(がんの先進医療: 2013年10月発売 11号 掲載記事)
農家で味わったオリーブオイルの〝本当の味〟
この夏は皆様はどこか旅にお出かけになりましたか。がん治療中の方も少し思いきって旅に出ることをお勧めします。青い海や森林浴、温泉にゆっくりつかってリラックスしたりと体のためにいいですね。旅をすることで自律神経のバランスもよく整うことでしょう。
この夏は、友人を訪ねてイタリアのウンブリア州ペルージャ県のスポレートに行きました。スポレートはローマから車で2時間ほど北に走ったところでイタリア中部に位置しています。石づくりの建物に石畳、緑が多く、お城があるため城壁もしっかり残っています。外を歩いていますと、まるで中世の時代にタイムスリップしたかのように錯覚してしまいました。
それくらい古い街並を壊さずしっかりと現在まで残している素晴らしい景観、田舎すぎず都会すぎずの場所でした。今回このスポレートを紹介したいと思ったのには訳があります。
今、世界中で食の大切さを考え見直されている時代だと思います。極端な言い方かもしれませんが常々思うのです、〝人を生かすも殺すも食次第〟なのだと。がんになる要素にも食の影響は大きいですし、がんを治療するにも食事や栄養療法は欠かせないものです。
ここスポレートは、地産地消がうまく行っている地域と見受けられました。友人の話からも、レストランや食に携わるお仕事をする人が多いそうで、また、ファーストフード店が何軒かオープンしても経営が成り立たず撤退していくというのです。
スポレートの住民以外にも、近郊の方々も食事に訪れ地元のレストランを利用していくそうです。ここでの地産地消は、地場商品の消費拡大ということだけでなく、農家などと食卓が身近に感じられました。
地産地消がうまく行っているということは、新鮮な旬の食材がちょうど食べごろのタイミングで口に入るということで、長期保存のための防腐剤や栄養素が満たされない食材を口にすることは少ないわけですよね。
すなわち、それは体にとてもいいわけです。
スポレートはオリーブやワインでも有名な場所です。山肌にはオリーブの木がたくさん植えられ、街のあちらこちらでもオリーブの木を目にしました。友人の紹介もあって、ウンブリア州を代表する老舗のオリーブ農家(1817年からオリーブ農家としての歴史がある)で直接オリーブオイルを買うことができました。
こちらはスローフード協会のベストオリーブに選ばれたこともあり、高い評価を受けています。後でオリーブオイルについてもう少し詳しく触れますが、直接オリーブ農家でエクストラバージンオリーブオイルを手に入れ飲んでみました。
今までにまったく知らない味、さわやかでフルーティー、そして少しの苦み。これが真の味ならば、今まで私が口にしてきたものはどれだけ酸化され混ぜ物があったのかと思ってしまいました。
そして、ワインも、友人の誘いでワイン農家へ足を運びました。
友人たちは普段に飲むワインは5?ほど入るガラス瓶を持って買いに来るのだそうです。大きなタンクが何個もあって、赤、白、ロゼがコックをひねると抗酸化剤も防腐剤も入っていないワインが出てきました。
混ぜ物がないために頭痛を起こしたり、悪酔いをしないのです。確かに、夕食の時そのワインを飲みましたがとても美味しく、余計なものの味がしませんでした。
さて、今回は旅のお話に続いてオリーブオイルと赤ワインの話題で書いていきたいと思います。
最初は、オリーブオイルです。オリーブは人類によって最初に栽培された植物の1つであり、人間が初めて手にしたオイルがオリーブオイルとされています。起源は7000~8000年前のトルコ南部とされ、6000年前にはすでにキプロス、シリア、クレタで盛んに生産されていたそうです。トルコ南部、地中海に面した地域が原産地とされており、今でも野生のオリーブが自生しています。
地中海東部で始まったオリーブ栽培文化は、ギリシャ本土、南フランスのゴール地方、イタリア半島からシチリア、南スペインへと伝わりました。地中海全域で栽培されるようになったのは、紀元前3世紀にローマ帝国のローマ人によって広められていきました。
