シリーズ 宮西ナオ子のがんに挑むサプリメント
徹底リサーチ 第8回 プロポリス
プロポリスとは?
ミツバチが樹木の新芽や蕾、樹皮などから集めた樹脂にミツロウや唾液などの分泌物を混ぜてつくられるのがプロポリスです。ラテン語のプロ(前、正面)と、ギリシャ語のポリス(都市)から「敵の侵入を防ぐ城壁」という意味に由来して名付けられました。
プロポリスの歴史は古く、紀元前数百年の古代エジプト時代からミイラ作製時の防腐剤として利用されてきました。
プロポリスには別名「天然の抗生物質」とも呼ばれる作用があります。植物は傷つけられると傷口を守るための樹脂を分泌するために新芽や蕾に抗菌作用を有しています。ミツバチは植物が持つこの抗菌作用を活用し、自らの分泌物を合わせてプロポリスをつくり、巣の隙間に塗りこみます。そのため温度も湿度も高くなりがちな巣の中の細菌の繁殖を抑え雑菌やウイルスなどから身を守ります。
産地によって異なるプロポリスの特徴
プロポリスは、世界各国で採集されます。日本でもわずかではありますが北海道から沖縄県まで、主に研究用として採集されます。産地によっては品質や成分に違いがあり、その色もミツバチの集める植物によって異なります。一般的なのが黒褐色。他にも、暗緑色のグリーン系から赤褐色のレッド系までさまざまです。
最も生産量が多いのがブラジル産ですが、その成分を分析した結果、ヨーロッパ産や中国産とはかなり異なっていることがわかりました。さらに同じ中南米でも、ウルグアイやアルゼンチン産はブラジル産とは異なり、ヨーロッパ系に近いことが明らかになってきました。成分が異なる主な理由は、採取するミツバチが異なること。
ヨーロッパタイプはセイヨウミツバチがつくるもので材料として「ポプラ」を好み、主な成分としてはフラボノイド、ミネラル、アミノ酸が含まれます。
一方、ブラジルタイプはアフリカミツバチとセイヨウミツバチが混血したアフリカ蜂化ミツバチという種類がプロポリスの材料として「アレクリン・ド・カンポ」を好んで集めます。防衛本能が高く、巣を守るためのプロポリスを早く大量に生産するため、プロポリスの生産に適しているといわれます。
その主な成分として抗腫瘍成分としてのアルテピリンCをはじめとする桂皮酸誘導体、フラボノイド、ミネラル、アミノ酸などがあります。ちなみに日本で一般的に利用されているのはブラジル産プロポリスです。
健康食品としての存在
日本でプロポリスが健康食品として知られたのは、1985年に開催された「第30回国際養蜂会議名古屋大会」です。ここで中島自然科学研究所が日本で初めてブラジル産プロポリスを紹介し金賞受賞。プロポリスは免疫力を高め、炎症を抑制、花粉症を予防したり、糖尿病を予防したりする効果、加えて美肌効果、口臭予防、抜け毛予防などが認められています。とはいえ、ハチミツなど蜂の生産物でアレルギー反応が起こる人や喘息の人は使用を避けたほうがよいでしょう。
プロポリスのがん研究について
日本で初めてプロポリスのがん研究が報告されたのは、1991年の「第50回日本癌学会総会」でした。国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)のウイルス室長だった松野哲也氏が動物試験による「プロポリスの抗腫瘍作用」と題する研究を発表。以降、プロポリスにおける、がん研究が盛んになりました。
1995年になると林原生物化学研究所と医学博士の木本哲也氏が「アルテピリンCの抗腫瘍活性」というプロポリス含有成分「アルテピリンC」の発見と抗腫瘍効果の研究成果を発表しています。
プロポリスを試飲してみた
それでは早速、インターネットで純度100%プロポリス粉末(15g)を購入しました。「アルテピリンC、ケルセチンが豊富」と表記されています。
プロポリス粉末
「1日0・3グラム(ティースプーン約1/3杯)を目安に水と一緒もしくはハチミツやヨーグルトなどに混ぜてください」とのことです。早速用意した飲料やヨーグルトなどいろいろなものに混ぜて試飲・試食を行ってみます。注意点として熱いものに混ぜるときは酵素が壊れてしまうため成分を損なわないよう、ホットティやコーヒーは50度以下の温度にさましてからプロポリスを加えます。
パウダーは黄土色で少しきな粉のような感じです。1日に1/3杯(1日0・3グラム)とありますが、1回にこれだけの量を入れるのは多すぎるので、実際に1回に入れるときはほんのわずかの量です。
それでもプロポリス独特のなんともいえない香りが周囲に漂い、キッチンに加えダイニングルームにもプロポリスの香りが満ち溢れています。
全体的にみて、プロポリスの独特の香りが強いため、素材そのものの味が薄いものは、プロポリスの香りがかなり引き立ちます。もともと素材に味がついているもの、たとえばブルガリアヨーグルトのブルーベリーのようなものはあまりプロポリスの影響を感じません。プリンは甘みが引き立ちました。
わずかな量のプロポリス粉末
飲料系
・毎日1杯の青汁
・オーガニック成分無調整豆乳
→それぞれ味が引き立ちます。
デザート系
・ブルガリアヨーグルト(ブルーベリー)
→もともと味が強いので、プロポリスを入れてもそれほど味に影響はなし。
