シリーズ 宮西ナオ子のがんに挑むサプリメント
徹底リサーチ 第6回 霊芝
霊芝とは?
霊芝はマンネンタケ科レイシ種のキノコの中国名。学名はGanodermalucidum(ガノデルマ・ルシダム)ですが、霊芝草、門出茸、仙草、吉祥茸、赤芝などと呼ばれることもあります。現在流通しているもののほとんどが人工栽培された赤芝です。中国では「芝」は「キノコ」を表し、「霊妙不可思議なキノコ」や「霊験あらたかなキノコ」の意味から「霊芝」と名付けられたようです。
天然の霊芝は湿気ある山林などに自生し、梅、ナラ、クヌギなどの古木10万本中にわずか2~3本程の確率でしか採取されないといわれる希少品。というのも霊芝は胞子を包んでいる殻がとても硬く、発芽しにくいためなのです。子実体のほうは木質で食用には適していないため適当な大きさに切り、熱水で煎じて抽出液を服用したり、薬用酒として飲んだりするのが一般的なようです。
後漢時代(25~220)にまとめられた『神農本草経』は『黄帝内経』『傷寒雑病論』とともに、中国医学三大古典の一つ。中国古代の伝説の帝王で農耕・医薬・商業の神である「神農」に名を託し鉱物、動物、植物をそのまま薬として利用することを提示した中国最古の薬物学(本草学)書です。本書では1年の日数に合わせた365種の薬物を上品( じょうほん、120種)、中品( ちゅうほん、120種)、下品(げほん、125種)と薬効別に分類しています。「上品」は生命を養う目的の「養命薬」で、保健あるいは予防的な薬物。無毒で長期服用が可能なもので、不老長寿の作用があるとされます。
「中品」は体力を養う目的の「養性薬」で、使い方次第では毒にもなりますが、病気を予防し、虚弱な身体を強くします。「下品」は治病薬(治療薬)で病気を治しますが、長期にわたって服用するのは避けたほうがよいといわれます。ここで霊芝は、「上品」に分類され「命を養う延命の霊薬」と記載されています。さらに古代中国ではこれを採取した者は皇帝に献上することが義務付けられていたとも。日本でも『日本書紀』(720年)や、日本最古の本草書『本草和名』(918年)などにも記されていますが、長い食経験によって、安全面では長期にわたるエビデンス(科学的根拠)があるといってよいでしょう。
霊芝の人工栽培
霊芝の人工栽培を確立したのは、日本といわれ、1930年代後半に京都大学で人工栽培の試みが始まり、1970年代には、当時京都大学食糧科学研究所の直井幸雄氏が、世界初の人工栽培に成功。1972年には、京都御所で皇太子殿下、同妃殿下(現在の天皇、皇后両陛下)のご高覧を受け翌1973年、昭和天皇に霊芝鉢を献上したという歴史があります。
霊芝の有用性
現代では研究も進み、子実体にはΒ – Dグルカンなどの多糖類、ガノデリン酸などのトリテルペン類、カルシウムやリン、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、銅、亜鉛、マンガンなどのミネラル類、エルゴステロールやマニトール、テルペノイドなどが含まれています。さまざまな基礎研究は世界で行われており、培養細胞や実験動物を用いた研究では抗がん作用、免疫賦活作用、血小板抗凝固作用などが報告されています。
霊芝でグルメ食してみよう!
