シリーズ 宮西ナオ子のがんに挑むサプリメント
徹底リサーチ 第5回 メシマコブ
メシマコブとは
メシマコブはタバコウロコタケ科のキコブタケ属のキノコで、学名を「フェリナス・リンテウス」といいます。桑の木やブナ・シイなどの広葉樹の幹に寄生し、20~30年もの歳月をかけて最初はコブ状から徐々に扇状に生育していきます。傘の表面は黒から褐色、直径は30㎝の大きさにまで達します。
メシマコブの名前の由来は、江戸後期に遡ります。本草学者・小野蘭山が長崎県の男女群島の女島(めしま)には野生の桑が多く、桑の古木にコブ状に着生するところに着目して「メシマコブ」と名づけられたといわれます。とはいえ当時のメシマコブは、養蚕に必要な桑の木の栄養分を根こそぎ吸い取り枯らしてしまうことから「桑殺し」ともいわれるほどで、養蚕業者が取り除く厄介な存在でした。その後、養蚕業が衰退し桑の木も減少すると、メシマコブは姿を消していきました。そもそも生育地が限られており、湿度や温度などの自然環境に左右されやすいため、「幻のキノコ」といわれ、栽培や培養も困難だといわれています。
中国ではメシマコブを「桑黄(そうおう)」と呼んでおり漢方では有名です。「桑黄」の名の由来は、傘の内側のひだに黄~茶色の独特の剛毛がみられることから。食用というよりはむしろ薬効面で注目されてきました。世界最古の薬学書といわれる『神農本草経』(紀元25~225年)には「長年にわたって桑黄を煎じて飲めば寿命が延びる」と記されており、「不老不死の薬」として知られています。ほかにも『本草綱目』『中国薬用真菌』をはじめとして、さまざまな薬学書に「桑黄」が記されています。漢方では胃痛や下痢などの症状にも良いとされています。さらに糖尿病やリウマチ、膠原病などの自己免疫疾患にも期待できるともいわれています。
メシマコブの成分
メシマコブの主な有効成分の一つはβ-グルカン類です。ほかにa–1.4ヘテロマンナン、β–1.6ヘテロマンナンのタンパク複合体なども多く含まれています。また各種のビタミン、ミネラルをはじめ、エルゴステロール、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、アルギニンなどのアミノ酸、オキシターゼ、カタラーゼ、ウレアーゼなどの酵素も含まれています。エルゴステロールは、紫外線でビタミンD2に変わり、ビタミンやカルシウムの吸収を助ける働きがあり、栄養のバランスが良いとされています。
メシマコブのお茶を飲んでみよう!
長それでは早速メシマコブのお茶を飲んでみましょう。メシマコブの粉砕タイプ(500g)をインターネットで購入しました。
見た目も手触りも木屑のようです(図1)。
図1 メシマコブの粉砕
香りは漢方薬のようです。まずは煎じてみました。
ここで大切なのは煎じる鍋。ガラス陶磁器、ホーロー、土鍋などを使うこと。鉄や銅のものは避けます。3番煎じまで使うことができます。今回は、以下の方法で作ってみました。
①メシマコブ50gを使う。
②2ℓの水を加え、強火で沸騰後、中火にして湯量が半分(1ℓ)に減るまで煮出す。
本来ならば、この方法で煮だした後、3番煎じまでを繰り返し作り、1番煎じから3番煎じまで合わせたものを使用するのが一般的なようですが、これをするには4時間くらいかかってしまうようなので、まずは1番煎じのお茶を飲んでみました(図2)。
図2 メシマコブ茶
煎じている間に漢方薬のような香りが漂ってきました。半分の量になるまで約40分煎じたお茶の色は黄色っぽく、飲んでみると少し苦い。良薬口に苦しです。ハチミツなどを入れて飲むと苦味と甘みが相まって絶妙な風味になりました。1日に3回飲むとよいということで、残ったものは冷蔵庫に保存します。
また煎じた後のメシマコブのカスを目の細かい布(ストッキングなどを活用)にくるんでお風呂に入れてみました。温泉のような香りがし、薬用風呂に入ったような気持ちよさを味わいました。
メシマコブ入り参鶏湯を料理する
次にメシマコブを使った料理を作ってみることにしました。韓国にはメシマコブを使った参鶏湯があると聞きました。参鶏湯は薬膳料理とも補身料理(ポシン料理・滋養食)ともいわれますが、特に夏バテ時の疲労回復として食されるようです。本格的な調理方法は生後数十日が経過した若鶏を丸ごと使い、おなかの中に高麗人参、鹿茸、ファンギ(キバナオウギ)などの漢方ともち米、くるみ、松の実、ニンニクなどを入れて長時間煮込んで作るものです。しかし素人には鶏丸ごとの料理はなかなか難しいので、骨付き肉を代用し、漢方薬局監修の「本格薬膳参鶏湯スパイスセット」を取り寄せて作って
みました。
入手したスパイスセットにはオーガニックもち米(熊本産)、なつめ、高麗人参、ファンぎ、ハスの実、クコの実、マツの実が入っていました。またこれに加え、私のほうで用意したものは、骨付き肉700g、ニンニク2片、しょうがスライス2枚、塩小さじ2分の1、ネギ(図3)。
図3 参鶏湯の材料
それとメシマコブの粉末50 gを煎じて抽出した水700㎖。
