(がんの先進医療: 2017年1月発売 24号 掲載記事)

第19回日本補完代替医療学会学術集会レポート 免疫やがん領域に関わるキノコの菌糸体や発酵成分の発表が注目を集める

取材・文●水城真一郎 医療ジャーナリスト

免疫やがん領域への関心の高さがうかがえた

 2016年11月26日・27日の両日、「第19回日本補完代替医療学会学術集会」が、石川県金沢市の文教会館で開催された。この学術集会は、機能性食品を中心に、補完代替医療全般に関わる最新の研究情報や臨床情報を提供することを目的としている。今回のテーマは「CAM(補完代替医療)の科学的エビデンス―基礎から臨床への橋渡し―」であった。

第19 回日本補完代替医療学会学術集会 金沢市の文教会館正面玄関に立てられた看板

【金沢市の文教会館正面玄関に立てられた看板】

補完代替医療に関わるさまざまな研究発表があったなかで、特にキノコの菌糸体や発酵成分に関わる講演や報告が多くあったのが印象的だった。また、昨年度から始まった新しい栄養補助食品の制度である「機能性表示食品の現状」についての報告もあった。

キノコの菌糸体や発酵成分に関しては、講演が2つ、一般口演が6つあった。そのうち、免疫やがん領域に関わる講演が1つ、一般口演が5つあり、補完代替医療、特に免疫やがん領域におけるキノコの菌糸体や発酵成分に対する関心の高さをうかがうことができた。

以下に注目された発表について、その内容を簡単にまとめてみた。

免疫抑制を解除してがん患者のQOLを改善

特別講演 『シイタケ菌糸体抽出物の有用性』

シイタケ菌糸体抽出物(以下、シイタケ菌糸体)は、がん領域における有用性について研究が進められている。基礎的な研究に続き、がんの患者さんを対象として、多くの臨床研究も行われてきた。

たとえば、乳がんの術後ホルモン療法に、シイタケ菌糸体を併用した研究がある。それによると、併用することで生活の質を表すQOLのスコアが上昇し、免疫機能の指標であるIFNγ(インターフェロンガンマ)の値が上昇することが確認されている。

乳がんの術後化学療法に、シイタケ菌糸体を併用した研究もある。術後化学療法によってQOLは低下し、免疫機能の指標となるNK活性も低下するが、シイタケ菌糸体を併用することで、これらの低下が抑制できることが報告されている。

多くのがん種、多種類の治療背景を持つ患者さんを対象に、シイタケ菌糸体を併用した研究も行われている。この研究では、特にステージ3と4の進行がんの患者さんで、QOLスコアの改善が見られた。

こうしたシイタケ菌糸体の作用には、免疫抑制の解除が関わっていることが明らかになってきた。がんの免疫抑制に関しては、2000年代に入ってから研究が行われるようになってきた。Treg(制御性T細胞)などの免疫抑制細胞が関与していることが明らかになった。さらに免疫チェックポイントという分子が存在し、それが免疫細胞の活性を抑制していることが明らかになってきた。

がんを攻撃するために免疫細胞が活性化されても、Tregなどの免疫抑制細胞が働き、また免疫チェックポイントが機能することによって、免疫細胞が抑制型になってしまうのである。がんに対して免疫が活性化されても、治療効果が十分でなかったのは、こうした免疫抑制が働いてしまうためだということがわかってきた。

シイタケ菌糸体には、Tregなどの免疫抑制細胞の働きを抑える機能があることが明らかになってきた。これについても、すでに多くの研究結果が報告されている。

(図)第19回日本補完代替医療学会学術集会レポート シイタケ菌糸体のがん免疫に対する免疫抑制の解除のメカニズム
免疫チェックポイント阻害薬とシイタケ菌糸体の免疫解除のメカニズム

【(図)シイタケ菌糸体のがん免疫に対する免疫抑制の解除のメカニズム】

がんを移植したマウスでの研究では、シイタケ菌糸体を食べさせることにより、がん移植マウスでの異常なTregの増加が抑えられ、免疫機能が回復した。この研究ではそれによって、がんの増加も抑えられることが確認されている。

がん移植マウスを対象として、がんペプチドワクチンと併用した研究もある。がん移植マウスではTregが異常に増殖してしまう。しかし、シイタケ菌糸体を併用するとTregが抑制されて、がんペプチドワクチンの効果が増強したのである。それにより、腫瘍の増殖が抑えられることが観察されている。

