(がんの先進医療: 2013年7月発売 10号 掲載記事)
がん発症のカギはたんぱく質のレシピ「遺伝子」にある
つい先日、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝性乳がんの発症リスクを減らすために両乳房切除術を受けたニュースが世界中を走りました。私もそのニュースを見たとき一女性としての感想は、思いきった決断をしたなあと感じました。
私が同じ状況にあったら同じ選択肢をするでしょうか。乳がんは女性にとっては他人事ではないですよね。私は、一女性であることと同時にがん統合医療をする医師でもあり、もう少し幅広い選択肢の中から自分の選択をすることでしょう。
両乳房を切除することで100%乳がんの発症を食い止めることは不可能で、がん細胞のすべてを取り除くことはできません。世界中の女性たちの意見、専門家たちの意見それぞれあるでしょう。彼女は発がんを未然に防ぐいくつかの選択肢のひとつを選んだわけです。ただ、彼女がハリウッド女優であるため世界中への影響力はいろいろな面であると思います。
乳がんに関しても、最近はがんの早期発見のレベルも以前からのような触診、画像診断や病理診断だけではなくなりました。遺伝子検査、CTC(血液循環がん細胞)、免疫力検査、アミノインデックスがんリスク検査などが早期がん診断として日本でも受けられる時代になりました。
これらの検査の結果で、自分がどのくらいがんを発症する確率が高いのか。また、すでにがんを発症した方、治療後の再発の可能性なども評価していくこともできるでしょう。これらの検査でがんの発症リスクが高くがんと戦う免疫力なども低い場合、できるだけがんの発症を回避するようその予防対策をしていくことが必要になります。
今回、がん遺伝子検査によるがんの早期発見ということが話題になっていますが、がんと遺伝子について少し簡単に触れてみたいと思います。
今日では、だんだんとがんの発症するしくみの理解がされるようになってきました。がんは私たちが長く生きることで必然的に生じる遺伝子の病気であるとわかってきました。そして、遺伝子が変化することによってあらゆるがんが発症することが、この数十年間の研究の成果で明らかになってきました。
健康な体では、細胞の増殖は厳密にコントロールされていますが、細胞が異常に増殖して歯止めがかからなくなる現象をがんといいます。この細胞の増殖を厳密にコントロールしているのはたんぱく質で、このたんぱく質に何らかの異常が生じた場合、異常な増殖をすることになります。
私たちの体は細胞約60兆個でできており、それぞれ遺伝子に記録された情報に従ってたんぱく質をつくり、このたんぱく質を利用して増殖をコントロールしながら生きていくのです。
細胞がたんぱく質をつくるときは、その設計図のようなものであるレシピが必要です。そのレシピが遺伝子なのです。すなわち、たんぱく質の異常はそのレシピである遺伝子の異常といえ、がんは遺伝子の異常によって発症する病気ということになります。
今では、すべてのがんに共通している発がんプロセスがほぼ分かっています。特に、細胞増殖のアクセルである遺伝子と細胞増殖のブレーキである抑制遺伝子の発見です。がん増殖遺伝子は約100個、がん抑制遺伝子は約20個発見されているとのことです。
これらの遺伝子に変異が起こることで、細胞がいつまでも増殖を続け不死身のがん細胞へ変身するのです。〝がん発症のカギは遺伝子である〟のです。
現在がん遺伝子検査は、遺伝子に生まれつき病的変異がある遺伝子検査と後天的に変化している現在の遺伝子状態も調べられます。
画像に写ってくる前に自分の状態を検査できるレベルになったのは画期的なことだと思います。それも採血で調べられる手軽さも負担にはならないでしょう。
がん発症に関わる炎症を防ぐための栄養的なアプローチ
さて、実際遺伝子検査をしてその結果に対して、その後の予防や治療の選択を考えていかなければなりません。
この予防対策のひとつとして、ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリーさんは遺伝性乳がんの遺伝子があることで、乳房切除術を選択したわけです。乳房切除術だけでは100%発症を止めることはできません。私はやはりそれと同時にライフスタイルを整え、栄養的なアプローチも必要と考えています。
