(がんの先進医療: 2013年4月発売 9号 掲載記事)
他国・ベトナムの「がん治療」に関する現状
今回は、がんと栄養のこともお話ししなければなりませんが、最初に少しベトナムの医療やがんの治療についてご報告させていただきます。
ホーチミンのクリニックでは、急性の病気を診察することがほとんどで、慢性の病気は少ないです。生活習慣病のような慢性の病気を持つ患者さんはいますが、がんを治療する患者さんはここにはいません。クリニックのベトナム人スタッフに、ベトナムでがんになったらどのように治療していくのか聞いてみました。
これは、日本と同じようにがん専門病院か総合病院へ行って治療することが基本です。また、違う方のお話では、病院には行くことができない人も多く祈祷師のような人のところに行ったり、民間療法で対処したりして手遅れになることもかなり多いとのことです。
ここベトナムは医療そのものの水準はまだ低く、がん統合医療どころか3大治療でさえ満足いくものではないでしょう。
ここホーチミンでは、日本で言うがんセンターのような、がんを専門に治療していく最先端の病院はないようです。
昨年(2012年)末に、ホーチミン市内のベトナムの病院にがんの専門性を持つ医療センターをつくる計画があり着工されたようです。しかし、それも完成するには2年先の予定とのことです。
実際に機能するにはさらに年数がかかるかもしれません。他に情報としては、日本の医療系の企業がベトナム北部に産婦人科病院、南部ホーチミン市にがん専門の病院を建設することが、つい先日発表されました。ホーチミン市内では、この企業は地元の企業と組んで従来ある病院にまずはがんの病棟をつくることから始めるとのことです。
今回、私はたまたまご縁がありベトナムの中部にあるダナンという場所にがん専門病院がオープンするという情報を得て視察に行くことができました。ダナンはベトナムの首都ハノイ、ホーチミンに次いで第3の都市です。この病院はベトナムだけではなく、日本のベトナムに関係する財団からもかなりの援助があって建てられました。
訪問させていただいた病院は、規模的にはベッド数は500床弱、入院棟は10階建ての建物で、入院棟は各フロアーごとに臓器別のがんで分けられます。血液系のがんのフロアーには骨髄移植なども行う予定で無菌室も完備されていました。外来棟には検査や治療のできるスペースが併設されています。
今回、日本でもまだまだ見かけないもので素晴らしいと感じたひとつとして、患者さんのご家族が宿泊できる施設が同じ敷地内の目の前に建てられていたことです。その施設の利用は無料です。1階には小さなスーパーマーケットがあり、その隣にはやはり無料で食事を提供するキッチンがありました。宿泊できる部屋には簡単ですがバス、トイレつきでベッドがある部屋でした。私が訪問した日は日曜日でしたので院内は静かで、入院治療中の数名の患者さんとお会いして少しお話をさせていただきました。
がん治療で大切なのは 栄養状態を良くすること
お会いした数名の患者さんは、どちらかと言いますと重症な感じでした。原発巣だけでなくすでに数カ所転移があったりしている方がほとんどでした。
これからベトナムのがん治療も本格的に大きな施設などがつくられ始めている状況にあります。私が望むのは、もし可能であるなら最初の段階からがん統合医療、栄養療法などが組み込まれていくことができれば理想的であるなあと思います。
やはり、今回お会いした患者さん達もみなさん決して栄養状態がいいとは言いきれませんでした。痩せこけた状態で点滴だけを受けてベッドに寝ているというだけの感じでした。
がん治療においては、私の経験上からも栄養状態を良くしていくことが本当に大切なことです。幾度となくお話はしてきましたが、基本的にたんぱく質を摂って基本の体をつくっていくことが大切なことです。
がん患者さんの食事の前に私がまずベトナムで思うことは、やはりこの国も食事はお米の文化だということです。日本も食事はお米の文化であるところは似ていると思います。普段の生活の中では、お砂糖や化学調味料がいろいろなところに多く使われている気がします。どの国にも伝統的な食文化がありますのですべてを否定したりすることはできません。
しかし、この国でも昔のままであれば生活習慣病なども少なかったことでしょうが、国が発展していくということはいろいろな国の人が出入りし、そこで、それぞれの人たちが違った食文化も持ち込みます。違ったものが入ることは食だけでなく文化交流でき興味のあることでもあり、楽しみでもあります。しかし、伝統的に行われてきたものなどが壊されていったり、忘れ去られていくという事実もあります。
ハーブなどの香辛料が細胞の炎症を防ぎ、がん細胞の成長を遅らせる