・卵プリン
→甘いプリンにプロポリスの独特の香りがきいて、よりおいしく感じた。
そのほか
・常温以下にしたティ
→プロポリスの香りと存在感を感じるが、もとの素材感も引き立つ。
・ハチミツ
→プロポリスの風味が緩和される
プロポリスを飲んだり食したりした後は、自分の口の周りにプロポリスの香りが漂っています。口臭防止として強い味のものを食べた後などは役に立ちそうです。また、食してからしばらくすると身体や指先がほかほかと温かくなるのも感じました。
論文情報
次に論文からの検証です。プロポリスについては2000年以降PubMed 掲載では7件のヒト臨床論文が掲載されています。しかも、すべてがエビデンスレベルの高いランダム化二重盲検比較試験。図のようにエビデンスレベルでは(図参照)、メタアナリシス(複数の研究を統合し、より高い見地からの分析。EBMにおいて最も質が高い)の次に位置する信頼度の高さです。
エビデンス(科学的根拠)レベル
さらに論文は日本のみならずイタリア、イラン、スロベニア、エジプトなど国際色豊かな国々で研究が進められています。とはいえ7件中3件では、「効果がなかった」という報告でした。さらに1件は、「有害な副作用を及ぼす可能性が示された」ということなので、少し慎重にならざるを得ません。また「効果あり」の報告は、直接、がんに作用するものではなく、有用報告4件はすべて抗がん剤や放射線療法による口内炎に対する有用報告であり、副作用対策に関するものでした。
論文紹介
1.PMID: 28840622
【国】イタリア
【内容】
アジュバント化学療法を受けている乳がん患者の口腔粘膜炎に対するプロポリスの予防効果。パイロット無作為化比較試験。
【解説】
化学療法中の乳がん患者の口内炎に対する予防効果報告。プロポリス+重炭酸ナトリウムは、乳がん患者における OM(化学療法誘発性口腔粘膜炎 )の予防に安全で、忍容性が高く、有望な効果を示した。
【ランダム化比較試験】
イタリアの研究グループが補助化学療法中の乳がん患者に対してプロポリスの乾燥エキスと重炭酸ナトリウムによる口内洗浄を行ったところ化学療法による口内炎の予防には安全で、忍容性が高いという有用な効果を示した。
PubMed No. 28840622
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28840622
2.PMID: 28560780
【国】イタリア
【内容】
頭頸部がんに対する化学放射線療法中の急性粘膜炎の予防にて、天然薬の混合物とプラセボを比較した二重盲検無作為化第Ⅲ相試験。
【解説】
今回の二重盲検試験では、プロポリス、アロエベラ、カレンデュラ、カモミールの4種類の天然物とプラセボの比較を行った。化学放射線療法中の頭頸部がん患者の急性粘膜炎に対する予防効果が確認できなかった。
【ランダム化比較試験】
イタリアの研究グループが、強度変調放射線治療(IMRT)を併用している頭頸部がん患者がプロポリスを含む混合物を摂取したところ、粘膜炎に対する予防効果は確認できなかった。
PubMed No. 28560780
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28560780
3.PMID: 27510017
【国】イラン
【内容】
頭頸部がんに対する化学療法を受けている患者の口腔粘膜炎に対するプロポリスの無作為化二重盲検プラセボ対照試験。化学療法中の頭頸部がん患者の口内炎に対する有効性報告。
【解説】
イランの研究グループが、化学療法中の頭頸部がん患者がプロポリス洗口剤を使用したところ、口腔の健康改善に効果的であることが明らかになった。プロポリスをベースにした製剤は、歯科の様々な専門分野で幅広く応用されている。この臨床試験の目的は、化学療法誘発性口腔粘膜炎(OM)を軽減するための洗口剤としてのプロポリスの有効性を、単一の施設で調べた。
【ランダム化比較試験】
化学療法を受けている患者の口腔ケアにプロポリスを洗口剤として使用することは、口腔の健康改善に効果的であることが本研究で明らかになった。この結果は、医療従事者に対して、化学療法中の患者の口腔ケアにプロポリス洗口液を使用するよう奨励する。
プロポリス群では、プラセボ群と比較してOM、創傷、紅斑に有意差が認められたが、飲食能力には有意差はみられなかった。試験7日目に患者の65%が完治した。患者からは有意な有害事象は報告されなかった。
PubMed No. 27510017
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=27510017
4.PMID: 26634113
【国】イラン
【内容】
頭頸部がんに対する放射線療法誘発性粘膜炎におけるプロポリスの予防と治療効果:三重盲検、無作為化、プラセボ対照試験。放射線療法中の頭頸部がん患者の口腔粘膜炎に対する有用性報告。
【解説】
放射線療法中の頭頸部がん患者がプロポリス洗口液を使用したところ、放射線療法誘発粘膜炎を効果的に改善することを示したというイランの研究グループによる報告。