作り方は、①スパイスセットに入っているもち米を、丁寧に洗ってざるに挙げて水分をとる。②ニンニクは芯をとってつぶし、しょうがは薄切りに。③鍋にスパイス袋、もち米、なつめ、マツの実、ニンニク、ショウガ、水を入れて火にかける。④沸騰したら灰汁をとり、塩を入れ、弱火にして30分煮込む。⑤スパイス袋を取り出し、クコの実、ネギを入れて火を止めて出来上がり(図4)。
図4 調理した参鶏湯
今回はメシマコブのエキスを入れたので、それを煎じるのに少し時間がかかりましたが、材料さえ用意できれば簡単に作ることができます。調理の結果は、味は薄めですが、スパイスの香りがきいており、食してみると、素材から抽出された甘みがほのかに感じられ、なんともヘルシーで美味。とろとろの風味(図5)
図5 参鶏湯
半分ほど食して満腹になり、翌日、また半分を食しました。翌日もとろみが増して、ますますおいしくいただきました。両日とも食した後は、身体が温かくなり免疫力も増したのか、すぐに眠くなり快眠を得ました。翌朝の目覚めもよく快便。朝から元気です。気のせいか肌の調子も良いように感じます。
これを日常生活に取り入れていけば健康増進につながるのではないかと感じました。メシマコブを使った参鶏湯料理を提供しているお店を探してみると、国外なのですが韓国の明洞にある「高峰参鶏湯(コボンサムゲタン)」と釜山市にある「桑黄参鶏湯(サンファンサムゲタン)」で提供しているようです。チャンスがあれば食してみたいものです。
メシマコブの研究
初めてメシマコブの抗がん効果に関する研究が報告されたのは、1968年。国立がんセンター(現国立がん研究センター)研究所化学療法部の池川哲郎博士や千原吾郎博士率いる研究チームが行った動物研究でした。サルコーマ180というがん細胞をマウスに皮下移植し、各種キノコから熱水抽出したエキスを注射してがん細胞の増殖抑制を調べたのです。「薬用キノコの腫瘍阻止率(図6)」を見てもわかるように11種類のきのこの抗がん効果を研究した結果、メシマコブの増殖阻止率が96.7%という数値になりました。
図6 薬用キノコの腫瘍阻止率
ただメシマコブの栽培は非常に難しく、天然物の入手が難しいということから、メシマコブの研究の継続も難しくなりました。そのためか、現在、国際論文データベース(PubMed)に登録された日本でのヒト臨床試験はありません。一方、韓国では1980年代から研究が開始され、人工培養が成功したために、1992年から科学技術省主導の国家プロジェクトとして製剤化に取り組んできました。1993年にその製品は韓国厚生省から医薬品として承認されています。
韓国での医薬品承認から27年と時間が経っていますが、FDA(米国食品医薬品局)承認薬データベース、欧州医薬品庁など各種の海外医薬品データベースにて確認した限りでは、日本・米国・カナダ・欧州などでの医薬品としての登録はありませんでした。
研究論文
国際論文データベースに登録されているヒト臨床試験は1件のみです。これは医薬品として承認されている韓国国内での研究です。確認した限りでは他国のヒト臨床試験の論文はなく、ほとんどが動物試験となっています。
ヒト臨床試験
すい管腺がんの根治的切除後のアジュバント治療の完遂率に対するメシマコブの影響
韓国で行われた。対象は根治的切除後でアジュバント治療を受けているすい管腺がん患者。アジュバント治療とは、腫瘍の主な治療(外科切除する外科的手術など)の後に、この治療効果を高め再発を予防するために抗がん剤などの治療を行うこと。メシマコブ利用者は非利用者に比べ、無病生存期間および全生存期間が有意に長かった。
〈コメント〉
メシマコブ(PL)投薬が化学療法の低毒化に関与した結果、患者の術後アジュバント化学療法の順守が向上し、メシマコブ(PL)投薬が長期の腫瘍学的な結果に寄与した可能性があると考えられる。
PubMed № 30501431
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=30501431
総論・まとめ
メシマコブの名称は知っていてもなかなか詳細については知らないことも多かったと改めて気づきました。動物試験ですが薬用キノコの腫瘍阻止率では、ほかのキノコを抜いてダントツでの成果を出しているのには驚きました。また、韓国では国家プロジェクトで研究しているのも驚きでした。国際論文データベースのヒト臨床試験はまだ1件だけなので、今後の研究成果が待たれます。また今回初めて作ってみた参鶏湯ですが、鶏肉を丸ごと使うのは素人には難しくても、手羽先の鶏肉を使用したり、漢方研究所のスパイスセットを使うことで簡単に自宅でも楽しむことができます。日々の生活に健康によい食材を取り入れて、予防医学的にも使うことができますし、闘病中の場合でも、おいしく、滋養のある食事で免疫力をアップすることができるのではないでしょうか。
宮西ナオ子(みやにし・なおこ)
上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。