さて、こちらベトナムと一言に言いましても北と南では食文化がかなり違うようです。ホーチミンでのベトナム料理の印象は、日本と同じくお米をたくさん食べます。お米の粉でつくった食品もかなりたくさん食べられています。
一般的な食卓の基本は白いご飯、スープ、野菜、肉か魚です。味付けにお砂糖をかなり使っていますので全体的に甘い感じがして、糖質たっぷりな印象です。肉や魚ももちろんいろいろな調理の方法で食べています。野菜は全体的に生、煮炊きしてどちらでも結構多く食べています。日本と違う印象は野菜にハーブ系が加わったり、香辛料が多い感じはしています。
本稿で、今回はハーブやスパイスなどの食材とがんの栄養療法についてお話していきたいと思います。料理で一般に使われるハーブやスパイスの中に含まれる抗炎症成分が、がんの成長を遅らせるプロセスに影響します。
注目するところは、抗炎症作用を含有するこれらのハーブやスパイスの分子成分が、前がん状態の細胞の炎症を減らせることができ、そのためミクロのレベルの腫瘍の成長を予防できるというのです。最も完全なスパイスに関した論文では、3種族の豊富な抗がんおよび抗炎症の分子成分を含有するものが明らかになっています。これらの発がん予防の効果が期待されます。
3種族とは、
①The Zingiberaceae Family
②The Lamiaceae Family
③The Apiaceae Family
のことです。
それぞれについて少し説明していきたいと思います。
The Zingiberaceae Family:ジンジャーとターメリックがこの種族でこれらは東南アジア、特に中国、インドで栽培され食事や薬として5000年も前から使われてきました。とても強力な抗炎症作用があるのはターメリックに含まれるクルクミンとジンジャーに含まれるジンゲロールです。
試験管培養されたがん細胞にクルクミンまたはジンジャーを入れたところ、効率的にCox-2(炎症時に過剰に産生される物質で慢性的に炎症を生じさせる)の生産をブロックしました。ターメリックを毎日摂ることで、血中の炎症誘発分子の量が低下しました。
慢性関節リウマチの患者さんにジンジャーを毎日摂ることで症状が軽減する研究報告もあります。ちょうど私がこれを書いていたら、ベトナム人ナースが「胃が調子悪いときクルクミンに蜂蜜を混ぜて飲む習慣がある」と教えてくれました。
香辛料は料理の際の味付けにも体の健康維持にも役立つ
がんの成長に炎症が大きく関わることから、ジンジャーとターメリックの抗炎症作用はがん予防のための役割を果たしてくれるでしょう。また、がんの転移や血管新生を抑制したり、アポトーシス(がん細胞の自滅)を助けたりするかも知れません。
スパイスの特にターメリックとジンジャーの抗炎症作用は、数種類のがん、特に大腸がんの予防に重要な役割を果たすという報告があります。
The Lamiaceae Family:ミント、タイム、マジョラム、オレガノ、バジル、ローズマリーなどはこのグループに属し、大部分のものが地中海沿岸からのもので、この地域の伝統的な料理を作るときに役立ってきました。これらは、とても香気のある葉を有しており、その香り成分は葉の中にテルペン族のエッセンシャルオイルを豊富に含んでいるからです。
テルペンは、がんの成長に関係する多くのがん遺伝子の機能を抑制することでがんの成長を遅らせます。また、これらに多く含まれるウルソル酸はがん細胞を攻撃、血管新生抑制、Cox-2生産を抑制したりすることも注目です。
The Apiaceae Family:このセリ科のハーブはパセリ、コリアンダー、チャービル、フェンネル、クミン、野菜ではニンジン、セロリ、パースニップ(ニンジンに似た根菜)などがあります。
特にセロリとパセリはアピゲニンというフラボンを多く含み、ポリフェノールは強力な抗がん活性を持っています。これらは研究では乳がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんなど、私達を悩ますがん細胞の多くの成長を妨げます。
アピゲニンは他のハーブやスパイスに含まれるものとは成分的には非常に異なりますが、抗炎症作用と血管新生を抑制する作用が直接的または間接的に働きます。このアピゲニンの制がん作用についてはこれからの魅力ある研究のテーマです。
これらのハーブやスパイスによってもたらされるがん抑制効果は直接炎症を抑制する能力があると、最近の研究でわかってきています。
これらの食材をうまく食事の中に取り入れていくことは、毎日の食事で直接的にがんを抑制していくことにもなります。毎日どのような食材を選んで、どのような味付けで食べていくかということはとても大切なことです。そして、味だけではなく、ハーブやスパイス独特の香りも大切なものであるとわかりました。
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