ここからは、乳がんの栄養的アプローチの仕方を皆さんにお伝えしていきたいと思います。
乳がんには、予防、治療、経過観察、再発、ターミナルなどのそれぞれの異なった状況があります。それぞれの時期によって栄養状態は違い、食事や栄養素の補給も異なります。しかし、どの状況においても栄養指導は一律であり、日本ではまだまだものすごく漠然とした栄養指導しか行われていないのが現実でしょう。
治療をしている間でも、手術前後、化学療法、放射線治療、ホルモン療法をしている状況では、それぞれ体の状態は乳がんそのものとは別に治療による影響をかなり受けダメージも多いはずです。治療をしているのにダメージも大きいと言いますと皆さんは不思議に思われるかもしれませんが、治療の有効性と表裏一体でダメージも大きいのです。
それぞれの治療経過、再発、ターミナルステージとありますが、今回は予防の段階に触れてみます。がん予防の大切なところは、まず免疫力を高めておくことに始まり、活性酸素の発生をできるだけ抑える抗酸化作用のある食材を摂ることです。
がんの発症に炎症が関わることもわかってきており、それを抑えるためω3脂肪酸を積極的に取り入れていくことも大切です。また、乳がんの発症は女性ホルモンと密接に関係していますので、その部分も気をつけて食事に取り入れていかなければなりません。これらの中でも、免疫強化や抗酸化ということは比較的皆さんご存知の方が多いと思います。
がんと炎症の関わりは皆さんに知られているでしょうか。炎症と言えば一般的に皮膚などに傷があってそこが治っていく過程で赤く腫れる、熱が出る、痛みがあるなどの症状を言いますが、これは内臓でも起こるのです。
内臓で炎症が長く続くとがんになりやすいのです。ウイルス性肝炎が慢性肝炎になると肝がんになりやすい、潰瘍性大腸炎の人はそうでない人に比べて4倍以上も大腸がんになりやすい、という報告があります。胃のピロリ菌感染症もそうで、長く感染し炎症が続きますと胃がんの発症率が上がります。
これらの炎症を抑える栄養学的な素材は魚油や亜麻仁油などに多く含まれるω3脂肪酸です。必須脂肪酸ω6/ω3のバランスを重要視した摂取が大切なのです。
さらに、乳がんについての報告では、米国人のように魚油摂取量が少ないと炎症性の指標は下がりにくく、日本人のように魚油摂取量が多いと、リノール酸(ω6)を減らすことによって炎症性の指標は効果的に下がります。
実際にデータとして、魚油摂取の多い場合は乳がんが有意に少なく、魚油摂取の少ない場合はリノール酸(ω6)摂取量が多いほど進行型乳がんの発症率が上がっているとのことです。
炎症性を抑えるには、リノール酸(ω6)を減らすと同時に、ω3系の脂肪酸の摂取を増やすことが重要になります。この両者ががん発症と関わってきます。
また、日本の疫学調査でも、魚油(EPA+DHA)の摂取量が多いほど乳がん発症率は低いと示されています。
ω3が豊富なオイルを使ったソースレシピ
最後にω3豊富なオイル(ω3とω6がバランスよく配合されたオイルを使用)を使ったソースレシピをご紹介します。いろいろなソースをアレンジをきかせてお食事に取り入れてみてください。レシピに書かれるオイルはすべて前述しましたω3とω6のバランスよい配合のオイルです。
①ガーリックオイル
4~7片のガーリックのみじん切り
オイル 1カップ
材料をガラス容器に入れ、冷蔵庫で1週間または冷凍庫で1カ月保存可能。
②バジルオイル
新鮮なバジルの葉 2カップ半
オイル 1カップ
バジル葉をお湯で15秒ボイルし、すぐに氷水に浸す。葉を切って水気を取りオイルと一緒に2、3分ブレンダーにかけ、8~12時間冷蔵庫に入れる。
その後、清潔なガーゼなどで漉し洗浄したガラスボトルに入れる。冷蔵庫で1週間、冷凍庫で1カ月保存可能。
③カリーオイル
アーモンドオイル 1/2カップ
クミンシード 1ティースプーン
スティックシナモン 1本
丸ごとコリアンダーシード 1ティースプーン
ベイリーフ 2枚
エシャロット(カット) 2ティースプーン
皮をむいたジンジャーのみじん切り 2テーブルスプーン
みじん切りしたガーリック 1テーブルスプーン
カレーパウダー 3テーブルスプーン
岩塩 1ティースプーン
オイル 1カップ
小さなお鍋にアーモンドオイルを入れ、クミン、コリアンダーシード、シナモンスティックを加えごく弱火で香りが出るまで温める。