臨床での研究結果も報告されている。がん免疫療法を受けている患者さんを対象にした研究では、シイタケ菌糸体を摂取することでQOLスコアが改善した。QOLの改善は自覚症状が改善することを意味するので、臨床上とても有益である。

女性ホルモン様作用が注目されるエクオール

■ランチョンセミナー 『エクオール含有食品「エクエル」の研究開発-基礎から臨床試験まで-』

マメ科植物はイソフラボン誘導体を多く含み、NCI(米国立がん研究所)によるがん予防食品に関するデザイナーフーズプログラムでは、大豆を最も重要度の高い食品としている。こうしたことから、大豆は注目されることとなった。日本人は米国人に比べ乳がんや前立腺がんでの死亡率が低いが、大豆を中心とする日本の食習慣が、これに関与しているのではないかと考えられている。

大豆イソフラボンに関する研究は多く行われてきたが、効果ありとする結果と効果なしとする結果が混在していた。こうしたなか、大豆イソフラボンに含まれるダイゼインが腸内細菌によって代謝(発酵)されることで作られるエクオールが、体内ではキーとなって働いているという説が提唱された。この腸内細菌を持つ人は、日本人では約50%で、残りの人はエクオールを作り出せない。また、食生活の欧米化の影響で、若い年代では、エクオールを作り出せる人は20%程度しかいないと言われている。

エクオールは女性ホルモン(エストロゲン)に似た形の化合物で、次の4つの作用について研究が行われている。

①エストロゲン様作用(更年期症状を和らげる、メタボリックシンドロームを予防する、加齢によるシワやたるみを改善する、骨粗鬆症の予防と改善)
②抗酸化作用(シミの改善)
③抗エストロゲン作用(乳がんの抑制)
④抗アンドロゲン作用(前立腺がんの予防、脱毛改善)

こうしたエクオールの効果を、エクオールを作り出せない人でも得られるようにするため、ヒトの腸内に存在する菌を用いて発酵を行い、エクオールを作り製剤化している。

講演は①と②の作用に注目した内容だった。がんに関しては、大豆イソフラボンの乳がんに対する臨床試験報告はあるが、エクオールでは試験管内の試験や動物を使った試験の結果のみが報告されており、今後が期待されている。

第19 回日本補完代替医療学会学術集会は金沢市の文京会館大講堂において行われた

【第19 回日本補完代替医療学会学術集会は金沢市の文京会館大講堂において行われた】

キノコや発酵成分に関する研究データを報告

一般口演

一般口演では、多くの研究成果が発表されたが、次のような興味深い発表があった。

『食品カツオ節菌産生化合物のがん予防作用』
カツオ節菌が産生する化合物が、発がんモデルマウスの発がんを予防することを確認した。

『霊芝菌糸体培養培地抽出物(MAK)の免疫活性化による抗腫瘍効果』
皮膚がんを移植したマウスを用いて、霊芝の菌糸体培養物による抗腫瘍効果の評価報告。菌糸体2%の餌を与えた場合に、腫瘍の増殖が抑えられた。

『乳酸菌飲料ANP71を用いたオープン臨床試験』
 米を乳酸菌で発酵させた飲料を用いて、健常人を対象に便通と体質への影響を評価。摂取開始から4週間後に、便通の改善と体質の改善が認められた。

シイタケ菌糸体培養培地抽出物(LEM)の投与による子宮体癌の術後再発予防効果についての検討』
 子宮体がんの手術後患者に、シイタケ菌糸体エキスを6g投与し、23症例について再発を調べた。腫瘍マーカーが上昇したため、9gに増量すると再び低下した症例も観察。23例中3例は再発したが、全体的に再発を予防する効果がある印象を持った。

『マンネンタケ菌糸体培養培地抽出物(MAK)のエタノール分画毎の抗アレルギー効果』
マンネンタケの菌糸体培養物の分画物について、抗アレルギー活性を評価し、いくつかの分画で抗アレルギー効果を確認した。

臨床研究の結果などデータが充実してきた

がんに対する補完代替医療は、機能性食品を中心に、すでに多くのがんの患者さんに利用されているという現実がある。その一方で、これまでは研究データが乏しいという大きな課題が残されていた。

今回の学術集会では、特にキノコの菌糸体成分について、健常者やがんの患者さんを対象にした臨床研究の結果が、特別講演と一般口演で複数の研究者から報告されているのが興味深かった。研究データが揃いつつあり、データが乏しいという課題も克服されつつあるという印象を持った。

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