粘膜炎は放射線治療の急性合併症の一つで、口腔粘膜を潰瘍化させ、激しい痛みや不快感を引き起こし、口腔の正常な機能に影響を及ぼす可能性がある。プロポリスは天然のフラボノイド源で、抗潰瘍作用、抗菌作用、抗真菌作用、治癒作用、抗炎症作用を有する。嫌な臭いや味がせず手頃な価格のために、放射線治療を受ける患者の助けになる。
【ランダム化比較試験】
本試験の目的は、頭頸部がん患者における放射線療法誘発性粘膜炎に対するプロポリスの予防および治療効果を評価すること。プロポリスの水ベース抽出物が放射線療法誘発粘膜炎を効果的に予防および治癒することを示すパイロット研究である。
PubMed No. 26634113
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=26634113
5.PMID: 23876561
【国】スロベニア
【内容】
化学療法で誘発される重度の化学療法誘発性口腔粘膜炎(OM)に対するプロポリスの治療有効性を評価する二重盲検無作為化プラセボ対照試験。化学療法中の小児患者の重度口内炎に対する有効性は確認されなかった。
【解説】
スロベニアの研究グループが、化学療法中の小児患者が口腔粘膜にプロポリスを塗布したところ、有効性は確認されず、重度の化学療法誘発性口腔粘膜炎(OM)にプロポリスは推奨できないという報告。
【ランダム化比較試験】
プロポリス群で42%、プラセボ群で48%の患者に重度のOMが認められた。本研究結果によれば、重度のOM治療にプロポリスは推奨できない。
PubMed No. 23876561
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=23876561
6.PMID: 23529990
【国】日本
【内容】
ブラジル産プロポリスのアルテピリンCを豊富に含有する抽出物の大腸腺腫ポリープ頻発患者の効果に関するパイロット、無作為化、プラセボ対照、二重盲検第0相/バイオマーカー試験。
【解説】
日本の研究グループが、大腸腺腫ポリープ摘出後の患者がプロポリス抽出物を摂取したところ、結腸がんの初期段階で起こる変化の予防有効性は確認されず、また心筋細胞を含む筋肉組織に有害な副作用を及ぼす可能性が示されたという報告。
ブラジルの民間療法剤であるプロポリスは、大腸がん予防の代替医療として世界中で利用されている。本研究は、ヒトでは評価されていなかった大腸がん予防のためのプロポリスの安全性と有効性を、高リスク群を対象とした小規模なバイオマーカーパイロット試験で調べることを目的とした。化学療法中患者の口腔粘膜炎に対する有用性報告。
【ランダム化比較試験】
本パイロット研究の結果は、ブラジル産プロポリスが結腸がんの初期段階で起こる変化を予防するのに有効であるという証拠を提供しなかった。対照的にプロポリスは心筋細胞を含む筋肉組織に有害な副作用を及ぼす可能性がある。プロポリスが結腸がんの初期病変の予防に対する有効性は確認できなかった。
PubMed No. 23529990
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=23529990
7.PMID: 22475306
【国】エジプト
【内容】
蜂蜜および蜜蝋、オリーブオイル– プロポリス抽出物の混合物による化学療法誘発性口腔粘膜炎の治療:無作為化比較パイロット研究。
【解説】
エジプトの研究グループが、急性リンパ芽球性白血病でグレード2および3の口腔粘膜炎のある患者にプロポリスを含む混合物を外用治療として投与したところ、蜂蜜が治癒を促進することを示したという報告。
【ランダム化比較試験】
化学療法誘発性粘膜炎を対象とした将来の治療試験において、蜂蜜およびおそらく他の蜂蜜製品とオリーブオイルの使用が推奨される。
PubMed No. 22475306
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=22475306
総論
プロポリスは、いろいろな飲料やスナックに入れて手軽に日常生活の中で取り入れることができるでしょう。
私の感想としては、あまりに香りが独特で強いので、何を飲んでも食べてもプロポリスの香りに満たされてしまうため、同じように感じました。量は少なめに入れているのに、それでもかなりのフレーバーです。
またずっと以前のことですが、取材して多用したときに少々アレルギー的な反応がでたことがあるため、一度にあまりたくさん摂取しないほうがよいでしょう。
一方、論文を読むとがんについての直接的な効果はエビデンス的にはなかったものの、抗がん剤や放射線療法による口内炎などの炎症や口臭予防などには使えると思いますし、免疫力を高めてくれるのではないでしょうか?
身体がほかほかとし、指先まで温かくなります。毎日の生活に少しずつ取り入れてみるのもよいのではないでしょうか?
宮西ナオ子(みやにし・なおこ)
上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。