ローマ人にとって、オリーブオイルは生活に欠かせないもので使用範囲は広く、料理、医薬品、化粧品、灯火、祭儀、宗教上のセレモニー、スポーツなどあらゆる場面で使われていました。古代より世界各地で普及してきたオリーブオイルの文化には、いろいろな言い伝えがあります。「オリーブオイルを大切にする人は幸せになれる」「毎朝スプーン1杯のオリーブオイルが健康をつくる」などは、とても興味深い言い伝えだと思いました。
油に関しては、体に良い油と悪い油が日本でもだんだんと認識されるようになってきたと思います。亜麻仁油やEPA/DHAなどのω3脂肪酸を含む油は積極的に摂って欲しいと何度となく話してきました。オリーブオイルはオレイン酸を主成分とし、体内でもたんぱく質や糖質からつくられます。本来、積極的に摂りたい油ではありません。
しかし、今回、混ぜ物の一切ないフレッシュなエクストラバージンオリーブオイルに出会い、オリーブオイルのことを少し調べているうちに、オリーブオイルは分類・等級でかなり品質に差が出てくることがわかり、摂っていいオリーブオイルと摂らないほうがいいオリーブオイルがあるとわかりました。
毎朝スプーン1杯のオリーブオイルで健康が保たれる
私が現時点で調べたところによりますと、IOC国際取引基準というのがあり明確な純度試験と品質検査を義務づけているそうです。しかし、日本は国際基準の導入もなく、このような規格基準や試験もなく理解すらされていないとのことです。
こういった理由から、日本での一般売りのオリーブオイルは積極的に摂ることは勧められません。実際、いくつかの研究報告があります。スーパーで普通に売られている一般用のオリーブオイルは、亜麻仁油やしそ油などのαリノレン酸を多く含む油より4倍も発がん促進をするという研究報告があります。
別の研究で高オレイン酸紅花油には発がん促進効果が認められていないことから、オレイン酸を多く含むオリーブオイルにはまだ特定はされていませんが、何らかの有害な成分が微量含まれているのではないかと考えられています。
また、オリーブオイルは大腸前がん細胞の数を異常に増やすという研究報告もあります。健康をつくるオリーブオイルは、フレッシュなエクストラバージンオリーブオイルぐらいに限られたものになるということです。
高品質のエクストラバージンオイルであれば、まさに、毎朝スプーン1杯のオリーブオイルで健康がつくれることでしょう。国際オリーブオイル協会の基準による分類は、バージンオイル、精製オリーブオイル、オリーブオイルの3つに分けられます。さらにグループ分けをして合計8つのカテゴリーに分類されます。
バージンオリーブオイルについて、もう少し詳しく説明します。バージンオリーブオイルは、機械的な加工(粉砕や圧搾など)以外は一切の化学的なよりを行わずに抽出されたオイルです。最高峰にエクストラバージンオリーブオイル、高品質の順にエクストラ、ファイン、オーディナリー、ランパンテと4等級に分けられます。
もう1つ別の研究報告で、フレッシュなエクストラバージンオリーブオイルにはオレオカンタールという抗炎症物質が発見されました。スーパーで売られているような中級クラスのオリーブオイルではこれは検出されていません。このことからも、オリーブオイルは限られたものだけが体に良いわけですね。
赤ワインのレスベラトロールには、がん発症の予防と抑制効果がある
次は、ワインのお話です。
赤ワインには非常に多くのファイトケミカルが含まれています。ファイトケミカルとは植物食品に含まれる体に有効な化学物質で、厳密に言えば栄養素ではありません。人間の体において必要不可欠とまでは言えませんが、生化学的に重要な役割を果たしています。
抗酸化物質と密接な関係があり、ときには抗酸化物質と結合していることもあります。野菜、果物、穀類の一部などに含まれ多くはホルモンや免疫系を調節する上で重要な作用を及ぼし病気予防に役立っています。
そのいくつかの分子の中でレスベラトロールというのがあり、これはポリフェノールの一種で赤ワインの中で唯一量などが評価できる物質です。これは、循環器系やがんの予防にいくつものよい効果を示すことがわかっています。
ある研究の報告では、レスベラトロールは進行したがんの成長に対しても効果があったとのことです。そしてまた、レスベラトロールは、新しくできたがん細胞とすでに成長したがん細胞を抑制することができるとのことです。