インターネットで霊芝を入手(写真1)。
写真1 霊芝
とても固くて石のようです。そのままでは食すことができないため霊芝茶と霊芝酒を作ってみました。
霊芝茶の作り方
霊芝10g~20gくらいの塊を1ℓの水に入れて、ガラス製の煎じ器またはホーローなどのやかんを使い弱火で沸騰させ、そのまま20分以上煮出します。資料によっては霊芝を細かく切ると書いてあるものもありましたが、インターネットで入手した霊芝はとても固く、砕くことができなかったので塊のまま使用。注意点は、鉄器や銅・アルミ製のやかんは使用しないこと。煮出した霊芝茶は温かいままでも冷たくしても飲めますが、保存するときは冷蔵庫で7日間が目安となります。
さて、煮出した霊芝茶ですが、飲んでみると苦い! このシリーズの中で作ったお茶の中で一番苦いお茶だと感じました(写真2)。
写真2 霊芝茶
霊芝酒
霊芝50gを保存用ビンに入れ、氷砂糖120gとホワイトリカー1.5ℓを入れて作りました(写真3)。
写真 3 霊芝酒 材料
霊芝酒_熟成初日
霊芝酒_熟成 1 カ月以上
作り方
⒈乾燥霊芝50gを保存用ビンに入れる。
⒉氷砂糖120gを入れる
⒊最後にホワイトリカー1・8ℓを入れる。
⒋程暗所で保存したら出来上がり。
飲み方
就寝前におちょこ1杯ほど毎日
霊芝を使った料理
漢方医お勧めという「霊芝紅花猪肉包」(百合が丘クリニック)のレシピがインターネットにあったので早速、作ってみました。
脾胃と心臓を補い、がん患者さんの場合は、放射線障害、抗がん剤の副作用を調和するということでした。
材料
霊芝(10g)、紅花(10g)、豚挽き肉(150g)、小麦粉(200g)、しょうゆ(大匙1)、胡椒(少々)、塩(少々)、ショウガすりおろし(小匙1)、ネギ(2、3本)、ゴマ油(大匙1)
①紅花をお茶袋に入れて約800㏄の水で煎じる、②ショウガをすりおろし、ネギをみじん切りに、③小麦粉に紅花を煎じた汁と霊芝を煮出した茶を入れて耳たぶくらいの硬さになるまで混ぜ、5、6等分に分ける、④豚ミンチにショウガ、ネギ、しょうゆ、塩、胡椒、ゴマ油を入れてまぜ、レシピによると3に4をまぜるのですが、それが上手にできず、半分は蒸し器で、半分はフライパンで焼いてみました。奇妙な形の料理となりましたが、ヘルシーな味わいでした(写真4)。
写真 4 霊芝紅花猪肉包
その後、やきそばや目玉焼きを作るときに水を入れる代わりに霊芝茶を入れてみました。これなら霊芝の苦さも気にならず料理に使えそうです(写真5)
写真5 焼きそばと目玉焼き
その後、やきそばや目玉焼きを作るときに水を入れる代わりに霊芝茶を入れてみました。これなら霊芝の苦さも気にならず料理に使えそうです(写真5)
霊芝自体が苦く、また細かく砕くことができないので、料理に使うのは難しいかもしれません。霊芝酒は調理に使える可能性があります。
論文検索
PubMed(国際論文データベース)掲載件数では、がん関連のヒト臨床試験が7件。ご紹介します。
霊芝によるサルベージ治療(※)に反応する婦人科がん患者の臨床的特徴
霊芝子実体の水抽出物と霊芝胞子を摂取したサルベージ治療後に疾患の安定をみた婦人科がん患者5名の臨床データを報告。
〈コメント〉
タイで、婦人科がん(主に卵巣がん)患者を対象に救済療法で霊芝を12週間摂取したところ、摂取期間中は重大な副作用なく容態が安定していた。
PubMed № 24935369
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=24935369
サルベージ治療とは、他の治療効果が得られない場合や再発した場合に用いる治療
霊芝胞子が消化管癌の血清腫瘍マーカーCA72-4 上昇を誘発した5症例の報告
市販のハーブサプリメントである霊芝胞子(GLS)は、中国でがん患者に広く使用されている。GLSに加えて複数の治療法を行った消化器がん5例を報告。
〈コメント〉
中国で、消化器がんの患者を対象に、霊芝の胞子を摂取したところ、血清腫瘍マーカーCA72-4のレベルが上昇し、また摂取を中止するとCA72-4が急速に正常レベルに戻った。
PubMed № 24282100
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=24282100
