコイダンを摂取していったらよいと思われます。
また乾燥しているガゴメ昆布やメカブなどは、そのままぱりぱり食べておつまみ的に楽しめますから、口さみしいときに味わってみるのもよいかもしれません。
一方、論文のほうですが、フコイダンにはヒトを対象にした論文の中に「進行がん患者がフコイダンを摂取すると、主要な炎症性サイトカインが2週間後に有意に減少」「標的化学療法剤とフコイダンを併用すると、疾患制御率が有意に改善」「切除不能な進行性または再発性の大腸がん患者の化学療法の毒性を軽減する」などと明確な結果が出ていることが注目されます。
ただし、フコイダンと一言で言っても低分子/高分子、ワカメ(メカブ)由来、モズク由来、コンブ由来など様々な種類があります。それぞれの成分で異なる研究成果がありますので、研究成果を確認する場合は注意が必要です。
とはいえ、今後ますます注目されるサプリメントといってよいのではないでしょうか。
宮西ナオ子(みやにし・なおこ)
上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。