これらの研究室で得た結果だけでなく、人間の体に抗がん作用があるという報告も興味があります。
では、どのようにして人間の体に良い作用を示してくれるかと言いますと、そのカギは適切な量であるとのことです。高用量のアルコールは細胞においては大変有毒なものであり、多量の飲酒は口腔がん、肝がん、乳がんなどの発現リスクをかなりの割合で上昇させるとのことです。
これに対し、レスベラトロールは、心疾患やがんの発現の予防効果、脳の機能低下を助け、老化を遅らせる可能性があるとのことです。もちろん、赤ワインは不老の飲み物ではないと思いますが、こういったいろいろなデータからの情報は興味がありますね。
毎日どのような食事や食材を口にすることによるかで、日々の健康を保つことはもちろんですが、もう少し長い目で見ると、この日々の食事が老化を遅らせたり、老化による病気の予防をしたり、すなわちアンチエイジングに結びつくということです。
そして、健康で生きられれば生活の質を向上させることになります。毎日グラス1~2杯の赤ワインを栄養素の充実した果物や野菜と摂ることが、健康な人生を送るのに一番の組み合わせということです。皆様も、今宵は新鮮なお野菜にエクストラバージンオリーブオイルをかけて赤ワインを少しいかがでしょうか。
半田えみ先生の記事一覧
がん闘病に必要な食事と栄養
山田邦子のがんとのやさしい付き合い方
医療ライター宮西ナオ子の がんに挑むサプリメント徹底リサーチ
食事と栄養に関するニュース
あなたにおススメの記事はこちら
第20回日本補完代替医療学会学術集会レポート がん領域でエビデンスレベルの高い天然素材の研究に注目が集まる
乳がんの術後ホルモン療法施行者を対象としたシイタケ菌糸体のランダム化比較試験。婦人科系がんの既往者を対象としたフコイダンのオープン試験などの研究成果が報告されている。
がんを遠ざける食事と栄養 食べものとがん:その科学的根拠とは?
独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター津金昌一郎センター長によると、がん予防のために実践するに値するか否かの信頼性の見分け方として、「食べものとがん」の因果関係を評価する方法について言及している。
第18回日本補完代替医療学会学術集会レポート 免疫状態をよくすることでがんの闘病を支える補完代替医療に期待
補完代替医療の免疫関連において、グリソディンやガゴメ昆布フコイダンなどの研究発表があった。うち、がん領域では、さまざまながん種の患者さんを対象とした臨床研究で、シイタケ菌糸体を摂取することでQOLが改善される。という研究結果が報告されている。
あなたにおススメの記事はこちら
がん治療の効果を高める「免疫抑制の解除」の最前線
<Web公開記事>
がんの治療効果を高めるには、免疫抑制を解除し、低下した免疫力を回復させることが重要であるということが明らかになってから、この分野の研究は急速に進みつつある。第52回「日本癌治療学会」において、免疫抑制細胞の異常増殖を抑える方法の研究が、着々と進んでいることが言及されている。
がん温熱療法 ハイパーサーミア「サーモトロンRF−8」
<Web公開記事>
ハイパーサーミア(がん温熱療法)装置「サーモトロンRF – 8」、改良型電磁波加温装置「ASKI RF–8」を開発した、元株式会社山本ビニター専務取締役、現株式会社ピー・エイチ・ジェイ取締役最高技術部長・山本 五郎(いつお)氏にお話を伺いました。
がん種別・治療状況別の研究成果比較
<Web公開記事>
免疫力改善成分ごとに、ヒト臨床試験の論文について、紹介しています。
【特集】「新連載」山田邦子の がんとのやさしい付き合い方・人気の記事
【小林製薬】「シイタケ菌糸体」患者の低下しやすい免疫力に作用!
<Web公開記事>
がん患者さんのQOL(生活の質)をいかに維持していくか、小林製薬株式会社中央研究所でがんの免疫研究を続けている松井保公さんにお話を伺いました。
【南雲吉則】がん予防のための がんを寄せつけない「命の食事」
<Web公開記事>
テレビでおなじみの南雲吉則先生が提唱する「がんから救う命の食事」を中心に、がん患者さんとそのご家族にも役立つ、がん予防のための「食の在り方」について、話を伺った。