霊芝の胞子粉末による、内分泌療法を受けている乳がん患者のがん関連疲労改善のパイロット臨床試験
内分泌療法を受けている乳がん患者におけるがん関連倦怠感に対する霊芝胞子粉の効果を調べた。
〈コメント〉
介入後に身体的健康および倦怠感サブスケールに統計的に有意な改善が見られた。不安感や抑うつ気分の軽減および生活の質の改善も報告された。免疫マーカーは有意に低下し、試験中に重篤な副作用は起こらなかった。霊芝胞子粉が重大な副作用を起こすことなく内分泌療法中の乳がん患者のがん関連倦怠感とQOL(生活の質)に対して有用であることを示唆する。
PubMed № 22203880
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=22203880
日本の前立腺がん患者に対する2種類の薬用キノコの有効性と安全性を評価
2つの薬用キノコの摂取による有意な抗がん効果は見られなかった。
〈コメント〉
日本で、放射線治療後もPSA(腫瘍マーカー)の上昇が見られる前立腺がん患者を対象に、鹿角霊芝を摂取させたところ、PSA値の改善(抗がん効果)は観察されなかった
PubMed № 20412340
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=20412340
化学療法/放射線療法を受けているがん患者の細胞免疫に対するシトロネロールと漢方薬草複合体の効果。
白血球減少症および免疫障害は通常、がん治療中に生じる。化学療法と放射線療法を行っているがん患者への中国生薬服用の効果。
〈コメント〉
台湾で化学療法/放射線療法を行っているがん患者を対象に、霊芝を含む混合成分を服用させると、対照群に比べてリンパ球数の低下が抑えられた
PubMed № 20412340
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=19145638
進行大腸がん患者の選択免疫機能に対する霊芝多糖類の効果の評価を目的とした試験。
結果は、進行大腸がん患者において霊芝が強力な免疫調節作用を有する可能性を示唆する。がん患者における霊芝の有益性と安全性の調査には、さらなる研究が必要である。
〈コメント〉
中国で進行大腸がん患者を対象に、霊芝から分離した多糖成分を服用させると、NK細胞活性などが上昇したという。
PubMed № 16428086
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=16428086
進行固形腫瘍患者において霊芝多糖が宿主の免疫機能を増強するかどうかの試験。
進行肺がん患者の霊芝水溶物投与時の免疫能変化では効果がなかった。
〈コメント〉
ニュージーランドで進行肺がん患者を対象に霊芝から分離した多糖成分を服用させたところ、免疫指標には明確な差はなかったという
PubMed № 16117607
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=16117607
総論・まとめ
霊芝といえば有名な漢方薬の一種ですが、手元で見ると固くて、ゴツゴツとした木片のようでした。そして煎じてみるとこれがなかなか苦い。今までのシリーズで扱ったキノコ類の中では一番苦く感じました。まさに「良薬口に苦し」です。そのため料理にはあまり使うことはできませんでしたが、『神農本草経』では「上薬」とされていることから、普段から煎じて飲むのは健康のためにはよいのかもしれません。
がん関連の7本のPubMed 論文中では2本で効果が観察されないという結論になっていました。一方で、霊芝を含む混合成分や霊芝から分離した多糖成分ではリンパ球数の低下抑制やNK細胞の活性が報告されています。霊芝単体が良いのか、複合成分が良いのか? なども含めて様々な視点での研究が期待されます。
また、霊芝は京都大学食糧科学研究所の直井幸雄氏が、世界初の人工栽培に成功したということでも、ある意味、日本の誇りとするキノコであることもわかりました。今後、日本や他の国においてのさらなる研究が求められるでしょう。
宮西ナオ子(みやにし・なおこ)
上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。