これにエシャロット、ジンジャー、ガーリックを加え2分ぐらいかき混ぜる。
カレーパウダーと塩も加え滑らかになるまで混ぜる。
決して具材が茶色に変化するほど熱を加えてはいけない。冷ました後オイルを加え8~12時間冷蔵庫へ入れ、きれいなガーゼで漉し洗浄したガラスボトルに入れ冷蔵庫で1週間、冷凍庫で1カ月保存可能。
④ハーブオイル
1カップのクレソン、1/2のチャイブ、1/2のフレッシュパセリ、1/4フレッッシュタラゴン、1カップのオイル
それぞれのハーブは15秒間熱湯でボイルする。水気を取ってオイルと一緒にブレンダーかミキサーで2分ほど撹拌する。この後は、8~12時間冷蔵庫に入れる。
⑤ローストしたペッパーオイル
ローストした2個の赤ピーマン(パプリカ)
岩塩 1/2
テーブルスプーン
オイル 1カップ
高スピードのブレンダーで滑らかになるまで赤ピーマンと塩をブレンドし、オイルを入れさらに1分ほど混ぜる。この後は、8~12時間冷蔵庫に入れる。
⑥ローズマリーオイル
フレッシュローズマリー 1カップ
オイル 1カップ
岩塩 1/2ティースプーン
ローズマリーは15秒熱湯にさらし、直ちに氷水に移し、水気を切る。材料をすべて2、3分ブレンダーにかける。この後は、8~12時間冷蔵庫に入れる。
このバランスの良いオイルは1日30ccぐらい摂ることをお勧めします。何種類かアレンジオイルを作り、いろいろ楽しんでください。
半田えみ先生の記事一覧
がん闘病に必要な食事と栄養
山田邦子のがんとのやさしい付き合い方
医療ライター宮西ナオ子の がんに挑むサプリメント徹底リサーチ
食事と栄養に関するニュース
あなたにおススメの記事はこちら
第20回日本補完代替医療学会学術集会レポート がん領域でエビデンスレベルの高い天然素材の研究に注目が集まる
乳がんの術後ホルモン療法施行者を対象としたシイタケ菌糸体のランダム化比較試験。婦人科系がんの既往者を対象としたフコイダンのオープン試験などの研究成果が報告されている。
がんを遠ざける食事と栄養 食べものとがん:その科学的根拠とは?
独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター津金昌一郎センター長によると、がん予防のために実践するに値するか否かの信頼性の見分け方として、「食べものとがん」の因果関係を評価する方法について言及している。
第18回日本補完代替医療学会学術集会レポート 免疫状態をよくすることでがんの闘病を支える補完代替医療に期待
補完代替医療の免疫関連において、グリソディンやガゴメ昆布フコイダンなどの研究発表があった。うち、がん領域では、さまざまながん種の患者さんを対象とした臨床研究で、シイタケ菌糸体を摂取することでQOLが改善される。という研究結果が報告されている。
あなたにおススメの記事はこちら
がん治療の効果を高める「免疫抑制の解除」の最前線
<Web公開記事>
がんの治療効果を高めるには、免疫抑制を解除し、低下した免疫力を回復させることが重要であるということが明らかになってから、この分野の研究は急速に進みつつある。第52回「日本癌治療学会」において、免疫抑制細胞の異常増殖を抑える方法の研究が、着々と進んでいることが言及されている。
がん温熱療法 ハイパーサーミア「サーモトロンRF−8」
<Web公開記事>
ハイパーサーミア(がん温熱療法)装置「サーモトロンRF – 8」、改良型電磁波加温装置「ASKI RF–8」を開発した、元株式会社山本ビニター専務取締役、現株式会社ピー・エイチ・ジェイ取締役最高技術部長・山本 五郎(いつお)氏にお話を伺いました。
がん種別・治療状況別の研究成果比較
<Web公開記事>
免疫力改善成分ごとに、ヒト臨床試験の論文について、紹介しています。
【特集】「新連載」山田邦子の がんとのやさしい付き合い方・人気の記事
【小林製薬】「シイタケ菌糸体」患者の低下しやすい免疫力に作用!
<Web公開記事>
がん患者さんのQOL(生活の質)をいかに維持していくか、小林製薬株式会社中央研究所でがんの免疫研究を続けている松井保公さんにお話を伺いました。
【南雲吉則】がん予防のための がんを寄せつけない「命の食事」
<Web公開記事>
テレビでおなじみの南雲吉則先生が提唱する「がんから救う命の食事」を中心に、がん患者さんとそのご家族にも役立つ、がん予防のための「食の在り方」について、話を伺った。